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第7次エネルギー基本計画 原発ありきの電力需要想定 福島事故の反省すべて投げ捨て

2025-01-25 23:10:09 | 原発問題/一般

(この記事は、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2025年1月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 経産省が昨年12月17日に案を公表した第7次エネルギー基本計画(以下「基本計画」)は、福島原発事故の反省を完全に投げ捨て、3・11前に戻ったかのように原発「最大限活用」をうたう最悪のものとなった。

 福島原発事故を受けて盛り込まれていた「原発依存度を可能な限り低減する」の表現は、安倍・菅政権でさえ福島県民・被害者「配慮」を意識せざるをえず、これまでの基本計画では残してきた。それが今回、事故以降、初めて削除された。

 基本計画は、2040年度の電源構成目標を再生可能エネルギー4~5割程度、原子力2割程度、火力3~4割程度とした。福島原発事故直前の2010年における原発比率は25%。3・11前への完全回帰だ。

 ●"反省"すら再稼働理由に

 許しがたいのは福島原発事故に関する記述である。全文84ページの基本計画に「反省」の文字はたった8か所。しかもその「反省」が「今後も原子力を活用し続ける上では、…反省を一時たりとも忘れてはならない」(総論)「(事故の)反省に立って信頼関係を構築するためにも、(原発に関し)幅広い層を対象として理解醸成に向けた取組を強化していく」(「原子力発電・今後の課題と対応」)など、すべて再稼働に強引に結びつけられている。

 「被害者」の文言はわずか2回、「被災者」に至っては1回しか登場しない。ここまで露骨な被害者切り捨て、原発推進の方針表明は3・11以降では初めてだ。

 「福島の事故がなかったかのようにしている。県民の苦しみを何ら顧みないものだ」。福島原発事故被害者5団体が基本計画撤回を求め内堀雅雄福島県知事に提出した要望書だ。この声に応え、原発即時全面廃止を目指さなければならない。

 ●デタラメな想定

 基本計画は、「データセンター需要、平均気温上昇、EV(電気自動車)需要」などにより、今後、電力需要が飛躍的に増大することを原発最大限活用の理由に挙げる。「将来の電力需要については増加する可能性が高い」とするが、「現時点において、将来の電力需要を精緻に予想することは困難」とみずから認める。

 「十分な脱炭素電源が確保できなかったが故に、国内においてデータセンターや半導体工場などの投資機会が失われ、我が国の経済成長や産業競争力強化の機会が失われることは、決してあってはならない」(11ページ)。大企業本位、「命よりカネ」優先の基本計画であることを隠そうともせず、市民を脅して原発への同意を狙う。

 そもそも経産省が主張する電力需要の増加はどこまで本当なのか。原子力市民委員会の明日香寿川(あすかじゅせん)東北大学大学院環境科学研究科教授は「2010年から18年の間に、クラウドを介したコンピューターの仕事量は550%増加したが、世界全体のデータセンターのエネルギー消費量は6%しか増加していない」「AI(人工知能)関連処理を高効率で実行する半導体の開発が進んでおり、演算能力の向上と消費電力の削減に大きな効果を期待できる」と疑問を投げかける。

 第2次ベビーブームのピークだった1973年には、1年間に200万人もの新生児が産まれた。それがここ数年を見ると、1年間の新生児の数は80万人すら割り込んでいる。人口問題研究所が公表している日本の将来推計人口予測は、上位・中位・下位の3パターンに分けて将来の人口推計をしているが、2030年代の到来を待たずに新生児が年間80万人を割り込むのは、下位推計をも下回るペースとなっている。人口問題研究所は、エネルギー基本計画が目標としている2040年の推計人口を1億1000万人程度と見込むが、今の調子で新生児の減少が続くなら、将来人口も当然、この推計を下回ることになろう。1億人を維持できれば御の字というのが実態ではないだろうか。

 加えて、この間、順調に進んできた省エネの実績も経産省は意図的に無視している。福島第1原発事故からの10年間で、日本全体では2割近く電力需要が減っている。特に減少幅が大きいのは産業部門であり、企業の省エネ化が大幅に進んだことが示されている。

 企業の省エネの取り組みは、環境意識の高まりというよりは、最も分かりやすいコスト削減策として実行されてきたという面が大きいが、ここ数年来の電力料金の高止まりが今後も続くなら、産業部門の省エネの取り組みは加速することはあっても停滞・後退することはない。

 予想を超えるハイペースで進む人口減少や、省エネの実績を無視し、現状では実態も明らかでないAI(人工知能)にすがる経産省の「電力需要激増」論は、「電力需要が増えてほしい、いや増えてくれなければ困るのできっと増えるはずだ」という空想に過ぎない。

 ●現実無視の「原発2割」~廃棄物の処分方法は依然決まらず

 基本計画の「原発2割」を達成するには「既存の原発(33基)をすべて再稼働させ、運転期間も60年に延長する必要がある」(原子力資料情報室・松久保肇事務局長)。「2割」自体、非現実的な想定であり、新増設を前提とした数字というのは一致した見方だ。

 新増設もハードルが高い。米国では2023~24年に稼働したジョージア州ボーグル原発3・4号機が1基当たり2兆円の建設費を要した。着工から営業開始までの期間も20年と長い。20年後のために2兆円の巨費を投じるなど大企業でも通常なら考えられない。新増設は、初めから税金や電気料金値上げが前提の計画なのだ。市民生活へのしわ寄せとなり、日本の国家財政も原子力のために破綻することになりかねない。

 高レベル放射性廃棄物(いわゆる「核のごみ」)最終処分場建設に向けた文献調査に史上初めて応募した北海道寿都町、神恵内村の2自治体で、2020年からNUMO(原子力発電環境整備機構)によって行われていた調査報告書が昨年11月に公表された。結論から言えば、資源エネルギー庁が2017年に公表した「核ごみ特性マップ」の内容を外れるものではなく、寿都町の大部分が適地、神恵内村については山岳地帯の一部が適地、村中心部の居住地帯を不適地とするものだった。

 私は、資源エネルギー庁とNUMOが共催し、昨年12月14日に札幌市で開催された報告書説明会に参加したが、説明会を「高レベル放射性廃棄物地層処分事業に対する理解醸成の場」と位置付けながら、会場からの挙手による質問も、一問一答型の対話もせず、質問票に記載する形で提出された疑問のうち、主催者側が抽出したものだけに回答するという非民主的運営だった。

 私ほか10名が提出した「北海道の核ごみ持ち込み禁止条例をどう認識しているのか。守る気があるのか」という質問に対するエネ庁・NUMOの回答は「コメントする立場にない」だった。法治国家を標榜するなら、地方自治体が定めた条例とはいえ、核ごみを拒否する規定がある場所で、処分事業の準備段階に当たる文献調査をすること自体がそもそもおかしい。

 この傲慢なエネ庁・NUMOの態度からは、彼らの希薄な法規範意識が垣間見えた。すなわち、彼ら中央省庁の官僚たちは「自分たちが立案して国会で成立したものだけが守るべき“法律”であり、自分たちがあずかり知らないところで誰かが勝手に作った『法』は、たとえそれが正式な手続を踏んで作られたものであっても守らなくてよい」と考えているらしいことが見えたのである。

 実際、この間、原子力ムラの住人たちは、議員立法で制定された「原発事故子ども・被災者支援法」も、国連特別報告者による勧告などもすべて無視して超法規的に振る舞ってきた。司法もそうした法規範破壊に積極的に手を貸してきた。そうした原子力ムラの法規範無視に、過去さんざん痛めつけられてきた私が「コメントする立場にない」というエネ庁・NUMOの回答を聞いて「条例無視の意思表示」と受け止めたことはいうまでもない。

 ●核燃料サイクル推進に転換の兆し?

 気になったのは、エネ庁・NUMOが口を揃えて「核燃料サイクルから撤退した場合に使用済み核燃料がどうなるか」に言及したことである。過去、エネ庁・NUMOは地層処分に対する「理解醸成」のためとして、手法や場所を変え、説明会を連続開催してきた。私はそのうちのいくつかに出席したが、過去の説明会では、参加者が核燃料サイクルの破綻を指摘し、使用済み核燃料の将来を問うても「法律で定められた地層処分への理解醸成に努める」以外の答弁をしてこなかった。それが今回、初めて「仮に国が核燃料サイクルから撤退することになった場合には、使用済み核燃料は全量が高レベル放射性廃棄物として地層処分の対象になる」と明言したのである。

 国会答弁を見ても、基本的に官僚は仮定の質問には答えない。この姿勢は徹底しており、国会議員からの質問主意書で「仮に○○であった場合、政府はどう対応するのか」と言った類の質問があっても、政府は一貫して「仮定の質問にはお答えできない」と答弁してきた。そうした官僚の習性を知っているだけに、私は一歩踏み込んだとも言えるこのエネ庁・NUMOの回答には重大な関心を抱いた。

 青森県六ヶ所村で、当初計画では20世紀のうちに操業開始しているはずだった使用済み核燃料再処理施設は、もう21世紀も4分の1が終わろうとしているのに操業開始できる気配すらない。明らかな核燃料サイクルの破綻を頑なに認めようとしない国の姿勢に疑問を持ち、核燃料サイクルからの撤退を求める勢力が、無視できない形で政府内部に存在し、影響力を増している――根拠はないが、それが私の推測である。

 国が核燃料サイクルからの撤退を決めるに当たって最大の「難題」は、各電力会社が使用済み核燃料を負債ではなく資産に計上していることである。再処理された使用済み核燃料は燃料として再利用する建前になっているのでそうした会計処理を認めているが、これは電力会社にとって「不良資産」となっており、再処理からの撤退でこれを負債計上しなければならなくなると、電力会社の利益など一夜にして吹き飛んでしまう。一部電力会社は存続が難しくなる事態もあり得よう。

 解決策としては、(1)使用済み核燃料の「減損処理」で吹き出る損金を国が補てんする、(2)電力会社の財務が一気に傷まないよう、減損処理ではなく長期間の減価償却を認めるなどの特例制度を創設する、(3)使用済み核燃料の処理を電力会社から切り離して実施するなどの方法があり得る。③の場合、実施主体としては福島第1原発事故に伴う賠償や廃炉などを支援する原子力損害賠償・廃炉等支援機構や、所有する全原発が再稼働できず、将来の見通しもない日本原子力発電などが考えられる。

 ①~③いずれの手法を採る場合でも、費用は結局、電気料金か税金のいずれかを通じて国民に転嫁されるが、そもそも再処理事業自体、空想に過ぎなかったのだ。遅かれ早かれ核燃料サイクルの「損切り」は行わなければならず、そうした方向への模索が政府内部で始まっているかもしれないことを、「仮定の質問に、あえて答える」経産省・NUMOの姿勢の変化の中から感じ取ったのである。

 ●将来は途上国並みに「停電が当たり前」に?

 最後に、今回のエネルギー基本計画が原案通り政府方針となった場合、目標とする2040年前後、日本のエネルギー事情がどのようになっているかを予想して本稿を締めくくることにしたい。

 結論を先に言えば、日本も発展途上国並みに停電が当たり前の社会になっていると予想する。現在でも、途上国では1日に何度も予告なく停電が起き、市民も「あ、またか」と思う程度で驚きもしないというところは珍しくないが、今回のエネルギー基本計画通りに進むなら、日本も将来はこのような国々の仲間入りをすることになろう。

 それは何よりも、将来最も有望なエネルギー源である再生可能エネルギーを普及させないよう妨害を続け、一方で地球環境の維持の面からもコスト面からも有望でない原発、石油火力といった電源に巨大投資を続けるという、政府自身の「将来への見通しの無さ」が招く電力不足であり、偶然ではなく必然である。私は将来の子どもたち、孫たちの世代に大変申し訳ないと思っている。

 原子力2割が、特にコスト面や廃棄物問題から実現不可能な目標だということは前述したとおりだが、これだけ地球環境保護への国際圧力が強まる中で、火力3~4割などという寝言が通じると政府は本気で思っているのか。国土の狭い日本が再生可能エネルギーに不適だと主張するなら、せめて「2040年までに、現在の電力消費を半減させる」くらいの省エネへの覚悟を示すべきだろう。

 ただ、私はこの点に関しては悲観していない。福島原発事故後の10年間だけで日本が2割もの電力消費削減に成功したことはすでに述べたが、これは年率2%に当たる。この削減ペースを今後も続けるだけで、目標年度である2040年(15年後)までに3割の削減が可能になる。「福島」後の30年間のトータルで見ると、実に6割もの電力需要削減が可能になるのである。

 しかも、この数字は将来の人口減少を見込んでいない(福島第1原発事故後、電力消費の2割削減に成功した10年間に日本の人口がほぼ横ばいだったため、その影響を盛り込めなかったという事情による)。将来の人口減少を加味すると、実際の電力需要はさらに減る可能性すらある。「停電が当たり前のエネルギー途上国」を避ける上で、再生エネルギーよりも省エネに活路があるという私の従来からの主張を変更する必要はないと考えている。

 この数字は、過去の削減幅をベースに計算したものであり、空想に基づいた経産省の「電力需要激増」論よりは説得力を持っていると自負している。むしろ、企業や市民が省エネで電力使用量を減らすたびに、経営努力もせず、値上げで企業や市民の努力を水泡に帰させてきた電力会社の放漫経営と、それを許してきた経産省の責任を追及すべきであろう。

(2025年1月19日)


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2024.12.31 全交関電前プロジェクト 大晦日アクションへのメッセージ

2024-12-29 21:01:13 | 原発問題/一般

福島原発事故以降、関西電力本社前では、毎年、大みそかにも反原発行動が粘り強く続けられている。今年もメッセージの依頼があったので、以下の通りメッセージを出した。

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 関電前にお集まりの皆さん、寒い中、大晦日までお疲れさまです。

 今年11月、被災地として初めて東北電力女川原発2号機が再稼働し、12月には中国電力島根原発2号機も再稼働しました。いずれも東日本大震災後初であり、また事故を起こした福島第1原発と同じ沸騰水型原子炉としても初の稼働となります。

 12月には、エネルギー基本計画が改悪され、政府の原発回帰の姿勢が露骨になる中、辛うじて残っていた「原発依存度を可能な限り低減」の文字が削除されました。「可能な限り削減」も、可能でなければ削減しなくてもいいと読める内容で、事実上、原発回帰に何の支障もない表現でしたが、福島原発事故の反省を踏まえ、福島県民・被害者への配慮のため残っていたこの最後のワンフレーズさえ原発推進派にとっては「邪魔」だということです。能登半島地震の惨事を見ても原発を動かす原発推進派の思い上がりは3.11前以上に酷くなっており、このままでは次の原発事故は2020年代のうちに再び起こると断言します。福島を経験した私には、「次の事故後の光景」までがすでにはっきりと見えています。

 原発裁判も、賠償、差し止めともに全敗でした。司法の腐敗ぶりに対する怒りは、10月に行われた最高裁裁判官国民審査ではっきりと示されました。いわき市民訴訟で住民の被害の訴えを切り捨てた裁判官、東京電力の代理人を務めていた裁判官の「罷免賛成」率が10%を超えたからです。罷免率が10%を超えるのは20年ぶりのことです。この司法への怒りを来年の6.17最高裁共同行動につなげたいと考えています。

 政府・原子力ムラは「AI(人工知能)の拡大で巨大なデータセンターが必要になり、電力需要は急増する」として原発再稼働を煽っています。ICT技術の発展によって省エネが進んできたこれまでの歴史を無視する妄想です。仮にそうだとしても、その電力需要を賄うのがなぜ原発でなければならないのでしょうか。

 米国では、原発1基の新設にすでに2兆円がかかるようになっています。しかも着工から稼働までには20年かかります。1年先も見通せない不安定な世界経済情勢の中で、20年後に稼働できるかもわからない原発のために2兆円もの巨費を投じる民間企業はありません。これからの原発は最初から政府による巨額の資金援助を前提としており、そこには私たちの税金や電気代が使われるのです。事故の危険性もさることながら、強引な原発推進政策は、将来、確実に日本の国家財政を破たんさせ、経済も生活も破壊するでしょう。

 北海道では、この11月、NUMO(原子力発電環境整備機構)が行ってきた寿都町・神恵内村での「核ごみ」最終処分場選定に向けた文献調査報告書が公表されました。北海道はこれからも農業・食料生産と観光で生きなければなりません。そのために核のごみも泊原発の再稼働も受け入れる気はありません。

 日本原電の敦賀原発2号機が規制委による審査で不合格となったことや、日本被団協のノーベル平和賞受賞など、嬉しいニュースもあった2024年でした。長く運動を続けていると良いときも悪いときもありますが、全原発廃炉をめざして2025年も頑張りましょう。


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【転載記事・動画】ノーベル平和賞授賞式における被団協・田中熙巳さん演説全文「核と人類、共存させてはならない」 

2024-12-12 21:08:33 | 原発問題/一般

ノルウェーの首都オスロで12月10日、ノーベル平和賞授賞式が行われました。参加した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)・田中熙巳(てるみ)代表委員(92)の演説全文をご紹介します。(引用元記事:「核と人類、共存させてはならない」 被団協・田中熙巳さん演説全文(2024年12月10日付け「毎日」)

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 国王・王妃両陛下、皇太子・皇太子妃両殿下、ノルウェー・ノーベル委員会のみなさん、ご列席のみなさん、核兵器廃絶をめざしてたたかう世界の友人のみなさん、ただいまご紹介いただきました日本被団協の代表委員の一人の田中熙巳でございます。本日は受賞者「日本被団協」を代表してごあいさつをする機会を頂きありがとうございました。

 私たちは1956年8月に「原水爆被害者団体協議会」(日本被団協)を結成しました。生きながらえた原爆被害者は歴史上未曽有の非人道的な被害をふたたび繰り返すことのないようにと、二つの基本要求を掲げて運動を展開してきました。一つは、日本政府の「戦争の被害は国民が受忍しなければならない」との主張に抗(あらが)い、原爆被害は戦争を開始し遂行した国によって償われなければならないという運動。二つは、核兵器は極めて非人道的な殺りく兵器であり人類とは共存させてはならない、すみやかに廃絶しなければならない、という運動です。

 この運動は「核タブー」の形成に大きな役割を果たしたことは間違いないでしょう。しかし、今日、依然として1万2000発の核弾頭が地球上に存在し、4000発近くの核弾頭が即座に発射可能な配備がされています。そのなかで、ウクライナ戦争における核超大国のロシアによる核の威嚇、また、パレスチナ自治区ガザ地区に対しイスラエルが執拗(しつよう)な攻撃を加える中で核兵器の使用を口にする閣僚が現れるなど、市民の犠牲に加えて「核のタブー」が壊されようとしていることに限りない口惜(くや)しさと憤りを覚えます。

 私は長崎原爆の被爆者の一人です。13歳の時に爆心地から東に3キロ余り離れた自宅で被爆しました。

 1945年8月9日、爆撃機1機の爆音が突然聞こえるとまもなく、真っ白な光で体が包まれました。その光に驚愕(きょうがく)し2階から階下にかけおりました。目と耳をふさいで伏せた直後に強烈な衝撃波が通り抜けて行きました。その後の記憶はなく、気がついた時には大きなガラス戸が私の体の上に覆いかぶさっていました。しかしガラスが一枚も割れていなかったのは奇跡というほかありません。そのお陰でほぼ無傷で助かりました。

 長崎原爆の惨状をつぶさに見たのは3日後、爆心地帯に住んでいた二人の伯母の安否を尋ねて訪れた時です。私と母は小高い山を迂回(うかい)し、峠にたどり着き、眼下を見下ろして愕然(がくぜん)としました。3キロ余り先の港まで、黒く焼き尽くされた廃墟(はいきょ)が広がっていました。煉瓦(れんが)造りで東洋一を誇った大きな教会・浦上天主堂は崩れ落ち、みるかげもありませんでした。

 麓(ふもと)に下りていく道筋の家はすべて焼け落ち、その周りに遺体が放置され、あるいは大けがや大やけどを負いながら生きている人々が、誰からの救援もなく放置されておりました。私はほとんど無感動となり、人間らしい心も閉ざし、ただひたすら目的地に向かうだけでした。

 一人の伯母は爆心地から400メートルの自宅の焼け跡に大学生の孫とともに黒焦げの死体で転がっていました。

 もう一人の伯母の家は倒壊し、木材の山になっていました。祖父は全身大やけどで瀕死(ひんし)の状態でしゃがみこんでいました。伯母は大やけどで私たちの到着する直前に亡くなり、私たちの手で野原で荼毘(だび)にふしました。ほとんど無傷だった伯父は救援を求めてその場を離れていましたが、救援先で倒れ、高熱で1週間ほど苦しみ亡くなったそうです。一発の原子爆弾は私の身内5人を無残な姿に変え一挙に命を奪いました。

 その時目にした人々の死にざまは、人間の死とはとても言えないありさまでした。誰からの手当ても受けることなく苦しんでいる人々が何十人何百人といました。たとえ戦争といえどもこんな殺し方、傷つけ方をしてはいけないと、強く感じました。

 長崎原爆は上空600メートルで爆発。放出したエネルギーの50%は衝撃波として家屋を押しつぶし、35%は熱線として屋外の人々に大やけどを負わせ、倒壊した家屋のいたるところに火をつけました。多くの人々が家屋に押しつぶされたまま焼き殺されていきました。残りの15%は中性子線やγ線などの放射線として人体を貫き内部から破壊し、死に至らせ、また原爆症の原因を作りました。

 その年の末までの広島、長崎両市の死亡者の数は、広島14万人前後、長崎7万人前後とされています。原爆を被爆しけがを負い、放射線に被ばくし生存していた人々は40万人あまりといえます。

 生き残った被爆者たちは被爆後7年間、占領軍に沈黙を強いられました。さらに日本政府からも見放されました。被爆後の十年間余を孤独と、病苦と生活苦、偏見と差別に耐え続けざるをえませんでした。

 1954年3月1日のビキニ環礁でのアメリカの水爆実験によって、日本の漁船が「死の灰」に被ばくする大きな事件になりました。中でも第五福竜丸の乗組員23人全員が被ばくして急性放射能症を発症し、捕獲したマグロは廃棄されました。この事件が契機となって、原水爆実験禁止、原水爆反対運動が始まり、燎原(りょうげん)の火のように日本中に広がったのです。3000万を超える署名に結実し、1955年8月「原水爆禁止世界大会」が広島で開かれ、翌年第2回大会が長崎で開かれました。この運動に励まされ、大会に参加した原爆被害者によって1956年8月10日「日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)」が結成されました。

 結成宣言で「自らを救うとともに、私たちの体験を通して人類の危機を救おう」との決意を表明し、「核兵器の廃絶と原爆被害に対する国の補償」を求めて運動に立ち上がったのです。

 運動の結果、1957年に「原子爆弾被爆者の医療に関する法律」が制定されます。しかし、その内容は、「被爆者健康手帳」を交付し、無料で健康診断を実施するという簡単なものでありました。さらにもう一つ、厚生大臣が原爆症と認定した疾病にかかった場合にのみ、その医療費を支給するというものでした。

 1968年になり「原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律」が制定されました。これは、数種類の手当を給付するということで経済的な援助を行いました。しかしそれは社会保障制度であって、国家補償はかたくなに拒まれたのであります。

 1985年、日本被団協は「原爆被害者調査」を実施しました。この調査で、原爆被害はいのち、からだ、こころ、くらしにわたる全ての被害を加えるというものでありました。命を奪われ、身体にも心にも傷を負い、病気があることや偏見から働くこともままならない実態が明らかになりました。この調査結果は、原爆被害者の基本要求を強く裏付けるものとなり、自分たちが体験した悲惨な苦しみを二度と、世界中の誰にも味わわせてはならないとの思いを強くしました。

 1994年12月、この二つの法律を合体した「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」が制定されました。しかし何十万という死者に対する補償は全くなく、日本政府は一貫して国家補償を拒み、放射線被害に限定した対策のみを今日まで続けてきています。もう一度繰り返します。原爆で亡くなった死者に対する償いは、日本政府は全くしていないという事実をお知りいただきたいというふうに思います。

 これらの法律は、長い間、国籍に関わらず海外在住の原爆被害者に対し、適応されていませんでした。日本で被爆して母国に帰った韓国の被爆者や、戦後アメリカ、ブラジル、メキシコ、カナダその他に移住した多くの被爆者は、被爆者特有の病気を抱えながら原爆被害への無理解に苦しみました。それぞれの国で結成された原爆被害者の会と私たちは連帯し、ある時は裁判で、あるときは共同行動などを通して訴え、国内とほぼ同様の援護が行われるようになりました。

 私たちは、核兵器のすみやかな廃絶を求めて、自国政府や核兵器保有国ほか諸国に要請運動を強めてきました。

 1977年、国連NGOの主催で「被爆の実相と被爆者の実情」に関する国際シンポジウムが日本で開催され、原爆が人間に与える被害の実相を明らかにしました。このころ、ヨーロッパで核戦争の危機が高まり、各国で数十万人の大集会が開かれました。これらの集会での証言に日本被団協に対する依頼などもつづきました。

 1978年と1982年にニューヨーク国連本部で開かれた国連軍縮特別総会には、日本被団協の代表がそれぞれ40人近く参加し、総会議場での演説のほか、証言活動を展開しました。

 核兵器不拡散条約の再検討会議とその準備委員会で、日本被団協代表は発言機会を確保し、あわせて再検討会議の期間中に、国連本部総会議場ロビーで原爆展を開き、大きな成果を上げました。

 2012年、NPT(核拡散防止条約)再検討会議準備委員会でノルウェー政府が「核兵器の人道的影響に関する会議」の開催を提案し、2013年から3回にわたる会議で原爆被害者の証言が重く受け止められ「核兵器禁止条約交渉会議」に発展しました。

 2016年4月、日本被団協が提案し世界の原爆被害者が呼びかけた「核兵器の禁止・廃絶を求める国際署名」は大きく広がり、1370万を超える署名を国連に提出しました。その結果でもありますが、2017年7月7日に122カ国の賛同をえて「核兵器禁止条約」が制定されたのであります。これは私たちにとって大変な大きな喜びでした。

 さて、核兵器の保有と使用を前提とする核抑止論ではなく、核兵器は一発たりとも持ってはいけないというのが原爆被害者の心からの願いです。

 想像してみてください。直ちに発射できる核弾頭が4000発もあるということを。広島や長崎で起こったことの数百倍、数千倍の被害が直ちに現出することがあるということです。みなさんがいつ被害者になってもおかしくないし、加害者になるかもしれないという状況があります。ですから、核兵器をなくしていくためにどうしたらいいか、世界中のみなさんで共に話し合い、求めていただきたいと思うのです。

 原爆被害者の現在の平均年齢は85歳。10年先には直接の体験者としての証言ができるのは数人になるかもしれません。これからは、私たちがやってきた運動を、次の世代のみなさんが、工夫して築いていくことを期待しています。

 一つ大きな参考になるものがあります。それは、日本被団協と密接に協力して被団協運動の記録や被爆者の証言、各地の被団協の活動記録などの保存に努めてきた「NPO法人・ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会」の存在です。この会は結成されてから15年近く、粘り強く活動を進めて、被爆者たちの草の根の運動、証言や各地の被爆者団体の運動の記録などをアーカイブスとして保存、管理してきました。これらを外に向かって活用する運動に大きく踏み出されることを期待します。私はこの会が行動を含んだ、実相の普及に全力を傾注する組織になってもらえるのではないかと期待しています。国内にとどまらず国際的な活動を大きく展開してくださることを強く願っています。

 世界中のみなさん、「核兵器禁止条約」のさらなる普遍化と核兵器廃絶の国際条約の締結を目指し、核兵器の非人道性を感性で受け止めることのできるような原爆体験の証言の場を各国で開いてください。とりわけ核兵器国とそれらの同盟国の市民の中にしっかりと核兵器は人類と共存できない、共存させてはならないという信念が根付くこと、自国の政府の核政策を変えさせる力になることを私たちは願っています。

 人類が核兵器で自滅することのないように!!

 そして核兵器も戦争もない世界の人間社会を求めて共に頑張りましょう!!

 ありがとうございました。

ⓒノーベル財団、ストックホルム、2024年

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この田中さんの演説のノーカット版動画もアップロードされています。(テレビ東京公式Youtubeチャンネル)

「核兵器は一発たりとも持ってはいけない 被爆者の心からの願い」ノーベル平和賞「日本被団協」【ノーカット】


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最高裁裁判官国民審査の結果 福島原発事故裁判に関わった裁判官が1割超える「罷免」票率

2024-10-30 21:23:50 | 原発問題/一般

最高裁裁判官の国民審査、解職なし 長官ら4人が「×」10%超(朝日)

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 27日に行われた最高裁裁判官の国民審査について、総務省が28日、結果を発表した。対象の裁判官6人は全員信任され、解職はなかった。

 約5572万人の投票があり、投票率は53・64%(前回55・69%)だった。×印が有効票の半数を超えると解職され、何も書かなければ信任と扱われる。×印の割合(罷免(ひめん)率)が最も高かったのは最高裁長官の今崎幸彦氏、最も低かったのは9月に就任した中村慎氏だった。2003年以降の国民審査で罷免率が10%に達した裁判官はいなかったが、今回は4人が超えた。国民審査は今回で26回目。罷免率がこれまで最も高かったのは15・17%で、半数を超えて解職された裁判官はいない。

 最高裁裁判官は、任命後初めての総選挙の際に審査を受けると憲法で定められている。今回対象となった6人は、前回衆院選があった21年10月以降に任命された。(遠藤隆史)

「×」印がついた票の数  ※( )内は有効票に占める割合。告示順、敬称略

尾島明(66) 裁判官出身 598万11票(11・00%)

宮川美津子(64) 弁護士出身 571万5535票(10・52%)

今崎幸彦(66) 裁判官出身 622万9691票(11・46%)

④平木正洋(63) 裁判官出身 541万9857票(9・97%)

⑤石兼公博(66) 行政官出身 543万9056票(10・01%)

⑥中村慎(63) 裁判官出身 533万5897票(9・82%)

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10月27日の衆院総選挙と同時に行われた最高裁判所裁判官国民審査の結果が総務省から発表された。

「罷免」を求める「×」票の率が最も高いのは、第3小法廷在籍当時、「国に責任なし」のいわき市民訴訟仙台高裁判決を支持し、原告側の上告を棄却した今崎幸彦長官。福島原発刑事訴訟支援団から「審理回避」を要請されている草野耕一裁判官と同じ第2小法廷に所属する尾島明判事が2位でこれに次ぐ。3位は、TMI法律事務所(原発事故関係の訴訟を多く扱う)に所属歴がある宮川美津子判事だ。今崎、宮川両判事は「ひだんれん」から「×」とするよう呼びかけが行われていた。(参考資料=『東電と密接な関係のある最高裁・草野耕一裁判官に「東電刑事裁判」の審理を回避するよう求める署名』のお願い/福島原発刑事訴訟支援団)

総じて、福島原発事故関係裁判に関連し、または多く扱っている小法廷所属の判事が際立って高い「罷免」票率となっており、原発事故関係裁判に対する国民・有権者の強い不満が示された。

「2003年以降の国民審査で罷免率が10%に達した裁判官はいなかったが、今回は4人が超えた」と上記記事にある。一般市民・有権者の「最高裁不信」は20年ぶりの高い水準に達した。原発事故裁判と関係の深い裁判官ほど高い「罷免」票率を示していることから、この最高裁不信が原発事故関係裁判に起因していることが明らかになったといえよう。


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<2024総選挙>最高裁裁判官国民審査:今崎幸彦裁判官(長官)、宮川美津子裁判官の「不信任」を呼びかけます

2024-10-20 12:00:50 | 原発問題/一般

2024衆院総選挙に関し、当ブログをご覧のみなさんに呼びかけます。

現在、衆院選とともに行われている「最高裁判所裁判官国民審査」において、今崎幸彦裁判官(最高裁判所長官)、宮川美津子裁判官の2名を×(不信任)とするよう、「ひだんれん」(原発事故被害者団体連絡会)が呼びかけています。当ブログとしても、この呼びかけに応え、両裁判官を×(不信任)とするよう、みなさんに呼びかけます。

「ひだんれん」が示した理由は以下の通りですが、原発問題に詳しくない方には若干、わかりにくいため、当ブログから補足説明を加えています。

<今崎幸彦裁判官--ひだんれんが示した不信任理由>

福島原発事故に関して国の賠償責任を問う「いわき市民訴訟」で最高裁上告棄却決定を下しました。

<当ブログから補足>

いわき市民訴訟は、原発事故で被害を受けたいわき市民約1300人が、国と東京電力、双方の責任を問うたものです。2023年、仙台高裁は、「原発の敷地を越える津波を想定することは十分に可能であった」とし、また防潮堤の設置や重要施設の水密化(防水)対策で「重大事故が発生することを避けられた可能性は相当程度高い」と指摘。その上で、国が東電に規制権限を行使しなかったことは「重大な義務違反」としました。その一方で、「津波の防護措置は幅のある可能性があり、重大事故を防ぐことができたとは断言できない」とし、国の責任を否定する不当判決でした。

この判決を不服とし、原告側が国の責任を認めるよう求めて最高裁に上告しました。この裁判は、最高裁第3小法廷(宇賀克也判事、林道晴判事、長嶺安正判事、渡邉恵理子判事、今崎幸彦判事)の担当となりましたが、同小法廷は、2024年4月10日、原告側の上告を棄却する決定をしました。これにより、「国に責任はない」とする仙台高裁判決が確定しています。

参考記事:「門前払いとは」原告ら落胆 原発事故めぐるいわき訴訟、上告退ける(2024.4.12付け「朝日新聞」)

<宮川美津子裁判官--ひだんれんが示した不信任理由>

第一小法廷の判事で、5大法律事務所の一つ、TMI総合法律事務所のパートナー弁護士でした。「だまっちゃおれん原発事故人権侵害訴訟・愛知岐阜」が上告され、最高裁第一小法廷に係属しています。

「だまっちゃおれん」控訴審での東電側弁護人は、TMI総合法律事務所が務めており、東電側の弁護人も担当判事もTMI総合法律事務所ということになります。原告団、弁護団は宮川美津子判事に対し、回避(裁判官自らが、除斥又は忌避の事由があると認め、職務執行を避ける)を求めてきましたが、反応がないとのことです。

<当ブログから補足>

東京電力の代理人弁護士を多く抱えているTMI総合法律事務所に勤務した経歴を持つ人物が、東京電力が起こした福島第1原発事故の裁判に最高裁裁判官として関わることは、スポーツに例えれば「レフェリー(審判)が一方のチームのユニフォームを着てプレーに参加する」のと同じであり、重大な利益相反行為です。公正な裁判は期待できず、宮川裁判官にみずから審理から身を引く意思がないのであれば、不信任に相当する理由があると当ブログは考えます。

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なお、裁判官の国民審査では、投票用紙に「○」を付けると無効になります。不信任にしたい裁判官には「×」を付け、信任する裁判官には何も書かずに投票箱に入れてください。信任する裁判官に「○」を付けるよう訴えているサイトも時折、見かけますが、これらは誤りです。

この投票方式は、「最高裁判所裁判官国民審査法」第15条で定められています。具体的には以下の通りです。

第十五条(投票の方式) 審査人は、投票所において、罷免を可とする裁判官については投票用紙の当該裁判官に対する記載欄に自ら×の記号を記載し、罷免を可としない裁判官については投票用紙の当該裁判官に対する記載欄に何らの記載をしないで、これを投票箱に入れなければならない。

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この投票方式には、少なくとも問題点が2つあります。

1.不信任にしたい裁判官がいる審査人(有権者)だけが投票用紙に「×」を記載する一方、対象裁判官全員を信任したい有権者は投票用紙に何も書かなくてよいというシステムは、一方だけに記載の負担を求め、一方だけが楽をできるという意味で不公平である。

2.対象裁判官を、わざわざ不信任にするほどではないが、積極的に信任する理由も見当たらないという有権者にとって、「どちらでもない」の意思表示をすることができない。

改善には、上記「最高裁判所裁判官国民審査法」第15条の改正が必要ですが、当ブログは、今後もこの投票方式を改めるよう求めていきます。


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【転載記事】<2024衆院総選挙>原発・エネルギーに関する各党の政策・マニフェストについて

2024-10-18 21:52:44 | 原発問題/一般

環境運動団体「FoE Japan」サイトが、2024衆院総選挙における原発・エネルギーに関する各党の政策・マニフェストについて一覧にまとめた上で、解説もしてくれています。以下、ご紹介しますので、投票の参考にしてください。

なお、私は原発を即時または一定の期限までに廃止するとの公約を持つ政党でなければ、投票するつもりはありません。

<衆院選2024>各党マニフェストを比較してみました【原発・エネルギー編】(FoE Japan公式サイト)

投票日を10月27日に控えた衆議院議員選挙。「原発・エネルギー」に関して各党のマニフェストを比較してみました。

自民 再稼働を進める/次世代革新炉の建設/核燃料サイクル推進
立憲 2050年までのできるだけ早い時期に原発ゼロ/新増設は行わない/原発に頼らない地域経済の確立
維新 早期再稼働/審査の効率化/民間の責任を有限化/甲状腺検査の縮小
公明 再稼働を認める/将来的に脱原発 (新増設については記載なし)
共産 2030年度に原発ゼロ/新増設は認めない/核燃料サイクルからは直ちに撤退
国民 早期再稼働/審査の効率化/次世代革新炉の開発・建設
れいわ 即時廃止/「廃炉ニューディール」で立地自治体の「公正な移行」を実現する
社民 2030年までに原発ゼロ/汚染水の海洋放出の中止/被災者・避難者の十分な生活保障
参政 既存原発の活用/次世代原発の推進

自民党

総じて、政府の従来方針の通りで、石破色が打ち出されているわけではないようです。

脱炭素・エネルギーの項目で「徹底した省エネ・再エネの最大限の導入、原子力の活用」をかかげ、脱炭素分野に150兆円の官民投資を引き出すとしていますね。これは政府のGX基本方針と同じです。

原発に関しては「原子力規制委員会により厳しい安全性基準への適合が認められた原子力発電所については、再稼働を進めていく」としています。核燃料サイクル推進、高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定を着実に進めるなども。また、「次世代革新炉の開発・建設に取り組む」としています。

火力については、「次世代化、高効率化、水素・アンモニアの混焼やCCUS、カーボンリサイクル等による脱炭素化に向けた取組みを加速度的に推進」としています。

電源ごとの2030年の数値目標などは見当たりません。

参照先:自民党 令和6年 政権公約 (jimin.jp)

立憲民主党

目標とする年限は明記されていませんが従来の原発ゼロ方針は維持し、省エネ・再エネなどについては、目標値も含め具体的に書き込まれたマニフェストになっています。

「2030年の再生可能エネルギーによる発電割合50%及び2050年100%を目指し、2050年までのできる限り早い時期に化石燃料にも原子力発電にも依存しないカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)達成を目指す」としています。

また、省エネに関しては、2030年に最終エネルギー消費30%削減(2013年比)、2050年には同60%削減を目指す、2030年までに省エネ・再エネに200兆円(公的資金50兆円)を投入し、年間250万人の雇用創出、年間50兆円の経済効果を実現するとしています。

原子力発電所の新設・増設は行わず、全ての原子力発電所の速やかな停止と廃炉決定を目指す」とし、核燃料サイクルの中止に向けた枠組み構築、原発に頼らない地域経済の確立やそのための支援について盛り込んでいます。

「東日本からの復興」の項目に原発事故被害者の支援について盛り込み、「子ども・被災者支援法」の下、福島県外避難者に対して、その生活実態を踏まえ、支援を継続・拡充するなどとしています。

参照先:立憲民主党 政策集2024「エネルギー」 – 立憲民主党 (cdp-japan.jp)

維新

総じて、原発に関しては前のめりの内容で、原子力事業者の利益を代弁するかのような記述が見受けられます。民間の責任の有限化、原発の国有化の検討、福島県の甲状腺検査の縮小、風評被害の解消などを打ち出しています。

「原子力規制委員会の審査の効率性を重視」しつつ規制委の許可を得た原発の「早期再稼働を進める」、「既存原発の運転期間の延長や次世代革新炉への建て替えを行う」、その際には「国・地方自治体・事業者の責任を法的に明確化」するなどとしています。

「民間の責任を有限化」「国有化も含めた国の責任ある対応の検討」などの文言も見受けられます。「民間の責任の有限化」というのは、現在の原子力損害賠償法では、万が一原発事故が起こった場合、たとえ被害額が巨額にのぼったとしても、原子力事業者がすべて賠償責任を負うとした「無限責任」「責任集中」の原則を見直すことを示唆しています。まあ、現在も福島原発事故の賠償や廃炉については、国や他の原子力事業者からの資金、電気代に上乗せされている託送料金の一部などが入っており、実際には原子力事業者の責任は曖昧にされていますが…。

原発事故対策では、被ばく影響の否定が目につきます。たとえば、福島県で事故当時18歳以下であった人たちに対して行われている甲状腺検査を「希望者のみとする」と縮小し、「過剰診断と風評による負の影響を無くす」としています。ちなみに、現在、甲状腺検査は対象者全員に案内は出されているようですが、実際に検査を受けるのは希望者のみです。原発事故と甲状腺がんは関係はないという見解を打ち出していますが、一方で、原発事故後、甲状腺がんが多く発生していることは事実であり、これを「過剰診断」によるものとすることに対しては、さまざまな反論が示されています。こうした点は考慮されているのか疑問です。

参照先:マニフェスト全文 | 衆院選2024 (o-ishin.jp) エネルギーは135以降

公明党

「原子力規制委員会が策定した世界で最も厳しい水準の基準を満たした上で、地元の理解を得た原子炉の再稼働を認めます」とする一方、「可能な限り原発依存度を低減しつつ、将来的に原子力発電に依存しない社会をめざします」という路線を維持しているところが、自民党との違いです。原発の新増設については書いていません。その他はほぼ同じように見えます。

再エネに関しては、「最大限の導入」を打ち出し、ペロブスカイト太陽電池や浮体式洋上風力等の技術開発、全国規模での 系統整備、蓄電池の導入加速化等を盛り込んでいます。2030年の電源構成などについては触れられていません。

参照先:manifesto2024.pdf (komei.or.jp)

共産党

岸田政権のもとで進められた原発回帰政策を批判し、「再稼働させず、新増設も輸出も認めない」としています。また、核燃料サイクルはすでに破綻していると指摘し、「原発・核燃料サイクルからただちに撤退する」としています。

原発事故対応としては、汚染水の海洋放出の中止、広く英知を集めた汚染水対策や廃炉、被害実態に見合った賠償指針の見直しと全面賠償などを訴えています。

また、省エネと再エネの組み合わせで、2030年度に CO2排出50~60%削減(2010年度比)という目標を掲げています。エネルギー消費を4割減らし、再生可能エネルギーで電力の50%をまかなう、2030年度に原発と石炭火力の発電量はゼロとするなどとしています。一方、近年、電力需要拡大の理由の一つとして言われているデータセンターについて、再エネ電力利用、立地をできるだけ寒冷地域に、省エネの徹底などが求められているとしています。

参照先:日本共産党の政策│日本共産党中央委員会 (jcp.or.jp)

国民民主党

原発推進姿勢が鮮明です。

原発はエネルギー安全保障に寄与するとして、地元同意を得た原子力発電所は早期に稼働させる、次世代軽水炉や小型モジュール炉(SMR)、高速炉、浮体式原子力発電など次世代革新炉の開発・建設(リプレース・新増設を含む)を進める、などとしています。

また、原子力施設への武力攻撃を想定し、自衛隊によるミサイル迎撃態勢や部隊の配備などを可能とする法整備を行うとしています。

電力自由化については、「全面自由化が国民や経済・社会にとって真に有益な施策となっているかの検証が必要」としています。2030年代には電源構成比で再エネ比率が40%以上としつつも、再エネ賦課金については、必要な見直しを行うとしています。

参照先:政策各論2. 自分の国は自分で守る | 国民民主党 第50回衆議院議員総選挙 特設サイト (new-kokumin.jp)

れいわ新選組

原発については即時廃止し、「廃炉ニューディール」で立地自治体の「公正な移行」を実現するとしています。福島第一原発の汚染水の海洋投棄の中止、被災者に対する医療費の無償化の継続・拡大を掲げています。

2030年に温室効果ガス排出量を70%以上削減、2050年までのできるだけ早い時期に脱炭素達成を目指す、屋根への太陽光パネル設置、地域の自然と暮らしと調和した分散型の再エネの促進、断熱基準の引き上げなど省エネルギ化と光熱費削減をすすめるなどとしています。

また、「官民合わせて10年間で200兆円をグリーン産業に投資し、250万人の地域分散型グリーン雇用を創出する」としています。

参照先:2024 reiwa election manifesto (reiwa-shinsengumi.com)

社民党

岸田政権のもとで進められた原発回帰政策を批判し、脱原発、老朽原発の稼働に反対、汚染水の海洋放出中止、被災者・避難者の十分な生活保障と被ばく管理などを掲げています

2030年の温室効果ガス削減を2013年比60%減、最終エネルギー消費削減を40%減、2030年の電源構成として、原発ゼロ、石炭火力ゼロ、再エネ50%としています(重点政策p.26)。

参照先:https://sdp.or.jp/2024-50-policy/#04

参政党

公約で「脱炭素政策と行き過ぎた再エネ推進を見直す」としています。

「3つの重点政策」「新しい国づくり10の柱」には、既存原発・化石燃料の活用、安全な次世代原発の推進、再エネよりも脱炭素火力の推進、再エネ賦課金の見直しなどが盛り込まれています。

参照先:公約 | 第50回衆議院選挙-50th House of Representatives Election- 日本をなめるな! (sanseito.jp)

公約は重要ですが、その根拠や背景にある考え方も重要ですね。また、言うまでもなく、選挙終了後、公約実現のために何をしたのかも…。みなさんはどの政党を選びますか?

(満田夏花)


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これが「自民党の補完勢力候補/原発推進派」国民民主党の実態です

2024-10-10 23:03:07 | 原発問題/一般

発足間もない石破政権が解散総選挙に踏み切った。今回の選挙は、安倍晋三元首相が世を去ってから初めて行われる国政選挙になる。2012年の安倍政権成立で政権復帰してから、自民党は国政選挙で負け知らず。全戦全勝を続けてきたが、それも安倍元首相が右派「岩盤支持層」を徹底的に固める戦術に徹してきたからである。

しかし、安倍氏が世を去り、右派「岩盤支持層」にとって希望の星だった高市早苗氏が総裁就任に失敗した今、岩盤支持層が離れた自民党が安倍氏の存命中と同じような選挙を戦えるかどうかはわからない。場合によっては、自公で過半数を割り込む展開も考えられる。

そうなったとき、自公の「補完勢力」として連立入りに最も近い位置にいるのが国民民主党だろう。電力総連の支援も全面的に受け、原発推進の姿勢を明確にしており、「原子力ムラ」村民にとっては自公の次に都合のいい勢力であることは間違いない。

その党首・玉木雄一郎代表の家族関係をめぐって、こんな話が飛び出している。公党党首の家族がこんな人物と関係を持っていていいわけがない。

取材は、フリージャーナリスト山岡俊介氏。権力者・支配層が嫌がるスキャンダルを何度も発掘し、そのため危険な目にも何度も遭っている人物だ。ぜひ、以下の動画をご覧いただたい。

複数の詐欺トラブルで刑事告訴された国民民主党・玉木雄一郎代表の実弟・秀樹氏。反社指定者から借り入れしたものの約束の期日に返済するどころか有力指定暴◯団幹部を使い借金踏み倒しを…深層追及する!


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ALPS処理汚染水差止訴訟第3回公判開かれる~改めて知った原発事故の被害の広さ、深さ

2024-10-05 19:27:26 | 原発問題/一般

(この記事は、当ブログ管理人が「レイバーネット日本」に寄稿した内容をそのまま転載したものです。)

 ALPS処理汚染水差止訴訟第3回公判が10月1日、福島地裁(小川理佳裁判長)で行われ、42席の傍聴席を求めて80人が列を作った。

 *写真=福島地裁前に集まった原告・支援者

 この日は原告2人が意見陳述した。この訴訟の事務局も務めるいわき市の丹治杉江さんは「海のない群馬で生まれ育った私にとって、海は憧れだった。25年前にいわきに嫁いでから、海は生活環境そのもので、汚染水の海洋投棄によって世界中からここが汚れた海と言われないか心配。海洋投棄が始まってから、地元の魚であるメヒカリなどを食べない生活を送っている。国際的な線量限度の20倍に当たる20mSvの被ばくをさせられている私たちに、さらに汚染水の海洋投棄という「二重の加害行為」をすることは許されない」と国・東京電力の犯罪性を訴えた。

 また、汚染水海洋放出に当たって、東電が「地元漁業者の理解なしには行わない」と文書で約束した件について、丹治さんは「理解とは同意を得ることだったはず。また、同意を得る対象がなぜ漁民だけなのか。消費者に同意は得ないのか」と、漁業者が同意しないままの放出や、漁民以外の意見を聴かない放出のあり方に疑問を投げかけた。

 「マスコミを動員して、汚染水を放出しても基準を下回っているので安全というキャンペーンが繰り広げられているが、現在行われていることは核ゴミの投棄に変わりなく、こうした姿勢は民主主義を危うくする」として、危険な汚染水放出を安全と言い張る国・東電・メディアを批判。「原発事故で背負った課題を、さらに重くするようなことは避けたい。海洋投棄を許してしまったまま福島の真の復興はない」と、直ちに放出を停止するよう求めた。

 いわき市で、菓子職人としてみずからの作った菓子を販売してきた長岡裕子さんは「小中高と競泳選手で、海水浴を楽しんできた。『常磐もの』と呼ばれる地元産の海産物を食べることも好きだ。事故後しばらくは常磐ものを避けていたが、時間が経過し、再び地元産の海産物を食べるようになってきたところだった。海は私にとってアイデンティティだったが、汚染水放出後は海を見るたびに心が沈むようになった。常磐ものの海産物を食べることも再び避け、千葉、西日本、北海道産などを探すようになった」と怒りを表明。「政府・東電への不信感は強まった」。

 長岡さんは、いわきで取れた塩を原料として菓子を作り、店で販売してきたが、原発事故が起きてから、いわき沖で取れた海水から塩を製造していた業者が廃業し、みずからも菓子製造をやめざるを得なくなった。「地元産の塩を使うことが誇りだったのに、仕事をやめることになり、菓子職人としての誇りを失った。同業者も廃業し、復活の見込みはない」と述べた。福島で汚染水放出の話をすると「風評加害者」とやり玉に挙げられ、不安を口にできないことも息苦しいという。自分の思いを表に出せなかった長岡さんが、率直な思いを吐露した場面だった。改めて、原発事故はこんなところにまで影響を与えるのかと、その被害の広さ、深さに憤りを覚えた。

 その後は原告代理人弁護士による意見陳述に移った。過去の公判で、汚染水の海洋放出を「許可」した国(原子力規制庁)は「国民ひとりひとりの個人的健康は法による保護を受けるべき一般的公益に当たらない」とする詭弁を弄してきた。こうしたすり替え、ごまかしだらけの国側主張に対して、私は「一般市民の健康を守ることが一般的公益に含まれないというなら、国が主張する一般的公益のひとつとしての「環境保護」とはそもそも何なのか。私たちの健康を守ることを抜きにして実現する「環境保護」に環境保護たる意味があるのか。疑問しかない」と批判している(「ALPS処理汚染水差し止め訴訟、第1回口頭弁論~平気で約束を破る東電に漁業者、市民は怒り 国側「反論」は支離滅裂」2024年3月17日付記事)。

 今回の公判で、多くの原告、傍聴人から「難しくてよくわからない」という声が上がったのが、海洋放出の「処分性」をめぐる議論だった。法律用語、行政用語としての「処分」とは、国民の基本的人権に何らかの変動を生じさせるような行政機関(国・自治体など)の判断や行動を指す。企業が経済活動を継続できなくなるような不利益処分(許可取消など)はもちろん、自動車運転免許の交付(法による禁止の解除)のように、国民にとって利益となるような行政機関の判断・行動も処分という用語に含まれる。

 ALPS処理汚染水差止訴訟では、国側は「原告側が発生したと主張している被害は具体性がなく、被害が発生したとはいえないので、放出認可は「処分」に該当せず、原告がその取り消しを求めることはできない」と主張し、原告適格を認めることなく原告側の訴えを却下するよう求めている。要するに「汚染水海洋放出によって、国・東電は国民の基本的人権を何ら侵害していないので、訴えの利益がない」と主張しているのだ。

 こうした国・東電側の不当な主張を崩すには、汚染水海洋放出の認可が「処分」に当たることを証明する必要がある。そのためには汚染水海洋放出で原告の基本的人権が侵害されていることを証明しなければならない。

 原告代理人は原告が汚染水海洋放出によって受けた被害を具体化する立証を行った。①汚染水が放出された海域の海産物を食べることで発生する可能性がある生命・身体の危険、②海との接触を制限されることで原告が受ける「精神的被害」(地元住民)や「福島やその周辺海域の海産物を選択する権利の侵害」(消費者)に加え、③海産物が売れなくなることによる損害(漁業権侵害)--の主に3点を、汚染水海洋放出によって原告が受けた「具体的被害」として立証し、国側主張に反論した。

 このうち②については、昨年11月の第1回公判後、弁護団が原告に対して行ったアンケート調査を参考にした。海水浴や釣り、その他の海のレジャーに行く回数、地元産海産物を食べる回数などが、原発事故後、また汚染水海洋放出後にどのように変化したかを聞くもので、私も回答している。こうした海のレジャーや、海の景観を楽しむことを「平穏生活権」(人格権の一類型)と位置付けた上で、それができなくなったことを基本的人権の侵害と捉え、国の汚染水海洋放出「認可」によってこれらの被害が新たに生じた以上、その認可は「処分」に当たる、という原告代理人の主張はよく理解できる。形に表せるものや、数字で算出できるものしか「具体的被害」と認めないという国側の主張は、現実にこの間、原発事故をめぐって「精神的苦痛」に対する賠償が行われてきたという事実に照らしても不当なものである。

 また①に関しては、「将来の被害発生の恐れだけでは具体的な基本的人権の侵害とは言えない」と国側が主張してくることを見越して、原告代理人はロンドン条約(1996年議定書)を根拠としている。同議定書は、「締約国は、……海洋環境に持ち込まれた廃棄物その他の物とその影響との間の因果関係を証明する決定的な証拠が存在しない場合であっても、当該廃棄物その他の物が害をもたらすおそれがあると信ずるに足りる理由があるときは、適当な防止措置をとるものとする」(第3条1項)として、条約加盟国政府に「予防措置」の義務を課している。また、結論としては原告敗訴だったもんじゅ差し止め訴訟の最高裁判決でも、国民の生命・身体の保護を原子炉等規制法の対象とする判示が行われている、とも主張した。これらの主張をした上で、原告側代理人は、漁業者以外にも「原告適格がある」とした。

 公判後の報告集会では、この裁判のために実施したクラウドファンディングが、目標の1000万円を超える金額を集め成功したことが報告された。次回、第4回公判は2025年1月21日、第5回公判は2025年6月17日に行われる。

 (取材・写真・文責/黒鉄好(ALPS処理汚染水差止訴訟原告))


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レイバーネット第204号放送を終えて~「昔、原発って物があってね」と早く言える時代にしたい

2024-09-15 17:07:01 | 原発問題/一般

(この記事は、当ブログ管理人がレイバーネット日本に投稿した記事をそのまま掲載しています。)

 黒鉄好です。レイバーネット204号の放送を無事終えました。13日までパソコンの前を離れていたので報告を書けませんでした。私が放送を担当した回では、いつも裏話を含め、報告を書いていますので今回も書きます。

(写真=空から見た北陸電力志賀原発/毎日新聞より)

 前回私が担当したのが羽田空港事故とJAL争議を扱った200回記念号でした。それからわずか4回後の放送です。私が担当するのはリニア問題と合わせると3回目ですが、司会者としての番組の「仕切り」は、実は今回が最も楽でした。何より後藤政志さんがテレビ向けのゲストだったことが大きいと思います。

 後藤さんのことは、原子力市民委員会委員として、元東芝の原子力プラント設計技術者として、その功績も、お名前も存じ上げていました。しかし対面できちんとした形でお話ししたのはこの日の放送が初めてです。3.11直後の後藤さんは、あまりに大きな存在で、雲の上の人のように感じていました。

 3.11直後、私は本当のことを伝えないテレビに絶望していました。私の住んでいた福島県南地域で、3.11直後から、なぜか地上波テレビが全局映らなくなっていました。映るのはBS放送だけという状況で、見る意味のないテレビの電源は消したまま。原子力資料情報室のインターネット放送に出ずっぱりの活躍をしていたのが後藤さんだったと記憶しています。福島第1原発の現状を解説する後藤さんの話を聞いているうち、「このままここにとどまっていては危険なのではないか」と考え、一時避難を決意したことが昨日のことのように思い出されます。

 後藤さんは、私を原発事故被害から守ってくれた恩人と言えます。彼がもし福島第1原発の現状を正しく伝えてくれなかったら、奇しくも、同じ日に11回目の公判期日を迎えた子ども甲状腺がん裁判の原告と同じ運命を、私もたどっていたかもしれません。

 ちなみに、一時避難を終えて福島県南地域の自宅に戻ってきたとき、映らなかったはずの地上波テレビは全局、再び映るようになっていました。福島県白河市内の山頂にあった地上波テレビ中継用の放送塔が、震度6強の激しい揺れで倒れたことが地上波テレビの映らなかった原因であることを、そのとき知りました。

 「正月の能登地震で、変圧器から油が大量に流出した映像が映し出されていましたが、壊れた場所は他にもあるのではないですか」と私が問うと、後藤さんは「志賀原発にはもっと重大な問題がある。変圧器なんてのは些末な問題で、(番組本番では)触れる気もない」。後藤さんの「熱弁」は、すでに本番前の出演者打ち合わせの時から始まっていました。

 一方、村田弘さんとは、私はオンライン含めると、年に4~5回くらいはお会いしています。全国各地で続いている原発賠償訴訟の全体像を最もよく知り、利害関係や、原告の置かれた立場もそれぞれ異なる原発訴訟原告団の調整役として欠くことのできない方です。温厚な人柄ですが、国・東京電力への怒りを表明すべき場面で、きちんとそれができることも村田さんが欠かせない理由です。

 番組終了後の懇親会では、酒の勢いも手伝って、後藤さんから「いや実は、こういう番組に呼んでもらったのは久しぶりなんだよね」という意外な発言も出ました。福島で起きた原発事故に伴う問題のうち、解決したものが1つでもあるでしょうか。そういう状況なのに、社会の関心はもう風化してしまっている。

 もちろん、毎日数百人単位で人が死んでいるウクライナやガザのほうに、目が向きがちなのは仕方がないことです。しかし、偶然同じ日に重なった子ども甲状腺がん裁判を見ていると、福島原発事故だって「緩慢な殺人」には違いありません。若者たちの輝ける未来をこんな無残な形で潰しておいて、一体どの口が少子化対策などと言っているのでしょうか。日本列島に50基もの原発を並べ、若者の未来を潰した自民党に少子化対策を語る資格などありません。日本にとって最大の少子化対策は、トンチンカンな政策ばかり打ち出して恥を恥とも思わない自民党に、1秒でも早く政権を降りてもらうことです。

 「もう事故から13年だよね。『昔、原発って物があってね』と言える時代が、今ごろ来てるはずだったんだけどな」と後藤さんは言いました。確かに、3.11直後の数年間、実際に原発は止まりましたし、これで本当に原子力ムラも終わりではないか、と思った時期もありました。泊原発停止で日本から全原発の火が消えた2012年5月5日、こどもの日--経産省前テントひろばでみんなで踊ったときの感動。そして、すべての大人が力を合わせ、日本の子どもたちに送った「原発のない日本」という最高のプレゼントを、私は今も忘れていません。

 しかし、一方で後藤さんは「脱原発は100%できる。少し時間がかかるとは思うけれども」と付け加えることも忘れませんでした。根拠こそ示しませんでしたが、13年間「原発業界界隈」を見続けていれば、言われなくてもわかります。できもしないとわかっているのに「やってる感」を出すだけの廃炉作業。収束の目処も立たない汚染水。たまり続ける一方で、まだ処理方法も見つからない核のごみ。青森県六ヶ所村の使用済み核燃料再処理施設は、20世紀のうちに完成しているはずだったのに27回も延期になっており、「永遠の建設中」になりそうです。原発は資源を海外に依存しなくていい「純国産電源」だという経産省の宣伝も嘘っぱちで、ウラン燃料も実は海外からの輸入。輸入が途絶すれば運転できなくなります。

 昨年、岸田政権は原発大回帰政策の総仕上げとして、GX電源法、原子力基本法改悪を強行しましたが、3.11前に54基もあった原発の半分近くで廃炉が決まり、現在稼働しているのは12基。日本の発電量に占める原発の割合は3.11前は3~4割あったのに、現在は1割にも達していません。

 再稼働が進まない最大の理由は、実はコストにあります。3.11後に厳しくなった規制基準(私たち脱原発派から見れば緩すぎてお話にならないレベルですが、「原発のある場所が安全な場所」という運用が平然と行われていた3.11以前に比べれば、これでも厳しくなったほうなのです)により、かつては1基5000億円で建設できた原発が、現在は1基1兆円といわれています。電力会社にとっては、従来のように運転期間が40年ではまったく「元が取れない」のが現状です。5000億円の建設費の「元」を40年で取っていたのなら、1兆円の元を取るには最低でも80年運転する必要があります。GX電源法強行の際、3.11を教訓にせっかく作った「原発運転期間40年ルール」を政府・電力会社が撤廃してしまったのは、おそらくこれが本当の理由です。

 そして、そんなに長く運転できるわけがないことは、おそらく電力会社もわかっています。原発新増設が必要だ、さっさと建てろと騒いでいるのは電力会社の財務諸表など見たこともない「外野」ばかりです。13年間、原子力ムラが全力を振り絞って、それでも1割にも回復できなかった原発が、今後「主力電源」に躍り出られるとは、到底思えません。どこを見てもプラス材料はなく、原発が「終わらない理由」を探すほうが難しいのです。

 原子力ムラが直面している「当面の最重要課題」は、使用済み核燃料再処理施設が事実上頓挫しているため、各地の原発サイト内で、使用済み核燃料が行き場を失ったまま燃料プールにたまり続けていることです。燃料プールの「使用率」は原発ごとに異なりますが、60~70%台のところが多く、再稼働した原発の中には80%台に乗るところも出てきたようです。特に深刻なのが福井県内の各原発で、このまま推移した場合、早ければ5~6年後には燃料プールが満杯になり、六ヶ所村にも移送できないため、原子炉内の燃料を取り出せなくなり、運転を止めざるを得なくなります。これが事実上、原発の「自然死」になるとのシナリオが現実味を帯びてきています。

 「昔、原発ってものがあってね」と語り合える日はもう少し先になると思いますが、「そういえば原発って今、全然動いてないよね」と語り合える日は、50歳代以下の世代であれば、生きているうちにおそらく訪れます。ドイツのように大々的に「原発やめます!」宣言をするというのではなく、ある日、ふと気がついたら静かに息が止まっていた--という日本的展開になると思います。

 「甲状腺がんをはじめとする健康被害問題は、原発問題を語る上で1丁目1番地です。これを暴露されることを、何より原発推進派は恐れています。広島・長崎の黒い雨裁判も未だに続いています。おととい(9月9日)、長崎の黒い雨裁判で判決がありました。一部原告しか被爆者と認めない不当なものでしたが、一方で嬉しい出来事もあります。土壌中に沈着した放射性物質が原爆によるものか、戦後の大気圏内核実験によるものかはこれまでわからないとされてきました。しかし、土壌を深く掘り、積み重なった地層のうちどれに含まれているかを通じて、放射性物質が沈着した年代を特定する手法が開発されたのです(注:9月9日放送されたNHK「クローズアップ現代」の受け売りです)。

 この手法は、福島原発事故後の土壌調査を通じて開発されたといいます。原発事故は、確かに不幸な出来事でしたが、そこで開発された手法が長崎の被爆者を救うことにつながったのであれば、13年間頑張ってきた甲斐もあるというものです。広島、長崎、福島。すべての被害者が手を取り合い、お互い助け合いながら、最後はみんなで笑いましょう」。

 9月11日、レイバーネットTVの放送に先立って行われた子ども甲状腺がん裁判。東京地裁前で、私はこのようにスピーチしました。今の私の人生目標は「生きているうちに自分の目で日本の原発最後の日を見届けること」です。私は、必ずできると信じています。子どもたちに「原発のない日本」をプレゼントした12年前のこどもの日。みなさん、ぜひ力を合わせて、もう一度子どもたちにこのプレゼントをしませんか?

(報告・文責:黒鉄好)


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子ども甲状腺がん裁判:原発推進派がすがる「国連科学委員会」のウソ暴いた法廷

2024-09-14 16:52:28 | 原発問題/一般

(この記事は、当ブログ管理人がレイバーネット日本に投稿した記事をそのまま掲載しています。)

 311子ども甲状腺がん裁判は9月11日、東京地裁で第11回口頭弁論が行われ、傍聴券を求め若い支援者らを含む207人が並んだ。

*写真=入廷行進する関係者

 弁論では、甲状腺の半分を摘出した原告の1人が証言。「福島原発事故から半径100㌔圏内に住んでいた。自分の住む地域が高線量だと思っておらず、30~40分かけて自転車で通学や買い物に出かけた。原発の方角を向いた窓を換気のため開けていた。目の前の道路を自動車が通るたび、地面から粉じんが巻き上げられていた」と当時の被ばく状況を語る。「甲状腺がんと診断された時点で10・6㍉だったがんは手術時には11・6㍉になっていた。手術後は麻酔が切れると傷口が痛んだ。再発、転移のことを考えないようにして自分の精神状態を保った」。緊張しているものの、堂々と落ち着いた陳述だ。

 「原告7人を見ると、県民健康調査1巡目でがんと診断されたケースもあれば4巡目まで異常なしだったケースもある」。田辺保雄弁護士は、原発事故との「因果関係否定派」が根拠としているいわゆる「過剰診断論」(過剰な検査をした結果、見つける必要のない甲状腺がんまで見つけたとする非科学的「理論」)をデータに基づき否定した。

 只野靖弁護士は「福島県紅葉山に設置されたモニタリングポストのデータを解析すれば、甲状腺がんの原因である放射性ヨウ素131をはじめ、環境中に放出された核種が特定できるにもかかわらず、「国連科学委員会」(UNSCEAR)はその手法を否定。放射線測定目的で設置されているわけではないSPM局(大気中浮遊物測定装置)の濾紙で測定された放射性セシウム137の推定値を使用した」と指摘。原発事故と甲状腺がんの因果関係を否定するためならどんなごまかしでも行う「国連科学委員会」の「非科学委員会」ぶりが明らかにされた。

 原発事故と甲状腺がんとの関係を証明する意見書を東京地裁に提出した黒川眞一・高エネルギー加速器研究機構名誉教授に対し、東京電力が「放射線の専門家ではない」と主張していることについて、只野弁護士は「黒川名誉教授は高度の学識を持っており、専門家である。東京電力側の主張は黒川さんに対する侮辱であり、今後、このような侮辱は金輪際、やめていただきたい」と怒気をはらんだ声で陳述し、被告席をにらみつけた。

 東電は、原発賠償訴訟など他の訴訟でも、被害者のプライバシーを公開法廷で暴いたり、貶める主張を繰り返している。「自分たちの正しさを証明できないので相手を貶める」東電側代理人の、相も変わらずの卑劣な法廷戦術だ。ごみの処理ひとつまともにできない「汚い原子力」と毎日触れている連中は、精神まで卑しくなっていく典型に思える。

◎市民の支援に手応え

 報告集会では「裁判は、進むにつれて傍聴者が減るのが一般的だが、11回目の今回、逆に傍聴希望者が増え、200人を超えた」と報告があった。この裁判に対する市民の強い関心と支持に手応えを感じている様子がうかがえる。

 「1人の被害者も泣き寝入りさせないため、原発事故が起きたら被害との因果関係があるものと推定すべき」との法学者・我妻栄の言葉を引き、電力会社に原発事故の全面かつ無過失責任を負わせた原子力損害賠償法(原賠法)の成立の経緯が井戸謙一弁護士から紹介された。国会審議時における我妻の発言こそ原賠法の「立法者意思」であり、現在の国・東電の姿勢はこの立法者意思を踏みにじっているという意味でも不当きわまりないものだ。

(報告・文責・写真 いずれも黒鉄好)

*「国連科学委員会」の正式名称は「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」。2014年に福島に関する報告書を出している。


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