語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【言葉】改革という名の削減 ~自民党政治~

2014年06月05日 | 社会
 小泉時代には、強者に対する再分配が改革という美名の下で進められた。これ以上、改革という意味不明の言葉を使うべきではない。社会保障改革ではなく、はっきりと医療費削減、介護費削減と言うべきであり、地方交付税改革ではなく交付税削減と言うべきである。そして、そのような政策がもたらす結果を明らかにしたうで、その是非について国民の判断を仰ぐべきである。

□山口二郎(北海道大学大学院教授)『札幌時計台レッスン 政治を語る言葉』(七つ森書館、2008)
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【韓国】“絶望”と政治・メディアへの失望 ~旅客船沈没の後遺症~

2014年06月05日 | 社会
 (1)4月16日、韓国南西部の珍島(チンド)沖で、476人を乗せた旅客船セウォル号が沈没した。死者・行方不明者304人。
 安全より利益を追求した船会社だけでなく、政府やメディアにも批判が集まった。
 乗組員らが乗客を救助せず真っ先に逃げたことが明らかになるにつれ、乗組員を糾弾する報道が過熱した。朴槿恵・大統領は、「殺人のような行動」と吐き捨てた。
 しかし、市民からは、社会そのものを自省する世論も生まれている。「われわれと船長と何が違うのか」云々。

 (2)セウォル号は、運航会社「晴海鎮(チョンヘジン)海運」が日本から2012年に中古で購入した。購入後、客室を増室し、定員を100人以上増やす改造で重心が高くなり、船体重量も800トン以上増加した。
 4月15日夜、出港直前・・・・セウォル号は980トンとされる基準積載量の3倍以上の荷を積み、船底のバラスト水(バランスを取る)を4分の1になるまで排水した。過積載によって売り上げを増やそうとし、バラスト水を減らすことで速度を上げようとしたのだ。
 事故原因は、潮流の速い海域で不安定な船の操縦を誤って急旋回させたため、船体が大きく傾き、転覆した。【検察の分析】
 改造と過積載という人為的な原因によって、「沈没は予定されていた」。

 (3)乗組員の一部は、事故後、「安全教育を受けたことはない」と証言している。
 40個以上あった救命いかだは、正常に作動するものが1個もなかった。乗客が救助される可能性は、限りなく低かった。そのことをよく知っていたイ・ジュンソク船長を始めとする乗組員らは、海洋警察庁の救助艇が来るまで乗客の避難誘導をせず、ただ待機していた。
 しかも、そのとき、乗組員は過積載の隠蔽工作を試みている。沈没直前に船内から、「過積載が原因のようだ。積載量の表示を減らせないか」と晴海鎮海運に電話し、社員が「もうやっている」と答えた。
 こうした中、「救命胴衣を着て待機せよ」と放送が流れ、多くの乗客が船内にとどまり、結果として犠牲者が増えた。
 検察などの合同捜査本部は、乗客を見捨てた、として船長を含め操船担当乗組員計15人全員と運航会社代表らを遺棄致死などの容疑で逮捕した。船長ら4人は、その後殺人罪で起訴された。

 (4)政府に対する怒りも噴出している。
  (a)情報が最も必要な家族に、正確な情報が伝わらない。
  (b)民間のダイバーが多数来ているのに、彼らを投入しない。
 被害者家族や国民の政府不信は事故当日から根強い。
 政府は、事故直後、「生徒は全員生存」「360人以上を救助」と発表。その後も救出者数を何度も訂正した。
 政府は、生存者の捜索が始まった事故当日から、家族に遺体の身元確認をするためのDNA型の提供を呼びかけもした。遺体を取り違えて引き渡す事故も起きた。

 (5)検察は、海洋警察庁と海運業界との癒着疑惑も捜査中だ。
 海洋警察庁は、事故当日、傘下の天下り先団体「海洋救助協会」の副総裁が代表を務める民間潜水会社「アンディーン社」に救助作業を依頼した。
 アンディーン社による活動を優先させるため、海洋警察庁がベテラン海軍ダイバーの現場接近を妨害した・・・・と海軍は主張している。
 朴大統領は、事故後1か月以上経った5月19日、国民向け談話で、「(政府が)まともに対処できなかった」と謝罪した。捜索活動を続けている海洋警察庁の解体を宣言した。
 海洋警察庁は、人命より利権を優先した、と批判を浴びている。その解体は、癒着解明にストップをかけるものだ。

 (6)被害者家族の怒りは、メディアに対しても矛先が向けられている。
 捜索方針の抗議に訪れた家族代表40人を、それ以上の記者団が取り囲み(メディアスクラム)、身動きがとれなくなった家族代表は怒声をあげた。
 報道内容にも問題があった。放送局「文化放送(MBC)」は、事故当日、ニュースで、旅行者保険の死亡保険金額を紹介した。放送局「JTBC」は、救助された高校生に「(他の)生徒が死亡したのを聞いたか」と質問し、この生徒を泣かせた。
 日本のメディア各社も、メディアスクラムに加わっていた。だから、過熱報道による事件・事故の「被害拡大」に無頓着で、日本では大きく報道されることはなかった。

 (7)事故を受け、ソウル市庁をはじめとして韓国全土に「ごめんなさい。あなたたちを忘れない」などと被害者に謝罪する追悼の垂れ幕が張られている。自己責任を船長や乗組員に押し付けるのではなく、社会全体で負うべきだ、との考えが広がっている。
 日本でも、福島第一原発事故を受け、「政府は安全だと言っている」と報道しながら記者を福島から退避させたメディア各社の姿勢と、セウォル号の乗組員の行動とを同列に見る考えが、インターネットなどで散見される。
 韓国では、アジア通貨危機(1997年)以降、新自由主義の傾向が強まった。政府も市民も、利益より安全を重視する社会をどう取り戻すか、頭を悩ませている。
 韓国社会の憂いは深い。
 日本社会は、憂いさえ抱こうとしていない。

□金子正浩(ジャーナリスト)「旅客船沈没に憂える韓国社会 現地取材で見た“絶望”と政治・メディアへの失望」(「週刊金曜日」2014年5月30日号)
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