安全問題研究会~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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トランプ当選、英国EU離脱の背景にある「ポスト真実」 トップランナーの日本はどう抗うのか?

2017-02-25 11:31:36 | その他社会・時事
(当エントリは、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2017年3月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 昨年――2016年は、政治、経済、社会、あらゆる意味で世界史の転機となった年だった。とりわけそれは、英国の国民投票によるEU(欧州連合)からの離脱決定と、米大統領選におけるドナルド・トランプの当選として明瞭に現れた。際限のない「自由競争」に死ぬまで駆り立てられ続けるグローバリズムによって疲弊した人々の怒りが既存政治をなぎ倒した瞬間だった。

 同時にそれは、テレビや新聞などの既存メディアの敗北として語られた。英国のEU離脱もトランプ当選も、既存メディアに誰ひとりそれを予想できた者はいなかった。否、「そんな予想なんてしたくもなかった」というのが本当のところだろうと本稿筆者は想像しているし、メディア人におそらくは共通のものであろうと思われるそうした心情には筆者も大いに共感できる。何しろ筆者自身、「軍産複合体の代弁者であるヒラリー・クリントンでも、差別排外主義者のトランプよりはましだ」として、クリントン当選に「仕方なく期待をかけていた」自分がいたことに、選挙後、気づかされたからである。

 しかし、当たり前のことだが「自分がこうなってほしいと願っていること」と「現実にこうなるであろうということ」とは本来、別問題である。予想屋の仕事が後者を正確に言い当てることだとすれば、大半の既存メディアが敗北したのは後者ではなく前者をあたかも自分の予想であるかのごとく語ったことにその原因を求められる。

 従来の常識を覆すような出来事に連続的に遭遇すると、人はしばしば正常な判断ができなくなる。トランプの当選以降、欧米諸国で広く使われるようになった言葉のひとつに“Post truth”(ポスト真実)がある。ポストとは直訳すれば「~後」を意味する英語の接頭語であり、「真実の後に来るもの」を象徴的に表現するものとなっている。

 大統領就任式に詰めかけた人々の数は、オバマ政権発足時の方がはるかに多かったにもかかわらず、「自分の就任時が史上最高だ」とウソを垂れ流すトランプ氏。客観的真実はまったく異なるのに、自分にとって心地のよいだけの真実ではない言説をあたかも真実のように信じ切り、真実として流通させていく政治家の軽い言動が、ポスト真実として批判的検証にさらされるようになったことは暗闇に差した一筋の光明というべきだろう。

 しかし、筆者はこうした欧米諸国での動きについて「何を今さら」とでもいうべき奇妙な既視感を覚える。日本ではこうした光景は「ネトウヨ現象」として、10年前からすっかりおなじみのものだ。その心地良さに最高指導者、安倍首相までがとりつかれている。いつの間にかネトウヨの攻撃によって従軍慰安婦も南京虐殺も集団自決も教科書から消え、「なかったこと」にされてしまった。このままでは、いずれ福島第1原発事故もなかったことにされてしまうであろう。

 政権、権力にとって都合の悪い出来事は、たとえそれが客観的事実であっても白昼堂々と消されてしまう――社会の隅々にまで浸透した「ウソと偽りの大量生産」は、徐々に日本の政治、経済、社会のあらゆる領域をむしばみ始めている。この分野では、恥ずかしいことに日本こそが他の追随を許さないほどの圧倒的大差で世界のトップを走っている。

 日本より10年遅れて世界を席巻し始めた「気分を悪くさせる真実よりも心地よいウソの時代」はなぜ生まれてきたのか。その背景にいかなる思想的、文化的、社会的背景があるのか。他の分野ではことごとく国際社会に立ち遅れている日本が、この恥ずかしい分野でだけ他の追随を許さないほどの「トップ独走」状態になっている背景に何があるのか。それを検証・分析し、「ウソの時代」に抗う方法を考察することが本稿のテーマである。

 ●ウソを言える者ほど出世する?

 『大衆の支持を得ようとするなら、彼らを欺かなければならない。……大衆は、小さなウソよりも大きなウソのほうを信用する。なぜなら彼らは、小さなウソは自分でもつくが、大きなウソは恥ずかしくてつけないからである』『大衆は冷めやすく、すぐに忘れてしまう。ポイントを絞り、ひたすら繰り返すべきである』。

 これはヒトラーの言葉である。また、1980~90年代にかけて当時の若者に人気を博したTHE BLUE HEARTS(ザ・ブルーハーツ)の1993年のヒット曲「うそつき」の歌詞の中にこんな一節がある。

 『100億もの嘘をついたら今よりも/立派になれるかな 今までよりずっと/100億もの嘘をついたら今よりも/楽しくなれるかな 今までよりずっと/嘘がホントになる ホントが嘘になる/歴史のその中でホントが言えるかな/下手な嘘ならすぐばれて寂しくなっちゃうよ/せめて100年はばれないたいした嘘をつく』。

 ウソをたくさん言う者ほど社会的地位を獲得する。ウソを一度つき始めると、楽しくてやめられなくなる。本当のこと、事実を主張することには、時として危険や困難が伴う。大きなウソのほうが検証する方法がないから、長い期間にわたって信用される――。ウソというものの本質を鋭く突いている。この歌詞を書いたザ・ブルーハーツの真島昌利さんはなかなかの慧眼、そしてロック精神の持ち主だと思う。

 何が真実かが歴史の中で流転することもある。その歴史は強者、支配者が作り出す。弱者、「小さき者」の声はかき消され、歴史の中に埋もれてゆく。市民運動・社会運動が、しばしば歴史の中に埋もれてしまった支配者にとって「不都合な真実」を掘り起こし、告発する闘いの様相を呈するのはこのためだ。暗く苦しいものだが、それでも誰かが取り組まなければならない闘いであることも事実である。

 そうした小さな闘いが日夜、日本のあちこちで繰り広げられている。ウソと偽りに覆われ尽くした日本社会に差すわずかな光明というべきだろう。この光を決して絶やすことがあってはならない。

 ●東浩紀の「予言」

 それにしても、なぜこんなことになってしまったのだろうか。

 実は、こうした時代がいずれ来ることを、2001年の段階で早くも予言している人物がいた。東浩紀だ。「自由な言論好きの人々が集う喫茶店」である「ゲンロンカフェ」(東京・五反田)の主宰者。批評家・思想家として紹介されることが多い。筆者と同じ1971年生まれで今年46歳になる。

 東の代表的著作に「動物化するポスト・モダン」(2001年、講談社現代新書)がある。漫画・アニメ・ゲームなどのオタク文化に造詣の深い東が、オタク文化を通した社会評論を展開しているものだが、その論評の対象はオタク文化にとどまらず、思想、政治、文化など幅広い領域に及んでいる。

 東は、思想・哲学・イデオロギーのように、広範な大衆の動員を可能とする価値体系を「大きな物語」と呼び、この物語が社会のあらゆる領域を支配していた20世紀初頭から中盤にかけての時代を近代社会とする前提条件の下で評論を始めている。資本主義陣営と社会主義陣営が世界を二分して対峙した東西冷戦は「大きな物語」同士の正面衝突であり、東の認識に従えば近代社会のピークであった。日本でも、この冷戦を反映し、55年体制が成立。社会党がプロレタリアート独裁を掲げる一方、自民党の党歌「われら」は『我らの国に我らは生きて/我らはつくる 我らの自由』と、一党独裁への対抗意識を歌い上げている。

 しかし、社会主義陣営の停滞などを契機として、「大きな物語」が次第に大きく揺らぎ始める。スロベニア(当時は旧ユーゴスラビア社会主義連邦共和国を構成する共和国のひとつだった)出身の社会学者、スラヴォイ・ジジェクは、連邦がまさに崩壊につながる血みどろの内戦に入ろうとしていた89年、「イデオロギーの崇高な対象」を著した。ジジェクはそこで、社会主義イデオロギーの虚構性について次のように記している。

 『私たちはみな、舞台裏では荒々しい党派闘争が続いていることを知っている。にもかかわらず、党の統一という見かけは、どんな代価を払ってでも保たれねばならない。本当はだれも支配的なイデオロギーなど信じていない。だれもがそこからシニカルな距離を保ち、また、そのイデオロギーをだれも信じていないということをだれもが知っている。それでもなお、人民が情熱的に社会主義を建設し、党を支持し、云々という見かけは、何が何でも維持されなければならないのだ』。

 ジジェクがこのように観察していた祖国の支配政党、ユーゴスラビア共産主義者同盟は、血で血を洗う凄惨な内戦の末に解体したユーゴスラビア社会主義連邦共和国と運命を共にした。ナチスに抵抗してパルチザン戦を戦い抜き、ソ連軍突入を待たず自力で祖国をファシズムから解放した偉大な党。ソ連の干渉を排除し、コミンフォルム(欧州共産党・労働者党会議)から除名処分を受けながらも、労働者自主管理社会主義という新たな試みにチャレンジした党。「7つの国境、6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字、そして1人のチトー大統領によって成り立っている」といわれたモザイク国家、ガラス細工のように脆弱な連邦国家を、チトー亡き後は連邦の執行機関である連邦幹部会の議長職に輪番制(6つの共和国が1年交替で連邦幹部会議長を担当し、6年で一巡)を導入するなどの絶妙な知恵とバランス感覚で束ねてきた党とは思えない末路だった。

 社会主義陣営がイデオロギーという「大きな物語」を見かけ上、維持するために、党の結束を演出していた時代は、また大きな物語を維持する勢力とそれを打倒しようとする勢力のせめぎ合いの時代でもあった。だが、ジジェクが「虚構」と表した体制は長くは続かなかった。東欧の社会主義陣営が崩壊し、社会主義国家が次々と姿を消した1989年は、「大きな物語」の敗北の年でもあった。

 東は、大きな物語なき後の時代を「ポスト・モダニズム」と呼んだ。直訳すれば「近代後」の社会ということになる。そこでは人々を束ね、政治的に動員できるものがなくなった。新たに訪れたアングロ・サクソン的新自由主義を前に、市民は個人単位に解体され、ばらばらになった。際限なき競争社会に投げ込まれ展望を失った市民は、何が真実で何がウソかを見極める能力も失い始めた。

 ポスト・モダニズムの時代には、真実もフェイク(虚構、創作)も一緒くたにされ、あたかもレストランのメニューのように同じテーブルの上に並べられる。そして、人々はその中から最も自分に合うものを選んで消費するようになる、と東は指摘し、そうした情報の「消費行動」をデータベース消費と名付けた。「動物化するポスト・モダン」の中で行われたこの「予言」を、当時の私はあまりに荒唐無稽だと笑い飛ばしたが、今思えばこの予言は身震いするほど正確だった。

 それからまもなくしてネトウヨ連中がこの予言を実行に移し始めた。彼らにとって、日本がアジア諸国に対して行った過去の侵略、植民地支配という重苦しい真実よりも、「そんなものはない」というウソがもたらす快楽に浸っているほうがよい。彼らに罪悪感などというものはもとよりひとかけらも存在していない。なぜなら彼らは、出されているメニューを選んで消費しているだけに過ぎないからである。コンビニで好みのお菓子を選ぶのと同じ感覚で、彼らは、自分の一番好きな「自分にとっての真実」を選び、レジに持って行く。「ただそれだけのことが、何でこれほど左翼に叩かれなければならないのか」と、彼らは本気で思っているに違いない。

 昨年末、大手インターネット企業「DeNA」が運営する健康情報サイト“WELQ”(ウェルク)の記事が医学的正当性を欠くとして騒ぎになった。結局、南場智子DeNA会長が謝罪会見を開き、WELQの全記事を削除、サイトも閉鎖とすることで決着を見たが、なぜこうしたことが起きたのかを考えるにも、東の優れた「予言」が役に立つ。味噌もクソも一緒に並べられ、並行的存在として選択されるデータベース消費型社会では、「最も多く売れる情報を提供した者が勝者」なのである。何のことはない。単なる資本主義的弱肉強食の法則が発動されているだけのことだ。

 そもそも、人間は自分の信じたいものを信じる習性を持っている。そうでなければ、なぜ宗教があんなに大きなビジネスになるのか。食品偽装問題も数年おきに世間を賑わしているが、食品ひとつとってみても真偽をろくに判定できない人間が、情報についてだけいつでも真偽を正確に判定できると考えるのはあまりに楽観的すぎる。いい加減な「キュレーションサイト」対策をどんなに講じても、資本主義が資本主義である限り、そして人間が自分の信じたいものを信じる習性を持っている限り、「第2のウェルク」は必ず現れ、また世間を騒がせるだろう。

 ●日本が「ポスト真実」のトップランナーである理由とは?

 ところで、ここまでの考察でもまだ筆者が答えていない読者の疑問がひとつある。「ポスト真実」の背景に「大きな物語」消失によるポスト・モダニズム時代の到来と、データベース消費型社会があることは理解できたとしても、日本がそのトップランナーであることはどんな理由によっているのか、という疑問である。

 これに対しては、東も具体的には言及していないため推測の域を出ないが、次のような理由で説明が可能と思われる。(1)大半が無宗教で、「会社や学校では政治と宗教の話をするな」と言われるように、日本人はもともとイデオロギー嫌いで「大きな物語」との親和性が低い、(2)アニメ・漫画などのサブカルチャーとの親和性が高い、(3)これら2つの要素との関連で、共同体の崩壊が起きやすく、また政治的組織化の度合いも諸外国に比べて低いため、各個人がばらばらになりやすく新自由主義が浸透しやすい、(4)新自由主義浸透の結果として、「消費者であること」以外のアイデンティティが市民の間に芽生えにくい。

 このうち、(1)については日本人ならだれでも皮膚感覚で理解でき、説明は不要だろう。(2)は他者との協調や共同作業を必要としない趣味で、個人でも実行可能である上、データベース消費との親和性が高いことを指摘する必要がある。(3)について言えば、日本は「大きな物語」が諸外国に比べて機能しにくい分、会社、学校、労働組合、業界団体、地域社会(自治会や地域の祭りなど)といった村落共同体、利益共同体がその機能を代替していたが、近年、こうした組織の機能が低下している一方、これに代わって新たに「共同体」機能を担う存在が姿を現していないこと、政党や政治的団体による組織化が諸外国ほど進んでいないことを指摘しておきたい(注)。(4)はこれら(1)~(3)の結果として立ち現れている現象である。

 日本人が共同体から切り離され、孤立を深めていることは、各種の社会現象からも見て取れる。例えば、かつて日本のオリンピックにおけるメダルの獲得は団体種目(バレーボールなど)が多かったが、最近は団体種目よりも個人種目(スキーなど)にメダル獲得が偏る傾向がはっきりしている。最も新自由主義化、個人化が進んでいる東京で、ハロウィンのたびに多くの若者が町へ繰り出し、警察官と小競り合いを起こしてまでも騒ごうとしている姿は、日本の若者たちがいかに孤立をおそれ、名前も知らない「誰か」とであってもひとときのつながりを渇望しているかをよく表している。「共同体から個人化」の時代に最適化しようとする日本の社会システムと、それに抗ってつながりを求めようとする若者との間に、やや大げさに言えば「文明の衝突」とでも呼ぶべき現象が起きているように思われる。そこでは、データベース消費社会の下で「心地のよいウソ」をいくら消費しても、少しも満たされないことに気づいた若者が、昭和的「共同体」に居場所を求めるかのような興味深い動きも見られる。

 この動きが一時的なものか、継続的なものになるかはもう少し推移を見守る必要があるものの、継続的なトレンドになりそうな予兆はあちこちに見られる。英国のEU離脱や、米国におけるトランプ当選も、グローバリズムより自国「共同体」優先という意味で、そうした予兆のひとつである。

 ●結論――「ポスト真実」とどう闘うか

 ここまで、ポスト真実の持つ意味と、それが生まれてきた思想的・社会的背景、そして日本がそのトップランナーである理由について考察してきた。そろそろ結論に入らなければならないが、私たちは、日本が先導し、10年遅れて国際的潮流になりつつある「ポスト真実」の時代に、どのようにして抗うべきだろうか。

 「ポスト真実」が大きな物語の喪失とデータベース消費を軸とした、客観的真実と「自分にとっての心地よいもう1つの真実」(別の単語でウソとも言う)との間の「消費合戦」として立ち現れているという本稿での考察・分析が正しいなら、私たちにとって最も大切なことは、情報の消費者に選んでもらえるような「本物のメニュー」を提供することである。安倍政権の支持率が高いのは、「偽物であっても心地よいメニュー」を切れ目なく提供しているからだ。だが、一見盤石に見える安倍政権にも「偽物のメニューしかない」という、レストランとしては致命的な弱点がある。これに対抗するには私たちの運営するレストランで「本物のメニュー」を提供しなければならない。市民にとって本物のメニューとは、命が最優先される社会、戦争ではなく平和な社会、格差・貧困ができる限り解消される社会、競争より協調と共生を重視する社会、女性が男性と同等の権利を持つことが紙の上だけでなく現実の行動レベルで証明される社会、そして原発のない社会のことである。

 これに関連して、2つ目に大切なことは「大きな物語」の再建である。リベラル層が中心となり、今すぐ日本に社会民主主義の旗を立てることが必要だ。

 3つ目に大切なことは、私たちの運営するレストランには「本物のメニューがある」と怠りなく宣伝することである。どんなに本物の、おいしいメニューがあるレストランも、宣伝しなければ客が訪れることはない。この点では、私たちは敵より何歩も立ち遅れている。自分たちのメディアを作り、ヒトラーがそうしたように「ポイントを絞って、ひたすら繰り返す」努力をしなければならない。同時に、敵のメニューがいかに偽物だらけであるかを徹底的に宣伝しなければならない。米国では、ライバル社の商品を貶す「比較広告」は珍しくない。政治的対案の出せない人でも、敵のウソを暴くだけなら比較的たやすくできるだろう。

 4つ目は、ばらばらにされ、孤立の中で絶望を深めている無党派層を政治的に組織化することである。どんな逆境でも、人間は仲間がいれば乗り越えられる。労働組合を再建し、学校や企業を民主化するとともに再び労働者・学生・市民に粘り強く働きかけ、組織化することが、ウソを侵入しやすくしている心の隙を埋めることにつながる。

 5つ目は、「ポスト真実」のあり方を批判的に検証しようと動き始めた諸外国の市民と連帯することである。欧米諸国でこれ以上極右の台頭を防ぐためにも、私たちは、国際連帯の構築を急がなければならない。

 以上、ポスト真実の時代、そしてそれとの対抗策を私なりに整理した。この考察が、読者諸氏の役に立つことを願っている。

(注)近年の各級選挙における投票率の低下は、いわゆる「無党派層」が依拠すべき政治的共同体を持たないことによっても引き起こされている。この点に関しては、政党・政治的団体のみならず、趣味のサークルなど非政治的なものであっても、所属団体がある人とない人とでは、ある人のほうが政治的有効性感覚(「自分の力で政治を変えることができる」とする感覚)が高いとする安野智子、池田謙一による調査結果がある(「JGSS-2000に見る有権者の政治意識」2002年3月)。この調査も、孤立を防ぐ上で組織化が有効であることを示している。

(黒鉄好・2017年2月19日)

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【転載記事】30年前のあの日を忘れない・忘れたくない~大阪市もいつか来た道をたどるのか

2017-02-19 09:37:38 | 鉄道・公共交通/交通政策
レイバーネット日本より、JR福知山線脱線事故問題に当ブログ管理人とともに取り組んできた大阪市の方の投稿を紹介します。

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投稿者:Takeshi(47歳)

30年前のあの日を忘れない・忘れたくない~大阪市もいつか来た道をたどるのか

大阪市営地下鉄の平成30年4月予定の民営化に向け、2月度市議会での市営地下鉄廃止条例案可決がほぼ確実視されている戦々恐々たる今日この頃です。

相変わらず何が何でも民営化ありき・民間にできることは民間に・小さな政府(行政)!という、中曽根や小泉の如き民間至上主義な思想しか頭にない大阪維新、及び彼らに呑み込まれ同調する自公民のハシャギぶりには、もはや憤りを通り越し呆れるばかりです。

そんな中、30年前の2月16日といえば、全国の国鉄職員に対し新会社(JR7社)への採否と振り分けが通知された忘れられない日でした。

たぶん、大阪市交通局でも来年早々、新会社に残れる者とリストラされる者への選別通知が行われるでしょう。

なお国鉄改革では、新会社への採否にて不採用となった職員に対する具体的、かつ詳細な理由や納得のゆく説明を、誰一人として知らされず仕舞いだったといいます。

このままでゆけば国鉄改革に倣い、大阪市でも新会社への採用を拒否されるであろう職員への納得ゆく理由と説明がなされることなく、無責任と有耶無耶なまま放り出される事態が予想されます。

国鉄の場合、不採用になった職員に対し、「再建監理委員会が決めたことだから・・・」という判で押した様な“言い訳”ですべてを片付けていたそうです。

でも実際のところ、多くの場合は直属の職制が国労や全動労の組合員といった分割民営化に反対・抵抗する職員を狙い撃ち的、かつ集中的に選び出しては排除していたという話もあります。

そんな職制らに振り分け方式を指示したのは、分割民営化を主導していた中曽根元首相なり彼に任命された杉浦元総裁、加藤寛元慶応大学教授、亀井正夫、瀬島龍三など再建監理委員会の面々、及び蜜月関係にあった国鉄本社の改革派とされる若手高級官僚たちであっ たことはよく知られています。

よって国労や全動労所属の職員は、どんなに業務成績が優秀でベテランであろうと、一気に点数(評価)を切り下げられ、解雇に追いやられたといいます。

当時国鉄部内には、振り分けの基になった職員調書なる機密(極秘)文書が存在していたとか。

大阪市の場合も、水面下で同様のものが作成されつつあるのではないでしょうか。

かつて橋下前市長時代、全職員に強行されたアンケートをベースにしているのかもしれません。

それでいていざ不採用となれば、「これは民営化推進室が決めたこと」や「総合的判断によった」などという、もっともらしい理由で逃げ切ることが予想されます。

それにもまして怖いのは、新会社への採用を許された者と拒否された者同士が、互いの思想信条、並び人生観をめぐって対立させられることです。

これにより民営化と前後して新会社の組織はもとより輸送現場の末端までが荒廃し、安全輸送と利用客の生命が脅かされることになりかねません。

輸送組織の荒廃は、安全荒廃に直結するからです。

同時にいずれそう遠くない将来、不採算路線の大幅な営業規模縮小と並び、私鉄と相互直通している路線が当該私鉄会社に売却もしくは譲渡され、分離分割されてしまうのではないかとの懸念もあります。

具体的な予想として、堺筋線→阪急、中央線→近鉄といった具合に。

まさに国鉄改革のミニチュア版・繰り返しといったところで、こんな暴挙により安全、安心、信頼、社会通念、公共性をも完全に無視・抹殺せんとする大阪維新とはどういった精神構造をしているのか

ひいては関西政財界に新会社の株式と資産を、利権争いのエサとして気前よく投げ与えるなど到底許されるべきものではありません。

とにかく大阪市が悪しき前例を作ってしまえば、将来的に公共交通を運営する他都市への少なからぬ影響(模倣)が懸念されます。

仮に民営化されたとしても、やはり公共セクターとしての使命を全うすべく、株式を市が永久的に100%保有することが望ましいというか必須だと思います(いわば市関係特殊法人)。

これなら完全な市営ほどではなくとも、まだ市の監督・指導・補助(とくに安全・倫理面での)統制が保たれる可能性を残せるからです。

完全民営化してしまうと、やがて利益主体の経営方針から輸送職場の末端社員はもとより、幹部に至るまで人間不信と自己保身で荒廃・腐敗してしまう危険があります。

それにもまして、いざ事故やトラブルになった際、責任の押し付け合いどころか最悪の場合はJR西日本・旧事故調査委員会と同様に、癒着や馴れ合いといった汚職につながる懸念もあります。

さらに副業については橋下前市長時代にある程度まで解禁されており、具体的には主要ターミナル(梅田・なんば・天王寺)でのショッピングモールや食堂経営(新大阪)などです。

よって、これ以上エキナカと称し拡大すれば、沿線商店や中小業者への民業圧迫になりかねません。

とにかく2月市議会(半ば頃)が最大の勝負となるゆえ、依然として目が離せません。

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<声明>国鉄労働者「屈辱の2.16不採用通知」から30年 破たんする民営JR7社体制打倒の闘いに立ち上がろう

2017-02-16 18:50:06 | 鉄道・公共交通/交通政策
 国鉄「改革」の名の下に、分割民営化されたJRの安全問題、そして「改革」に反対した労働者の不採用問題に関わってきた当研究会は、2月16日を特別な意味を持つ日として今なお忘れることがない。分割民営化を直前に控えた1987年2月16日――「改革」に反対する国鉄労働者に対し、当局からいっせいに新会社「不採用」が通知された屈辱の日から、今日で30年を迎えた。

 「なぜ不採用なのか」と迫る国労組合員ら多くの労働者に詰め寄られた管理職が、まともに答えることさえできず立ち尽くす姿は、「ブラック企業」が我が物顔でのさばる一方、若き女性労働者が過労自殺に追い込まれる日本社会の「未来」を予言するものであった。闘う労働組合が解体された結果、大会会場に公然と日の丸を掲げ、原発廃止に抵抗する堕落・腐敗した御用組合が主流となった。労働者たちは、政府・自民党と経済界が周到に準備した道――「2.16」によって掃き清められた、1億総奴隷労働化社会につながる長く暗い下り坂を、ゆっくりと、しかし着実に歩んでいくよう強いられた。

 だが、30年の時を経て、少しずつ潮目は変わりつつある。日本の労働者を奴隷化の底に突き落とした国鉄「改革」と、それによって産み落とされた民営JR7社体制が、今その発足以来最大の危機に直面しているからである。その危機は、一昨年から表面化したJR北海道の経営・ローカル線廃止問題として一気に噴出した。全路線キロの半分を「単独では維持困難」としたJR北海道の発表内容も、当研究会にとって驚くには当たらない。それは、分割民営化によって発足したJR北海道が、東京駅未満の収入しか上げられなかった初年度決算の時点からすでに明らかであり、いずれ迎えるべき運命であった。

 東中野駅事故、信楽高原鉄道事故、そして最大の悲劇となった尼崎脱線事故に加え、羽越線でも事故が起き、150人を超える人々の命が奪われた。社長自身が「採算に合わない」と明言したリニア事業に9兆円もの工費をつぎ込み、JR東海は制御不能の暴走状態に陥っている。国会では麻生副総理兼財務相までが分割民営化の誤りを認めた。多くの国鉄労働者を解雇・自殺に追い込み、利用者にはサービス低下を、地方には一方的な路線廃止と衰退を強いてきた民営JR7社体制。戦後最悪の強権体制である安倍政権をもってしても抑え込むことができないほどの巨大な矛盾と亀裂を日々、生み出し続ける民営JR7社体制に、ついに別れを告げるときが来たのだ。

 当研究会は、今こそ2.16への怒りを胸に、民営JR7社体制を打倒する闘いに立ち上がるよう全国の労働者・市民に呼びかける。さしあたっての最重要課題は、民営JR7社体制のあらゆる矛盾が集中するとともに、その最大のアキレス腱であるJR北海道に労働者・市民の総力をぶつけ、打倒することである。地方を見殺しにするJR北海道の打倒に成功すれば、歴代自民党政権が覆い隠してきたJR7社の諸問題に連鎖的に波及する。それは、破たんしたJR体制全体の最終的な打倒につながる。路線廃止を突きつけられながらも、地域の足の維持を求めて闘う北海道の沿線自治体・住民の支援に立ち上がろう。

 当研究会は、鉄道を中心とした公共交通とその安全を守り、地方の衰退を食い止める決意に満ちている。国鉄「改革」の責任を問い、民営JR7社体制から、鉄道路線が持続可能な事業形態への転換を実現するため、引き続きあらゆる努力を尽くしていく。

 2017年2月16日
 安全問題研究会

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以下、参考資料(安全問題研究会サイトより)

・本州と異なる北海道特有の鉄道事情及びこれに即した道内鉄道政策の積極的展開について

・JR北海道組織体制改革案(安全問題研究会私案)

・<参考資料>国有鉄道及びこれを継承した組織の変遷(日本)

・北海道庁「鉄道ネットワークワーキンググループ」報告書とその評価について

・第三セクター鉄道の現状をどう見るか

・第三セクター鉄道の転換当時の状況と現状一覧表

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【転載記事】麻生副総理、国会で国鉄分割・民営化の誤りを認める われわれはいまだ、歴史から抹殺された訳ではない

2017-02-11 08:58:08 | 鉄道・公共交通/交通政策
レイバーネット日本から、元国労組合員・久下格さんの投稿を転載します(画像を見たい方は、リンク先にあります)。

今年は、国鉄分割民営化から30年の節目の年。予想通り、政権サイドからいろいろな動きが出始めました。


何が「ローカル線(特定地方交通線以外)もなくなりません」だ! 自民党よ、いつまでもウソばかりつくな!

参考記事「今も昔も嘘、デマ、ペテンの自民党~国鉄「改革」詐欺の証拠(2015.7.26)」
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= 無謀な国鉄分割・民営化によって人生を破壊された仲間たちに、命を奪われた仲間たちに、自民党政権が謝罪することを要求する! =

【元国鉄労働組合新橋支部組合員 久下格】

 自民党政権の副総理が、国会で国鉄分割・民営化の誤りを認めました。

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× JR分割、「商売わからない人が考えた」×

= 麻生副総理 =

 (JR北海道の経営危機について)この話は商売のわかっていない「学校秀才」が考えるとこういうことになるという典型ですよ。国鉄を7分割(・民営化)して「黒字になるのは三つで他のところはならない」と当時から鉄道関係者は例外なく思っていましたよ。「分割は反対」と。経営の分かっていない人がやるとこういうことになるんだなと思ったが、僕は当時力がなかった。今だったら止められたかもしれないとつくづく思う。JR北海道をどうするという話は、なかなか根本的なところを触らずしてやるのは無理だろう。(8日の衆院予算委員会で)

2017年2月8日15時01分(朝日新聞デジタル配信)

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 30数年前、私の所属していた国鉄労働組合は国鉄の分割・民営化に反対し、組織をかけて闘っていました。それに対して、自民党政権と国鉄当局は、法と道理を無視したあらん限りの組織攻撃によって国労を弱体化し、反対運動を解体しながら分割・民営化を強行しました。この過程では7000名を超す労働者が新会社への採用を拒否され、最終的に1047名の労働者が解雇されましたが、そのほとんどは分割・民営化に反対した国労・全動労の組合員でした。そして、不当解雇された1047名とその家族は、その後20年にわたる解雇撤回闘争を闘わねばならなかったのです。

 国鉄の分割・民営化が北海道・四国・九州三島会社の切り捨てにつながるという主張は、国労が分割・民営化に反対した大きな理由の一つでした。麻生副総理の言葉によれば、鉄道関係者は例外なく(少なくとも)「分割は反対」だと思っていたにも関わらず、国鉄の分割・民営化は『商売のわかっていない「学校秀才」』たちの手によって強行され、それに反対して闘った国鉄労働者は『商売のわかっていない「学校秀才」』たちの手によって解雇されたわけです。

 麻生氏は、分割・民営化反対闘争の過程で、100名とも200名とも言われる労働者が自殺したことを知っているのでしょうか? たぶん、知らないのでしょう。そうでなければ、副総理としての国会答弁の中で、こんなにも軽々とした言葉を吐くことはできない。麻生氏は、「僕は当時力がなかった」から責任がない、自分とは関係がないとでも思っているのでしょうか? 政府が法と道理を無視して強行した分割・民営化の責任は、政府がとらねばならない。

 麻生氏はたぶん、もうあの日々のことを、とやかく言う連中などいないと思っているのでしょう。しかし、弱体化したとはいえ、国労はJRの中で闘い続けています。そして何より、分割・民営化の過程で人生を破壊された多くの国労・全動労組合員とその家族、自死を遂げた国労・全動労組合員の家族は今も生きているのです。われわれはいまだ、歴史から抹殺された訳ではない。

 政府自身が国会の場で、国鉄分割・民営化の過ちを認めた今、私は、無謀な国鉄分割・民営化によって人生を破壊された国鉄労働者とその家族に、そして命を奪われた仲間たちに、今こそ自民党政権が謝罪することを要求します。

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麻生副総理兼財務相、衆院予算委で「JR3島は黒字にならない」「JR北海道は根本的対策なくして救済できない」と驚きの答弁

2017-02-10 00:20:29 | 鉄道・公共交通/交通政策
JR分割、「商売わからない人が考えた」 麻生副総理(朝日)

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■麻生太郎副総理

(JR北海道の経営危機について)この話は商売のわかっていない「学校秀才」が考えるとこういうことになるという典型ですよ。国鉄を7分割(・民営化)して「黒字になるのは三つで他のところはならない」と当時から鉄道関係者は例外なく思っていましたよ。「分割は反対」と。経営の分かっていない人がやるとこういうことになるんだなと思ったが、僕は当時力がなかった。今だったら止められたかもしれないとつくづく思う。JR北海道をどうするという話は、なかなか根本的なところを触らずしてやるのは無理だろう。(8日の衆院予算委員会で)
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2月8日の衆院予算委で、麻生副総理兼財務相がこのような答弁をしたと報じられている。

答弁は、松木謙公議員(民進)の質問に対するもので、公開された衆院会議録によると、以下のようなやりとりがあったとのことだ。これまで一貫して国鉄改革は成功との立場を貫いてきた政府当局者が、国会という公式の場で、国鉄分割の誤りを個人的見解という形ではあれ、認めたのは初めてのことだと思う。

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(以下、質疑応答の内容――衆院予算委員会会議録 平成29年2月8日(水曜日)より)

○浜田委員長 次に、松木けんこう君。

○松木委員 ……東京だけでなく、都会でも地方でも未来を開くための産業興しに向けて取り組みをするのが重要だということなんですけれども、成長するためには、やはり種というのが必要なんですよね。その種というのは、大きなものとしてやはり交通インフラ、鉄道だというふうに私は思っていますので、そんなことできょうはお話を聞きたいというふうに思っております。

 国土交通大臣にまずお聞きをします。

 JRの中でJR北海道の話を私はするわけですけれども、道外の方はあくまで北海道の話というふうにどうしても思われると思います。しかし、北海道というのは実は非常に広い地域でございまして、なかなか日本地図を普通に見てもよくわからない。

 そこで、ちょっと工夫しておもしろいものをつくってきましたので、よかったら見ていただきたいんですけれども、こういうことなんですね。

 これは本州に置きかえたときの地図なんですね。一目見て、大臣、かなり広いなということがわかるというふうに思います。これは私がつくったんですけれども、今後、国交省で自由に使って結構ですからね。東は根室が茨城県、そして西は函館、これは大阪府あたりまで行くんですね。そして、北の方というのはもう能登半島よりももっと上になっちゃうということでございます。

 これを見て、いかに北海道が広大な面積を占めているかがわかるわけですね。大体国土の五分の一というふうに言われています。ここに人口は五百四十万、日本の人口の四・五%ぐらい。ということは、人数はそこそこいるんですけれども、しかし、人口密度ということを考えると、非常に厳しいものがあるわけですね。

 こういうものを目の当たりにして、大臣、どうですか。JR北海道、地域のことを振る前に、どういうふうに感じたか、ちょっとお話しください。

○石井国務大臣 昨年、台風十号の被災状況を視察するために北海道十勝を訪れたときに、十勝地域は十勝支庁というふうにいうんでしょうか、十勝支庁の面積が岐阜県と同じぐらいだというふうにお聞きしまして、それだけで、本当に北海道は広大だなというのを私も実感してきたところでございます。

 こういう広大な面積を持つ北海道におきまして、住民の生活に必要な交通手段を確保することや地域間の交流の促進に資する交通網を形成していくことは、重要な課題であると認識しております。

 このため、鉄道、自動車、航空などの交通手段が、それぞれの適性に応じて適切な役割分担をしながら地域における持続可能な交通体系を構築していく必要がありまして、北海道におきましてもこうした持続可能な交通体系が構築されるよう、国としてもしっかり取り組んでまいりたいと考えております。

○松木委員 ありがとうございます。そうですね。そのとおりだというふうに思います。

 昔、私は北海道十二区というところで選挙をやっていたんですけれども、ここなんかすごいですよ。女満別空港、紋別空港、稚内空港そして利尻空港、礼文はちょっと使っていなかったですけれども、五つぐらいあって一つの選挙区という感じだったですけれども、いずれにしても、広いという印象をしっかり持っていただいたと思います。

 国鉄の分割・民営化のときに、特にJR北海道は、会社発足当初から、やはり残念ながら、四国なんかも大変なんですけれども、赤字が見込まれていたというふうに思います。

 このため、六千八百二十二億円の経営安定基金を設置し、その運用益により経営基盤の確立を図ることになったわけですね。そして、このときに、大体一万三、四千人だったと思いますけれども、職員がいたんです、JR北海道にも。これが七千人ぐらいに今減っています。ですから、労使、労働組合の人たちも頑張っているし、会社側も一生懸命頑張っているし、一生懸命やってはいるんですよ。しかし、なかなか厳しいというのが現状なんですね。

 しかし、三十年たった現在、鉄道利用者の減少や経営安定基金の運用益の長期低迷に加えて、安全投資や修繕費のためのコストが膨らんでいます。さらに、青函トンネルの維持管理費の負担などといった北海道固有のコスト負担も大きいことから、経営状態は非常に、かなり本当に厳しくなっているというふうに思っております。

 新幹線も、北斗市までは来たんですけれども、札幌までまだ来ていませんのでね。札幌まで来ると、これはまた不動産関係のことでJRもいろいろなことができると思うんですよ。でも、今はそこまで来ていないんですよ。来ていない前に何かちょっとどぼんしそうな雰囲気もあるわけですよね。そして、経営を持続可能な状態に確保するのに非常に今難しくなってきているというふうに私は思います。

 JR北海道の経営の現状に対する大臣の御認識はいかがでしょうか。

○奥田政府参考人 お答え申し上げます。

 御指摘がありましたJR北海道の経営安定基金は、国鉄改革の当時における十年国債の過去十年間の平均金利が七・三%であったということを参考にして設定をされたわけでございますが、その後、国債の金利は低下傾向をたどっておりまして、近年は一%台から一%未満のレベルで推移いたしております。

 この経営安定基金の運用益が金利によって変動することは国鉄改革の当初から想定されていた仕組みでありまして、長期的な情勢の変化に伴って運用益が減少しているということについては、基本的にはJR北海道の経営努力によって対処することが求められるものと考えております。

 しかしながら、こういった考えに立ちつつも、JR北海道の厳しい経営状況を踏まえまして、国といたしましても、経営安定基金の実質的な積み増しでありますとか、設備投資に対する助成、無利子貸し付け、また青函トンネルの設備の改修、更新に対する補助など、累次にわたって支援を行ってきたところでございます。

 現在、JR北海道は、地域における人口減少やマイカー等の他の交通手段の発達に伴いまして、路線によっては輸送人数が大きく減少し、鉄道の特性を発揮しづらい路線が増加している厳しい状況に置かれておりまして、今後、地域における持続可能な交通体系のあり方について、関係者がともに考えていく必要があるというふうに考えられます。

 このため、国といたしましても、北海道庁とも連携しながら、これらの協議に参画をいたしまして、その中で地域における持続可能な交通体系の構築に向けた対応につきまして検討してまいりたいというふうに考えているところでございます。

○松木委員 わかりました。

 いろいろなことをやってはもらっているんですけれども、でも、非常に厳しいのが今のJR北海道の現状だというふうに思いますし、多分、JR四国なんかもかなり厳しいことになっているし、JR貨物、こっちの方もやはり厳しいようでございます。

 JR北海道の経営状況は、安定基金をめぐる状況を考えると、先ほど言ったとおり、七%ぐらいを多分考えたと思うんですね。ところが、一%ぐらいになっている、今の国債。それでも、この経営安定基金で運用益は二百億近く出しているはずなんです。頑張ってはいるんですよ。頑張ってはいるんだけれども厳しい、そういうことなんです。

 この制度ができた当時、政府は、運用益七・五%を前提として国会答弁を繰り返しているわけですね。当時の宮沢喜一大蔵大臣は、昭和六十一年十一月の参議院の特別委員会で次のように答弁をしています。

 「七・五という計算は今のお話で過去十年間の国債の利回りの平均である。こういうことで、今は超低金利でございますから」と、このときも超低金利。今から見ると低金利じゃないんですけれどもね。「いかにも七・五というのは大変な金利だという感じをお持ちになりましょうけれども、私もちょっと見てみますと、ちょうど今から二年ぐらい前の国債十年物の金利が七・六ぐらいになっておりますか、間違いなければそんなことになっておりますが、そうだとしますとまあまあ、もちろん甘いとは思いませんがそうきつくもないのではないかなと十年ということでございますので思いますが、いかがでございましょうか。」こういう答弁をなされているんですね。

 また上がることもあるだろうというお気持ちをかなりにじませているんじゃないかという気持ちもするんですけれども、今から三十年も前の話ですので、当然ながら、当時の人の見通しをどうのこうの言うつもりは僕は全然ないんです、そんなことは愚かなことですので。でも、現在のマイナス金利の時代を知っている我々にとっては、随分経営環境は変わっているなというのが正直な感想かというふうに思います。

 先ほど、局長さんからJRの安定基金のお話をお聞きいたしました。具体的に、宮沢喜一元総理が大蔵大臣を務めておられるときの答弁で、繰り返しになるんですけれども、今のマイナス金利時代というのは、多分、宮沢先生というのはすごく頭のいい方だったんですけれども、そうですよね、麻生先生。そうでもなかったですかね。まあまあ、そんなことはないと思う。非常に聡明な方だったと思うんですけれども、その方でもやはり予想できなかったということだと思うんです。

 麻生副総理、この宮沢大蔵大臣の答弁を振り返って、どのような感じに御感想を持たれるか、もしよかったらちょっと。御薫陶を受けられていると思いますので、よろしくお願いします。

○麻生国務大臣 薫陶を受けたことは全くないんですけれども、この話は、国鉄という商売のわかっていない方で、やはり学校秀才が考えるとこういうことになるんだという典型ですよ。

 ちなみに、松木先生、僕は北海道のことを詳しいわけではありませんが、JR九州の全売上高がJR東日本品川駅の一日の売上高と同じ。はい、知っていた人は。ほとんど知りませんよね。JR四国は幾らですかといったら、田町駅と同じなんですよ、売上高が。一日の売り上げだよ。それは勝負になりませんがな、そんなもの。だから、あとのところは大体、推して知るべし、もっと低いと思ってください。

 そこで、商売が成り立って、七分割をして、七分割というのは、貨物も入れて七分割して、これが黒字になるか。なるのは三つで、ほかのところはならないと当時からみんな言っていたんです。鉄道関係者なら例外なく思っていましたよ。分割も反対、みんな突っ込みでやるべきと。分割、分割と言った人は自民党の中にもいたし、野党にもいっぱいいたんですよ、あのころ。経営がわかっていない人がやるとこういうことになるんだなと思って、僕は当時力がなかったので、今だったらとめられたかもしれぬなと。つくづくそう思って当時聞いていた記憶が私はあるんです。

 まあ、七%といえば今では考えられないような話ですけれども、私どもとしては、こういったようなことに関しては、これははなからそういうことになるだろうと思っていましたので、安倍総理に限りませんけれども、とにかくいいようにせないかぬということははっきりしています。

 そういった意味では、今までもいろいろな形で、金利は最初が七・三、それから平成十二年で一%になって、二十四年でゼロ%ですか、大体そんなぐあいに突っ込んできたんだと思うんです。運用益が減少しているのは当然のことなんです。

 そこで、今鉄道局長の方から話があったように、JR北海道に対する支援としては、平成二十八年度から、JR北海道への安全投資として、修繕、補修、メンテナンスに対して総額一千二百億円、三年間でという支援を実施させていただきましたし、これまでも必要な支援を行わさせていただいた。施設の更新などの設備投資への支援ということで、約六百億円というものを平成二十三年から二十八年までしておりますし、また、追加支援ということで約一千二百億円というのを、平成二十八年度から三十年度、させていただいております。

 こういったものをやっても基本的に赤字の体質が変わっていませんから、そういった意味では、どういったようなことをやるのが早いのかというのは全然別のこととして発想を考えないと、これを黒字にしようとするためにメンテナンスのところで経費を節減すると結果として安全が落ちるということになりますので、ここらのところはすごく大事なところです。

 そういった意味では、経営というものに関しては抜本的なところで考えないと、少なくとも、新幹線をさっさと札幌まで通しちゃって、そこで生み出す経費というのはどうなるかというようなことも全然別の発想で考えないと、このJR北海道をどうするという話はなかなか、根本的なところをさわらずしてやるというのには無理がある、私どもにはそう見えます。

○松木委員 御答弁ありがとうございました。

 なかなか厳しいお話だったと思いますけれども、当時、先生の言うとおりで、私も官房長官の秘書をやっていましたのでよくわかる。まあ、どうしようもないな、そのときには金を突っ込むしかないよな、こういう話があったのは事実です。

 しかし、ずっとそういうわけにもいかないんでしょう。でも、やはり今、地方に任せていてもこれはもう無理ですよ。絶対無理だから、公明党の稲津先生もこのことに関して質問したと思うんですよね。その中で、やはり国がもっと関与すべきだという話をかなりしたと思いますので、そういう方向でやはり考えていかなきゃいけないんだろうなというふうにつくづく思うわけでございます。

その中で、例えば上下分離という考え方、こういう考え方もあります。では、このことをちょっとお話しします。時間が余りなくなっちゃったので、なかなか、官房長官もせっかく来てくれているのに、そこまで行けるのかどうか。申しわけないですね、本当に。いやいや、大変なことをしちゃった。本当に済みません。

 地方の利用客の少ない駅や路線を維持するため、自治体が路線や駅舎といった施設を保有して、鉄道会社が列車の運行や車両の維持のみを行うという、鉄道の上下分離方式というのがあるんです。石井大臣は建設省の御出身で、道路行政のスペシャリストでございますので釈迦に説法だと思いますけれども、鉄道と道路というのは、たびたび、コストが高いか安いか、どっちがいいかなんという話があるんですけれども、お互いに補完し合うものですよね、これは。やはり、道路のすばらしさと鉄道のすばらしさ、ともに高め合う考え方が私は大切だというふうに思うわけです。

 その上で、コストの議論をする際には、道路と同じように、路線の整備などインフラ面の予算はあくまで公共で用意するという前提に立つ必要もあるように思うんですね。そうすると、線路や駅舎などは国など公共の側が保有をして、運営は鉄道会社が担うということになるわけですね。

 ここで問題になるのが、運営を担う鉄道会社とインフラを担う会社が別になるということで高まる危険度、こういうことになるんですけれども、つまり、鉄道を運行する会社とインフラを維持する会社が別であることでそごが生じる、安全を損なう危険性があるということなんですね。

 ただ、これに対しては、いわゆるみなし上下分離という方法で対策が可能なんですね。つまり、インフラ部分、線路や駅舎、車両などは行政側が保有しているとみなして固定資産税などを減免して、実際にはインフラ部分の管理は鉄道会社が行うということにする。鉄道事業の収支から初期投資分のコストを除外できるため、黒字をかなり確保しやすくなるというわけです。実際、地方では、この上下分離方式を採用しているところもあるというふうに私は承知しております。こういった上下分離方式をJR北海道で採用することは、北海道という広大な地域の鉄道を守るために私は必要ではないかというふうに思っているんです。

 ただ、これはJR四国も同じことだと思いますけれども、この上下分離の中で、地方に任せていてもこれはなかなかうまくいかない。だから、やはり国がかなり関与する中でこういうことを続けてやっていけないかということを思うわけです。国土交通大臣、いかがでしょうか。

○石井国務大臣 輸送人員が減少し、鉄道の特性が発揮しづらい路線にあって、その存続を図るために、鉄道の施設を保有する主体とそれを借り受けて鉄道運行を行う主体とを分離することにより、施設保有に係る鉄道事業者の負担の軽減を図る上下分離方式を導入する事例が各地で見られます。

 一方、御指摘のように、上下分離を実施しないで、鉄道事業者が引き続き鉄道施設を保有しつつも自治体が鉄道施設の更新費用を負担する、また、鉄道施設に係る固定資産税を免除するなどにより、上下分離方式と同様に施設保有に係る鉄道事業者の負担の軽減を図るいわゆるみなし上下分離方式により鉄道の存続を図る取り組みも行われております。

 国土交通省といたしましても、こうした上下分離方式やみなし上下分離方式など地域において鉄道を支える取り組みに対し、鉄道の安全輸送確保のための投資に対する補助とか、あるいは新駅の設置やICカードの導入など利用者の利便性の向上に資する施設整備に対する補助といった支援を行っております。

 JR北海道は、地域における人口減少やマイカー等の他の交通手段の発達に伴い、路線によっては輸送人数が大きく減少し、鉄道の特性を発揮しづらい路線が増加している厳しい状況に置かれておりまして、今後、地域における持続可能な交通体系を構築していくために、関係者において速やかに協議を始めていただく必要があると考えております。

 この協議におきましては、地域における交通体系を持続可能にしていくための方策について幅広い検討が必要でありまして、御指摘の上下分離方式についてもその検討の対象になり得るものと考えられますが、いずれにいたしましても、まずは、関係者において持続可能な交通体系のあり方を考えていくための議論を幅広く行っていただく必要があると考えております。

○松木委員 ありがとうございました。

 でも、とにかく国がかなりこれを主導していかないと、大臣、かなり厳しいと思いますよ。ですから、積極的にそっちの方は国が関与していくというのが私はこの場合は大切だと思いますので、ぜひそうしていただきたいというふうに思います。

 もうほとんど時間がなくなっちゃったので、官房長官、本当にごめんなさいね。

 幾つかの質問を一緒にしますけれども、あとJR貨物のことに関してちょっとお話をしますと、全国一元化経営なんですね、ここは。それで、老朽資産だとかを多く保有するなど構造的に問題がいろいろとあるんですけれども、このJR貨物も随分、人員削減だとか、頑張ってきました。労使ともども一緒になって頑張ってきた。それでもやはり厳しい。

 その中で、これはことし延長になったんですけれども、継承特例、それから機関車、貨車に対する税制特例措置、買いかえ特例と、三つぐらい一生懸命お手伝いいただいているところがあるんです。

 この継承特例、JR貨物が国鉄から継承した資産について固定資産税、都市計画税を軽減というのがあるんですけれども、これが十二億円あるんですけれども、適用期限が平成三十三年末までということになっています。こういうものを、この際ですから、恒久化するということをぜひ考えていただいたら私はいいのではなかろうか。いろいろな問題もあるんでしょうけれども、そういった方向でお考えをいただきたいということが一つあります。

 それと、あともう一つは、このJRのあり方なんですけれども、先ほど麻生先生が言いましたけれども、はなからちょっと無理だったんだというお話を多分されたんだと思います。細かく分け過ぎたというお気持ちだと思います。私もそういうふうに思うんですよね。

 NTTは二つじゃないですか。そして道路公団、これは三つぐらいですよね。JRだけがえらく細かくし過ぎたというのはあるので、こういうことに関してもやはりもう一度見直す。合併させるのはなかなか問題があるというのはよくわかります。株主代表訴訟ですか、そんなことも起きるかもしれないとかいろいろな話がありますけれども、しかし、JR北海道、JR四国も多分そうだと思うんですけれども、やはりこのままだったらなかなか難しいですよ。ほとんど線路がなくなっちゃう。そうすると、北海道だったらいろいろな農産物があるわけですから、そういうものもうまく運べなくなってしまう。

 まして、皆さん、道路の方はもちろん整備するのは大切なことなんだけれども、トラックの輸送に頼るといっても、今、トラックドライバー、運転手さん方が不足している、そういう時代でもあります。あるいは、地球温暖化ということを考えたときでも、やはりこのJR貨物というのも大切だというふうに思いますので、質疑時間が終了しましたのでこれで終わりますけれども、ぜひ、そういうことをしっかり頭に入れて、これから頑張っていただきたいと思います。

 官房長官、済みません。本当に申しわけなかった。長官に来てもらいたかったのは、昔からのことをよく知っている方なので、こういうことも聞いてもらいたかったし、そして総理にもお伝えをしていただきたかったと思いましてきょうは呼ばせていただいて、質問もあったんですけれども、本当に申しわけございません。

 しかし、ぜひ、このJRの問題というのは、積極的に本当に国でやっていっていただきますようお願い申し上げまして、私の質疑を終了させていただきます。

 ありがとうございました。

○浜田委員長 これにて松木君の質疑は終了いたしました。

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