安全問題研究会~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

公共交通と原発を中心に社会を幅広く考える。連帯を求めて孤立を恐れず、理想に近づくため毎日をより良く生きる。

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当サイトは列車の旅と温泉をメインに鉄道・旅行を楽しみ、また社会を考えるサイトです。

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月刊『住民と自治』 2022年8月号 住民の足を守ろう―権利としての地域公共交通
核のない未来を願って 松井英介遺稿・追悼集(緑風出版)

●安全問題研究会が、JRグループ再国有化をめざし日本鉄道公団法案を決定!

●安全問題研究会政策ビラ・パンフレット
こんなにおかしい!ニッポンの鉄道政策
私たちは根室線をなくしてはならないと考えます
国は今こそ貨物列車迂回対策を!

今年1年お世話になりました

2013-12-31 21:31:17 | 日記
今年も残り数時間となりました。当ブログ管理人は携帯回線を使ってインターネットにアクセスしており、年越し前後は回線が混雑するおそれもありますので、ここでご挨拶を申し上げます。

内外ともに激動の2013年も終わろうとしています。引き続き厳しい年になると思いますが、当ブログおよび関連サイトをよろしくお願いします。

では、よいお年をお迎えください。

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当会は今、改めて主張する 労働者は「悪玉」ではない/安全問題研究会

2013-12-30 15:19:47 | 鉄道・公共交通/安全問題
国労、22年前に改ざんを指摘 JR北海道側「検査信じる」(北海道新聞)

JR北海道に4つある労働組合のうち、国労北海道地方本部が、22年前の会社側との団体交渉の席上で、レール点検の結果に関して何らかの改ざんが行われている可能性を指摘していたと、北海道新聞が報じている(リンク先およびサムネイル写真の同紙記事(2013年12月21日付け)参照。新聞記事は、サムネイル写真をクリックで拡大)。以下、特に断りがない限り、本記事で「国労」とあるのは国労北海道本部を指す。

1991年、JRが業務の効率化を目的に線路巡回の回数を減らす方針を各労組に提案した。この際の労使交渉で、国労は「合理化で業務が回らなくなり、巡回点検が規定通り行われていない箇所がある。現場が報告書を改ざんしている」と指摘。「改ざん」に関する具体的な内容は指摘しなかったものの、会社側に「徹底した調査」を求めた。

その後、1998年、保線作業の外注化を進める提案に関する労使交渉の際も、国労が「巡回点検の実績において偽って入力されている箇所がある」と申し入れ、調査と保線部署を指導するよう求めたが、会社側は「調査する」としながらも「法令に基づき検査が行われていると信じている」と答え、手を打たなかったという。

これらは、国労側の労使交渉の記録から判明したもの。一方、会社側はすでに交渉記録の文書を廃棄したものと思われ「事実確認ができない。このため調査もできない」と回答している。

当研究会は、これまで、JR不採用問題との関わりの中で、終始一貫して現場労働者を信じ、彼らとの連帯を模索してきた。運動現場に対する理解を欠いた国労本部の官僚的姿勢に展望を失いかけた時期にも、各闘争団員・現場労働者への信頼は揺らぐことはなかった(どんな些細なことも交渉記録として文書に残しておく国労の官僚主義体質も今回、少しは役に立つものだと見直したが)。その国労が、少数派に転落させられながら、22年も前に現場から改ざんを指摘してせいいっぱい闘ってきた。崖っぷちに追い詰められたJR北海道に差した一筋の光明だ。

JR北海道で安全問題が焦点化して以降、最大労組(JR北海道労組)に革マル派が浸透している事実を奇貨として、「あのとき」と同じようにメディアを総動員したJR労働者悪玉論が始まる気配も見えた。だが、道民の間で圧倒的なシェアを持つ「北海道新聞」が社会面トップを割いてこの事実を報じて以降、「悪玉論」はなりを潜めた。公共交通で安全軽視の合理化が推進されようとするとき、現場から安全確保の闘いが提起され、メディアを動かすことができれば、資本の支配を突破することができることをこの事例は教えている。現場労働者と連帯し、2014年を反転攻勢の年にしなければならない。




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2013年当ブログ・安全問題研究会10大ニュース

2013-12-29 23:01:08 | その他社会・時事
さて、2013年も残すところあとわずかとなった。そこで、昨年に引き続き今年も「当ブログ・安全問題研究会2013年10大ニュース」を発表する。なお、相変わらず情勢は内外ともに激動しているものの、今年からは3年ぶりに10大ニュースに戻す(2011年は20大ニュース、昨年は15大ニュースに拡大していた)。

選考基準は、2013年中に起きた出来事であること。当ブログで取り上げていないニュースも含むものとする。記事タイトルの後の< >内はカテゴリを示す。

1位  JR北海道で安全崩壊、連日事故・ダイヤ乱れ続く、運輸安全委は2011年石勝線事故の報告書発表<鉄道・公共交通安全問題>

2位  福知山線脱線事故で、JR西日本歴代3社長に無罪判決<鉄道・公共交通安全問題>

3位  福島第1原発事故で汚染水漏れ深刻化、反原発運動依然続き、9月には再び全原発停止<原発問題>

4位  特定秘密保護法、強行採決で成立も活発な反対運動で発動許さぬ闘いへ<社会・時事>

5位  参院選で自公与党「圧勝」、ねじれ解消も安倍政権の暴走続く<社会・時事>

6位  沖縄県知事、普天間基地「辺野古移設」を振興策と引き替えに「容認」、激しい反対続く<社会・時事>

7位  福島原発事故に関する告訴で東京地検、強制捜査もせず不起訴、告訴団は汚染水で新たな告発<原発問題>

8位  高速バス新制度移行、ツアーバス廃止で高速路線バスに一本化で大幅な規制強化<鉄道・公共交通安全問題>

9位  リニア中央新幹線ルート発表、来年着工へ<鉄道・公共交通政策>

10位  米英仏のシリア攻撃、市民の反戦運動の力とロシアの外交努力で史上初めて事前阻止<社会・時事>

【番外編】

・当ブログと安全問題研究会が笹子トンネル天井板崩落事故現場を取材<鉄道・公共交通安全問題>

・当ブログ管理人撮影の写真がウクライナ・チェルノブイリ博物館で開催の「福島展」で展示<原発問題>

・当ブログの協力で、福島原発災害情報センターが福島県白河市にオープン<原発問題>

・第12回「失敗学会」年次大会で、当ブログ提供の写真を使用した発表が行われる<鉄道・公共交通安全問題、原発問題>

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2013年 鉄道全線完乗達成状況まとめ

2013-12-27 19:19:55 | 鉄道・公共交通/趣味の話題
年の瀬を迎え、年内に新たな鉄道乗車予定もないので、ここで例年通り今年の鉄道全線完乗達成状況をまとめる。

【1月】近鉄内部線・八王子線
【5月】江差線(乗車記は未発表だが、5月25日に臨時準急「えさし」号乗車で達成)
【7月】札沼線(乗車記は未発表だが、7月6日に達成)
【10月】宗谷本線(乗車記は未発表だが、10月13日に達成)

合計で5線。内訳は、

【JR】江差線、札沼線、宗谷本線(3線)
【大手私鉄】近鉄内部線・八王子線(1社2線)

今年の新年目標がJR・私鉄含め10線区だったことを考えると、目標の半分にとどまった。もちろん未達成だ。これには昨年のような出張がほぼなかったこと、北海道へ転勤となったことが大きい。

2014年の新年目標は、また改めて発表する。また、今年は完乗達成の報告が全く書けなかったので、来年は書くようにしたい。

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JR羽越線事故から8年~未だ終わらぬ補償交渉

2013-12-26 22:01:00 | 鉄道・公共交通/安全問題
いなほ脱線事故から8年、追悼慰霊式 事故を風化させず、再発防止誓う・庄内(山形新聞)

2005年、5人が死亡したJR羽越線脱線事故から5年を迎えた25日、今年も慰霊式が行われた。驚いたのは、事故後8年を経た現在でも、なお「誠心誠意、交渉を続けてきている」としていることだ。補償交渉が終わっていない遺族があることを示している。2009年12月の慰霊式の際も、JR東日本広報部の「誠心誠意話をさせてもらっている」とのコメントが発表されており、補償交渉はこの4年間、実質、ほとんど進展していないのではないか。その背景に、JR東日本の傲慢な企業体質があることは想像に難くない。

気になるのは、この事故を受けてせっかく強化された風速規制を再び緩和する動きがあることだ。大湊線、風の規制緩和 運休や遅れ大幅減へ JR東日本(河北新報)と題する記事によれば、「運転中止」は現行の風速25メートル以上から30メートル以上に、「速度規制」は風速20メートルから25メートルに緩和し、11月30日から導入している。この措置は、冬季、強風による運休が特に多い大湊線に限ったもののようだが、今後、さらに各路線に拡大していくおそれもある。

羽越線事故の補償交渉も終わらない中、事故の教訓を忘れた風速規制緩和路線でよいのか。事故から8年を経て、私たちには引き続きJR東日本を監視していかなければならない。

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これはいつか来た道か? 「意志の力」とオリンピック~「ヒトラーに学ぶ」安倍首相

2013-12-25 18:48:53 | その他社会・時事
(当エントリは、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2014年1月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)


 ●「意志の力」とナチス

 「明治人たちの『意志の力』に学び、前に進んで行くしかない」「要は、その『意志』があるか、ないか。「強い日本」。それをつくるのは、ほかの誰でもありません。私たち自身です」「今の日本が直面している数々の課題…これらも『意志の力』さえあれば、必ず、乗り越えることができる。私はそう確信しています」

 10月16日に招集された臨時国会の所信表明演説で、安倍晋三首相は「意志の力」というフレーズを4回使った。うち2回はパラリンピックで15個の金メダルを獲得した水泳の成田真由美選手をたたえた言葉。あとの2回は「強い日本を目指せ」というメッセージだ。「意志あるところに道はある」という英語のことわざ(注1)は確かにある。このような文脈で使うべき言葉でないのは確かだが。

 所信表明演説を受けた各党の代表質問で、海江田万里民主党代表は「思い出したのは『意志の力』を好んで使った独裁者のこと」だと痛烈に皮肉った。それほど世界史に詳しい人でなくても、これを聞いて思い出すのは、1934年、ドイツで制作されたナチス党大会記録映画「意志の勝利」(レニ・リーフェンシュタール監督)だろう。この前年、1933年に制作された「信念の勝利」に続くナチス党大会記録映画2部作は、ヒトラーと党幹部を熱狂させ、国家映画賞を獲得する。

 そういえば、ヒトラーはこうも言っている。「兵器は錆び、隊形は時代遅れになる。だが意志だけはこの両者を何度でも復活させることができる」(注2)。そのヒトラー率いるナチス・ドイツと戦い、ソ連を勝利に導いた独裁者ヨシフ・スターリンも「私の信じるものはただひとつ、人間の意志の力だけだ」との言葉を残している。朝鮮民主主義人民共和国のテレビで1993年5月に放送された記録映画「燃える青春を捧げて」も同様であり、「親愛なる指導者同志(金正日・朝鮮労働党総書記のこと)に従い、生きても死んでも革命の道に栄光の信念と意志をもって」闘っていこう、と若者たちを説諭する。古今東西、どこを見ても独裁者の思考回路には共通点がある。

 やたら「意志の力」を連呼する安倍首相も、麻生副総理に言われるまでもなく、ちゃんと「ナチスの手口」に学んでいる。というより、安倍首相には生まれながらにして独裁者になるための「天賦の才能」があるというべきだろう。

 1996年に発表された小説『沢蟹まけると意志の力』(佐藤哲也・著、新潮社)が興味深い考察をしている。「意志の力とは不可能を可能にする力ではない。不可能なことを可能だと断言する力である」。安倍首相はこの「力」によって東京五輪をかすめ取り、福島第1原発からの汚染水もコントロールされていることにしてしまった。

 だが、ここに来て、多くの市民が安倍首相の危険性に気づき始めたようだ。秘密保護法に反対する東京・日比谷の集会では「アベットラー」というプラカードを掲げる市民もいた。ネーミングセンスは今ひとつだが主張はよく理解できる。安倍首相をヒトラーになぞらえる声もこのところ急速に増えつつある。

 ●1940年東京大会、中止へ

 東京には、オリンピック開催が決定しながら返上した歴史がある。1940年、第12回夏季オリンピック大会での出来事だ。

 1923年の関東大震災で痛手を受けた東京の「復興」を世界に向けて発信するためオリンピックを誘致しよう、との声が地元・東京市を中心に上がり始めた。最初に誘致の方針が示されたのは1929年。誘致を求める建議書が東京市会で可決されたのは2年後の1931年10月だったが、時あたかも満州事変が勃発。日本政府はその対応に追われており五輪どころではないのが実情だった。

 1940年が日本にとって「皇紀2600年」に当たることから、照準はこの年の第12回大会に定められた。すでにナチス・ドイツは1936年のベルリン大会を開催しており、1940年の大会はファシスト支配下のイタリアもローマでの開催を目指してIOC(国際オリンピック委員会)などへ働きかけを強めていた。日本は、1940年のオリンピック開催をローマに辞退してもらうため、ムッソリーニに直接働きかけた。「1940年が日本にとって皇紀2600年に当たり、国を挙げてオリンピック誘致を望んでいる。その国民の気持ちを尊重してこの年の大会を日本に譲ってくれるならば、ご希望に従い、1944年の大会がローマで開催されるよう日本は全力を尽くす」と説明し、ムッソリーニの了解を得たと言われる。

 ローマ辞退の連絡を受けて、ようやく日本の各界は誘致に向けて一丸となり始めた。第12回大会が希望通り東京に決定したのは、1936年8月1日のこと。IOC委員による投票は東京とヘルシンキ(フィンランド)の一騎打ちとなり、東京34票、ヘルシンキ27票だった。

 だが、1937年、日中戦争の勃発によって情勢は暗転した。満州事変を受けても、政府の「不拡大方針」により東京大会の準備作業は続いたが、戦争は終息せず、ついに日中全面戦争に入っていた。従来、日本ではオリンピックの馬術競技には陸軍騎兵隊から選手が選抜されていたが、1937年8月、その陸軍が「東京大会に選手は送らない」と表明、開催が危ぶまれ始めた。続いて風見章内閣書記官長(現在の内閣官房長官に相当)の談話として「政府はオリンピック東京大会を返上する予定」との記事が新聞紙上に掲載され、日本国民に大きな衝撃を与えた。

 9月に入り、帝国議会でオリンピック開催に反対していた河野一郎代議士(注3)の質問に対し、近衛文麿首相、杉山元陸軍大臣は「関係団体と協議の上、近く態度を決定する」と答弁。「従来通り開催」の政府方針から後退した姿勢が示された。

 1938年になると、アジア大陸への侵略を強化する日本に対し、国際世論も厳しさを増した。米国では「日本の財政行き詰まり」を理由に東京大会返上の噂で持ちきりだった。英国アマチュア体育協会は「英国選手たちは日本での大会を支持しない」と表明。この年3月、カイロで開かれたIOC総会では、「大会開始までに日中間の戦争が終息しない場合」について委員から日本に質問が行われたが、日本側は「必ず開催する」としか答えられなかった。だが、1938年7月までに、IOC委員長宛に届いた東京大会反対の電報は150通を超え、1939年1月の大会招請状発送までに戦争が終結しない場合、米国、英国、スウェーデンなどの各国が東京大会をボイコットする可能性をほのめかした。

 事ここに至り、ラツールIOC委員長が「個人的意見」と前置きした上で、「日本側から大会返上を申し出てはどうか」と助言した。米国のIOC委員2名が「アジア諸国への侵略戦争を続ける日本の首都・東京での大会開催は真の国際平和と親善を実現しない」と表明、抗議の辞任をするなどの動きも出て、「戦争を続けながらのオリンピック開催」が不可能であることを、当時の日本政府は悟らされたのである。

 一方、国内に目を転じても、日中戦争遂行のため極端に物資が不足、政府は資材の統制を必要としており、スタジアム建設にも支障が生じていた。東京市は資金調達のための地方債の起債にも困難を生じ、現在で言うところの財政再建団体とほとんど変わらない状況だった。こうして、ついに1938年7月15日、政府は閣議を開催、第12回東京オリンピック大会の中止を正式決定。IOCは開催地をヘルシンキに変更したが、1939年に第2次世界大戦が勃発したため、第12回大会は中止に追い込まれた。

 幻となった第12回東京オリンピックに代わり、日本政府は「紀元2600年奉祝東亜競技大会」を開催したが、日本以外の参加国はフィリピンのほか「満州国」、そして汪兆銘率いる中国(南京政府)のみ。中国(国民党・蒋介石政権)が日本の侵略に対し、当時、首都を重慶に移して抵抗を続ける中、南京政府は日本の後押しによって生まれた政権だ。日本の傀儡政権を除けば、事実上、海外の参加国はフィリピンのみという寂しいもので、大会のパンフレットは物資不足のためザラ紙に印刷されていたという。国際的孤立を深め、政治的にも経済的にも困窮する当時の日本を象徴する出来事だった。

 ●2020年、東京~このままでいいのか?

 2020年のオリンピック夏季大会が東京に決まる過程を見て、当時と似ていると思ったのは私だけではないだろう。関東大震災からの復興が名目の1940年大会に対し、東日本大震災からの復興が名目の2020年大会。アジア侵略戦争という最大の懸念材料を抱えた当時に対し、原発事故という最大の懸念材料を抱える今回。当時も今も同じ破たん寸前の国家財政。途中でローマが辞退したことも当時と同じだ。そして何より共通するのは、オリンピックがその名目とした「復興」が誰のためのものなのか、という根本的な疑問だ。

 2020年東京大会の「返上」を私は荒唐無稽な考え方だとは思わない。当コラムで1940年大会の返上過程を詳しく見たのもそうした問題意識からである。もちろん、当時と今とでは時代背景も国際情勢もオリンピックの開催様式も違いすぎて、同じように論ずることはできないだろう。例えば、平和と国際親善のために資するものでなければならないというオリンピック精神のようなものは、当時は今よりはるかに強かったし、サマランチIOC会長時代以降、極端になったオリンピックの商業主義は、当時ほど容易に大会中止を許さないように思われる。

 だが、例えば原発事故による海洋汚染をめぐり、日本が国家予算の数十~数百倍もの規模の賠償を求められた場合、その賠償を支払いながら兆単位の支出をしてオリンピックを開催することが果たしてできるだろうか。大会開始までに首都圏直下型地震が襲い、破壊されたインフラの再建に数十兆円もの費用が必要となった場合、それでもオリンピックを開催することが可能だろうか。

 財政難でスタジアム建設のための起債にさえ事欠いた当時の状況を「今はそんなことがあるわけない」と笑うことはできない。ただでさえ東日本大震災からの「復興」のため、被災地では極端な資材・建設労働者の不足がすでに起きており、「復興」事業に支障を来すまでになっている。この上オリンピックとなれば、当時のような財政難ではなく建設労働者の不足によって期限までにスタジアムが建たないという事態はあり得るように思うのだ。

 政府は、すでにそうした事態を見越しているように思う。実際、東京オリンピック決定直後の9月12日、NHKニュースはこのように伝えた――『政府の経済財政諮問会議の民間議員を務める東京大学大学院の伊藤元重教授ら4人の民間議員は、2020年に東京で開かれるオリンピックとパラリンピックを安倍政権の経済政策・アベノミクスの「第4の矢」と位置づけた提言をまとめました。提言では、政府が創設を目指す「国家戦略特区」に東京を速やかに指定し、今後3年から4年をめどに、医療や教育、それに都市計画などの分野で大胆な規制緩和を進めるよう求めています。また、競技施設をはじめ、首都高速道路の改修など、インフラの整備にあたっては、財政負担をできるだけ少なくするため、公共施設の建設や運営を民間企業が行う「PFI」と呼ばれる手法を最大限活用することを提案しています』。

 「東京五輪特区」により「東京ではオリンピック開催までの間、建設業関係の資格(クレーン操縦、玉掛けなど)を持っていなくても、誰でも建設業に従事することを認める」などということになりかねない。経済財政諮問会議民間委員の提言は、そうしたことも想定しているものと見ておかなければならない。オリンピックは利権を漁る者たちにとって「宝の山」であり、なんとしても成功させたいからだ。

 これから壮絶な利権争いも始まる。東京都知事はこの利権を差配する立場にあり、オリンピック決定とあわせるように「猪瀬都知事バッシング」が始まったのも、この利権争いが背後にあると見ておかなければならない(医療法人徳洲会グループから猪瀬直樹・都知事への5000万円供与問題の追及に、共産党などよりも自民党などの保守勢力が熱心であることも背後に利権の存在をうかがわせる)。また、この提言を中心になってまとめた伊藤元重東大大学院教授は「TPP交渉への早期参加を求める国民会議代表世話人を務めており、強硬なTPP推進派として知られる。オリンピックとTPPによる利権の二重取りを画策していることは明らかだ。

 オリンピック東京招致委員会の竹田恒和理事長が、開催決定前、ブエノスアイレスで開いた記者会見で「東京は水、食物、空気についても非常に安全なレベル。全く懸念はない」「福島とは250キロ離れている」と発言したことが福島県民から強い反発を招いたが、東京もウクライナの首都・キエフに匹敵する放射能汚染に見舞われている。江東区・江戸川区などの東京都東部を中心に、福島県内に匹敵する高い土壌汚染が検出されている場所もあり、決して安全な水準ではない。

 カヌー(スラローム)競技が開催予定の葛西臨海公園は貴重な野鳥の生息地でもあり、日本野鳥の会が「会場建設による影響は公園全体の生態系に及び、多くの生き物の生息が脅かされる」として予定地変更を求める声明を発表している。たった5日間だけのカヌー競技のために貴重な野鳥の宝庫をつぶすなど言語道断だ。問題だらけの東京五輪は中止を含め再検討するよう、当コラムは強く求める。

注1)原語では、”Where there's a will, there's a way.”である。
注2)『続・わが闘争』平野一郎訳、角川文庫。
注3)政友会(戦後は自民党)衆議院議員。河野洋平元衆院議長の父、河野太郎衆議院議員の祖父。

<参考文献・資料>
「中悪」と「意志の勝利」(斉藤美奈子・著、共同通信コラム「現論」2013年)
・オリンピックの政治学(池井優・著、丸善ライブラリー、1992年)

(2013.12.15 黒鉄好)

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【重要発表】第12回「失敗学会」年次大会で、当ブログ提供の写真を使用した発表が行われます

2013-12-16 21:50:22 | 原発問題/一般
管理人よりお知らせです。

12月21日、東京都内で開催される第12回「失敗学会」年次大会において、当ブログ提供の写真を使用した発表が行われます。

当ブログ提供の写真が使われるのは、リンク先の第12回失敗学会年次総会における発表のうち、吉岡律夫さんの「『私、失敗しないので』・・・と反省しない人達~原発事故と震災遺構から考える~」です。この発表において、当ブログ管理人が撮影した「営団地下鉄日比谷線事故現場の慰霊碑」の写真が使用されます(関連記事:日比谷線事故現場を初めて見る。なお、使われる写真はこの記事のものとは別です)。

失敗学会会長理事の畑村洋太郎さんは、福島原発事故に関する政府事故調査委員会の委員長を務めました(そのため、政府事故調は「畑村委員会」と通称されることがあります)。また、吉岡さんは、事故を起こした福島第1原発3号機の設計に関わった元東芝の原子炉技術者で、現在は(株)日本システム安全研究所に勤務の傍ら、失敗学会の理事も務められています。

吉岡さんは、今回の発表に当たり「日本は事故・災害の慰霊碑は世界一多いのに、事故の検証はなぜ世界一遅れているのか」との強い問題意識をお持ちだとのことでした。もし、「犠牲者を祀り上げることで加害者が責任を回避する社会風土」に対する問題意識であるとするならば、きわめて興味深いと思います。当ブログとしても、そうした問題意識には大いに賛同できることから、今回、写真提供に同意することとしました。

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【管理人よりお知らせ】11月22日、札幌での講演会の資料をアップしました

2013-12-15 23:40:29 | 原発問題/一般
管理人よりお知らせです。

やや遅くなりましたが、11月22日、当ブログ管理人が札幌市内で講演した際の資料「大手メディアが伝えない福島~告訴・告発運動と福島の現状」を「罪団法人 汽車旅と温泉を愛する会」非鉄道系コンテンツコーナーにアップしましたのでお知らせします。

資料はPDF版です。直接行く方はこちらをクリックしてください。なお、直接クリックしても開かない場合は、「汽車旅と温泉を愛する会」非鉄道系コンテンツ内に新たに設置した原発問題資料集コーナーから見ることができます。この原発問題資料集コーナーには、当ブログ管理人が過去に行った講演の資料も併せて掲載しました。内容はだいぶ古くなっていますが、福島の現状は現在もほぼ変わっていません。今後の福島を考えるための参考には十分使えると思いますので、どうぞご覧ください。

なお、「汽車旅と温泉を愛する会」非鉄道系コンテンツの今後の更新はしないつもりでしたが、当ブログが画像以外の形式のファイルを掲載できないこともあり、今後、こうした形での更新を行うことがありますのでご承知ください。テキストによるコンテンツについても、必要と判断したものは掲載していく方針です。

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【JR北海道安全問題】沈黙を続けていた同社労働組合にようやく動き

2013-12-12 23:19:48 | 鉄道・公共交通/安全問題
「JR北海道の信頼回復と再生を目指す11.17集会」を開催~「JR北海道再生プラン」を提起(JR北海道労働組合)

JR北海道再生プランの概要

第三者機関の設立、中途採用の拡大 JR北労組が独自再生計画(北海道新聞)

JR北海道での一連の事故から4ヶ月を経て、ようやく労働組合が動き出した。

11月16日に札幌で開催された「JR問題を考える学者・弁護士の会」主催のシンポジウムで工藤義明・国労北海道地本書記長が「安全問題は労使の枠を超えた取り組みが必要。会社に提言を続けたい」と発言した(サムネイル写真の記事参照)。JR北海道労組(JR連合系、少数派組合)も11月17日に「JR北海道の信頼回復と再生を目指す11.17集会」を札幌市内で開催、「安全が全てに優先される企業風土の確立」「技術継承を重視した人材育成・人事運用」「安全確立と風土改革の取り組みを検証する第三者機関の設立」等を求める8項目からなる「JR北海道再生プラン」を公表した。

JR北海道労組は旧鉄労、鉄産労(国鉄分割民営化時の国労脱退組)で構成された経緯もあり、提言内容が若干、内向きの印象を受ける。公共交通の維持、経営形態の変更などに踏み込まない弱点も見られるものの、現場からの提言であり、当ブログと安全問題研究会は、今後の推移を見守るとともに、今後、各労組との連携を模索していきたいと考えている。

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【管理人よりお知らせ】福島原発告訴団が、18日、汚染水問題で第2次告発を行います

2013-12-10 23:57:09 | 原発問題/一般
管理人よりお知らせです。

福島原発告訴団が、12月18日、汚染水問題で東京電力関係者に対する第2次告発を行います。

告発容疑は「人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律」(公害罪法)違反であり、第1次告発はすでに9月、告訴団長ら3名で福島県警に対し行っています。今回の第2次告発は、全国に告発人を広げる形で行われます。当ブログ管理人も今回の告発に参加しています。

なお、当日は記者会見と報告集会も併せて行われます。詳しくは、福島原発告訴団サイトの記事でご確認ください。

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