主任検事を逮捕=郵便不正事件データ改ざん-証拠隠滅容疑、自宅を捜索・最高検(時事通信) - goo ニュース
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障害者割引郵便制度の悪用に絡む厚生労働省の偽証明書発行事件で、大阪地検特捜部が押収したフロッピーディスク(FD)内の文書データを改ざんしたとして、最高検は21日、証拠隠滅容疑で、同事件の主任検事前田恒彦容疑者(43)を逮捕し、大阪府枚方市の自宅を家宅捜索した。
村木厚子同省元局長(54)への無罪判決で、特捜捜査の問題点が指摘された事件は、検察そのものの信頼を揺るがす事態に発展した。
大阪地検は同日、村木元局長について控訴を断念して上訴権を放棄、元局長の無罪が確定した。
前田容疑者の逮捕容疑は、昨年7月中旬ごろ、捜査で押収した厚労省元係長上村勉被告(41)=公判中=のFDに記録された文書データを改ざんし、証拠を隠滅した疑い。
捜査関係者によると、前田容疑者は21日までの大阪地検の事情聴取に改ざんを認めたが、「誤ってやった」などと故意を否定する説明をしているという。
最高検は同日に捜査を開始し、証明書事件の捜査にかかわった検事や当時の上司らを一斉聴取。上村被告の弁護側からFDの任意提出を受けていた。
FDは昨年5月26日、特捜部が上村被告宅から押収。同被告が自称障害者団体「凛(りん)の会」に発行したとされる偽の証明書のデータが保存されていた。押収されたFDが返却されたのは同年7月16日で、改ざんは3日前の同13日だった。
公判で証拠採用された捜査報告書によると、データの最終更新日時は2004年6月1日だったが、返却されたFDに残された記録では同月8日となっていた。
検察側は公判で、村木元局長が同月上旬、上村被告に偽証明書発行を指示したと主張。更新日時はこの主張と矛盾しないよう変更されていた。
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村木厚子・厚労省元局長が無罪となった障害者郵便不正事件で、最高検が、地検特捜部の主任検事を証拠隠滅容疑で逮捕するという前代未聞の事態となった。検察庁法では、「検察官は、いかなる犯罪についても捜査をすることができる」(第6条)とされており、最高検だから捜査をしてはならないなどということはない。しかし、最高検は高検・地検を指揮する上級庁として、通常、みずから捜査に従事することはない。
商業メディアは「それだけ最高検が“検察崩壊”に対する強い危機感を持っていることの現れ」と報じているが、それはすなわち「組織防衛」と同義でもある。身内である「検察ムラ」同士の捜査で、果たしてどこまで真相を究明できるか。むしろ最高検は、ダメージが組織全体に及ばないよう、前田容疑者の個人犯罪にしようとしているようにしか見えない。
とりあえず、当ブログは2つの重要なことを指摘しておかなければならない。
第1に、前田容疑者の「誤ってやった」という説明は、全くのでたらめであるということだ。彼に対する証拠隠滅容疑は、押収したFDに記録されているファイルの「プロパティ」の更新日時を、検察の描いたストーリーに合うよう書き換えたというものだが、読者の皆さんが今、パソコンでこのブログにアクセスしているのであれば、何でもいいからパソコンに入っているワードなどのファイルを右クリックし、「プロパティ」を選択してみるといい。「プロパティ」のなかに作成日時、更新日時の表示があること、そしてその表示が、手動では書き換えられないようになっていることに気づくだろう。
この作成日時、更新日時は、パソコンに内蔵の時計に連動して、パソコンが自動的に記録するようになっている。だからこそパソコンの内蔵時計が正確であれば、それは高い証拠能力を持つことになる。前田容疑者は、そこに目を付けたに違いない。
逆に言えば、ファイル「プロパティ」に記録されている作成日時や更新日時を、自分たちの描いたストーリーに沿うよう、後からさかのぼって改ざんしようとすれば、その方法は2つしかない。
1.パソコン内蔵時計のローカル時刻を変更後、ファイルを上書き保存する。
2.更新日時を書き換えられる特殊なソフトを使用する。
実は、1の内蔵時計巻き戻しは意外に簡単にできる。みんなが真似をし始めるといろいろな社会混乱が起きそうなのでここでは紹介しないが、数分もあれば充分だろう。2はおそらく、そのための特殊なソフトがあるはずだ。
時計を巻き戻したり、特殊なソフトを使わない限り、ファイルプロパティの日時改ざんはできないようになっている。誤って書き換わってしまうようなことは、万に一つもあり得ないだろう。もし、前田容疑者が、そのことを知らずにそんな供述をしているとすれば、検事のITスキルなどその程度ということを示している。
もうひとつ指摘しておかなければならないのは、この犯罪は前田容疑者の個人犯罪などでは決してないということだ。
検事は「独任制官庁」とされている。これは、1人1人の検事が独立して職務を執行できるという意味であり、検事1人1人が独立官庁といわれるゆえんである。そうであれば、この事件は前田容疑者の個人犯罪であるようにも思える。しかし、事はそう単純ではなく、検事が独任制官庁といわれる一方、検察庁には「検察一体の法則」がある。ジャーナリスト・久保博司は、独任制官庁の仕組みについて『検察庁は行政機関の一つであるが、普通の行政機関とは違って検事一人一人が独立の官庁である。したがって、たとえば起訴するときでも、普通の官庁のように担当官から最高責任者までズラッと印鑑を押すわけではなく、公式的には、担当検事の印鑑だけですむ』(『日本の検察』久保博司・著、講談社文庫、1989年)と指摘したうえで、検察一体の法則および実際の起訴手続きについて、次のように続ける。
『「しかし、そうはいっても、国全体の検察権行使のあり方が、あまりバラバラであっては困るわけですね。いくら識見はあっても個人差は出ますからね。また若いうちは未熟な面もありますし、公平な扱いができるようにチェックする必要があるのです」(大堀最高検次長検事)
というわけで、検察庁には検察一体の原則があり、上命下従という制度がきっちりと守られている』(前掲書、132ページ)
『「身柄を拘束するかどうか、起訴するかどうかに関しては上司の決裁を受けます。上司のところに行き、決裁をお願いします、と言って事件の内容を言い、自分の意見を述べると、上司はいくつか質問してきます。その質問にキチンと答えられると、よろしい、ということになりますね」
この場合、上司というのは東京地検では指導官、副部長、および刑事部長である。そして特別な場合は次席検事の決裁を仰ぐこともある。その他の地検では指導官、部長、次席検事、検事正と4段階のハードルをくぐるのが普通だという』(前掲書、133ページ)
『検察庁ではこの決裁制度のほかに、国会議員、大臣、自治体の首長など社会的に影響の大きな人物に手をつけるときには事前に上部に報告する処分請訓という制度がある。「訓」を求める相手は高検検事長、検事総長、法務大臣の三者である』(前掲書、134ページ)
これが検察の逮捕、起訴手続きの実際である。前田検事個人の犯罪に矮小化などできないということが見えてくる。
逮捕時、村木さんは厚生労働省の局長だった。中央省庁の局長クラスの人事は、各省庁の官房人事課などが案を作成後、警視庁公安部が対象者の身元調査(過去に犯罪歴がないか等)を行い、問題がなければ閣議了解を経て発令されるという。発令に閣議了解を必要とするほどの大物に手をつけるのに、処分請訓が行われなかったとはまず考えられない。
いずれにしても、これは明確な組織犯罪である。この事件の責任は前田容疑者個人にあるのではない。決裁書に印を押した彼の当時の上司、処分請訓を受けて了承を与えた当時の検事総長、さらに逮捕当時の自民党政権の法務大臣に至るまで、関係者全員の責任は免れないといえよう。