語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>中間貯蔵に関するユニークな提案 ~政策転換を促す建白書~

2011年10月04日 | 震災・原発事故
 福島原発震災は、日本の技術の問題点を暴いた。原発推進派とて、この事実は認めるだろう。
 産+官+学+マスコミの原発推進共同体が、根源的な危険や未解決の問題に目をつぶって(あるいは気づかずに)暴走してきた。この点についても議論の余地はあるまい。
 にもかかわらず、「エネルギー基本計画」(10年6月閣議決定)の見直しは進まない。30年に電力供給の原発依存度50%(従来は30%)と展望する長期計画は、そのまま放置されている。
 
 9月3日、中川正春・文部科学相は高速増殖原型炉「もんじゅ」の研究開発費を来年度も引き続き計上する意向を明らかにした。
 「もんじゅ」は、1967年の計画では80年代には実用化のはずが、今に至るまで稼働していない。蟻地獄のように血税1兆円を呑みこみ、来年度予算でさらに200数十億円を食らう。
 原発震災により他の巨大技術とはまったく異質の破滅的な危険を思い知らされたのに、行政はなぜ、かくも政策転換に後ろ向きなのか。
 原因は明らかだ。
 (a)役人は、国策変更で電力会社の投資を煽った責任を問われたくない。核燃料サイクル路線の誤りを認めたくない。
 (b)電力会社は当然、問題を理解しているが、止めたいと言い出しっぺになって、すべての責任を負いたくない。
 (c)原発の立地自治体は、原発が生む雇用・消費に依存するシステムに浸りきっている。
 (d)脱原発は、重電メーカーなど関連産業の活動に冷や水を浴びせ、巨額の損失を強いる。
 これだけの守旧体制を壊し、立て直すには並々ならぬ政治力が必要だ。が、新政権は出足から心許ない。原発担当閣僚は、早々と子どもじみた舌禍で自滅し、首相はアフターケアに追われた。これが野田ノーサイド政治の現実だ。そして、ノーサイドと無節操は紙一重だ。

 民主党代表選(8月29日)に先立ち、永田町・霞が関界隈に、原発政策転換を促す無署名“建白書”が出回った。A4版23ページ。題していわく、「原子力発電のバックエンド問題について」。
 燃料サイクル構想の技術は未完成で、完成の見通しはない。いさぎよく現実を見つめ、無責任な国策はもう止めよう。・・・・これが建白の趣旨だ。
 文書の本編は、燃料サイクルにお墨付きを与えた「05年原子力政策大綱」の検討プロセスに対する詳細な批判だ。それを踏まえ、次のとおり提案する。
 (1)もんじゅは廃止。
 (2)六ヶ所村再処理工場も廃止。
 (3)使用済み燃料の中間貯蔵実施。
 (4)原子炉の廃炉や、放射性廃棄物の毒性を下げる技術開発のための研究機関創設。
 注目すべきは(3)だ。中間貯蔵の場所を決める一案としてユニークな提案を織り込んだ。「原因者負担、受益者負担の考え方から、各都道府県に使用済み核燃料の引取・保管義務を負わせる」
 しかも、温室効果ガスの排出取引にならい、「都道府県間の取引は容認」するというのだ。
 04年春、永田町・霞が関に怪文書が出回った。「原子力発電のバックエンド問題について」A4版25ページがそれだ。経産省・資源エネルギー庁の非主流派による内部告発だった。その7年ぶりの続編が、このたびの建白書かもしれない。

 以上、山田孝男(毎日新聞政治部専門編集委員)「」(「週刊エコノミスト」2011年9月27日号)に拠る。
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【社会保障】介護職の離職率を減らす試み

2011年10月04日 | 医療・保健・福祉・介護
 ここ数年、景気低迷による雇用情勢の悪化により、介護職から他の業界に転出する者が減り、離職率は減少傾向にあった。
 しかし、介護労働安定センター「各年版労働実態調査結果」によれば、訪問介護及び介護職の離職率が高くなった(21年度17.0%、22年度17.8%)。ちなみに、全産業平均離職率は、21年度16.4%、22年度14.5%だ。
 不況下、介護職の有効求人倍率1.0超、離職率上昇・・・・ということは、依然として介護職の雇用環境が悪いということになる。
 要因は、周知のとおり、業務量に比べて賃金が良くないことだ。「命」を扱い、夜勤のような変則業務でありながら、年収は平均300万円以下だ。労働対価として合わない、と感じている者が多いだろう。しかも、賃金上昇は、国や自治体の財政状況からして見こみ薄だ。

 そこで、賃金面とは別の視点で介護職の魅力を現場で浸透させる試みを行っているのが、「豊島区福祉事業所の会」だ。
 区内の介護保険、障害者福祉など福祉関係の有志がネットワークを広げ、「楽しい」「やりがい」のある環境にしていくことで、少しでも労働環境をよくしていこうとする。賃金水準は低くても、「働きやすい」「仲間がいて楽しい」「やりがいのある仕事ができる」といった条件が整えば、定着率が高まる、と介護事業所の経営者らは考える。
 福祉関係の仕事では、各事業所間のやりとりが頻繁だ。<例>訪問介護事業所、介護施設、福祉用具事業所、訪問看護ステーション、配色弁当屋など。
 他社とのネットワークが強化されれば、スムースに仕事が運ぶ。その一助となるべく「豊島区福祉事業所の会」が活動するのだ。
 具体的には、バーベキュー大会などのイベントだ。毎回50人近くが集まる。

 区役所の主管課が主催する事業所間の会もあるが、事務連絡の提供の場という側面が強く、親しい人間関係を築くに至らない。
 事業所自ら主催し、会を運営し、各イベントや研修テーマを自ら企画したほうが、働く人のニーズに応えられる。時にはサークル気分を味わえる場を提供できる。そして、仕事上の悩みを互いに語りある機会ともなる。同業者でなければ理解してもらえない悩みがあるのだ。
 事業所内人間関係の構築モデルは、産業界全体でも言われる。しかし、福祉業界では、事業所外のネットワークづくりも重要な視点なのだ。こうした問題意識が、福祉関連業界の経営者に求められている。

 以上、結城康博「介護職の離職率を減らす試み ~医療・介護はカネ次第!NO.153~」(「サンデー毎日」2011年10月9日増大号)に拠る。
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