語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】片山善博前総務相の、復興対策が遅れた真の原因 ~財務省~

2011年10月25日 | 震災・原発事故
●総務省の改革
 1年は短かったが、これだけはやりたいと思っていたことは、できた。力を入れたのは総務省の体質改善だ。組織として仕事をしようとすれば、トップである大臣と官僚がミッション(使命)を共有しなければいけない。その気になってもらうために、官僚たちと徹底的に議論した。【片山】
 補助金は各省の縦割りで使途が決められ、年度内に使い切る仕組みだ。使い勝手は悪く、無駄も生じる。こうした弊害をなくそうというのが一括交付金化で、まず都道府県のハード事業を対象におこなった。私が就任した時点で決まっていたのは28億円分だったが、菅首相の強い指示、馬淵国土交通相、鹿野農林水産相などの協力を得て、5,120億円まで積み上げた。【片山】

●東日本大震災をきっかけに、地方分権のありようが変わることはないか。 【宇野】
 被災した自治体の多くが、住民と意思疎通を図って復興計画をつくろうとしている。いいことだ。阪神大震災では、神戸市が住民の意見も聞かずに復興計画をつくった。結果として、住民の孤独死を招いたりした。このことへの反省がある。財政支援の枠組みは国が決め、自治体が主体的に計画を決めるという道筋だが、肝心の国の対応が鈍い。【片山】
 この国会の争点である第3次補正予算案は4月にでもつくるべきだった。早く決めましょう、と私は言い続けたが、財務省が震災を機に増税することにこだわり、進まなかった。復興事業は、お金のあるなしで左右される代物ではない。国債を使って一日も早く補正予算を組まないといけない。しかるに、復興のためなら国民も増税に応じるはず、と財務省は復興を人質にとったのだ。【片山】

●民主党内では、(a)地域主権こそが大事という考えと、(b)増税なくして復興なしという財務省的な考えが緊張関係にあった。野田政権では財務省側にシフトしたのか。【宇野】
 多くの与党議員が財務省にマインド・コントロールされている、としか思えなかった。メディアも同じだ。救急病院に重篤な患者が運び込まれているのに、治療費の返済計画を家族が提出するまで待たせておけ・・・・というようなものだ。異様だ。世の中がそれを異様だと言わないところが、また異様だ。【片山】

●復興のための増税のはずなのに、増税自体が自己目的化している。【宇野】
 赤字国債を年40数兆円出しているのに、財務省はその返済財源について口にしない。ところが、復興予算とB型肝炎の関連予算には、執拗に財源を求める。異様だ。閣議などで私がそう指摘すると、「財源なしに予算を組むのは無責任だ」と主張したのが、当時の野田財務相と与謝野経済財政相だった。財務官僚の論理を野田財務相が代弁し、与謝野経済財政相が補強し、菅首相までものんでしまった。【片山】
 復興の遅れを、菅首相の6月2日の辞意表明以降の政治空白のせいにする人がいるが、それは的外れだ。真の原因は、財務省のヘンテコな論理を菅首相がとがめなかったところにある。その意味では、菅首相は判断を誤った。【片山】
 野田政権になって、ほとんど自民党時代に戻ってしまった。野田首相とは、菅内閣で1年間付き合ったが、財務官僚が設定した枠を超えられなかった。【片山】

 以上、語り手:片山善博(慶応大教授)/聞き手:宇野重規(東京大学教授)「片山善博さんに聞く地域主権と官僚機構」(2011年10月25日付け朝日新聞)に拠る。
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