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第4回「全国未成線・廃線サミット」参加(2日目)~エクスカーションでトロッコ列車に乗り、紅葉真っ盛りの高千穂峡を巡る

2023-11-26 23:17:39 | 鉄道・公共交通/趣味の話題
高千穂町内のホテルで朝食。8時過ぎにチェックアウトするが、帰りのバスに乗るまで使うことのないキャリーバックをホテルで預かってもらう(宿泊客のこのような要望には、ほとんどのホテルは応じてくれる)。サミット2日目の「エクスカーション」参加者は、高千穂町武道館に朝9時に集合だ。交通機関がないことは前日に調査済みで、距離は約1kmと歩けない距離ではないため、歩いて向かう。

武道館に8:45頃到着すると、さすが地方は朝に強い。ほとんどの人が集まってきている。町のマイクロバスで旧高千穂駅に向かう。エクスカーションの最初は「高千穂あまてらす鉄道」のトロッコに乗車する。通常料金は1,800円だが、サミット参加者はエクスカーション参加費に含まれている。

駅に着くと、昨日のサミットで高千穂鉄道の復活を大まじめに語っていた齊藤拓由・同社副社長が待っている。実は齊藤さんは、廃止前の高千穂鉄道で運転士を務めていた。鉄橋に向かったトロッコが戻ってくるまでの間、動態保存のレールバスを駅構内で往復させるので、乗せてくれるという。早速乗り込む。

<動画>2023.11.26 旧高千穂鉄道保存レールバス 高千穂駅構内試運転



レールバスが往復して高千穂駅に戻った後、待つことしばし。トロッコが戻ってくるので、乗り込む。高千穂鉄橋は川の水面からの高さが105mもあり、東アジアで最も高い鉄道鉄橋だ。廃線でこのまま朽ちてしまうにはあまりにもったいない。トロッコ運転はもっと評価されるべきだろう。

2023.11.26 高千穂あまてらす鉄道トロッコ列車 高千穂駅から鉄橋まで



齊藤さんの説明に私は思わずのけぞった。高千穂あまてらす鉄道は法律上の鉄道ではない「遊具」扱いなので、鉄道のようなレールや枕木、駅舎、車両等の補修に対する補助は一切ない。傷んだ木製の枕木もすべて自社負担で交換しているが、なんと、交換後はコンクリート枕木にしているという。

確かに、コンクリート枕木は木製と比べ、傷みにくいため交換頻度を少なくできるメリットはある。しかしそれは長期間にわたって運転し続けなければならない通常鉄道の場合には考慮すべきことではあっても、いつまで続くかもわからない保存鉄道、それもトロッコ運転のためには過剰な投資ではないのか。現役の鉄道でも木製枕木のところがたくさんあるのに、トロッコしか走らない保存鉄道でコンクリート枕木なんて、鉄道の常識から考えれば「あり得ない」レベルの話である。齊藤さんの狙い通りに高千穂鉄道として復活後は貨物列車でも走らせるつもりなのか。

高千穂あまてらす鉄道乗車後は、「トンネルの駅 高千穂観光物産館」に行く。昨日の記事でも触れたとおり、旧高森線と高千穂線を連結する工事は凍結前に進められたが、異常湧水で中断、そのまま建設計画自体がなくなった。とはいえ、トンネルを何かに活用できないかと地元が思案した結果、気温は年間通じて7~17℃、湿度は70%でほぼ一定という「低温多湿」な特性を生かして、地元の酒造メーカー「神楽酒造」が焼酎の醸造をここで行っているという。

どんな方法で焼酎造りが行われているかは、以下の動画を参考にしてほしい。

2023.11.26 高千穂観光物産館 未成線トンネルを利用した焼酎熟成についての説明(by「神楽酒造」)



物産館の後はいよいよ高千穂峡だ。町のバスで移動する。観光客でごった返していた。

<写真>高千穂峡と言えばボート。絵はがきになりそうな写真が撮れた


<写真>標高が高い高千穂峡では、例年なら紅葉はすでに終わっているが、今年は記録的暑さだったためかなり遅れていて、今まさに見頃という


高千穂峡を30分ほど歩いてバスに戻る。今朝の出発地である高千穂町武道館で正午前、解散。1泊2日のサミットは全日程を終了した。

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帰りも宮崎~福岡で運行する高速バス「ごかせ号」を利用するが、高千穂バスターミナル発車は16:37で、なんと4時間以上もある。町内を歩いていると、「cafe terrace TAKACHIHOYA」なるギャラリー付きのカフェを発見。少し待って入る。地元産小麦にこだわったパンケーキを昼食とする。しばらく休んだり、ギャラリーの展示を見たりした後、午後3時半過ぎ、ホテルに預けていたキャリーバッグを回収。16:37発のごかせ号で20時過ぎ、博多駅バスターミナル着。一昨日と同じ場所に投宿し、帰途につく。

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第4回「全国未成線・廃線サミット」参加(1日目)~タレント六角精児さんのトークを聞く

2023-11-25 22:33:34 | 鉄道・公共交通/趣味の話題
第4回全国未成線・廃線サミットin高千穂 鉄道遺産からの挑戦」に参加するため、宮崎県高千穂町に来ている。高千穂町を走っていた高千穂鉄道は2005年の水害からの復旧を断念し廃止となったが、そのせいでただでさえ遠かった高千穂町はさらに遠くなった。北海道から宮崎空港への直行便などあろうはずがなく、羽田や成田からの乗り継ぎ便でも高い航空賃を払った上に前泊しなければならない。それなら、陸上を安く移動できる九州内の方がましなので、千歳~福岡便に乗ることにし、昨日から福岡市内の旅館に泊まることにした。

せっかくなので、今年3月に延伸した福岡市営地下鉄七隈線博多~天神南の区間に乗車することにする。天神南から終点・橋本までの区間は、開業初年、2005年の年末に乗車している(参考記事:当ブログ2006年1月21日付記事「福岡市営地下鉄七隈線、苦戦す。」)。天神南~橋本の開業から実に18年かかったわけだ。

〔完乗達成〕福岡市営地下鉄七隈線(奪還)

延伸区間を全区間乗車したため、七隈線を「奪還」した。博多~天神南は2023年3月に延長開業しており、1年以内の乗車だが、当ブログの全線乗車ルールでは「独立した名称を持つ線路の全区間に、その開業から1年以内に乗車した場合」のみを新規開業線の完乗として扱うことにしている。今回のように延長開業区間に1年以内に乗車して「奪還」をしても、新規開業線の完全乗車には含めないことになる。

2023年の完乗達成路線は、8社14線(参考記録を含めると9社15線)。7月に上方修正した今年の目標、15線にあと1線と迫った。参考記録を含めると15線に到達したが、これを目標達成に含めるかどうかは、初のケースなので年末に最終的に決めたい。

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博多駅バスターミナルを朝8:25に発車する高速バス「ごかせ号」で高千穂へ。熊本県内の一般道路が水害で崩壊しているため30分遅延と宮崎交通ホームページには書かれていたが、実際は高千穂バスターミナルに11:50着。40分も早着だ。予定通りの到着時間であれば到着後に昼食を取る時間はないと思い、博多発車前に買っておいたパンを食べながら、これならもっと町内の飲食店を回れたな、と思う。

ただ、最近はコロナで飲食業界を離れた人手が戻ってこず、飲食店はどこも人手不足。かき入れ時なのに人手不足で休業や時間短縮していたり、営業していてもなかなか注文すら取りに来ないことも経験している。次のスケジュールありきで動いている旅先で、そんな状態の飲食店に多くをゆだねるわけに行かず、コロナ明け後はパンや弁当を事前調達することが増えた。この傾向はしばらく続きそうな気がする。サミット会場の国民宿舎「ホテル高千穂」には正午すぎ到着。受付を済ませる。

午後1時。サミットが始まる。冒頭、高千穂の魅力を発信する地元ケーブルテレビ局「ケーブルメディアワイワイ」制作のオープニング映像が流れる。20分ほどの映像だが、地元の魅力を良くまとめており、この会場参加者限りで終わってしまうのは惜しい(1日目終了後、会場に来ていた「ケーブルメディアワイワイ」関係者に、DVD発売や配信の予定はないのか聞いたが、現時点では未定とのこと。ただし、全国のケーブルテレビ網で後日放送の可能性はあるという)。

開会式では、主催者を代表して甲斐宗之・高千穂町長が挨拶。参加者へのお礼やサミットの意義などが述べられたが、なんと言っても特徴的だったのは甲斐町長がこのように述べたことだ。「私は、高千穂鉄道の廃線は天災ではなく人災だと思っている。過疎化が進み、中山間地域に住んで山の手入れをする人がいなくなった。ローカル線ばかりが災害に襲われるようになった」。

地方に長く住んでいると、櫛の歯が抜けるように、1人、また1人と中山間地域から人が出ていく様子がわかるのだろう。北海道でもエゾシカが札幌の市街地に出没するようになって久しいが、最近はこれに加え、ヒグマまでが市街地に出てくるようになった。人獣の境界線であり、土砂崩れをせき止めていた防災の要衝でもある中山間地域を人が住めないようにし、崩壊させた。それがローカル線の相次ぐ被災や人間生活圏への野生動物出没などいろいろな弊害を生んでいる。ひとつひとつは別々に見える問題は水面下でつながっているのだ。

甲斐町長には行政トップとしてのお立場もあり、国に不満があっても言えないことも当然ある。これくらいの発言でも「行政トップとしては思い切った発言だな」と実感する。これ以上は町長の立場上、難しいだろうから、ここはそのぶん私がそうした地方の声をここに伝えておきたい。地方を衰退させた政府の責任を問わなければならない局面だ。

未成線・廃線を抱える地域の「活動事例発表」では、島根大学大学院自然科学研究科環境システム科学専攻の平川真衣さんが「鉄道遺産『未成線』における活用実態とその課題」として全国の鉄道遺産の活用の実態やその課題等を報告した。私は、平川さんに直接お願いして報告スライド資料を入手したが、大変よくまとまっている。未成線跡・廃線跡の活用とはいえ、やはりそこで何かをやるには行政の資金面での支援が重要であることなどが明らかにされた。「どのようにすれば鉄道遺産の活用が軌道に乗るか」を明らかにしたという意味で大変有意義な発表だと思う。

この他、岩日線(未成線)を抱える山口県岩国市、南阿蘇鉄道(旧国鉄高森線)と高千穂鉄道(旧国鉄高千穂線)を結ぶ予定だった未成線トンネル工事が異常湧水で中止となった熊本県高森町、宮崎県日之影町、高千穂鉄道が2005年の大雨災害から復旧しないまま廃線の憂き目に遭った地元高千穂町からの報告が続いた。

高千穂鉄道に関しては、再開発された延岡市内の一部区間及び被災した区間を除き、線路や駅はほぼ完全に残されている。現役当時のレールバスも動態保存されており、いつでも動かすことができる。廃線跡の一部区間(高千穂駅~高千穂鉄橋)でトロッコ列車を運行するため、廃線後「高千穂あまてらす鉄道」が設立されたが、同社副社長の齊藤拓由さんは「いつの日か、高千穂鉄道を復活させるため、当時使われていたものはすべて残している」のだと、大まじめに話していた。私は、高千穂鉄道沿線が割と本気で復活を目指していることを伝え聞いてはいたが、ここまで本気とは思っていなかった。

ただ、終了後の質疑応答で、参加者から「復活までの具体的なプランはあるのか」と尋ねられた齊藤さんは「ありません」と答えていた。今のところは熱意だけのようだが、高千穂鉄道が廃線となった2005年当時、地域公共交通活性化再生法はまだなかった(制定は2007年)。今は法制度が変わっているため、当時はできなかった新たな枠組みがあり得るかもしれない。

延岡市内の線路は再開発でなくなっているが、7月に訪れた富山ライトレールのように、市街地区間のみLRTにする手もある(直通運転でなくても良い)。富山市や宇都宮ライトレールが画期的なのは、「在来線鉄道は廃止されるためにある」と思っていた日本人の後ろ向きなマインドを、いくばくかでも転換させるとともに、行政が本気になればいろいろなことができると市民に理解させたことにあると思っている。

休憩を挟んだ後半はいよいよ今日のメインであるトークイベントだ。NHK「呑み鉄本線・日本旅」でおなじみのタレント六角精児さんと、地元で活躍するフリーアナウンサー(鉄アナ)の田代剛さんが約1時間にわたって軽妙なトークを繰り広げる。

意外だったのは、六角精児さんが子どもの頃から鉄だったわけではないとわかったことだ。「元々はギャンブルにのめり込んでいて、このままでは身を持ち崩すと思った。ギャンブルからフェードアウトするために、他に熱中できる何かが必要だった。タレントとして、ロケなどで鉄道で移動しているうちに、あ、鉄道っていいなと思ったのがこの道に進むきっかけだった」(本人談)。

「未成線・廃線サミット」参加自治体が西日本に偏っており、東日本への展開を考える必要があることなど、お二人の指摘はきわめて適切だった。「今後、廃線が増えることが見込まれる中で、未成線・廃線跡を抱える地域が全国的に連携し、盛り上げていく上でどんなことができるか」との田代アナの質問に対し、六角精児さんは「交通機関として現役で走っている鉄道と違い、廃線跡活用は観光客だけに頼らなければならないため独特の難しさがある」とした上で、「いろいろ難しいとは思うけど、全国の未成線・廃線を抱える地域がスタンプラリーなどで盛り上げていってはどうか」と提案した。これなら大きな予算も必要ないし、今すぐ全国化は無理でも、参加できる地域から順に広げていく方法もある。現状ではベストでなくとも、ベターなアイデアだと私には思えた。

トークイベント後、売れっ子の六角さんが退場。第5回サミットの開催地である岩国市副市長に、甲斐町長から引き継ぎを行い、サミットは無事終了した。

<参考>国鉄時代の高森線(現・南阿蘇鉄道)の日常を記録した貴重な映画「鉄路の昭和史ー朝日ニュース「ある生活.赤字路線の駅を守って」」

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共産趣味者の目で見た日本共産党の現在と「これから」(2)

2023-11-24 23:05:29 | その他社会・時事
昨日、「共産趣味者の目で見た日本共産党の現在と「これから」」を書いたら思わぬ反響があった。そこで、昨日書き忘れたことを少し追加で述べておきたい。急遽、昨日の記事を(1)、この記事を同じタイトルで(2)としている。

私は志位氏を評価していないわけではない。むしろ高く評価している。志位氏が初めて書記局長に選出されたのは35歳の時である。だから、現在38歳の山添拓氏が来年1月の党大会で書記局長に選出されても違和感はない。

志位氏が書記局長に選出された1990年は、日本共産党的には大逆風の年だった。この前年、1989年に相次いで東ヨーロッパの社会主義体制が倒れ、中国でも天安門事件が起きた。日本共産党は、東欧諸国の共産党や中国共産党と名称が同じというだけで「一党独裁」「自由、民主主義弾圧」のレッテルを貼られ、暗いイメージを払拭する必要に迫られていた。

西側諸国で最大規模の共産党だったイタリア共産党が、左翼民主党に党名変更して再出発を始めた時期のことだ。記者会見で、メディアから志位氏に「日本共産党もイタリア左翼民主党のように党名変更するお考えはありませんか」という質問が飛んだ。それに対して若き書記局長はこう答えたのである--「党名変更したって、あなた方マスコミは『旧共産党』と呼ぶんでしょう? それなら私たちは、歴史的に誇りある日本共産党の名前のままで活動を続けます」。記者からの「茶化し質問」を一蹴する志位氏の姿に若々しさ、清新さ、まばゆさを覚えたあの日の会見を私は今も忘れない。

それから早くも30年--結果的に、このときの志位氏の「読み」は正しかった。信じられないと思う人は、悪いイメージを刷新するために名称変更した組織--最近の例でいえば「世界平和統一家庭連合」「SMILE-UP.」「X」が世間でどう呼ばれているか思い出してみるといい。「旧統一教会」「旧ジャニーズ」「旧ツイッター」といまだに呼ばれている。一度ついてしまった悪いイメージの払拭はそんなに簡単ではないのである。

イタリア左翼民主党は今、存在していない。旧統一教会にはこの先、解散命令が下るかもしれない。ジャニーズも退所者が相次ぎ、存続は見通せない。ツイッターも混乱続きで往時のあの勢いはどこに行ったのだろうか。結局、名称変更した組織はどこも成功していない。もし日本共産党がイタリア共産党のように党名変更していたら、おそらく今ごろ存在していなかっただろう。当時の最大のピンチを乗り越えたのはやはり志位氏の手腕があったからだ。

だが、その志位氏もさすがに耐用年数が切れたように思える。特に、筆坂秀世氏のような女性問題であれば除名も致し方ないと世間も納得するが、「自分と意見が違う」ことを理由に除名したのは決定的な悪手だった。日本共産党の「幹部除名史」を振り返ると、筆坂秀世氏の前の大物除名は野坂参三。党名誉議長まで上り詰め、党員にとって神のような存在だったが、ソ連時代に同志をスターリンに密告し、処刑という運命に陥れていたことが晩年に判明し、除名となった。これも党にとって重大な裏切りに他ならず、世間が納得する除名だった。

「中央と意見が違う」ことによる大物除名は、党として反対を決めた部分的核実験禁止条約に国会で賛成票を投じたために除名された志賀義雄や、彼に同調した中野重治(1963年)あたりまでさかのぼらなければならないかもしれない(ちなみに中野重治は有名なプロレタリア作家で、私たちが子どもの頃は教科書にも作品が載っていた)。今回、松竹伸幸氏らに対して志位氏が取ったのはそれほどの悪手だったのだ。

長く「共産趣味者」を続けてきた当ブログから見て、次に除名処分を受けそうな党員の目星はついている。共産趣味界隈では有名なブログ「紙屋研究所」の管理人、紙屋高雪氏である。2018年に行われた福岡市長選に出馬したこともある地方幹部だったが、松竹問題発生後の今年5月以降、全役職を停止され自宅待機の憂き目に遭っている。「休み明けの日は一応決まっているけども、本当にその日に休みが明けるのかどうかはよくわからない。これまでの人生では、そんなことはなかった」とご本人は述べている(「長い休み」)。この人物に対する処分を日本共産党が決定できないでいるのも、おそらく「田村新体制発足」が近いからだろう。場合によっては新執行部が判断することになるかもしれない。

昨日のブログでも書いたが、日本共産党にはもっと開かれた組織になってほしい。岸田政権の評判がこんなに悪く、自民党支持者でさえ見放しているのに、それでも倒れないのは野党がだらしないからである。付き合いのある新聞記者から聞いたことがあるが、「日本で次に政権交代が起きるとすれば、自民党が割れるときか、共産党が変わるときしかない」が政治記者の間での共通認識になっているという。

自民党が割れない以上、日本の政治の変革はひとえに日本共産党が変われるかどうかにかかっている。党名は今のままでもいいから、今よりも民主主義的な衣を身にまとい、無党派層が投票してもいいと思えるような党に変わったら、そのときこそ日本政治の夜明けが来る。だからこそ、2024年1月の日本共産党大会はかつてない重大な大会になるし、目が離せないのである。

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共産趣味者の目で見た日本共産党の現在と「これから」(1)

2023-11-23 22:25:49 | その他社会・時事
以前から当ブログでは何度か言及しているが、私には「共産趣味者」という一面がある。平たく言えば社会主義国(「元社会主義国」を含む)や世界各国の共産主義諸政党の動向を観察することを趣味とする人たちのことである。その共産趣味者としての一面で見ていると、最近の日本共産党には大いなる憂慮を感じざるを得ない。

日本共産党が組織的に大きく動揺するきっかけとなったのは、いうまでもなく今年1月、古参党員の松竹伸幸氏が自著の中で公然と党首公選制を要求し、党を除名されたことだ。民主集中制を原則とし「下級は上級に従う」という鉄の規律を持つ日本共産党とはいえ、党員、それも幹部や古参党員の除名といった話は、女性問題を起こした筆坂秀世氏以来、20年近く絶えて久しく、このご時世にあり得ないことだと私も思っていた。それだけに、松竹氏らの除名処分は驚きをもって迎えられた。

21世紀も5分の1が過ぎた2020年代である。日本共産党が不倶戴天の敵としている自民党でさえ、(最近はご無沙汰のようだが)一般党員・党友が参加してのオープンな総裁選を「やるときはやる」のに、ブルジョア階級支配を乗り越えて共産主義社会を目指す党が、労働者階級で構成される一般党員を党首選に参加させないでどうする、と私などは思ってしまう。私の周辺にいる人々もおおむね同じ意見であり、日本共産党がもっと開かれた組織になってほしいと願う人々は広範に存在する。

これまでも日本共産党は京都で異常に強かったが、それは「保守層にも顔が利き、対話もできる」松竹氏のような柔軟な党員が多く存在し、地元での党活動を通じて中間層のみならず、広く保守層の一部からの支持までも取り付けてきたからだと私は思っている。その多くが日本共産党系出版社で、京都に本社を置く「かもがわ出版」を拠点としてきた。かもがわ出版は、当ブログが「打倒対象」としている開沼博らを起用し、放射能被曝による健康影響を真っ向から否定する「しあわせになるための福島差別論」を出版するなど、決して許されない政治的過ちも多数犯してきた。外国からの「急迫不正の侵害」があった場合、国民合意があれば自衛隊を活用してもよい、とする自衛隊活用論を松竹氏らが唱えたことも、私は政治的過ちだと思っている。

それはともかく、現代民主主義社会では人々の意見は多様であり、その多様性を尊重することが組織運営の原則でなくてはならない。自衛隊活用論、放射線被曝の否定、そして一部党員による「性表現の自由を保障すべき」という意見も、私自身は日本のジェンダー不平等状態を見るととても容認する気になれない。ただ、日本共産党の中にそうした意見を唱える党員がいること自体は否定できない事実だし、彼らを幹部に登用するのは困難だとしても、党内民主主義を保障する手段として、そうした党員や意見の存在そのものは黙認しておく、という大人の対応もとり得たはずである。

そうした中、今年6月30日付けで「デイリー新潮」が「共産党で22年居座る「志位委員長」後釜の本命候補は女性議員 順調に行けば来年1月にもトップへ」という記事を配信したときは率直に驚いた。2024年1月に予定されている党大会で、日本共産党が田村智子副委員長兼政策委員長を委員長に昇格させ、山添拓氏を書記局長に据えるというものだ。しかも会員制月刊誌「FACTA」も2023年8月号で「共産党初の女性委員長「田村智子」の超インパクト」と題する記事で追随している。

さすがに、いくらなんでもそれはあるまいと私自身もつい最近まで懐疑的だった。第一あまりに大胆すぎる。だが、最近の各メディアの報道を見ていると、この人事の信憑性は高まってきたように思う。特に、NHKの共産党をめぐる最近の報道ぶりには非常に興味深いものがある。

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共産党 党大会の決議案示す“衆院選 野党共闘の再構築へ努力”(2023年11月13日)

共産党の中央委員会総会が開かれ、来年1月に予定される党大会の決議案が示されました。次の衆議院選挙に向けて野党共闘の再構築のため努力を続けるなどとしています。

共産党の中央委員会総会は13日、党本部で開かれ、志位委員長があいさつし、今の政治情勢について「岸田政権への国民の批判と不信の声が日増しに高まり、政権末期に近い様相を呈している」と指摘しました。

そのうえで「日本の政治を変える道は『市民と野党の共闘』しかないという立場に変わりはない。総選挙では、共産党の躍進の実現を最優先の課題とし、最大の力を集中する」と述べました。

そして田村政策委員長が、来年1月に4年ぶりに開かれる党大会で提案する決議案を示しました。

決議案では、次の衆議院選挙について、比例代表で躍進することを軸に据えて議席の増加を目指すとともに、野党共闘の再構築のため可能な努力を行うとしています。

また、党内で女性の議員や候補者を増やし、女性幹部を抜てきすることも含めジェンダー平等などを実現し、国民の多数から信頼される党に成長していくため、あらゆる努力を重ねていくとしています。

決議案は、党の活動方針となるもので、これまで通常、志位委員長が説明していましたが、13日は決議案を作成した責任者として田村政策委員長が説明しました。
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私が特に注目したのは最後の一文である。

日本共産党のように規律を重んじ、「下級は上級に従う」が原則の組織で、通常、委員長が行うべき職務を下位の役職の者が代行するなどということはあり得ない。旧ソ連や中国の共産党を見ても、こうしたことが行われるのは、本来その職務を行うべき者が病気などの重大事態で職務を執れない場合に限られる。旧ソ連では、共産党書記長の仕事を誰か他の人物が代行しようものなら、すぐさま「書記長重病説/死亡説」が流され、西側諸国のメディアは「書記長死去」予定稿の作成を始めるのが常だった。トップが健在であるときにそうしたことを行えば、それはトップの威信を傷つけレームダック(死に体)化を加速させるだけで、事実上政治的メリットはまったくないのである。

日本共産党は「通常、志位委員長が説明していましたが、13日は決議案を作成した責任者として田村政策委員長が説明しました」などともっともらしい説明をしているが、決議案を書いた本人だからといって誰もが決議案の説明者になれるわけではない。これが仮に、決議案を書いたのが末端のヒラ党員だったとして、その党員に対し、幹部会が「お前が書いたんだからお前が読め」なんてことがあるだろうか。官僚的な体質の組織ほど、あるわけがないのだ。

このように考えると、合理的な結論は1つに絞られる。「今回は田村政策委員長が決議案を書いたから、書いた本人に提案してもらうという異例の形を取りました。しかしこれは今回限りの措置であり、次の中央委員会からは田村さんが『正式な提案者』となる予定ですから、すべての日本共産党員はそのつもりでいるように」という党中央からのメッセージと考える以外にないのである。

考えてみれば、松竹氏と、それに連なって党首公選制を求めるメディアには猛烈な抗議や訂正要求を繰り返してきたこの党が、デイリー新潮の先の記事には抗議や訂正要求もしたとは聞かない。こうしたことも、私がこの人事の信憑性を高いと判断する根拠になっている。

おそらく、年明け1月に開催予定の党大会では、志位和夫委員長が議長に退き、田村智子委員長、山添拓書記局長とするデイリー新潮見立て通りの人事案が提案され、承認されることになるであろう。この人事がもたらすインパクトは、「FACTA」誌報道の通り大変大きなものになる。山添氏はまだ30代で若すぎるのではないかという人もいるかもしれないが、志位氏も30代で書記局長になったのだから何ら問題はないはずである。

今の野党第1党である立憲民主党には、もはや政局を左右できるほどの力はない。維新は、その力を持てるのではないかとの幻想を有権者に抱かせた時期もあったが、大阪万博をめぐる経費の膨張や税金無駄遣い批判で怪しくなってきている。国民民主党は、玉木雄一郎代表の個人的人気は高いが、自民党擦り寄り路線で成功した保守政党はない。それに引き替え、日本共産党は国会では小勢力でも、野党全体を動かし政局にするだけの力を持っている。新人事で世間をあっと驚かせることができれば、党員除名による暗いイメージは払拭され、新年以降の「野党政局」は日本共産党ペースで進むことになる。野党共闘に向け大きく動く起爆剤になるかもしれない。

こうした情報は、NHKが報じるくらいだから当然、官邸にはもたらされているだろう。だからこそ岸田政権が少しでも長く命脈を維持したいなら、日本共産党の新体制が軌道に乗る前に解散総選挙を仕掛けなければならないのに、岸田首相はみずから年内解散を封じてしまった。このまま年明けの通常国会召集までに解散総選挙を打てなければ、岸田政権は日本共産党の劇的復活によりのたれ死にすることになるかもしれない。

2024年は、新年早々日本共産党から目が離せない。

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第二次大戦後のスキームが完全に終わった2023年 機能不全となった日本と世界はどこへ向かうのか?

2023-11-22 23:54:29 | その他社会・時事
(この記事は、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2023年12月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 「本誌が読者諸氏のお手元に届いた時点で、2022年はまだ1ヶ月以上残っており、総括するのはまだ早いと思われる方も多いだろう。だが、半世紀を過ぎた筆者の人生の中で「こんな年、早く終わってしまえばいいのに」とこれほどまでに強く思った年はかつてなかった」――私がこんな書き出しで本誌原稿を執筆したのは昨年12月号でのことだった。今年、2023年も本稿執筆時点でまだ1ヶ月以上残っているが、2022年を2023年に変えるだけで、どうやら同じ書き出しで始めなければならないようだ。

 ●世界~国際機関も各国政府も機能不全に

 2011年3月の福島第1原発事故以降、日本政府が機能不全に陥り、一般市民はもちろん、彼らの支持基盤であるはずの保守層や経済界のための政治さえまともに行われていないのではないかという疑いを私はずっと抱いてきた。それでも機能不全は日本政府だけで、諸外国の政府や国際機関に対しては、まだそれなりに機能していると思っていた。

 その認識が怪しくなったのはウクライナ戦争以降である。国連安全保障理事会は常任理事国同士の拒否権合戦となりまともな決定はできなくなった。米国、中国を初め諸外国の政府も、迫り来る危機に対する有効な手を打てないまま漂流し続けているように思う。

 そうこうしているうちに、中東で新たな戦争が始まってしまった。「西側の裏切り」でNATO(北大西洋条約機構)入りしたウクライナが自国に核を向けるかもしれないから機先を制しておきたいというプーチン大統領の思惑には、納得はできなくても「相手側の立場からはそう見えても仕方がない」という程度の理解はできる。だがイスラエル軍は、まるで鼻歌でも歌いながらガザ地区を戦車で蹂躙し、ゲームでもするような感覚で子どもの殺戮を楽しんでいるようにさえ見える。ここまでの民族浄化、虐殺はまったく理解不能である。

 イスラエル政府の現職閣僚からガザ地区への核兵器使用を示唆する発言まで出た。極右政党リクード(保守連合)を率いるベンヤミン・ネタニヤフ首相もさすがにこの閣僚を無期限の職務停止にしたが、そのような事態になれば、ガザ地区を実効支配するハマスの後ろ盾であり「事実上の核保有国」のイランが核による反撃に出る事態もあり得る。このような事態を想定外だと笑い飛ばす人もいるかもしれないが、かつて湾岸戦争(1991年)の際、サダム・フセイン政権下のイラクがイスラエル第2の都市テルアビブを標的にスカッド・ミサイル攻撃を行ったことを考えると、十分想定しておかなければならないだろう。

 ナチスのホロコーストで殺害されたユダヤ人は600万人に及ぶとされるが、ガザ地区でイスラエル軍が殺害した人数はすでに1万人を超えた。ここまでくれば規模の大小はあったとしても「彼らがナチスとの違いをどうやって証明するのかという話になってくる」(ジャーナリスト木下黄太氏)のは当然で、イスラエル国内でも反戦デモが起きていることはその何よりの証拠であろう。

 世界が破局へのレールを一直線に走っていることはもはや疑いがない。このまま事態を傍観すれば、人類に2030年代は訪れないだろう。ここ数年間の国際情勢はそれほどまでに危機的で切迫の度合いを増している。

 ●現代と似ている両大戦間期~戦後世界の大きな転機

 現代と似ている時代を挙げるとすれば両大戦間期がある。第1次世界大戦終結とほぼ時期を同じくしてスペイン風邪が大流行し、各国政府が巨額の財政支出を強いられた。第1次世界大戦は、各国政府にとって国民生活とその資産(経済学用語でいうストック)を根こそぎ破壊する愚行であり、スペイン風邪対策は、国民の健康という未来に向けての大きな資産を残す代わりに巨額の紙幣を増刷しなければならない非常事態だった。この国民生活基盤の破壊と巨額の紙幣増刷、財政支出の拡大がハイパーインフレと恐慌に結びついた。そのハイパーインフレと恐慌の中からナチスが生まれ、世界は次の大戦に向かっていった。

 第1次世界大戦後に設立された国際連盟において日本が常任理事国であったことはあまり知られていない事実かもしれない。だが米国が不参加だった上、日本がアジア侵略を繰り返す中で脱退するなど機能不全に陥ったことも第2次世界大戦への引き金を引くことにつながった。国連安保理常任理事国の1つであるロシアが、すべての議案に対して拒否権を持つという有利な立場をみずからの愚行によって傷つけ、国連の権威を低下させていることも両大戦間期に似ている。

 United Nationsを国際連合と称するのは日本の外務省による「政策的・意図的誤訳」であり、本来の英語の語感としてはせいぜい「国家連合」としての意味しか持たない。これを連合国と訳している国が大半であることからもわかるように、日本政府が称するところの「国連」は第2次世界大戦の戦勝国が主導する国際秩序である。

 この国際秩序が成立してから、2025年には80年が経過する。80年がほぼ人の一生に相当することを考えると、この国際秩序の耐用年数がいよいよ切れ、世界が「次」を求める時代に突入したという程度のことは、断定しても差し支えないように思われる。

 ●日本国内~「長年の悪事」が次々露呈し次への希望も

 一方、日本国内に目を転じると、絶望の中にも一筋の希望が見えた年だったのではないか。長年に渡って隠されてきた「悪事」が次々と露呈する1年になった。そのすべてを論じる余裕も紙幅もないので、1990年代に続いて昨年再び社会問題となった「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)問題に続き、2023年に新たに明るみに出た「旧ジャニーズ事務所による性加害問題」のほか、宝塚歌劇団における団員のいじめ自殺問題を挙げておきたい。旧統一教会、旧ジャニーズ問題、宝塚歌劇団はいずれも極度に閉鎖的で多くの資本主義的利権にまみれた「ムラ」である。

 昭和の異物であるこうした「体育会的ムラ」の多くで長年の悪事が露呈した。犯罪・不正を告発しようとする被害者側と、隠蔽しようとする加害者側の闘争で、双方が傷つきながらも、そのすべてにおいて圧倒的世論の支持を受けた被害者側が勝ち、日本の「暗部」から大量の膿が出たのも2023年の特徴であると同時に、今後に向けた一筋の希望といえよう。

 旧ジャニーズによる所属タレントへの性加害問題を、最初、私は単なる芸能ニュースに過ぎず、本誌で取り上げるだけの価値はないと考えていた。それが、先々月号(2023年10月号)でこの問題を取り上げることになったのは、これこそが「ザ・ニッポンの人権問題」そのものであり、日本社会の立ち後れた人権感覚を象徴する事件なのではないかと思うに至ったからである。つい先日、執行猶予付き有罪判決が言い渡された歌舞伎俳優・市川猿之助による両親自殺ほう助事件など、今年は芸能界で重大ニュースが多かったが、これもまた梨園と称される独特の閉鎖社会の中で起きた事件である。

 社会のあちこちに風通しが悪く監視の及ばない「ムラ」が林立し、そこから犯罪が生まれ、大量の膿が流れ出たという意味で、この事件もまた「単なる芸能ネタ」で片付けられるようなものではなく、他のすべての問題と地続きである。文字通り「次」に向け動き始めた世界に日本が歩調を合わせたいのであれば、解決は避けて通れない課題だ。

 ●総崩れとなった新興宗教

 いわゆる新興宗教が総崩れとなったのも今年の特徴だ。数々の問題を起こし、安倍元首相暗殺事件で30年ぶりに社会的注目が集まった旧統一教会に対しては、文化庁が宗教法人法に基づく6回の意見聴取の末、史上初となる解散命令請求を行った(注)。請求が認められ解散命令が出された場合、旧統一教会は宗教法人格を失うが、権利なき団体としての活動は規制されない。

 旧統一教会以外を見ても、「幸福の科学」は創設者であり「教祖」でもあった大川隆法総裁が3月に死去。後継者はいないとされる。そしてこの11月18日には、創価学会の池田大作名誉会長の死去が報じられた。

 池田氏が表舞台から消えてすでに10年以上が経過し、創価学会は池田氏亡き後に向けた指導体制を確立しており、学会運営という意味では大きな影響はないというのが衆目の一致するところだ。ただ、表舞台から消えても池田氏の教えを教団の教えとして心の拠り所としてきた学会員は少なくない。これら学会員に対し、池田氏亡き後も学会がこれまでと同じような求心力を持てるかどうかは未知数というのもまた現実であろう。

 岸田政権成立後、東京での自公協力が一時は完全崩壊に至った時期もある。とりわけ東京の各級選挙において自民党系候補の敗北が続いている状況を見ると、「遺恨」がいまだに尾を引いているとする見方も一定の説得力を持っている。

 ●内政も激動の予感がする2024年

 『今回の事件は、山上容疑者の意図とは全く別として、日本政治の行方を大きく変える出来事になる可能性もあります』――「文藝春秋」2022年10月号誌上で、宗教学者の島田裕巳さんが発した不気味な「警告」を私が紹介したのはちょうど1年前、2022年12月号の本欄だった。「可能性としては高くないが、起こりうる展開のひとつ」と私はそこでは控えめに述べるに留めておいたが、2024年はいよいよ日本政治の行方が変わる年になりそうである。自民党にとって大きな集票力となってきた旧統一教会、創価学会という2大宗教勢力がいずれも時代の節目にさしかかり大きく揺らいでいるからである。これらは、自民党から民主党への政権交代(2009年)のときでさえ存在していなかった日本政界の根本的地殻変動といえる。長年癒着関係を続けてきた政治と宗教の関係をゼロベースで見直す上でかつてないチャンスが訪れている。

 保守層が自民党から離反し新たな受け皿を求めている。次回国政選挙は、日本の最大勢力である保守層が分裂したまま迎えなければならない久しぶりの選挙になる。この期に及んで、野党が小異を理由に団結できないでいるのは嘆かわしい。2024年こそ野党は自民党政権打倒のために団結できるか真価を問われる。解散総選挙が行われ、野党が団結できれば、10数年ぶりの与野党逆転や政権交代までもが視野に入る重大局面となるかもしれない。

 再び国外に目を転じると、2024年は米国、ロシア、ウクライナで大統領選挙が行われる。10月以降、パレスチナ情勢の陰に隠れる形で動向が伝えられることも少なくなっていたウクライナ戦争とその行方に再び注目が集まるであろう。これら3カ国の選挙の行方によっては停戦の動きになる可能性がある。無益な戦争に終止符を打たなければならない。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は戦時中であることを理由に大統領選挙を延期するかもしれないと報じられているが、そんなことをすればそれこそロシアの思うつぼだ。「私は国民に選挙で信任を受けた。選挙をせず延期したゼレンスキー氏にウクライナ国民の代表を名乗る資格があるのか」とプーチン大統領が宣伝してくるのは目に見えているからである。私としてはできることならウクライナが正々堂々と大統領選挙を実施し、停戦に積極的な新たなトップが選ばれることを望む。

 米国大統領選挙は、いずれも80歳代のバイデン、トランプ両氏の争いになるとの見方もあるが、この世界的非常事態にそんなことでいいのか。若くて柔軟な指導者をトップに就けなければ国際社会における米国の地位のさらなる低下は免れないだろう。

 これだけの政治的要素を見るだけでも、2024年は今年とは比べものにならないほど激動の1年になると思う。私たちにとって最も大切なことは、機能不全に陥っている各国政府と国際機関に対し、人々の命と暮らしを尊重するよう強く要求していくことだ。2020年代後半がどのような時代になるかは、来年おそらく決まるだろう。

注)宗教法人に対する解散命令請求としては「アレフ」(旧オウム真理教)に対するものがあるが、こちらは破壊活動防止法に基づく団体としての解散命令請求であり、認められた場合、法人格の剥奪だけでなく、団体としても解散となり、個人としての宗教活動しかできなくなる点が異なっている。なおこの際は、公安審査委員会で解散命令請求が棄却されたため、いわゆるオウム新法を政府が新たに制定した。オウム真理教の後継団体(「アレフ」「山田らの集団」など)に対する公安調査庁による監視や聴聞などは、このオウム新法に基づくものであり、破防法に基づいて付与された権限ではない。

(2023年11月19日)

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10月29日、宇都宮ライトレールに乗る

2023-11-05 19:19:51 | 鉄道・公共交通/趣味の話題
10月28~29日の2日間、都内のイベントで「次世代へつなぐ地域の鉄道——国交省検討会提言を批判する」を発売するため上京したのに伴い、8月に開業したばかりの宇都宮ライトレールに乗ってきました。

<写真>芳賀・高根沢工業団地電停にて


28日朝に千歳を発ち、昼前に羽田着。28日夕方5時半から都内で人との約束があるため、正午過ぎの新幹線で宇都宮に行き、往復乗ったらすぐ新幹線で都内に戻るという超駆け足での訪問でした。そもそも宇都宮市自体、新幹線で何度も通過していますが、前回降り立ったのがいつか思い出せないほど久しぶりです。もしかすると、福島勤務時代に車で訪れて以来、10数年ぶりかもしれません。街の印象含め、率直に感じたことを書きます。

<写真>ライトレール乗り場 JR宇都宮駅と直結している


<写真>宇都宮電停から線路を望む


7月に富山市のライトレールに乗った際にも感じましたが、まちづくりと一体化した公共交通という、今後の1つの方向性を示しているのではないかというのが率直な印象です。

「平石」電停から「清陵高校前」電停まで専用軌道区間で、「清陵高校前」から「芳賀・高根沢工業団地」電停(終点)までの区間も道路上を走りますが、道路と線路は区切られています。

<写真>芳賀・高根沢工業団地電停からは横断歩道で直接工場に通じている


富山のライトレールと大きく違うのは、信号のコントロールがライトレール優先であることです。富山は路面電車の前を横切って右折する自動車を含め、通常信号と変わりませんが、宇都宮ライトレールは、道路側の信号を「赤」+「直進・左折矢印」表示にして、ライトレールが走る際に自動車が電車の前を横切って右折できないようにしていること。これによって定時運転を確保していました。

乗っている間、今までの路面電車と「何かが違う」と思っていましたが、専用軌道区間でも、道路との平面交差地点に踏切を置いていません。ライトレールが通るとき、平面交差する車道側の交通信号を赤にする運用になっていました。夜間など、踏切警報音による周辺住民からの苦情をなくせる上、電車の定時運転も確保できる新しい方法です(今の法制度では踏切の新設が認められないという事情もありますが)。

富山も宇都宮も、(私が乗りに行ったのがいずれも休日という点もありますが)乗客にとにかく若者層(運転免許を取れない18歳未満)が多かったことも印象的でした。

2017年に内閣府が行った「公共交通に関する世論調査」で「あなたは、鉄道やバスがもっと利用しやすければ、出かける回数が今より増えると思いますか」という質問に対し、「増えると思う」「少しは増えると思う」と答えた人の比率が、18~29歳までの若年層で最も高かった調査結果と合致しています(リンク先調査の8ページ、問3参照)。

今回、宇都宮ライトレールに特徴的なこととして、小さな子どもを連れた母親が、子どもの分の運賃もまとめて払うのではなく、子ども自身に現金を持たせ、払い方を覚えさせていたことです。親がまとめて払うやり方だと、子どもは親と一緒のときしか公共交通に乗れませんが、自分で払えるようにきちんと教えれば、子どもが自分1人だけでも乗車できるようになります。「次世代の公共交通の担い手」を、みずからの手で積極的に育てていこうという市民意識は、富山よりも宇都宮のほうが強いと感じました。

それはとてもいいことなのですが、気になる点もありました。家族連れが下車する際、大人はICカードで支払っていますが、子どもの分の半額運賃は、現金でしか支払えないことです。これだけ子どもの利用が多いのであれば、子ども用のICカードがあってもよいのでは? と感じました。

運賃箱の上に表示されている運賃が、大人表示のまま子どもに切り替えられないことも気になりました。たとえば150円区間の場合、子どもが現金払いをする際も表示は150円のまま、運転士が目視で80円(端数の5円は切り上げ)の投入を確認していました。

<写真>運賃箱


これだと、大人2人に子ども1人がまとめて下車するような場合、いくら払えばいいのかわからなくなりそうです。子どもが1人でも乗れるように育てようという意識がせっかく市民の側に生まれているのですから、せめて運賃表示が子ども用に切り替えられるよう、早急にシステムを改修すべきだと感じました。

路面を走る大都市中心部と、専用軌道を走る郊外区間を連結するという点では、富山も宇都宮も共通しており、今後のトレンドになりそうです。既存の鉄道でこの形態を取るものとしては、広島電鉄(市内線(路面)と宮島線(専用軌道)の直通)や筑豊電鉄などがありますが、今回、改めてこれらの先進性を感じました。

特に筑豊電鉄は、乗り入れしていた西鉄北九州市内線の路面電車が1992年に廃止されています。こんな時代が来ると思わず、何とか廃止を免れるのが精一杯の状況の中、生きながらえてきたのでしょう。それが、ぐるっと時代が1周し、「都心~郊外直通運転」が脚光を浴びる時代が再び来たのですから、世の中はわからないものです。

宇都宮名物の餃子を食べる暇すらなく、足早に宇都宮を後にしましたが、驚いたのは新幹線「やまびこ・つばさ」のうち「つばさ」編成から自由席がなくなっていたこと。帰宅後に調べたところ、2022年春改正から全車指定席化されていました。「はやぶさ」以外にしばらく乗っていなかったため、今回初めて気づきました。

しかも、行き帰りともに新幹線「やまびこ」指定席が売り切れで、自由席も満席のため、東京~宇都宮の全区間で立ちっぱなしだったことです。新幹線で、往復の全区間座れなかったのは、年末年始以外では初めてのことで驚きました。しかし、福島原発訴訟関係の用事でしばしば東京~福島・仙台間に乗っている妻によると「東北新幹線は最近はいつ乗ってもこんな状況」とのことでさらに驚きました。東北新幹線は需要に供給が追いついておらず、このままの状況が今後も続くのであれば、増結や増発などの抜本的対策が必要だと思います。

〔完乗達成〕宇都宮ライトレール

2023年の完乗達成路線は、7社13線(参考記録を含めると8社14線)。7月に上方修正した今年の目標、15線にあと2線と迫った。ただ、今後は遠征機会もあまりなさそうで、達成は微妙になってきた。

<動画>【祝・開業!】2023.10.28 宇都宮ライトレール 芳賀・高根沢工業団地発車

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〔週刊 本の発見〕『次世代へつなぐ地域の鉄道——国交省検討会提言を批判する』

2023-11-03 20:57:35 | 書評・本の紹介
(この記事は、当ブログ管理人が「レイバーネット日本」の書評コーナー「週刊 本の発見」に寄稿した内容をそのまま転載したものです。)

国鉄解体から「公共交通新法」まで~示される課題と展望~『次世代へつなぐ地域の鉄道——国交省検討会提言を批判する』(安藤陽・桜井徹・宮田和保 編著、緑風出版、2500円+税、2023年10月)評者:黒鉄好

 コロナ禍で緊急事態宣言が出され、誰も乗っていない東海道新幹線の列車が誰もいないホームを静かに滑り出すニュースは衝撃的だった。この世の終わりさえ感じさせるニュースの陰で、JR各社が長年にわたって温めてきた「静かな野望」が動き出していた。それが明らかになるのは2022年。「儲かる路線で儲からない路線を支えることがコロナ禍によってできなくなった」ことを理由とする全国ローカル線の大整理である。

 この野望を事実上後押ししたのが、国民の足を守るべき国交省だった。2022年、国交省は地域モビリティ刷新に関する検討会を設置。「頑張る地域と鉄道だけに存続への細道を用意する」という立場の「有識者」で固めた検討会は、わずか半年足らずの審議で提言を公表した。国交省が、提言の内容をさらに切り縮め国会に提出した改定「地域公共交通活性化再生法」案が成立したのは今年4月。検討会設置からわずか1年の早業である。

 改定法は、鉄道への支出が許されていなかったまちづくり予算「社会資本整備総合交付金」のわずかな支給と引き替えに、輸送密度の低いローカル線について、地域と鉄道会社との間で存廃を話し合う「特定線区再構築協議会」を国が設置するとの内容である。鉄道が再構築されるのならいいではないか、と思う人がもしいたら、国鉄「再建」法を名乗る法律が実際には国鉄解体への露払い役となった40年前の出来事を思い出してほしい。

 目下、東京都の人口は1300万人を超える。日本の人口の1割以上が東京都に住んでいることになる。国鉄とその網の目のような鉄道路線が維持されていたら、ここまで極端な過密と過疎という事態は果たしてあり得ただろうか。

 北海道でも、今や札幌だけで全道人口の4割に達しようとしている。その一方で農産物を全国に輸送する手段はおろか、札幌市民の市内移動の手段さえ失われる寸前に来ている。新幹線開通後の「並行在来線」における貨物列車の費用を誰が負担するか10年以上議論しても決まらず、路線バスは相次いで減便・廃止となっているからである。北海道と本州を結ぶ貨物列車が全廃されれば、北海道産のタマネギは首都圏で2割値上がりするとの試算もある。ローカル線危機は対岸の火事ではなく全国民的課題なのだ。

 こうした事態にいかに対処すべきか。展望をどう示すのか。いても立ってもいられず、公共交通、そして社会のあるべき姿を『地域における鉄道の復権~持続可能な社会への展望』(緑風出版、2021年)で示した共著陣が再び結集して著したのが本書である。

 今回は、前作と異なり3部構成とした。メインの第2部は、市民が抱きそうな49の質問を共著陣みずから立て、答えるQ&A形式を採り入れるなど読みやすくした。

 モビリティ検討会提言が触れていない点までQ&Aで取り上げるかは共著陣で議論となった。だが、そもそも検討会提言が触れていないからといって、すべての元凶である国鉄分割民営化に言及しないのでは出版する意味がない。取り上げる方向で程なく意見がまとまった。私も再び共著陣に加わり、Q&Aのうち9問を担当している。

 私が担当する「本の発見」はこれで3回連続、公共交通関係となった。2024年問題を契機に今後この分野が大きく動く予感がある。その意味でもぜひ読んでいただきたいと思う。

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