(1)日本経済の蛸壺的構造
「囲い込みとすみ分け」の経済体制は、「利用者・顧客を囲い込んで、市場を分割する。供給者はすみ分ける」というシステムだ。いくつかの縦割りグループが併存する「蛸壺経済」だ。蛸壺は分業せず、ある事業分野では、複数の蛸壺が同じ事業を行っている。
日本経済で広く見られる現象だ。第2次世界大戦後の日本経済の基本的な構造だ。
<例>発送電独占、地域独占の電力。
<他の例>携帯電話と初期のPC。顧客の囲い込みはより緩やかだが、マスメディア(全国紙と系列テレビ局)、金融機関を中心とする系列、電鉄と不動産開発事業。強固な垂直統合企業グループを形成している自動車メーカーと系列部品メーカー。
つまり、日本列島という「ガラパゴス諸島」は、大小の蛸壺が並んでいる場所なのだ。グループの構成員の生活の糧は、蛸壺においてしか得ることはできない。
壺に入れてもらえない人は、よく言えば「自由人」だが、その実体は「はぐれ者」ないし「部外者」だ。「非正規労働者」と呼ばれる場合もある。
(2)「囲い込みとすみ分け」を可能とする3条件
(a)国内市場の規模が十分に大きいこと。分割された各市場が、採算のとれる経済活動を可能にするだけの大きさを持つこと。
(b)標準化やモジュール化を妨げる技術的要因があること。新規参入を困難にする技術的・自然的制約が存在すること。
(c)技術が安定的であること。
<典型例>電力。(a)各電力会社の管内は十分に大きい。(b)周波数の違いが西と東を分けているし、島国だから外国から送電線を引けない。(c)これまでは大きな技術変化はなかった(ただし、スマートグリッドは大変化をもたらす潜在力を持つ)。
他の分野では、電力におけるほど「すみ分け」は安定的でない。だから、蛸壺間の競争は起きる。ただし、その場合の目標は利益ではなく、シェアになる。つまり、勢力圏の拡大が重要な課題だ。
注1・・・・3条件のすべてが必要条件というわけではない。携帯電話の場合、(a)は満たされているが、(b)は満たされていない。携帯電話は、本来はPCと同じように互換性があるものだ。SIMロックは、互換性をなくすための人為的な手段だ。
注2・・・・それぞれの蛸壺の中も、決して均一ではない。派閥、部門間対立、複数の専門家集団間の争いがある。だから、すみ分けは多層構造をなす。ただし、部外者からは「企業グループ」という一つの蛸壺に見える。
注3・・・・さらに日本語がかかわると、「囲い込みとすみ分け」が生じやすくなる。外国との競争が起こりえないからだ。<典型例>マスメディア。
(3)「囲い込みとすみ分け」がもたらす巨利とそのシステムの崩壊
すみ分けシステムでは、競争は悪として否定される。それを表すため、しばしば「過当競争」という言葉が使われる。
競争否定を正当化するために用いられるのが、「安定と秩序」だ。その反面で、競争がもたらす発展可能性と効率化は無視される。
<例>電力。「安定的な電力供給」が金科玉条とされる。「停電が一切生じない電力供給は、地域独占によってこそ実現できる」という論理だ。問題は、多大なコスト負担だ。日本の電気料金はアメリカのほぼ2倍だ。そして、地域独占下では消費者に選択の余地はない。
かくして、すみ分けシステムは供給者に過剰な利益をもたらす。競争があれば発生しえない「レント(超過利潤)」だ。これは外部者には見えない。東京電力がどれだけ巨額のレントを享受していたかは、福島原発事故で東電が生体解剖されることによって、初めて見えるようになってきた。
すみ分けシステムの安定した状態を破壊するのは技術だ。<例>PC。スマートフォンは日本のすみ分け体制を壊そうとしている。そして、スマートグリッドの進歩は、電力の地域独占体制を正当化する論理を破壊する可能性がある。
1990年代以降の技術は、日本に不利に変わってきた。<例>IT。囲い込み・すみ分け文化とは親和性がない。だから、日本は対応できなかった。
実は、そうした変化がIT以外の分野でも生じる可能性がある。
以上、野口悠紀雄「囲い込みとすみ分けの「蛸壺経済」体制 ~野口悠紀雄の「震災復興とグローバル経済――日本の選択」第19回」(「東洋経済」11/10/24 | 12:18)に拠る。
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「囲い込みとすみ分け」の経済体制は、「利用者・顧客を囲い込んで、市場を分割する。供給者はすみ分ける」というシステムだ。いくつかの縦割りグループが併存する「蛸壺経済」だ。蛸壺は分業せず、ある事業分野では、複数の蛸壺が同じ事業を行っている。
日本経済で広く見られる現象だ。第2次世界大戦後の日本経済の基本的な構造だ。
<例>発送電独占、地域独占の電力。
<他の例>携帯電話と初期のPC。顧客の囲い込みはより緩やかだが、マスメディア(全国紙と系列テレビ局)、金融機関を中心とする系列、電鉄と不動産開発事業。強固な垂直統合企業グループを形成している自動車メーカーと系列部品メーカー。
つまり、日本列島という「ガラパゴス諸島」は、大小の蛸壺が並んでいる場所なのだ。グループの構成員の生活の糧は、蛸壺においてしか得ることはできない。
壺に入れてもらえない人は、よく言えば「自由人」だが、その実体は「はぐれ者」ないし「部外者」だ。「非正規労働者」と呼ばれる場合もある。
(2)「囲い込みとすみ分け」を可能とする3条件
(a)国内市場の規模が十分に大きいこと。分割された各市場が、採算のとれる経済活動を可能にするだけの大きさを持つこと。
(b)標準化やモジュール化を妨げる技術的要因があること。新規参入を困難にする技術的・自然的制約が存在すること。
(c)技術が安定的であること。
<典型例>電力。(a)各電力会社の管内は十分に大きい。(b)周波数の違いが西と東を分けているし、島国だから外国から送電線を引けない。(c)これまでは大きな技術変化はなかった(ただし、スマートグリッドは大変化をもたらす潜在力を持つ)。
他の分野では、電力におけるほど「すみ分け」は安定的でない。だから、蛸壺間の競争は起きる。ただし、その場合の目標は利益ではなく、シェアになる。つまり、勢力圏の拡大が重要な課題だ。
注1・・・・3条件のすべてが必要条件というわけではない。携帯電話の場合、(a)は満たされているが、(b)は満たされていない。携帯電話は、本来はPCと同じように互換性があるものだ。SIMロックは、互換性をなくすための人為的な手段だ。
注2・・・・それぞれの蛸壺の中も、決して均一ではない。派閥、部門間対立、複数の専門家集団間の争いがある。だから、すみ分けは多層構造をなす。ただし、部外者からは「企業グループ」という一つの蛸壺に見える。
注3・・・・さらに日本語がかかわると、「囲い込みとすみ分け」が生じやすくなる。外国との競争が起こりえないからだ。<典型例>マスメディア。
(3)「囲い込みとすみ分け」がもたらす巨利とそのシステムの崩壊
すみ分けシステムでは、競争は悪として否定される。それを表すため、しばしば「過当競争」という言葉が使われる。
競争否定を正当化するために用いられるのが、「安定と秩序」だ。その反面で、競争がもたらす発展可能性と効率化は無視される。
<例>電力。「安定的な電力供給」が金科玉条とされる。「停電が一切生じない電力供給は、地域独占によってこそ実現できる」という論理だ。問題は、多大なコスト負担だ。日本の電気料金はアメリカのほぼ2倍だ。そして、地域独占下では消費者に選択の余地はない。
かくして、すみ分けシステムは供給者に過剰な利益をもたらす。競争があれば発生しえない「レント(超過利潤)」だ。これは外部者には見えない。東京電力がどれだけ巨額のレントを享受していたかは、福島原発事故で東電が生体解剖されることによって、初めて見えるようになってきた。
すみ分けシステムの安定した状態を破壊するのは技術だ。<例>PC。スマートフォンは日本のすみ分け体制を壊そうとしている。そして、スマートグリッドの進歩は、電力の地域独占体制を正当化する論理を破壊する可能性がある。
1990年代以降の技術は、日本に不利に変わってきた。<例>IT。囲い込み・すみ分け文化とは親和性がない。だから、日本は対応できなかった。
実は、そうした変化がIT以外の分野でも生じる可能性がある。
以上、野口悠紀雄「囲い込みとすみ分けの「蛸壺経済」体制 ~野口悠紀雄の「震災復興とグローバル経済――日本の選択」第19回」(「東洋経済」11/10/24 | 12:18)に拠る。
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