<買い物弱者>全国600万人 路線バス廃止、相次ぐ閉店で(毎日新聞)
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高齢者を中心に食料品などの日常の買い物が困難な「買い物弱者」が全国で約600万人に上るとの推計を経済産業省がまとめた。外出が不自由な高齢者が増えていることに加え、商店街の相次ぐ閉店による「シャッター通り化」や、バスなど公共交通機関の廃止が買い物から足を遠ざけている。経産省の研究会は14日、「深刻な地域問題」と指摘して、支援例も盛り込んだ報告書を公表するが、高齢化が急ピッチで進む中、政府や自治体も本格的な対策を迫られそうだ。【立山清也】
「1人だとキャベツ1個は食べきれないから、半分に切ってあげるね」。70歳以上が25%超を占める横浜市栄区の公田町(くでんちょう)団地に設けられた食品販売所で、NPO(特定非営利活動法人)の女性メンバーが買い物に来た高齢女性に声をかけた。販売所は住民が2年前から始めた買い物弱者対策だ。
64年に入居が始まった団地は、丘の上に33棟・1160戸が連なる。食品販売所の敷地には90年代後半までスーパーがあったが、住民の高齢化で売り上げが少なくなり撤退。約500メートル下ると、別のスーパーがあるが、坂の上り下りがあり、不便を訴える高齢者が増え始めた。そこで50~60代の住民が中心となってNPOを組織し、毎週火曜に買い出しした野菜やそうざいの販売を始めた。毎回80人前後が利用し、商品を自宅に運ぶサービスも行い、安否確認の場にもなっている。
販売所を訪れた女性(90)は「荷物を持って運ぶのがきつい。ここなら近いし、運んでくれるからありがたい」と笑顔を浮かべた。別の女性(86)も「ひざが悪く買い物に行けない。顔見知りも多く、楽しい」と話した。
NPO理事長の大野省治さん(79)は「買い物弱者は団地全体の問題。最近は行政も理解して補助金などで支えてくれるようになったが、まずは住民の力でできることをやるしかない」と語った。
三重県四日市市の「生活バスよっかいち」。路線バス廃止に伴い、「買い物や通院ができなくなる」との声が上がり、住民で設立したNPO法人が03年から運行を開始した。地元の駅からスーパーまでの約9.5キロを結び、住宅街を縫うように走る。1日の利用者は約100人で、多くが車を持たない70歳以上の高齢者だ。
しかし、運行には悩みも抱える。市の補助金や沿線のスーパーなどの協賛金、運賃収入で費用をまかなうが、不況のあおりで協賛企業は減り、最近は赤字が続く。NPO理事長の西脇良孝さん(69)は「行政も財政的に厳しい。今後も継続したいが、資金的に苦しいのが現状」と明かす。
◇高齢化、都市近郊でも増加 経産省調査
経産省の「地域生活インフラを支える流通のあり方研究会」(座長・上原征彦明治大大学院教授)は、内閣府が全国の60歳以上の3000人を対象にした調査で「買い物に困っている」と答えた割合をベースに「買い物弱者」を推計した。
研究会の14日の報告書は「買い物弱者はもともと高齢者の多い過疎地だけでなく、都市郊外の団地などでも問題化している」と問題の広がりを指摘する。さらに「医療や介護に比べ、生命に直結する深刻な問題ととらえにくく公的な支援制度も整備されていない」と社会的な対応の遅れにも言及する。
スーパーなどはインターネットで注文を受けた生鮮食品などの宅配も展開しているが、ネットを利用できない高齢者も多い。このため、報告書は「宅配サービスの充実や移動販売車の活用、コミュニティーバスなど移動手段の確保などによる買い物支援が重要」とも指摘する。
さらに、報告書は「民間事業者や住民だけの対応では限界がある」として、自治体が補助金を出すなど官民連携の必要性を強調。具体的な先進事例として、移動販売車の購入費補助や高齢者の買い物代行への補助などを通じて支援に取り組んでいるケースを紹介する。
だが、報告書で紹介される先進事例は、全国的に見ると一部にとどまり、「住民頼み」のケースも目立つ。高齢化とともに「買い物弱者」は今後も増加するとみられ、取り組みを加速することが必要になる。このためには財政的な支援も欠かせないが、報告書は具体策には踏み込まない。景気低迷で税収が大幅に落ち込み、政府や自治体の財政が厳しい現状では、「買い物弱者」対策の充実に向けたハードルは高い。
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提言自体はいいことだと思うが、本題に入る前に、(1)なぜ経済産業省なのか、(2)大店法を廃止し、商店街のシャッター通り化を推し進めたのはそもそも旧通産省ではないのか、の2点について、当ブログは問いたい。
まず(1)。当ブログは以前、貧困問題について、労働界が「企業は内部留保を取り崩し、賃金に充てよ」として経済界を攻撃したことに関連して、「内部留保は現金資産として積み立てられたものばかりではないため、取り崩し不可能」という回答を経済産業省が準備した際、経済産業省を攻撃した(2009年3月5日付記事
「時代遅れの経産省は解体せよ」)。経産省という役所は、いつも他省庁の所管事項に横から割り込み、最終的には横取りしてしまうお行儀の悪さで「ケンカ官庁」などと揶揄されているが、その行儀悪さは今回も健在のようだ。国土交通省がいつまでも対策に乗り出さないから、このような事態を招いたとも言える。
次に(2)。今回、経済産業省がまとめた報告書は「シャッター通り化」を深刻な地域問題と指摘している。その認識自体は間違いではないが、そもそもその原因を作ったのは、大規模小売店舗法(大店法)を廃止し、大手資本による大規模商店の出店を野放しにした経産省自身ではないか。報告書を書くなら、経産省はまず自分たちの過去の政策を検証し、反省すべきだ。
引用した毎日新聞の記事は、しかし、浮かれるのではなく冷静に事態を見ている。『だが、報告書で紹介される先進事例は、全国的に見ると一部にとどまり、「住民頼み」のケースも目立つ。高齢化とともに「買い物弱者」は今後も増加するとみられ、取り組みを加速することが必要になる。このためには財政的な支援も欠かせないが、報告書は具体策には踏み込まない。景気低迷で税収が大幅に落ち込み、政府や自治体の財政が厳しい現状では、「買い物弱者」対策の充実に向けたハードルは高い』という指摘は、現状の最大の問題点を誤りなく言い当てている。
当ブログが
2010年2月25日付の記事で指摘した新しい取り組みも広がりを作りきれないでいる。何をするにも必要なのは人とカネだが、国・自治体などの公共セクターはカネも人もなく、青息吐息なのが実情だ。NPO、NGOには社会的意識の高い若者が集まってきているが、ここも資金不足にあえいでいる。日本では、「NPOやNGOなんてボランティアがやるものだ」という認識がむしろ多数派だが、本来は、こうしたところにこそ潤沢な資金を流し込まなければならない。そのためには、天下り官僚のために設立された「官益法人」「私益法人」などリストラしてかまわないと思う。
当ブログ管理人は、鉄道完乗などで地域を旅することも多く、こうした先進的取り組みをしている人と接することもあるが、そうした人たちの中には宝箱のような数多くのアイデアと、地域を何とかしたいという純真な思いが詰まっている。自己保身と内部抗争に明け暮れる国や自治体など足下にも及ばないような優秀な人たちが「資金さえあれば、もっといろいろなことができるのだが…」というケースは日本中に転がっている。
「新しい公共」は、おそらくこうした人たちが中心になって担うことになる。国や自治体は、こうした優秀な地域の担い手たちに、いかに政策的・効果的に資金と人材を配置するかを考えることに特化してもよいように思われる。もちろん、今までの凡庸な「役人」が考えるような、「国のガイドラインや指示に従う個人・団体だけに補助金を支給する」という狭い了見ではダメなことはいうまでもない。