学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

小説家の阿川弘之さん

2015-08-06 22:03:23 | 読書感想
今朝、ニュースを見ると、小説家の阿川弘之さんが亡くなったと報道されていました。

書籍を読んだことのある小説家が亡くなるのは、長い付き合いのあった友人を失ったかのように悲しい。

私が阿川さんの名前を初めて知ったのは、中学生の時分のこと。

遠藤周作さんのエッセイに登場する阿川弘之さんでした。

それは遠藤さんと阿川さんの恐怖体験で、2人がそろって幽霊を見たので、怖くなって外に飛び出して逃げたような話だったと記憶しています。

そのときは、なんだか愉快な2人だなあ、と思うのみで。

それから数年がたって、初めて読んだ著作が『井上成美』でした。

井上成美は海軍大将。阿川さんは取材を元にして、井上の評伝を書き上げたのでした。


一時期、私は自分はどうあるべきなのか、必死に悩んで毎日暮らしていた時期があります。

そのとき、手に取った本が『井上成美』だったのです。

阿川は井上の武勇伝ではなく、人間、そして教育者としての井上にスポットを当てています。


広く世界を見渡して物事を考えることの出来る良い意味での国際人にならなくてはいけない。

人間はジェントルマン、あるいはレディでなければならぬと、日頃の立ち振る舞い、言葉遣いを徹底する。

英語を学ぶことで、視野が広くなる。ゆえに文法から発音に至るまで基本を叩き込む。

人生には笑いとゆとりが必要である。ガチガチの指導は生徒が委縮する。


こうした阿川さんの筆で書かれる井上像には、随分教えられることがありました。

『井上成美』は私にとって大切な本となったのです。


阿川さんに心から感謝をするとともに、ご冥福をお祈り申し上げます。