語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~

2014年04月04日 | 社会
 (1)2つの政治資金疑惑事件(猪瀬直樹・前東京都知事と渡辺喜美・みんなの党代表)は、類似性が高い。
 猪瀬5,000万円、渡辺8億円なので、渡辺は猪瀬よりいっそう罪が重い、という論調も多い。
 一方、猪瀬は資金のやり取りを現ナマで行い、貸金庫に隠していたのに対して、渡辺は銀行口座振込みで行っている点で大きな相違がある。少なくとも、資金をもらっていたか否かについては争う余地がないし、いつそのカネを引き出したか、通帳を見れば一目瞭然だ。
 ただし、その先、何に使ったか、わからない。資金使途を訊かれて、大きな熊手、と答えられる仕組みだ。

 (2)過去の闇資金疑惑で立件されたケースでは、銀行口座は使わず、現ナマを裏で動かすのが普通だった。やましいカネだから、隠す。逆に言えば、隠せるから、悪いことができる。
 では、隠すことのできない仕組みは作れないか。

 (3)(2)の問いに関連して、政府税制調査会で非常に重要な議論が交わされている。「マイナンバー」制度に係る議論だ。
 2016年から、国民一人一人に識別番号がつけられる。
 この制度構築のために1,000億円単位の巨額の費用がかかり、維持更新のために永遠にITゼネコンにカネが落ち続ける。これは総務省の大きな利権となり、関連団体への天下りを助長する。
 では、何がメリットかというと、引っ越しの際の届出における提出資料が少なくなる、などと宣伝されている。逆に言うと、それくらいしかメリットがない。
 さらに、国家によるプライバシー侵害につながる、という強い批判もある。
 こんな制度なら止めたほうがよさそうだが、本当はみんなが喜ぶ有効な活用法がある。
 それは、脱税摘発、政治資金規制強化、不正診療報酬請求摘発、本当に貧しい人に限定した手厚い支援など、庶民から見れば是非やってくれ、という話ばかりだ。

 (4)マイナンバー活用のためには、すべての銀行口座を名寄せしてマイナンバーとリンクさせることが必要だ。ところが、コストと手間がかかる、という銀行業界の反対で、政府税調では、新規開設口座だけをマイナンバーにリンクすることで妥協した。
 しかし、本来は、一日も早く「すべての」口座の名寄せとマイナンバーとのリンクを実現させなければならない。その上で、一般国民に先立って、まず政治家にマイナンバーを適用する。
  (a)政治家限定なら、「プライバシー侵害」という反対も出ないだろう。
  (b)政治資金収支報告、選挙活動資金収支報告、議員の資産報告をすべてマイナンバーとリンクして監視する制度を導入する。
  (c)政治家はすべての出入金を銀行口座を通して行い、支出は原則としてクレジットカードまたは銀行口座振り替えで行うことも義務づける。
  (d)さらに、政治家の資金貸借には、契約書の作成・公表を義務づける。そして、借り入れ金額にも数千万円程度の上限を設ける。
 以上のようにすることで、何か問題がありそうだ、という際には、非常に効率的に捜査できる。
 今なら、野党の議員提案が出れば、国民は支持するだろう。野党も、少しは存在意義を示すがよい。

 (5)渡辺の8億円問題でマスコミが盛り上がっている中、猪瀬の件は略式起訴で終わった。事件の詳細が法廷で明らかにされないまま、完全幕引きとなる。
 徳洲会マネーの全容を解明せよ、という世論が盛り上がるのではないか、と恐れて、これまで息を潜めていた自民党などの徳洲会マネー議員は、みな生き延びる。その上、弱体野党はさらに弱体化していく。
 安部自民への順風は、いつまで吹き続けるのか。

□古賀茂明「渡辺・猪瀬問題と「マイナンバー」 ~官々愕々第104回~」(「週刊現代」2014年4月12・19日号)
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