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<地方交通に未来を(20)>見えてきた新幹線の「未来」

2025-01-18 21:01:54 | 鉄道・公共交通/交通政策

(この記事は、当ブログ管理人が長野県大鹿村のリニア建設反対住民団体「大鹿の十年先を変える会」会報「越路」に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 この正月も、例年通り九州の実家に帰省してきた。帰省中の1月4日、地元の有名鉄道模型店を久しぶりに訪ねてみた。九州の鉄道模型ファンの間では「この店を知らない人はモグリ」といわれるほどの有名店だ。現在の店主は2代目であり、博多駅前の一等地で、先代の時代からもう半世紀以上営業を続けている。訪れる客は当然、濃いマニアばかりで、店主と客、あるいは客同士で鉄道(実車、模型の両方)の情報を交換し合うサロンのように機能している。働き方改革の流れなのか、最近は正月三が日は休業するようになったため、正月に帰省してもなかなか訪問できずにいた。

 十数年ぶりに訪れた店内は、足の踏み場もないほど並べられていた鉄道模型スペースが減ってずいぶん寂しくなった。2025年の営業初日のせいか客は私1人。「お元気ですか」と話しかけると、30年以上昔の学生時代、頻繁に訪れていたせいか「うっすらですが覚えていますよ」と返ってくる。客商売の人は顧客の顔は忘れないというが、本当らしい。

 しばらく鉄道談義をした後「九州の鉄道で私が唯一、心配なのは、西九州新幹線の今後です」とさりげなく切り出す。西九州新幹線は、武雄温泉(佐賀)~長崎間のみ先行開業したものの、鳥栖(佐賀)~武雄温泉間の開業の見通しは立たない。この区間は着工決定(2012年)の段階では、フリーゲージトレイン(軌間可変式電車;新幹線の標準軌(1435mm軌間)と在来線の狭軌(1067mm軌間)の切換区間を走行しながら車輪の幅を変える)を使用することによって在来線をそのまま走行する計画になっていたからである。博多から鳥栖までは九州新幹線(標準軌)、鳥栖から軌間を変えて在来線(狭軌)を武雄温泉まで走った後、再び軌間を変えて武雄温泉から長崎までは西九州新幹線を走る・・・はずだった。

 だが、フリーゲージトレインの技術開発に失敗し計画が頓挫。「鳥栖~長崎の全区間を標準軌新幹線にさせてほしい」と政府・自民党が佐賀県に申し入れたものの「同意する、しない以前にそんな話は聞いてもいない」と佐賀県知事が態度を硬化させ、ルートすら決められないでいる。もしこのままの状態が続けば、始発駅発車後わずか30分で全員が降りて乗換という現状が半永久的に続くことになる。1ミリも開業する見込みがないリニアのほうが、引き返せるだけマシではないかと思える。21世紀日本の出来事とは思えない。これほどの惨劇は探してもそうそう見つかるものではない。

 「西九州新幹線にデビューしたN700S系車両は、結局、博多駅のレールを一度も踏めないまま老朽廃車になるんじゃないか。九州ではみんなそう噂していますよ」。店主からは何事もなかったかのようにそんな答えが返ってくる。鉄道車両の寿命は、国鉄型車両だと40~50年くらいが多いが、路面電車など速度が遅い車両の中には80年、場合によっては100年走るものもある。しかし、新幹線車両は高速走行し、強い空気抵抗や振動が加わるため、20年くらいでほとんどが寿命を迎える。「僕が生きている間は、博多駅にN700Sは来ないんじゃないですかね」。少なくとも地元・九州では、博多~長崎の全通にもっと期待感があるのではないかと考えていただけに、意外な気がした。

 模型店を辞した後は博多南線に乗る。この路線は1990年、博多~博多南駅間8.5kmが開業したが、もともとは山陽新幹線岡山~博多間開業(1975年)に合わせて稼働を始めた博多総合車両所への回送線だった。車両所の敷地の大半が属する福岡県筑紫郡那珂川町(当時。現在の那珂川市)には鉄道がなく、那珂川町民は渋滞する西鉄バスで、福岡市中心部まで1時間かけて通勤通学をしなければならなかった。目の前を走っている新幹線回送車両は博多駅までたったの10分。「あの列車に乗れればいいのに」という町民の願いは国鉄時代からあったが、かなわなかった。

 国鉄分割民営化後「あの新幹線に乗せてほしい」と那珂川町民はJR九州に陳情したが「新幹線は当社の管轄ではない。陳情するならJR西日本に」と言われた。陳情を受けたJR西日本は、新幹線として事業免許申請をしようとしたが、最高時速120kmでしか走行しない博多~博多南間が「その主たる区間を列車が二百キロメートル毎時以上の高速度で走行できる幹線鉄道」(全国新幹線鉄道整備法第2条)の要件を満たさないため、在来線としての免許申請に切り替えるよう運輸省から助言を受ける。ところが今度は、九州内の在来線の営業権はJR九州が持つと定めた国鉄改革法第6条に抵触するため、JR西日本は列車運行ができても営業権は持てないことになった。やむを得ず、JR西日本がJR九州に博多南駅の営業を委託する形でスタートする。那珂川町民の「痛勤痛学」が解消され、博多南線は九州内でも有数の路線に成長した(その後、2010年からは駅もJR西日本の直営に変更されている)。

 新幹線車両所までの回送線を旅客営業線に転用した同様の路線としては、JR東日本・上越新幹線越後湯沢~ガーラ湯沢間がある(こちらも新幹線ではなく在来線として事業免許が与えられ、形式上は在来線である上越線の枝線扱い)。ただ、こちらは越後湯沢~ガーラ湯沢間が新幹線・在来線ともにJR東日本のため、開業に当たって博多南線ほどの紆余曲折はなかった。しかも、越後湯沢~ガーラ湯沢間はガーラ湯沢スキー場が営業する冬季のみの運行のため「新幹線が法律上、在来線として運行される区間」で、通年で乗れるのは博多南線だけ。その意味ではやはり珍しい路線であることに違いはない。新幹線車両を利用するため全列車が特急扱いだが、乗車券200円、特急券130円のわずか330円で新幹線車両に乗れる。子どもたちを「新幹線デビュー」させるための体験乗車向けの隠れた人気路線だという話もある。

 博多南線の地元への定着は結構なことだが、西九州新幹線をJRというより国は今後どうするつもりなのか。「鳥栖~武雄温泉間では在来線をそのまま使うというから同意したのに、今ごろになって新幹線にしてくれなどというのはだまし討ちだ。打診されてもいないものに同意などできるはずがなく、新幹線はタダでも要らない」という佐賀県の怒りが収まる気配はない。たとえ1メートルでも線路が途切れてしまえば、ネットワークとして全体が価値を失ってしまうという鉄道の特性をJR上層部も国交省も誰ひとり理解していないからこんなことになるのだ。乗客が少ないから災害復旧費がもったいないという理由だけで、北海道のど真ん中を走る根室「本線」の一部区間だけ断ち切って平気でいられる国やJRの頭のレベルなどしょせんはその程度ということだろう。

 私は最初、本稿のタイトルを「見えてきた新幹線の『墓場』」にするつもりでいた。2025年の新年早々そんなタイトルでは縁起が悪いため「未来」に変えたが、九州でも北陸でも大鹿村でも、見えているのはまさに新幹線という名の「屍の山」である。

(2025年1月5日)


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倶知安町・文字一志町長への辞任勧告

2024-11-29 22:34:15 | 鉄道・公共交通/交通政策
倶知安町長の最近の態度には腹が立ち、もはや我慢も限界だ。以下の文章は知人に書き送ったものである。以下の2つの理由により、私は倶知安町長に「辞職勧告」する。
 
理由1:函館本線(小樽~余市~長万部)のバス転換が不可能とわかっているのに、倶知安町長だけ頑なに「廃線バス転換」を変えないこと
 
北海道新幹線札幌延伸は、建設主体の鉄道・運輸機構ですら「2030年開業は不可能」と白旗を揚げている。2035年に開業できるかどうかも厳しく「2040年くらいになるんじゃないの?」と冗談のつもりで言っていたのが本当になりそうな状況だ。私の生きているうちに札幌開業を見られるかどうかすら怪しくなっている(ついでに言えば、リニア中央新幹線も、北陸新幹線の敦賀から先=関西までの延伸も総崩れ状態で、下手をすると、新幹線の路線図が現在(2024年)から私の生きているうちはまったく変わらないままの可能性すら出てきた)。
 
バス転換協議会にバス会社を呼ぶという基本的なことすらしないまま勝手に転換を決めた道庁に、北海道中央バスなど転換バスを押しつけられる予定のバス会社が猛反発し「既存の路線を維持するだけでも精一杯。どんどん運転手が辞めているのに函館本線の転換バスなど出せない」という状況だ。こうした状況を知って、沿線自治体はバス転換協議を中断。余市町の斉藤啓輔町長に至っては「このままならバス転換協議からは離脱する」とまで言っている。
 
こうした状況なのに、1人で函館本線の廃線バス転換の旗を下ろさないのが倶知安町の文字町長である。「新幹線倶知安駅を建設するのに既存の在来線駅が邪魔だから」という身勝手きわまりない理由だ。
 
しかも、倶知安町ホームページ「町長室」に、文字氏はこのように書いている。『我が町に「比羅夫」という字名、JRの駅名がありますが、実は阿倍比羅夫の蝦夷遠征伝説に由来するものです。』
 
町内にあるJRの駅名をさんざん観光アピールに使っておきながら、代替交通機関の協議もできない状態なのに廃線を主張する。ご都合主義にもほどがある。
 
理由2:道が2026年度から導入予定の「宿泊税」にも倶知安町だけが反対している
 
道新の最近の報道によると、道は2026年度から「宿泊税」を導入するため、道議会に関連条例を提出するという。ホテルの宿泊料金に課税し、それを予算の穴埋めに使う。宿泊税については賛否両論あると思うが、私は、道民と違って住民税を落としてくれるわけでもなく、北海道に数日間来て「いいとこ取り」だけして帰って行く観光客にも応分の負担を求めることは、道民合意の上であれば、観光地の自治体として1つのアイデアだと考える。
 
倶知安町は、道に先行してすでに宿泊税を導入しているが、定率制(ホテル代×○%という方式)だ。これに対し、道の宿泊税は定額制(一律○円方式)を予定しており、二重課税になる上、定率制と定額制が混在するのは観光施設が混乱するというのが反対理由である。
 
自分たちが道より先に宿泊税を導入した倶知安町としては「時代を読む目があった」との自負もあろう。道が似たような税制を導入するなら、それに一本化するのも1つの手法だと思う。倶知安町は「二重課税になる上、定率制と定額制が混在するのは観光施設が混乱する」を表向きの反対理由にしているが、「先に制度を作った私たちがなぜ後発の道庁ごときに手柄も税収も横取りされなければならないのか」が隠れた本音であることは容易に想像できる。
 
道新の報道によれば、道内ホテル宿泊者の25%(4人に1人)が「宿泊税を道内交通の整備に使ってほしい」と回答している。ホテルや観光施設がピカピカに整備されても「そこに行くまでの足がない」道内の貧弱な交通事情が「よそ者」ゆえに道民よりもよく見えているのだと思う。道外からの観光客がそのように思っているのであれば、それこそJR北海道が白旗を揚げかけている鉄道の維持強化に宿泊税を使えばいい。
 
●「全体の奉仕者」公務員のあるべき姿とは
 
古い話になるが、私は2008年、新潟県十日町市を訪れたことがある。JR東日本は、十日町市内の信濃川に自前のダムを持っており、首都圏の電車を動かすための電力の一部を水力発電で賄っている。そこで2008年頃から、信濃川がほとんど涸れてしまうという出来事が起きた。
 
原因はJR東日本による超過取水だった。国交省から許可されているよりはるかに多くの水を信濃川から取ったため、涸れるはずのない「日本一の大河」が涸れてしまったのだ。しかもJR東日本は、国交省から許可された範囲の量しか取水していないように装うため、水量計が許可された数値を超えないように「改ざん」まで行っていた。このことが発覚し、JR東日本は国交省北陸地方整備局から「取水禁止」の処分を受ける。
 
東京で、「不当解雇の国鉄労働者1047名」の支援をしていた労働組合・市民の間で「JR東日本許すまじ」の声が高まり、JR東日本が不正取水をした現場を見に行こうとツアーが組まれた。十日町市を訪れたのはこれがきっかけだ。訪問当日、十日町市役所幹部との懇談がセッティングされた。
 
東京から「どんな過激な活動家が押しかけてくるのか」と身構えているのではないかと思っていた私たちの心配は杞憂に終わった。応対してくれた十日町市役所総務課課長補佐・G氏の言葉を、私は今も忘れない。
 
「JRがそんなファッショ的な体質だとは思っていませんでした。そのような事実があるなら、正していかなければなりません。私は、十日町市役所で働く公務員ですが、自分の市とその市民だけが幸せになればいいとは思っていません。市内にダムがあることを誇りに思っており、首都圏のみなさんの交通機関のために電力を供給していくこと、それを通じて我が市だけでなく、東京のみなさんに幸せになっていただくことも、十日町市役所職員として当然の責務だと思っています」
 
私は、「国民全体の奉仕者」のひとつの理想をG氏の姿勢の中に見た。公務員かくあるべしと思った。「自分の町さえ良ければそれでいい」「自分に投票してくれる支持者の声さえ聴いていればいい」という首長・役人ばかりのこのご時世にあって、「自分に投票しなかった住民を含め全体を代表し、全体の利益のために行動する」--これこそが国民全体の奉仕者、"Public Servant"でなければならない。
 
●翻って、倶知安町長は……?
 
この高潔なG氏の姿勢と比べて、倶知安町長はどうだろうか。「新幹線の駅を作るのに在来線の駅が邪魔だから函館本線など廃線でいい。他の町やその住民がどうなろうが知ったことではない」「先に宿泊税制度を作ったのは我々なのに、なぜ後発の道庁ごときに手柄も税収も横取りされなければならないのか」--倶知安町長の姿勢からは全体の奉仕者としての姿勢がかけらも感じられない。自分さえ良ければいい、他の町のことなど知ったことではないという態度むき出しで、およそ「公僕」にはふさわしくない。
 
以上の理由から、私は倶知安町長、文字一志氏に対し辞任を求める。

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<地方交通に未来を(19)>有意義だったJR北海道「運賃改定公聴会」

2024-11-16 23:20:25 | 鉄道・公共交通/交通政策

(この記事は、当ブログ管理人が長野県大鹿村のリニア建設反対住民団体「大鹿の十年先を変える会」会報「越路」に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 9月3日、札幌で開かれた「北海道旅客鉄道株式会社からの鉄道の旅客運賃の上限変更認可申請事案に関する公聴会」(運輸審議会主催)に出席して意見公述した。

 運輸審議会は、国土交通大臣の諮問機関として、公共交通をめぐる重要政策について答申を行う権限を持っており、運賃改定などの重要事項は必ず運輸審議会の審議に付さなければならない。厳密に言うと、現在の制度では運賃改定のたびに認可を受ける必要はなく、値上げの「上限額」についてあらかじめ認可を受けておけば、上限の範囲で運賃を改定するときは国交省への届出のみ。改定したい運賃がこの上限を超えるときに限り、新しい運賃の「上限」を決め、認可を受け直す制度になっている。上限運賃制またはプライス・キャップ制と呼ばれるもので、鉄道には1999年から導入されている。

 意見公述したい人はみずから応募し、その中から運輸審議会が公述人を選定する。とはいえ、ふるいにかけられるのは応募者が10人を超えた場合に限られ、それ以下の場合、応募者全員が公述人になれる。今回は私を含め4人が応募。運賃改定に賛成が1人、反対が私を含む3人という構成だった。公述人1人当たりの持ち時間は15分だ。制限時間を超えないようにしてほしいという要請はあるが、広く世間一般の意見を聴くための公聴会という建前上、公述内容について運輸審議会としては一切、制限をしないことになっている。 私は、2019年に運賃改定をしたばかりのJR北海道が、コロナ禍という特殊事情があったとはいえ、わずか5年で再び運賃改定をせざるを得ない事態に疑問と怒りを抱いていたので、早速応募した。

 当日は、(1)通学定期の1割近い値上げは、最も弱い立場の子どもたちに過大な負担を強いる、(2)島田修社長(当時)が5年前の運賃値上げの際の公聴会で「通学定期の割引率(5割)を維持するので運賃改定の認可をお願いしたい」と発言し、これを条件に認可されたにもかかわらず、今回、通学定期の割引率圧縮に踏み切ることは5年前の約束を覆すことになる――として反対を表明した。

 前々号(40号)掲載の本コラム「国鉄末期に似てきたJR~断末魔が聞こえる」でも触れたように、JR北海道はこの間、路線や駅の廃止ばかり進め、道内特急列車の全席指定席化の一方で、みどりの窓口も削減し、使い勝手の悪い「えきねっとトクだ値」サービスへ強引に誘導するなど、急坂を転がり落ちるようにサービスを低下させてきた。

 とりわけ全席指定席化によって、まずまずの乗車率だった特急「すずらん」(札幌~室蘭)はガラガラの「空気輸送」状態に追い込まれた。明らかな失敗であるにもかかわらず、JR北海道はその現実を直視せず、綿貫泰之社長が記者会見で「安くご利用というニーズが強いのであれば、特急でなくてもいい」と不用意に発言した結果、道内メディアを中心に、すずらんの「快速格下げも」と報道されるなど、騒ぎがさらに広がった。

 こうした一連の事態に対し『すべてが行き当たりばったりのその場しのぎです。JR北海道が鉄道会社として、自分たちの鉄道事業をどうしたいのかという将来展望もビジョンもまったく見えず、これでは会社の将来を悲観して多くの社員が辞めていくのももっともだと思います。綿貫社長就任からわずか2年なのに、これだけ短期間に失態が続いているのは、島田会長-綿貫社長体制が経営能力を欠いていることの最も象徴的な現れです。私は、サービス低下と負担を一方的に押しつけられる全道民・利用者を代表して、島田会長と綿貫社長に対し、今すぐこの場で出処進退を明らかにするよう望みます』と公述した。

 運輸審議会主催の公聴会で運賃改定が審議される際には、それを申請した鉄道事業者のトップが申請内容を説明するため出席することになっている。つまり、綿貫社長本人が出席している目の前での「退場宣告」ということになる。この過激なパフォーマンスは、JR北海道問題にマスコミの目を引きつけるために仕組んだ「作戦」だった。

 インパクトは大きかった。ただ、反応は大手マスコミではなく別の所から現れた。運輸審議会ホームページで、公述人決定とともに公述書の内容が公表された直後の8月21日、「JR北海道の島田会長・綿貫社長の辞任要求へ!国交省主催の公聴会で異例の展開へ」という動画がYoutubeで何の前触れもなく公開された。JR北海道問題に特化した内容で最近注目度がアップし、アクセスも稼いでいる「鉄道大好きチャンネル」だった。

 安全問題研究会のホームページ上で意見公述内容を公表するのは公聴会終了後にしようと考えていた私にとって完全な不意打ちだった。事ここに至った以上、事前公表やむなしと判断。公聴会で意見公述することを、安全問題研究会ブログで事前公表した。

 「鉄道大好きチャンネル」の動画に対して書き込まれたコメントを見る限り、公述内容は高い評価を得た。道民生活に大きな影響を与える定期運賃値上げなど、まず身近な話題から入り、共感を得た上で、国鉄分割民営化など「大文字の問題」へ昇っていく――国の政策批判に当たって、これが最も有効な手法であることは、すでに私自身が何度も行ってきた講演などを通じて証明されている。

 大手マスコミで「会長・社長に辞任要求が出された」ことを伝えたところは、地元紙・北海道新聞を含め皆無だった。それでも私たちの主張は大きく報道された。4人の公述人のうち唯一、賛成を表明した人も「えきねっとの改善」「特急すずらんへのテコ入れ」「北海道新幹線札幌延伸に伴って予定されている函館本線(小樽~長万部、通称「山線」)廃止の再検討」を求めるなど、内容は反対の3人とほとんど変わらないほど厳しいものだった。「サービスを低下させておいて値上げは容認できない」と考えるか、「これ以上のサービス低下は到底容認できないので、運賃改定による増収分をサービス改善に充てることを条件に賛成」と考えるかの違いに過ぎず、その差は紙一重だったといえよう。

 運輸審議会は10月4日、JR北海道が申請した運賃上限改定を「申請通り実施すべき」と答申した。公聴会など茶番に過ぎず意味がないという「雑音」も私の耳には聞こえているが、そのような国民の無気力な姿勢こそが自民「長期一党独裁」を招いたのだ。

 有権者がきちんと怒れば政治は変えられることが、図らずも今回の衆院選で証明された。野党が多数となった衆議院で何をすべきか。私は、JR6社分割体制を抜本的に改める法案を2種類用意し、これから政党・議員対策に全力をあげたいと考えている。ただし、本当の意味での勝負は、おそらく来年7月の参院選以降になると思う。

(2024年11月15日)

JR北海道の島田会長・綿貫社長の辞任要求へ!国交省主催の公聴会で異例の展開へ・・・一連のJR北海道の経営姿勢に疑問の声が続々!


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<地方交通に未来を(18)>鶏が先か卵が先か、その答えは能登にある

2024-09-18 21:32:59 | 鉄道・公共交通/交通政策

(この記事は、当ブログ管理人が長野県大鹿村のリニア建設反対住民団体「大鹿の十年先を変える会」会報「越路」に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 鉄道が廃止されると人口が減り、町が寂れるのか。それとも、人口が減って町が寂れ、鉄道利用者も減ったから廃止になるのであって、両者は無関係なのか。ローカル線廃止絶対反対派と、廃止支持派の間でもう半世紀以上も続き、おそらく永久に決着のつくことがない論争である。決着がつかないのは「どちらも正しい」からである。「廃線推進派を相手に、そんな“鶏が先か卵が先か”のような消耗戦をいつまでしていても時間の無駄だ。人口が減って鉄道が廃止されるとさらに人口が減り、ダウンサイズされたバスなどの公共交通がまた廃止になるスパイラルなのだから、私なら『(負の)連関』のひとことで済ませる」。「次世代へつなぐ地域の鉄道」執筆に私とともに加わった桜井徹・日本大学名誉教授は明快だ。私も各地の講演などでこの質問が出たときは「鉄道廃止は、人口減少や町の衰退の原因であるとともに結果でもある」と答えてそれ以上の議論はしない。貴重な講演時間がその論争で終わってしまっては疲れるだけで無意味だからだ。

 元日の能登半島地震から8か月経った。震源地が北陸電力志賀原発の近くにあり、またかつて珠洲原発の計画を阻止した歴史もあるため、原発関連で話題が出ることはあっても、鉄道と絡める形で能登地震の話題が出たことはこの8か月、まったくといっていいほどない。今回はその面からの話をしておきたい。

 能登地震の最も大きな被害を受けた能登半島先端部には、2005年3月まで「のと鉄道」が走っていた。旧国鉄の特定地方交通線・能登線を引き継いだ第三セクター鉄道だ。時刻表の路線図を広げると、今ものと鉄道は残っているが、これはJR西日本から譲渡された旧七尾線区間であり、もともとの区間とは違っている。旧能登線は穴水から蛸島(珠洲市蛸島町)までを走っており、もともと交通不便なこの場所で住民や観光客が効率よく動ける地元の貴重な足だった。

 能登地震から3か月が経過した3月下旬、能登半島先端部では水道が未復旧の地域がいまだに1割もあるとの情報を入手した。全水道(地方自治体の水道事業職員で構成する労働組合)関係者の話であり、情報源としては信頼できる。全国の水道事業の実態を最もよく把握しているのは自治体水道労働者であり、被災水道の復旧も彼らが地元業者と連携して進めているからである。

 水道だけではない。横倒しになった建物も再建どころか撤去もされていない場所が多く残る。過去の大地震被災地である東北や熊本などと比べて、明らかに復旧が遅い。国は復旧が遅れている理由を「半島の先端のため人も車も入れない」などと説明しているが、それならなぜ20年前、のと鉄道を廃止したのか。貴重な地元の移動手段を残していれば、旅客列車を休止させ復旧物資用貨物列車を走らせるなどの非常手段があり得たと思う。

 「大災害が来ればどうせ鉄道も不通になるのだから意味がない」と、廃止支持派は言うだろう。確かに被災した「瞬間」だけを見ればそうかもしれない。だが、廃止以降の20年という長い時間軸にしてみると、見えてくる風景はまったく異なる。 内閣府が6月26日に公表した「令和6年能登半島地震における災害の特徴」によれば、旧のと鉄道の終点駅・蛸島駅のあった珠洲市の高齢化率(全人口に占める65歳以上の比率)は約52%、輪島市が約46%。珠洲市は全人口の半数以上が65歳以上という恐るべき比率だが、それでも2016年熊本地震の主要被災地である益城町が約54%、南阿蘇村でも約43%だったのと比べると同程度で、能登が突出して高いわけではない。

 むしろ私が注目したのは能登被災地の人口減少率の高さである。被災6市町(七尾市、輪島市、珠洲市、志賀町、穴水町、能登町)における人口減少率は、1985年を1として2020年は0.6であり、35年間でなんと4割も減っている。石川県全体では人口は横ばいであり、全国では同じ期間、過去の蓄積もあり1985年の人口をまだ上回っている。

 人口が4割減った被災6市町のうち、志賀町以外は旧のと鉄道の走っていた地域と重なる。ただ、人口減少のペースを見れば1985年から、のと鉄道廃止(2005年)を挟んで2015年までの30年間、一本調子で減っており、鉄道廃止との強い関連性は認められない(同時に、志賀原発建設が始まった1988年以降も減少ペースが鈍っていないことから、原発が来れば地域が栄えるという原発推進派の宣伝もウソであることは指摘しておきたい)。

 「35年間で4割も人口が減るような地域は、あと40~50年も待てば誰もいなくなる。そんなところに巨額の復旧復興予算を投じるのは無駄だ」と国が考えていることは、財政制度等審議会(財務省の諮問機関)が今年4月に公表した提言にも現れている。能登復興に当たっては「維持管理コストを念頭に置き、集約的なまちづくりを」――提言は包み隠さず、財務省の本音をこう述べているのだ。

 国交省が2016年に発行したパンフレット「もしも赤字の地域公共交通が廃止になったら?」には「地域鉄道廃止と地域活力との関係」を示す表が掲載されている。鉄道が廃止された地域の人口が2000年を1として、10年後には0.95と5%減っているのに対し、存続している地域では1と横ばいを維持している。鉄道廃止が地価に与える影響を示す別のグラフでは、2000年を1として、鉄道が廃止された地域の15年後は0.5と半額に下落しているのに対し、鉄道が存続した地域では0.6。下落には違いないが、鉄道が残れば「負け幅」を1割も縮小できることを、この資料は示している。ただ、5%にしても1割にしてもあまりに小さすぎる。この程度なら「誤差の範囲内」であり、地域衰退と鉄道廃止は「無関係」だと信じたい廃線支持派にも一定の根拠を与える結果になっている。

 だが、能登被災地からは、数字では表すことのできないこの国の本当の姿が見える。35年間で4割も人口を減らした町では、かつて「どうせ誰も乗っていないのだから、そんな鉄道などなくなっても誰も困りませんよね?」と主張する行政と鉄道会社に同意し、鉄道を手放した。大災害が襲った20年後、地元住民たちは、単語だけを入れ替え、国に再び問われるのだ。「どうせ誰も住んでいないのだから、そんな地域などなくなっても誰も困りませんよね?」と。災害復旧さえ行われないまま廃止に追い込まれたローカル線と同じことが、地域社会全体に拡大して行われている。地域社会全体の「廃止協議」である。

 ローカル線廃止を支持してきた人たちに私は問いたい。「どうせ誰も住んでいないのだから、そんな地域などなくなっても誰も困りませんよね?」と「廃止協議」が始まる次の場所がもしあなたの町だったとき、それでもあなたは同意するのか。いつまで経っても復旧しない能登被災地を見ていると、そう問われているとしか思えないのだ。 

(2024年9月10日)


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【管理人よりお知らせ】当ブログ管理人に取材した動画が公開されました

2024-09-06 22:41:37 | 鉄道・公共交通/交通政策

9月3日、運輸審議会が札幌市内で開催した公聴会で、無事、意見公述を終えました。

この公聴会で、運輸審議会委員とJR北海道との間で行われた質疑応答の模様を、「鉄道大好きチャンネル」さんが再び動画にしています。私が取材に応じたものです。

以下からご覧いただけます。

え?函館本線山線のバス転換延期?JR北海道の綿貫社長がポロリ•••公聴会でさらっと重大発言!


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【管理人よりお知らせ】9/3開催「JR北海道運賃値上げ反対市民公聴会」にご参加ください

2024-09-01 19:49:06 | 鉄道・公共交通/交通政策
管理人よりお知らせです。

すでにお知らせしているとおり、JR北海道が2025年4月実施を目指して申請している運賃値上げを審議するに当たって、広く各界各層の意見を聴くための公聴会(運輸審議会主催)が9月3日、札幌市内で行われます。

これに併せて、運賃値上げやローカル線廃止反対運動を行ってきた札幌の市民団体「北の鉄路存続を求める会」主催の「運賃値上げ反対市民公聴会」が、同じく9月3日の夕方、札幌市内で行われます。開催内容は以下の通りですので、お誘い合わせの上、ぜひお越しください。安全問題研究会代表も公述人の1人として参加予定です。

●日時 2024年9月3日(火)18時~(終了予定20時)
●会場  北海道高等学校教職員センター・4階大会議室(札幌市中央区大通西12丁目)
●入場無料/詳細は「北の鉄路存続を求める会」(011-252-7480)

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【管理人よりお知らせ】9月3日、運輸審議会主催のJR北海道の運賃値上げに関する公聴会で、安全問題研究会代表が公述します

2024-08-21 22:55:50 | 鉄道・公共交通/交通政策
この件は、本来であれば事前発表せず、終了後に報告のみ行う予定にしていましたが、北海道内をメインに活動している鉄道系Youtubeチャンネルによって事前報道されてしまったことから、この際、安全問題研究会としてやむを得ず発表に踏み切ります。

JR北海道が2025年4月からの実施を目標として、現在、鉄道事業法に基づく運賃上限の変更認可申請を国土交通省に対して行っています。この運賃上限変更認可申請を審議する運輸審議会(国土交通大臣の諮問機関)が主催して、一般市民の意見を聴くための公聴会が、9月3日、札幌市内で開催されます。

北海道旅客鉄道株式会社からの鉄道の旅客運賃の上限変更認可申請事案に関する公聴会の開催概要について(国土交通省)

この公聴会で、安全問題研究会代表を含む4人の公述人が意見公述を行います。

4人の公述人の公述書は国土交通省ホームページにおいて既に公表されています(北海道旅客鉄道株式会社からの鉄道の旅客運賃の上限変更認可申請事案に関する公聴会の公述書について)。お読みいただくことでご理解いただけると思いますが、今回の意見公述において、安全問題研究会は、島田修JR北海道会長及び綿貫泰之JR北海道社長に対し、公式に辞任を求めます。

この間の経緯や、公聴会の概要、当研究会代表を含む4人の公述人の意見公述内容については、以下のYoutubeチャンネル「【北海道】乗り物大好きチャンネル」が報じています。

JR北海道の島田会長・綿貫社長の辞任要求へ!国交省主催の公聴会で異例の展開へ・・・一連のJR北海道の経営姿勢に疑問の声が続々!


運輸審議会主催の公聴会には、申請内容を説明するため、申請した鉄道事業者の代表が出席するのが通例となっています。前回、2019年の運賃値上げに先だって行われた公聴会では、JR北海道から島田修社長(当時)が出席しました。今回も綿貫社長が出席するものと考えられます。ただし、島田会長は出席しない可能性もあります。

当研究会が、今回の公聴会の場で、JR北海道会長・社長の「経営ツートップ」に対し、本人(特に綿貫社長)が出席している面前で辞任要求を突きつけたいと考えるようになったのは、根室本線・富良野~新得の廃線が強行された今年3月のことでした。北海道民共有の交通ネットワークである鉄道網を破壊し続けるJR北海道の経営陣には潔く職を辞していただき、同社が新体制で解体的出直しを行う以外に、北海道の鉄道が復活する道はありません。

なお、以下、当研究会代表の公述書全文を掲載します。当日の意見公述も、この通りの形で実施する予定です。

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 北海道旅客鉄道株式会社(JR北海道)が申請した鉄道旅客運賃・料金の上限変更認可申請に対し、意見を公述します。

 私は前回、2019年のJR北海道の運賃値上げの際にも公述し、反対いたしました。それから5年が経過し、電気代・燃料費の値上がりや人件費の増加など、JR北海道側にとって斟酌すべき新たな状況変化も生じています。しかし、一部容認という選択肢がなく賛成・反対から選ばざるを得ない以上、5年前と同様、反対の立場を表明せざるを得ません。

 今回の私の公述内容は主に3点あります。1つ目は、定期運賃割引率の縮小についてです。2つ目は、JR北海道のこの間の経営姿勢についてです。3つ目は、繰り返しになりますが、5年前のこの公聴会でも指摘したJRグループをめぐる諸問題についてです。以下、順に述べます。

1.定期運賃割引率の縮小について

 私が最も強く反対せざるを得ないのは、定期運賃の割引率の縮小です。

 旧運輸省鉄道総局時代の1948年に制定された国有鉄道運賃法第5条は「定期旅客運賃は、・・・普通運賃の百分の五十に相当する額をこえることができない」と定めていました。この法律は国鉄分割民営化によるJR発足とともに失効していますが、それでもJR北海道を含むJR各社は、定期運賃を普通運賃の半額以下に抑えてきました。

 私鉄各社における定期運賃の割引率は、普通運賃に対して3割程度の会社が多い中、JR各社が高い定期運賃割引率を維持してきたことは、国民の鉄道といわれた旧国鉄が持つ公共性をも引き継いだものであり、特にJR北海道が経営難に陥りながらも、この高い割引率を維持してきたことを私は高く評価しています。この割引率は今後も維持されるべきであると考えます。

 特に、通学定期運賃の1割近い大幅引き上げは、ただでさえ学校の統廃合が進み、子どもたちの通学時間が延びる中で、地域にとって大きな痛手となります。通勤定期の値上げも痛手ではありますが、多くの企業が通勤手当を支給しています。定期運賃が値上げされても、大人が受ける影響が限定的であるのに対し、子どもたちが値上げの影響を、緩和措置もないまま直接かつ全面的に受けるような手法は、社会的に弱い層により大きな負担を強いるという意味でも認めることはできません。

 5年前の公聴会における島田修社長(当時)の発言内容を私は今もはっきり覚えています。「通勤通学のお客様への定期運賃の割引率は、従来通り維持しますので、どうか、運賃引き上げをお認めくださいますようお願い申し上げます」と、島田社長は公述しました。

 冒頭にも述べたように、電気代・燃料費の値上がりや人件費の増加など、JR北海道側にとって斟酌すべき新たな状況変化はあるとしても、定期運賃の割引率を引き下げる今回の申請内容は、5年前、島田社長がこの公聴会の場で約束したことを覆すものであり、この点からも認めることはできません。

2.JR北海道のこの間の経営姿勢について

 1986年11月28日、国鉄改革関連8法案が参議院国鉄改革に関する特別委員会で可決された際の附帯決議では、国とJRグループ各社に対し「経営の安定と活性化に努めることにより、収支の改善を図り、地域鉄道網を健全に保全し、利用者サービスの向上、運賃及び料金の適正な水準維持に努めるとともに、輸送の安全確保のため万全を期すること」が求められています。最近のJR北海道は「経営の安定と活性化」「収支改善」「地域鉄道網の健全な保全」「利用者サービスの向上、運賃及び料金の適正な水準維持」のうち1つでも達成できたものがあるでしょうか。惨憺たる状況と言わなければなりません。

 駅の廃止はJR北海道の春の恒例行事になっていますが、鉄道会社は客商売であり、多くのお客様にご利用いただくためには出入口の数は多いに超したことはありません。魅力的な商品が棚に陳列されていても、お客様が店内に入れないのでは売上げを上げることはできません。新型コロナ発生以降、日本の鉄道は新幹線を除いて低落傾向にありますが、そうなったのは「出入口」である駅を粗末に扱ったからです。みどりの窓口の営業時間縮小や列車の減便も相変わらず続いています。

 「地域鉄道網の保全」に関してはさらに事態は悲惨です。1981年の石勝線開通まで、札幌と釧路・根室を結ぶ大動脈であり、北海道の中央部に位置する根室本線・富良野~新得を、災害から復旧させないまま断ち切ったのは、日本鉄道史に残る愚行と言わざるを得ません。また、新幹線札幌延伸後、並行在来線となる函館本線小樽~長万部間(通称「山線」)のうち小樽~余市間は輸送密度が2千人を超えています。廃止後の転換バスの運行を、人手不足を理由にバス会社が拒否しているにもかかわらず、JR北海道が廃止の既定方針を変えないのは、地元住民の生活の足を守るべき公共交通事業者として失格です。

 今年春のダイヤ改正から、「カムイ」「ライラック」を除く全列車から自由席車がなくなり、全車指定席化されました。自由席割引切符(Sきっぷ)も廃止された結果、割引がなくなり運賃・料金が2倍近くに跳ね上がったケースもあります。JR北海道は、事前予約すれば割引になる「えきねっとトクだ値」サービスの利用を盛んに呼びかけていますが、出張では行きの時間は予測できても帰りの時間は予測できないことが多く、またお葬式など急に利用が必要になることもあります。JR北海道はお客様のニーズをまったく把握できていないと言わざるを得ません。

 駅の窓口だけでなく駅そのものも、列車も、自由席も、割引制度も、ローカル線もすべて減らす。このような不便をお客様に強いた上で、なぜ値上げでさらなる負担をお客様に求めなければならないのでしょうか。

 綿貫泰之社長は、特急「すずらん」がガラガラ状態であることに対し、記者から質問が出ると、全車指定席化からまだ半年であるにもかかわらず「安くご利用というニーズが強いのであれば、特急でなくてもいい」と発言し、快速格下げを示唆しています。すべてが行き当たりばったりのその場しのぎです。JR北海道が鉄道会社として、自分たちの鉄道事業をどうしたいのかという将来展望もビジョンもまったく見えず、これでは会社の将来を悲観して多くの社員が辞めていくのももっともだと思います。綿貫社長就任(2022年6月17日)からわずか2年なのに、これだけ短期間に失態が続いているのは、島田会長-綿貫社長体制が経営能力を欠いていることの最も象徴的な現れです。私は、サービス低下と負担を一方的に押しつけられる全道民・利用者を代表して、島田会長と綿貫社長に対し、今すぐこの場で出処進退を明らかにするよう望みます。

3.5年前のこの公聴会でも指摘したJRグループをめぐる諸問題について

 5年前の公聴会において、私は、JR旅客会社6社間に大きな経営格差が存在し、JR北海道の値上げのたびにその格差が拡大していること、北海道で生産された農産物の多くが鉄道貨物を通じて全国に運ばれ、その恩恵は全国にあまねく及んでいるにも関わらず、冬の除雪費用をはじめとする線路維持のための費用を、北海道民のみが日本一高い運賃料金収入を通じて負担していること、国土交通省の指針で定められている「アボイダブル(回避可能)コストルール」により、JR旅客会社6社がJR貨物に対し、貨物列車が走ることにより新たに発生する最低限度の費用以外を請求できないこと、このため、特に新型コロナ発生前に100億円の利益を上げていたJR貨物を、483億円の赤字を計上しているJR北海道が支えなければならないことなどを指摘しました。JR北海道の経営を苦境に追い込んでいる、このような矛盾だらけの前提条件を改めるよう、私は5年前のこの公聴会でも求めましたが、抜本的改善は行われていません。これが、今回の運賃値上げに私が反対せざるを得ない3つ目の理由です。

 これらはいずれも国鉄分割民営化当時に行われた制度設計によるものであり、JR北海道には何らの責任もありません。JR北海道ではどうすることもできない不利な外的要因により、北海道民だけが負担を押しつけられる不公平が、この先、いつまで放置され続けるのでしょうか。

 大型バスやトラックの運転手が不足し、人も物も運べなくなるといわれる「2024年問題」が注目を集めているのに、全物流に占める鉄道の比率はわずか5%にすぎません。鉄道をもっと物流に活かす道はないのでしょうか。世界中からインバウンドが日本に殺到する中で、観光客と鉄道との共生をはかる手段がもっとあるのではないでしょうか。新しい時代に即した鉄道の役割を議論しないまま、安易に値上げ、減便、廃止でいいのでしょうか。

 旧国鉄は、1949年6月に発足し、1987年3月まで38年間の歴史でした。JRも1987年4月に発足し、今年で37年です。JRグループ発足から、すでに旧国鉄時代と同じ時間が流れました。日本にとっての鉄道はどのような姿であるべきか、鉄道は誰のために、何を目的として走るべきか、再び基本に立ち返って全国民的に議論すべき時を迎えていると考えます。

 安全問題研究会は、2021年1月、全国JRグループ6社を、旧国鉄時代のように全国1社制に戻すための「日本鉄道公団法案」を発表しています。さらに、大塚良治・江戸川大学教授は、JRグループ6社を、日本郵政グループやNTTグループのように持株会社の下に再編することを通じて、利益を上げている会社が赤字の会社を支える新たな制度設計について提案しています。

 運輸審議会が、運賃値上げを論議する諮問機関の役割にとどまることなく、鉄道をはじめとする交通政策、総合交通体系についても議論することによって、新しい時代の公共交通のグランドデザインを描く役割をも担う場として機能していくよう、委員各位にお願いを申し上げ、私の公述を終わります。

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<地方交通に未来を(17)>国鉄末期に似てきたJR~断末魔が聞こえる

2024-07-06 22:58:07 | 鉄道・公共交通/交通政策
(この記事は、当ブログ管理人が長野県大鹿村のリニア建設反対住民団体「大鹿の十年先を変える会」会報「越路」に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 コロナ禍以降、JR各社の「迷走」が深まっている。それが最も加速しているのはかつて「ガリバー」ともてはやされた東日本だ。特に、朝夕のラッシュ時間帯に京葉線の通勤快速・快速すべてを各駅停車に格下げする今年3月のダイヤ改悪は千葉県内を中心に猛烈な反発を呼んだ。蘇我~東京間の場合、改悪前のダイヤなら快速で42分で到達していたのが、55分かかるようになる。たかが13分、されど13分。朝の13分は貴重な時間だし、通勤通学客にとっては1週間に5日も使うのだ。1年間で見ると「累積損失時間」は計り知れない。沿線自治体が相次いでダイヤ「改正」を見直すよう申し入れる事態に発展。結局、東日本は快速の一部を存続させる妥協策に踏み切らざるを得なかった。

 これ以上に深刻だったのは「みどりの窓口」削減だ。東日本の深沢祐二社長(当時。現・会長)は2021年5月の記者会見で、2025年までにみどりの窓口を7割減らすと表明していた(念のため強調しておくが、7割「に」減らすのではない。7割減らす、つまり3割しか残らないということだ)。コロナ禍後に乗客のほとんどが「戻る」と予想してローカル線も窓口も減らさない方針を表明した東海と対照的に、乗客は完全には戻らないとの予測を基に、東日本は急ピッチで窓口削減を行った。

 ところが、東日本の予想に反して通勤通学客、インバウンドとも急激に戻ってきたことで歯車が狂い始めた。東京都産業労働局調査によれば、2024年3月時点でも都内での在宅勤務(テレワーク)実施率は36%もある。東日本はこうしたことを根拠に窓口削減に踏み切ったのかもしれない。だが、そもそも従業員数10万人の大企業で、1人の社員が1年間で1日の在宅勤務をするだけでも「実施している」と回答できるような調査が、鉄道会社が通勤通学客の実態を把握する上でまったく意味を持たないことは言うまでもない。

 鉄道の利用実態は、窓口での乗車券類発売装置「マルス」や自動改札機のSuica読み取りデータを集計すればわかるはずだ。前述した都産業労働局調査でも、在宅勤務実施者の4分の1は「テレハーフ」(半日在宅、半日出社)や時間単位テレワークであることも示されている。通勤通学客は東日本が思っている以上に回復しているが、それでも東日本が窓口削減をやめないのは、マルスやSuicaのデータすらまともに確認していないか、一度決めたことを変更すれば責任を問われるから、データを見てわかっていても変えられない(俗に言う「謝ったら死ぬ病」)かのいずれかだが、私は後者の可能性が高いと思っている。

 みどりの窓口の混乱がピークに達したのは3月下旬~4月上旬だった。そうでなくとも年末年始・お盆に次ぐ再繁忙期である。新年度開始で通勤・通学を始める人が増えるが、券売機でも買える継続定期券と異なり、新規は窓口でないと買えないことが多い。また、国鉄時代からのルールで指定券類は「乗車日の前月の同じ日」(例えば、5月3日乗車分の指定券類は4月3日)から発売されるため、5月大型連休の指定券類も発売開始となるからだ。回復したインバウンドまで加わり、都内では窓口で2~3時間待ちも常態化。長蛇の列の中から怒号が飛び交うなど不穏な空気が流れた駅もある。明らかに利用客の不満は頂点に達していた。

 結局、大型連休明けの5月8日、東日本は窓口削減の「一時凍結」表明に追い込まれた。JRの経営を支えているのは日本語のわからないインバウンドと機械操作に不慣れな高齢者だ。窓口需要は今後増えることはあっても減ることはなく、むしろ拡充すべきだろう。

 北海道でも、3月「改正」で札幌~旭川間の「カムイ」「ライラック」を除くすべての特急で自由席が廃止、全車指定席化となった。同時に、割引率の高かった「自由席往復割引きっぷ」も廃止となった。JR北海道は、インターネットでの事前予約で指定席が割引になる「えきねっと」を盛んに宣伝しているが、会社の出張等では行きの時刻は予測できても帰りの時刻は予測できないことが多い。それに、お葬式など急に利用せざるを得ないことだってある。急用の時でも、駅に行けば割引切符でふらりと乗れる鉄道のメリットも、高速バスなど競合交通機関との間の競争力も投げ捨ててしまった。今、道内の特急は混んでいる列車とガラガラの列車の差が拡大。全体的に見てもJR離れが加速している。

 利用客のニーズをきちんと把握せず、利用客本位の営業施策を打てないJRを批判する声がこの間、目立っている。だが私は事態はもっと本質的なところにあると思っている。そもそもJRの営業規則類は旧国鉄が制定したものを継承しており、全国ネットワークとしての鉄道網をいかに乗りやすくするかに主眼が置かれている。窓口を訪れる乗客のニーズに合わせて、駅係員が頭の中に乗車経路をイメージしながら、最適な乗車券類を提案・販売できるようにするためのもので、駅係員が理解していれば乗客は知らなくてもすむことが前提になっている。

 私は、鉄道専門の書店で数年に一度、関係者向けに販売されているJRの営業規則の冊子を購入することがあるが、その厚さは5cmを超えており、最初は「広辞苑」かと思ったほどだ。それだけ複雑で、駅係員でさえ全貌を理解しているか怪しい切符のルールの根本部分に手を着けないまま「乗りたければ自分でルールと経路を理解し、自分で券売機を操作せよ」というのだ。いわば乗客に「マルス」の操作をさせるに等しく、大混乱が起きない方がおかしい。

 「この際、運賃・料金を一本化して、飛行機のような『全部込み』で単純明快な料金体系にすればいい」などと主張する「自称鉄道専門家」も一部に見られるが、私はそのような運賃料金制度には反対だ。陸上交通機関である鉄道は面的な全国ネットワークを持っており、飛行機のような点と点とを直線で結ぶ交通機関とは違う。旧国鉄が残してくれた、全国ネットワークに適した運賃料金制度を今後も維持すべきだ。新幹線と在来線、幹線とローカル線を乗り継ぎながらどこにでも便利に行ける利点を活かした営業施策こそが求められる。新幹線や特急の停車する駅間だけを運賃・料金セットで割り引き、ローカル線に乗り継げば逆に高くなるような「えきねっとトクだ値」サービスは間違っている。私は、ローカル線衰退の一因は「えきねっとトクだ値」サービスにもあると思っている。

 JRという名を冠すれば「いくらでも叩いていい」という風潮が、このところメディアの間に出てきている。特に、ローカル線廃止やみどりの窓口削減問題に関しては、これまで国鉄分割民営化に好意的だった読売・産経・新潮などのメディアが厳しい批判に転じていることも潮目の変化を物語っており、JR各社にとって誤算だったに違いない。

 右からも左からも「袋叩き」状態のJRはこの点でも次第に国鉄末期に似てきたように思う。今、私の耳にはJRの「断末魔」がはっきりと聞こえている。

(2024年6月28日)

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【管理人よりお知らせ】「ノーモア尼崎事故!生命と安全を守る4.27集会」における管理人の講演資料を安全問題研究会ホームページに掲載しました

2024-04-29 21:03:12 | 鉄道・公共交通/交通政策
管理人よりお知らせです。

JR福知山線脱線事故の再発防止のため、毎年4月、兵庫県尼崎市で行われている「ノーモア尼崎事故!生命と安全を守る4.27集会」が今年も行われました。今年は、安全問題研究会代表が「住民本位の公共交通のために~国鉄分割民営化を問い直す~」として記念講演を行いました。

記念講演に使用したスライド資料を安全問題研究会サイトで公開したので、リンク先に飛んでください。印刷用版はこちらです。

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「2027年開業」正式断念したリニア、断ち切られる北海道の鉄路 大鹿村と新得町で現地を見る

2024-04-25 23:30:05 | 鉄道・公共交通/交通政策
(この記事は、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2024年5月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 ●JR東海、リニア2027年開業を正式に断念

 3月29日、JR東海はリニア中央新幹線の2027年開業が不可能であることをようやく公式に認めた。本誌2023年8月号でも取り上げたが、神奈川県駅予定地となる横浜線・橋本駅にはそれらしきものは影も形もなく、「3年後に開業」など絵空事に過ぎないことはかなり前からはっきりしていた。

 一方、4月1日に行われた県庁入庁式で「県庁職員は牛を飼っている人たちとは違う」などの失言をした川勝平太・静岡県知事が辞職することになった。せっかくリニアの躓きが世間に明らかになるという時期に手痛いオウンゴールとなったが、知事「辞職表明」後の4月4日になり、JR東海が急に山梨工区や長野工区における工事の遅れを公表したところを見ると、むしろ慌てているのは当のJR東海自身なのではないか。最大の「邪魔者」が消えたことで、リニア推進派は年内にも全線開業するかのようなはしゃぎぶりだが、むしろ、工事が進まない原因が静岡だけにあるわけではないことが、広く一般にも理解されるなら悪い話ではない。

 ●長野県大鹿村を中心にリニア建設現場を見る

 そんな中、4月12日から14日にかけ、大鹿村を含む長野県を訪問した。昨年6月にも「レイバーネット日本」で大鹿村フィールドワークが計画されたが、梅雨入り宣言も出ないうちから襲来した季節外れの台風で中止となったため、大鹿村入りは今回が初めてだ。北海道からどう行けばいいのか最初はまったくわからず、道路地図と時刻表の路線図を何度も見比べながら、最終的には中部空港でレンタカーを借り、中央自動車道を走るルートを考えついた。12日の夜は飯田市内に泊まり、久しぶりの温泉で身体を休めた。

 13日午前中、大鹿村民・北川誠康さんの案内で飯田市内の長野県駅予定地や、橋脚だけが建った工事現場、子どもたちの書いた絵が飾ってある現場などを見ながら大鹿村に入った。中央構造線博物館は、施設自体が中央構造線の真上に建つというユニークなものだ。顧問で元学芸員・河本和朗さんの地震や地質に関する説明は幅広く、大地震が起きるたびにテレビに出演し無内容なコメントを繰り返す「地震学者」より博識であることは明らかだった。

 この原稿を書いている4月17日夜にも四国を中心に震度6弱を観測する地震があった。正月の能登地震を初めとして、今年は震度5強以上の地震だけですでに10回も発生しており、東日本大震災のあった2011年に匹敵するハイペースだと報道されている。河本さんのお話は、今後の地震防災に役立つに違いない。


<写真>橋脚だけが建った工事現場=長野県豊丘村で


 午後からはリニア建設現場を見学した。西に向かうリニアが南アルプストンネルを抜け、一瞬だけ地上に顔を出す釜沢地区まで、普通自動車では通行困難な細い山道を軽自動車3台に分乗して回った。地下トンネル区間での事故・トラブルの際に地上に出るための非常口も2カ所見た。JR東海のホームページによると、非常口は約5kmおきに設置されるというが、事故やトラブルがJRの都合良く非常口のある場所で起きるとは限らない。

 実際、過去に開かれた説明会で、地下区間での事故発生時の対応をどうするのか質問を受けたJR東海は「お客様同士で助け合ってください」と無責任きわまりない回答をしている。非常口はせいぜいアリバイ作りか、最大限善意に解釈しても壮大なファンタジーとしか言いようのないものだ。

 大鹿村の人口はホームページによると918人(今年3月1日現在)とある。高レベル放射性廃棄物(いわゆる「核のごみ」)最終処分場問題に揺れる北海道神恵内村(人口750人)とほぼ同じだ。このような小さな自治体が、リニアや核ごみといった国策に抗うことはほとんど不可能に近い。大都市部と大企業の利益のため「踏み台」になるだけで、自分たちの村にはメリットさえないものを、わずかな交付金や公共事業と引き替えに受け入れる以外にない地方の小さな村の悲哀。自分たちは使うこともできない「東京電力」の電気のために福島が踏み台にされた「3.11原発事故」を福島県西郷村で経験した私にとって、この問題が生涯をかけたテーマになるとの確信は年々強まっている。


<写真>南アルプストンネルを抜けたリニア新幹線が一瞬だけ地上に顔を出す釜沢地区。残土置き場になっている


 現地見学会を終えた午後3時30分からは、村内で「どこに行く?日本の公共交通~リニア・新幹線とローカル線から」と題し、30分の報告時間をいただいた。私を含め11人が参加。リニア車両にはトイレの設置が困難なのではないかとの指摘が「超電導リニアの不都合な真実」(川辺謙一・著、草思社、2020年)で行われていることを紹介したら大きな反応があった。通常車両でトイレが置かれる車端部は磁力線の影響が最も大きく、また新幹線の2倍近い速度下での大きな気圧変化に汚物タンクが耐えられるか疑わしいため、川辺氏はリニア車内へのトイレ設置を困難視しており、リニア事業そのものにも中止を勧告している。なお、報告資料は安全問題研究会ホームページに掲載している。

 日本一美しい村と言われる大鹿村で、国と資本関係を持たない純然たる民間企業のJR東海が、着々と自然を改変し破壊している。遠く離れた地域の人にとっては、静岡以外でも大幅に工事が遅れ「リニアなんてどうせ開業しないのだからどうでもいい」でいいのかもしれない。だがそれではすまされない厳しい現実が地元にあることを知った。

 同時に、数多の困難を何とか克服してリニアが仮に開業できたとしても、こんな美しい村をトンネルで通過するだけで車窓に見ることもできない乗客が哀れに思えた。今、北海道ではJRが廃線方針を示している函館本線・小樽~長万部間の沿線地域(ニセコ、余市など)が観光地化し、シーズンの冬には3両編成が投入されるほど乗客が押し寄せている。真っ黒なトンネル外壁ばかりで外も見えないリニアを外国人観光客はどう思うだろうか。


<写真>リニア「非常口」。ファンタジーにしか思えない


 ●北海道では「最重要幹線」が一部廃線で切断

 北海道では、3月31日限りで根室本線・富良野~新得間(81.7km)が廃止になった。石勝線開通(1981年)までは札幌と道東をむすぶ大動脈として特急や貨物列車が頻繁に往来した。2016年の台風災害では石勝線が約1か月間も不通になり、貨物輸送路が絶たれた結果、都内でもジャガイモ不足が起きるなどの影響が出た。だが旅客単独会社のJR北海道はそのような貨物輸送上の重要性を考慮することもないまま、迂回路となり得る重要幹線の一部区間を切断するという暴挙を既定方針通り行った。本線を名乗る路線の途中区間が廃止され、分断された例は、1997年の北陸新幹線東京~長野間の開業に伴って横川~軽井沢間が廃止された信越本線に次ぐ。

 最終日となる3月31日、午後1時から新得駅前でJR北海道主催のお別れセレモニーが開催された。地元住民の足であるのみならず、貨物輸送や非常時の迂回路など複数の重要な役割を持つ幹線を、旅客輸送面での輸送密度の低さだけを理由に廃止するJR北海道に抗議するため、時折小雪の舞う中「根室本線の災害復旧と存続を求める会」(以下「求める会」)の平良則代表らが新得駅前に立ち、「復活を祈念」との横断幕を掲げ復活運動に向けた意気込みを示した。メディア取材に対し、平代表は「私たちの声が政治の場に届かず残念」だとして市民の声を聞こうとしない政治の機能不全を批判した。


<写真>新得駅前で根室本線廃止区間の復活を訴える「求める会」メンバーと平良則代表(7人中、左から2人目)


 JR北海道は、新得駅前に陣取り、セレモニー参加者の視野に嫌でも入ってくる位置に掲げられた横断幕がよほど目障りだったのか、セレモニー開始直後、横断幕を下ろすよう求めてきた。他にも「ありがとう根室本線」の横断幕を掲げる鉄道ファンのグループがいたのに、そちらにはお咎めなし。自分たちの方針に反対するグループだけを狙い打ちにする相変わらずの反民主的、強権的企業体質だ。だが、そのJR北海道から目障りだと思われる運動を6年間も続ける住民団体が存在したことは特筆すべきことだ。

 セレモニー終了後、多くのJR北海道や地元自治体関係者が「求める会」メンバーを無視して通り過ぎる中、セレモニーに参加していた長身の男性が平代表らメンバーに一礼した。地元・新得町の浜田正利町長だ。行政トップの立場上、JR北海道主催のセレモニーに出席せざるを得ないが、一方で「求める会」の集会にもほぼ毎回参加し、住民の意見をくみ上げるよう努めてきた。無念の思いを共有していることは間違いない。

 これに先立つ3月15日には、「求める会」の集会が新得町公民館で開かれた。根室本線の廃止問題が持ち上がって以来、私もこの公民館には10回近く通い、すっかり通い慣れた道になっていた。この日の集会にも浜田町長が参加、冒頭ご挨拶をいただいている。「求める会」は今後「根室本線の復活を考える会」に名称変更し再出発することを確認した。

 集会では、廃線後の線路撤去を許せば復活は難しくなるとして、線路撤去に反対することでは参加者の意見が一致したが、線路を残すための具体的方法に関しては、観光目的の保存鉄道とするよう求める意見と、営業路線として復活を目指す意見に分かれた。

 私が調べたところ、保存鉄道として列車が走っている場所は、日本国内で100カ所以上あり、すでに「過当競争」状態になりつつある。保存鉄道が走ることで満足してしまい、そこから先の段階に進まないことが多い。北海道では冬に運行できないという問題もある。

 この他、観光目的に特化し、正式な鉄道として国交省の認可を受けて運行する「特定目的鉄道」制度がある。とはいえ、制度ができてかなりの年数が経つのに、全国でいまだ「門司港レトロ鉄道」(福岡県)1例しかない。国交省の認可を受ける以上、通常の鉄道と同じ水準の保線を要求されることが普及のネックになっている。

 また、営業路線としての復活も、2003年に一部区間が廃止されたJR西日本・可部線(可部~三段峡間、46.2km)のうち可部~安芸亀山間(1.6km)が2017年に復活した事例があるくらいで、いずれも多いとはいえない。

 だが、「日経MJ」紙(旧「日経流通新聞」)2024年1月22日付記事によると、メキシコ政府は古代マヤ文明遺跡を訪れる観光客に対応するため、1554kmもの鉄道路線を整備するという。1554kmといえば、日本なら宇都宮から東京、大阪を経由して鹿児島までの距離にほぼ匹敵する。整備予算は4兆円で、この他、観光振興に5兆円の国家予算を投じる。トータルでは9兆円であり、途方もない額のように思われるが、日本政府はこれと同じ金額を、開業後の採算性はおろか、工事の先行きも見通せないリニアに投じようとしている。リニアを中止し、その資金を振り向けるなら日本でも同じことができるという事実を指摘しておくことは重要だろう。要はやる気の問題であり、それを実行する政治に転換できるかどうか、私たち自身が問われているのである。

 いずれにせよ、わずか半月足らずのうちに、公共交通をめぐる問題の象徴である北海道新得町と長野県大鹿村、両方の現地を見られたことは私にとって大きな収穫となった。物流2024年問題と相まって、これから数年で日本の公共交通は大きくその姿を変貌させることになるだろう。安全問題研究会にとって専門分野であるこの問題を、向こう数年は集中的に追っていきたいと思う。物流2024年問題については紙幅も尽きたので、号を改めて論じることとしたい。

(2024年4月20日)

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