安全問題研究会代表・黒鉄好が、2024年5月15日放送のレイバーネットTV 「日本の空は大丈夫か?−羽田衝突事故とJAL解雇争議」に出演しました。
レイバーネットTV : 日本の空は大丈夫か?−羽田衝突事故とJAL解雇争議
なお、出演後、番組を振り返る記事「
レイバーネットTV 第200回放送を終えて」をレイバーネット日本に寄稿しました。リンク先に飛べば全文を見ることができますが、以下、当ブログにも転載します。
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黒鉄好@安全問題研究会です。
レイバーネット第200回特集「日本の空は大丈夫か?-羽田衝突事故とJAL解雇争議」の放送を無事終えホッとしています。私にとっては第187回「どうする?どうなる?今世紀最悪の国策事業「リニア」を斬る」(2023.6.28放送)以来、約11か月ぶりの出演でした。司会もそのとき以来ですが、1度や2度の経験で慣れるほど司会業は簡単ではありません。放送後のスタジオは熱気に包まれ、全身に汗をかいていたのも前回と同じでした。
司会に当たって心がけたのは主に以下の3点でした。
1.ゲストに自分より専門の方をお招きしている関係上、自分が出過ぎないようにする
2.いまだ謎の多い日航123便事故の話題が出た場合は事実ベースの解説に留め、憶測による発言は避ける
3.争議終結の道を選んだ2労組(日本航空乗員組合・日本航空キャビンクルーユニオン(CCU))に対する批判は避ける
3については私も最後まで悩みました。「争議が解決していないのに中途半端な和解案に応じた2労組は批判すべき」「労働者同士の分断を招けば喜ぶのは政府・自民党・財界だけ」という2つの考え方が労働運動内部にあることを感じたからです。ただ、ネットの文字媒体と異なりレイバーネットTVには「尺」(放送時間枠)という物理的制約があります。その制約の中で、何に重点を絞って打ち出すべきか。労働組合や労働者の立場、考え方の違いを超え、連帯していける「安全問題」を前面に打ち出すことに関しては、ゲスト・司会・スタッフの考えは一致しており迷いはありませんでした。
視聴者から「司会の方の博学にびっくり」したという身に余るご感想をいただいたことに関しては、この放送をやった甲斐があり疲れも吹き飛びました。ゲストから番組のテーマに沿った有益なコメントを引き出すためには、司会者自身が問題に精通まではしていなくても、要点をつかむ程度には知っていなければなりません。司会者が問題を知らない単なる聞き役、進行役では糸の切れた凧のように話がどこに行ってしまうかわからないからです。私自身は前回のリニア、今回いずれに関しても、安全含む公共交通問題に四半世紀近く取り組んできており、単なる司会者を超えた「3人目のコメンテーター」としても番組を進められるよう準備を進めてきました。とはいえ、本業含め非常に忙しく、放送前に「絶対に観ておくべき」だと言われた
JAL青空チャンネル第21回「羽田衝突事故を考える」(2024.2.1放送)を観ることができたのは、放送出演のため北海道から羽田に向かう飛行機の中というギリギリの状態でした。
機長・山口宏弥さん(彼ら彼女らが職場復帰できる日が必ず来ると信じているので、あえて「元」はつけません)の発言内容は以前「あるくラジオ」第19回放送「
たたかいなくして安全なし~山口宏弥さんに聞く」(2021.12.5)でお話しいただいた内容と重複する部分もありましたが、何度聞いても面白く、飽きることがありません。生きた牛を固定せず貨物室に乗せていたため、牛が暴れてバランスを崩し、墜落に至ったアンカレジ事故の話もそのひとつです。生体動物が輸出国から輸入国へ無事に送り届けられるのが当たり前のようであっても、それが当たり前でない時代があり、山口さんたちの闘いでその「当たり前」が作り上げられてきたことを次の世代に継承していかなければならないと感じました。
ちなみに、私は農業関係の仕事をしています。動物(特に牛)を生きたまま輸入する例は今でもありますが以前ほどではなくなりました。番組中でもお話ししましたが、外国で肥育された牛でも、生きたまま輸入し、国内で屠殺・解体した場合は国産牛として販売できるルールのため、畜産業界では生きたまま牛を輸入するのが主流の時代がありました。もちろん、パッケージに「輸入牛」より「国産牛」と書いた方が高く売れることが背景にありますが、ここ最近は急激に進む円安・ドル高のため米国産牛肉が急激に値上がりし、すでに一部小売店では国産のほうが米国産より安くなる「逆転現象」も起き始めていると聞いています。
JALは昔も今も、ベテランの安全運行への貢献を評価せず、ベテランから順に解雇するという宝地戸百合子さんのお話を聞き、JALは改めて怖い会社だと思いました。極端に言えば「物言う労働者を排除するか抑え込むことで労務対策が成功すれば、乗客が何人死のうが知ったことではない」と考えているかのようです。JALの社長は歴代、労務畑で「功績」をあげた人が就任してきました。今回、初めて労務畑でなくJAL生え抜きでもない(旧JAS~日本エアシステム出身)元客室乗務員の鳥取三津子さんが社長に就任しましたが、役員時代の「客室乗務員削減」の功績を買われての就任という報道も一部にあります。今回の事故を契機に、現場経験をいい意味で活かす方向に舵を切ることで「目先の刷新感を出すための女性起用」という声を跳ね返していただくことを望みます。
JAL123便事故の話題は、避けることはできないだろうと思ったらやはり話題に上りました。これに関しては上の2で書いたとおり、憶測に基づく発言は避けるという方針で臨みました。この事故から来年で40年になりますが、私は今も運輸省航空事故調査委員会(事故調、現在の運輸安全委員会)が公表した「圧力隔壁崩壊説」にはまったく納得していません。事実ベースで言えば、ドーンという大きな破裂音がして圧力隔壁に穴が空いたとされる1985年8月12日午後6時25分35秒以降に死亡した乗客が撮影していたとされる機内の写真が遺族によって公開されていますが、その写真ではほとんどの乗客が下りてきた酸素マスクを着用していないどころか、客室内で立ち歩く人もいたことが示されています。
これに対して、運輸安全委員会は「
日本航空123便の御巣鷹山墜落事故に係る航空事故調査報告書についての解説」を2011年7月に公表しています。日本中が東日本大震災と福島第1原発事故で混乱の極致にあったこの時期に公表すること自体にも疑問を感じますが、それ以上に疑問なのはその内容です。「解説」は『「急減圧があったならばパイロットは酸素マスクを付けるように訓練されているのに付けていないのはなぜか」等の疑問が寄せられています』(解説i「はじめに」)とみずから認めつつ、その疑問に答えることを目的とした公表であるとしていますが、その内容は自己矛盾、支離滅裂そのものです。『酸素マスクの着用についての教育訓練を受けている運航乗務員が酸素マスクを着用しなかった理由を明らかにすることはできなかったとしながらも、同機に生じた程度の減圧では操縦操作を優先したものと考えられる』(解説P.13)と事故調報告を引用してその内容が正しいと強弁するだけです。「酸素マスクを着用するより他に優先すべきことがある」と操縦席が判断していたとすれば、これこそ「生死に直結するような大規模な減圧は起きていなかった」と運輸安全委員会みずから「告白」するに等しいものです。
総じて、この事故に関しては、国土交通省、運輸安全委員会が何か説明しようとすればするほど、ますます矛盾が露わになり、謎がかえって深まるということが繰り返されています。当研究会は改めて運輸安全委員会に聞きます。「ドーンという破裂音がしてからしばらくの間、123便は7000m近い高度で飛行しています。エベレストの山頂より少し低いくらいの高度です。こんな高度で機体に穴が空いているのに、乗務員はもちろん乗客ですら酸素マスクをつけていないなら、大規模な減圧はなかったのではないか?」と。国交省、運輸安全委はいつまでもくだらない言い訳ばかりしていないで質問に答えろ!
すみません、ついヒートアップしてしまいました。123便御巣鷹事故は私が飛行機に興味を持つようになった最初の出来事でした。この記事を読んでいる方でご存じの方がいるなら情報提供を求めたいことがひとつあります。1985年8月の事故直後、ある雑誌にこんな記事が掲載されていた記憶があります。「運輸省からJALに天下っていた社長か副社長(?)が、犠牲者の棺が何百人分も安置されていた群馬県・藤岡市立体育館を事故直後に訪問したとき、最初に発したひとことが犠牲者へのお悔やみでも反省でも再発防止への誓いでもなく『暑いな。ここにクーラーはないのか』だった」ーーというものです。「こんな会社に自分のひとつしかない命は預けられない。大人になってもJALなんて絶対に乗るか!」と当時、中学生だった私に固い決意を抱かせる出来事でした。
残念ながら当時は週刊誌を買う金がなく、立ち読みで済ませてしまったため、どの雑誌の何月号だったか思い出せません。国立国会図書館などで探し続けていますが、掲載誌名もタイトルも不明の状態ではお手上げで、行き詰まっています。この件に触れた当時の雑誌を「手元に持っている」「知っている」等の情報をお持ちの方がいましたら、私まで提供をお願いします。
今回は、レイバーネットTVとして200回の記念放送でした。この回に私の出演が決まったのはスケジュール上の偶然で、狙って出てきたわけではありません。普段は19:30~20:40の放送枠が19:30~21:00に20分(ダイジェスト映像を除けば実質、10分)延長されましたが、これでも羽田事故、御巣鷹事故に関して言いたいことの半分も言えませんでした。その多くをここで述べさせていただきました。
冒頭に流された200回記念ダイジェスト映像は好評で、200時間を優に超える映像の中から10分に編集した堀切さとみさんには改めて謝意を表します。ダイジェストに反映される映像は全体から見ればほんのわずかで、どれを選ぶかは苦悩の連続だったと想像します。
200回の放送で原発関係が33回あったとのことでこれには納得でした。大手メディアが政治や利権や数多の理由でこの問題に再び沈黙する中、レイバーネットが果敢に取り上げることで明らかにできた問題は多くあります。私自身、2011年3月には福島県に住んでいて、あの世紀末としか表現しようのない混乱ぶりをつぶさに見てきました。
私たちが生きている間にこの問題が終わることはありません。原発事故に人生を狂わされた元福島県民のひとりとして、今後も原発問題は徹底的に追及していきます。私の現在の人生目標は「自分の葬式が出る前に、原発の葬式を出すこと」です。ダイジェスト映像にも出てきた益永スミコさんの言葉を借りるなら、私に「死んどるヒマはない」のです。死んだ後はいくらでも休息を取れるので、生きている間は自分に悔いのないように走り続けたいと思います。
(文責:黒鉄好)