(1)特定秘密保護法案は、2013年12月6日、参議院での自公による「強行採決」によって成立した。
この前後、テレビ報道の検証が行われた。
(a)期間・・・・同年10月6日から12月10日。
(b)モニター・・・・①ニュース:「NHKニュース7」と「ニュースウォッチ9」。②番組:「クローズアップ現代」と「時論公論」。
(2)「クローズアップ現代」は、特定秘密保護法案を一度も取り上げなかった。臨時国会の焦点に浮上し、反対運動も大きく展開されたこの法案を、この番組はまったく無視した。安倍政権を意識し、自己規制が強まっている(疑い)。
(3)「時論公論」は、(1)-(a)の期間中、この法案を4回取り上げた。出演した各解説委員は、批判的視点を明確にした論評を加えている。
<例1>この法案は当初から国民の知る権利を侵すという懸念が指摘されていた。(12月5日)
<例2>「由らしむべし、知らしむべからず」という現代民主主義社会では到底認められない発想に基づく。もう一つ、審議は尽くされたのか。(12月6日)
しかし、法案成立前後の終盤でなく、もっと早い時期に指摘できなかったのはなぜか。
(4)「NHKニュース7」は、(1)-(a)の期間中、計26回にわたって法案関連のニュースを伝えたが、法案の中身に係る説明、解説は政府関係者の発言や資料に基づいた発表ものがほとんどだった。キャスターがフリップなどを使って政府側の説明を逐一補強するという念の入れようだった。
なかでも臨時国会閉会を受けての安部首相会見のニュース(12月9日)では、
・法律の施行によって「秘密の範囲が際限なく広がることはない」
・「国民の通常の生活が脅かされることはない」
などのフレーズを会見の音声とキャスターコメントで4、5回も繰り返した(異常な伝え方)。
(5)「ニュースウォッチ9」も、法の目的や条文解説は、政府説明をなぞってそのままコメントした(10月17日)。
法案解説は政府説明の丸写しに加えて、法案の必要性を首相・外相・防衛相の3人がかりのコメントで強調した(10月25日)。視聴者には、政府広報のように感じられる構成だった。
参議院国家安全保障特別委員会で強行採決された法案解説で、相変わらず政府説明のオウム返し(12月5日)。反対の声が高まり、法案への厳しい批判が展開されているにもかかわらず、それには一切触れずに政府の趣旨説明どおりの解説は、政府寄りの報道姿勢を改めて浮き彫りにした。
(6)「ニュースウォッチ9」は、「衆院通過」のタイトルで朝から強行採決に至るまでの国会の動きを詳細に伝えた(11月26日)。しかし、ひたすら事実報道に徹し、「強行採決」の用語は一言もなかった。
参院特別委員会強行採決の一日を詳細に追った日(12月5日)、VTR取材では、採決に反対する声を野党、沖縄・福島など地方を含めて丁寧に拾っている。委員会の強行採決ぶりは、ポイントをおさえて報じている。しかし、この日も、字幕・コメントとも「強行採決」を一切使わなかった。
参議院本会議を通過した日(6日)、「採決をめぐって」と題する法案成立直前の一日を報道。この日も「強行採決」の表現はなかった。
国会内の動きを批判的視点抜きでひたすら事実報道するだけでは、視聴者には自公の強引な議会運営・強行採決の異常さは伝わらない。
(7)「ニュースウォッチ9」、10月17日、
(a)<安全保障の強化に不可欠として安部首相が強い意欲を示す「特定秘密法案」>と政権の意図だけを強調(井上あさひ・キャスター)。
(b)<国民の知る権利との兼ね合いで議論を呼んでいる法案だが、政府は公明党の主張に大幅に譲歩し大筋で合意。政府・与党一体でこの法案の成立を期す体制を整えた>と、政府・与党の動きと意気込みばかりを取り出して伝えた(大越健介キャスター)。
(8)「ニュースウォッチ9」、12月5日、<ここまで議論してきて、民主党を含めて一定の「秘密」の保全は必要だということろまでは共通基盤がある>。
同、12月6日、<同盟国アメリカなどと、できるだけ高度の情報共有するために、秘密とすべき情報がいたずらに漏れる事態をなくすべき、という認識は多くの政党が共有している>。
法案に反対する野党の存在を無視し、「強行採決」にも目をつむり、あたかも「秘密保護法は必要」というコンセンサスができたと錯覚させるようなコメントばかりだ。
国会の外では、連日、各地の市民が抗議運動を繰り広げ、「安保闘争以来」と言われるほど反対の声が高まった。12月世論調査で法案「反対」が50%(2日付け朝日新聞)、9月の政府パブリックコメントでも反対77%、という根強い反対の数字と合わせて考えれば、井上・大越のキャスターコメントは明らかに世論と乖離した政権寄りコメントだ。
(9)政府発表の裏にある法案の危険性を掘り起こす調査取材は皆無に近かった。
(1)-(a)の期間中、)「ニュースウォッチ9」は20回秘密保護法を取り上げたが、独自取材・調査報道は米国の秘密指定を監視する国立公文書館・情報保全監察局の調査報道など4例に過ぎなかった。
政府広報化し、結果として安倍政権の世論操作の片棒を担わされた秘密保護法報道により、NHKのニュース報道は視聴者の期待を大きく裏切った。
□放送を語る会/レポート再構成:編集部「世論から乖離した大越健介キャスターの政権すりより “政府広報化”際立つNHK」(「週刊金曜日」2014年3月28日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【NHK】波乱の「籾井新体制」スタート ~「世界」のメディア批評~」
「【NHK】誤報の隠蔽 ~タガのはずれた安部政権~」
「【NHK】呆れた新会長会見、幼稚で傲慢な偏向報道」
「【NHK】籾井会長の就任会見発言 ~どこが「間違いだらけ」か~」
「【NHK】支配計画 ~安倍晋三政権の計算がずれはじめた~」
「【NHK】権力と癒着し続けた歴史 ~NHK会長~」
「*」
この前後、テレビ報道の検証が行われた。
(a)期間・・・・同年10月6日から12月10日。
(b)モニター・・・・①ニュース:「NHKニュース7」と「ニュースウォッチ9」。②番組:「クローズアップ現代」と「時論公論」。
(2)「クローズアップ現代」は、特定秘密保護法案を一度も取り上げなかった。臨時国会の焦点に浮上し、反対運動も大きく展開されたこの法案を、この番組はまったく無視した。安倍政権を意識し、自己規制が強まっている(疑い)。
(3)「時論公論」は、(1)-(a)の期間中、この法案を4回取り上げた。出演した各解説委員は、批判的視点を明確にした論評を加えている。
<例1>この法案は当初から国民の知る権利を侵すという懸念が指摘されていた。(12月5日)
<例2>「由らしむべし、知らしむべからず」という現代民主主義社会では到底認められない発想に基づく。もう一つ、審議は尽くされたのか。(12月6日)
しかし、法案成立前後の終盤でなく、もっと早い時期に指摘できなかったのはなぜか。
(4)「NHKニュース7」は、(1)-(a)の期間中、計26回にわたって法案関連のニュースを伝えたが、法案の中身に係る説明、解説は政府関係者の発言や資料に基づいた発表ものがほとんどだった。キャスターがフリップなどを使って政府側の説明を逐一補強するという念の入れようだった。
なかでも臨時国会閉会を受けての安部首相会見のニュース(12月9日)では、
・法律の施行によって「秘密の範囲が際限なく広がることはない」
・「国民の通常の生活が脅かされることはない」
などのフレーズを会見の音声とキャスターコメントで4、5回も繰り返した(異常な伝え方)。
(5)「ニュースウォッチ9」も、法の目的や条文解説は、政府説明をなぞってそのままコメントした(10月17日)。
法案解説は政府説明の丸写しに加えて、法案の必要性を首相・外相・防衛相の3人がかりのコメントで強調した(10月25日)。視聴者には、政府広報のように感じられる構成だった。
参議院国家安全保障特別委員会で強行採決された法案解説で、相変わらず政府説明のオウム返し(12月5日)。反対の声が高まり、法案への厳しい批判が展開されているにもかかわらず、それには一切触れずに政府の趣旨説明どおりの解説は、政府寄りの報道姿勢を改めて浮き彫りにした。
(6)「ニュースウォッチ9」は、「衆院通過」のタイトルで朝から強行採決に至るまでの国会の動きを詳細に伝えた(11月26日)。しかし、ひたすら事実報道に徹し、「強行採決」の用語は一言もなかった。
参院特別委員会強行採決の一日を詳細に追った日(12月5日)、VTR取材では、採決に反対する声を野党、沖縄・福島など地方を含めて丁寧に拾っている。委員会の強行採決ぶりは、ポイントをおさえて報じている。しかし、この日も、字幕・コメントとも「強行採決」を一切使わなかった。
参議院本会議を通過した日(6日)、「採決をめぐって」と題する法案成立直前の一日を報道。この日も「強行採決」の表現はなかった。
国会内の動きを批判的視点抜きでひたすら事実報道するだけでは、視聴者には自公の強引な議会運営・強行採決の異常さは伝わらない。
(7)「ニュースウォッチ9」、10月17日、
(a)<安全保障の強化に不可欠として安部首相が強い意欲を示す「特定秘密法案」>と政権の意図だけを強調(井上あさひ・キャスター)。
(b)<国民の知る権利との兼ね合いで議論を呼んでいる法案だが、政府は公明党の主張に大幅に譲歩し大筋で合意。政府・与党一体でこの法案の成立を期す体制を整えた>と、政府・与党の動きと意気込みばかりを取り出して伝えた(大越健介キャスター)。
(8)「ニュースウォッチ9」、12月5日、<ここまで議論してきて、民主党を含めて一定の「秘密」の保全は必要だということろまでは共通基盤がある>。
同、12月6日、<同盟国アメリカなどと、できるだけ高度の情報共有するために、秘密とすべき情報がいたずらに漏れる事態をなくすべき、という認識は多くの政党が共有している>。
法案に反対する野党の存在を無視し、「強行採決」にも目をつむり、あたかも「秘密保護法は必要」というコンセンサスができたと錯覚させるようなコメントばかりだ。
国会の外では、連日、各地の市民が抗議運動を繰り広げ、「安保闘争以来」と言われるほど反対の声が高まった。12月世論調査で法案「反対」が50%(2日付け朝日新聞)、9月の政府パブリックコメントでも反対77%、という根強い反対の数字と合わせて考えれば、井上・大越のキャスターコメントは明らかに世論と乖離した政権寄りコメントだ。
(9)政府発表の裏にある法案の危険性を掘り起こす調査取材は皆無に近かった。
(1)-(a)の期間中、)「ニュースウォッチ9」は20回秘密保護法を取り上げたが、独自取材・調査報道は米国の秘密指定を監視する国立公文書館・情報保全監察局の調査報道など4例に過ぎなかった。
政府広報化し、結果として安倍政権の世論操作の片棒を担わされた秘密保護法報道により、NHKのニュース報道は視聴者の期待を大きく裏切った。
□放送を語る会/レポート再構成:編集部「世論から乖離した大越健介キャスターの政権すりより “政府広報化”際立つNHK」(「週刊金曜日」2014年3月28日号)
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【参考】
「【NHK】波乱の「籾井新体制」スタート ~「世界」のメディア批評~」
「【NHK】誤報の隠蔽 ~タガのはずれた安部政権~」
「【NHK】呆れた新会長会見、幼稚で傲慢な偏向報道」
「【NHK】籾井会長の就任会見発言 ~どこが「間違いだらけ」か~」
「【NHK】支配計画 ~安倍晋三政権の計算がずれはじめた~」
「【NHK】権力と癒着し続けた歴史 ~NHK会長~」
「*」