語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【堤未果】「水道の民営化」が招く社会インフラ大崩壊 ~価格高騰に水質低下~

2014年06月06日 | 社会
 (1)自然資源や社会的インフラ、教育、医療、行政制度などの共有財産は、持続可能な未来のために国民が守るべき社会的共通資本である、と宇沢弘文(経済学者)は言う。
 中でも「水道」は重要なライフラインだ。その水道の民営化をめぐって、世界各地でさまざまな問題が起きている。

 (2)公共インフラへの民営化導入の際、最も強調されるのは競争原理や運営効率化による利用価格の下落だ。
 だが、そもそも政府が目指す「公共利益」(「安全な水の安定的供給」)と、私営企業にとっての目的(「株主利益拡大」)とは一致しない。企業が、設備投資や固定資産税を価格に転嫁すれば、その結果、利用価格は上昇する。
 <例>サッチャー政権下では、水道事業民営化から6年間で、
     ・受注企業の利益 692%上昇
     ・CEO給与 708%上昇
     。水道料金 109%値上がり

 (3)価格高騰に加え、水質低下が問題になったケースが少なくない。
 <例:ウルグアイ>良質だった水道水が、民営化後のコスト削減によって質を悪化させ、煮沸消毒なしでは飲めなくなった。危機感を抱いた国民は、2004年の国民投票で、過半数以上が民営化に反対を表明。政府は、「水資源は公共財産」とする憲法改正に踏み切り、以来、水道事業の民営化は禁止されている。
 <例:アルゼンチン>水道事業を受託したフランス系水企業が、下水の9割を未処理のまま川に流した上に、水道料金を10年で9割上昇させた挙げ句、撤退に追い込まれた。世界3大メジャーのうち2社を有する水輸出大国フランスの本国でも、民営化による利用料金高騰と水質低下の結果、民営化したパリの水道事業、を2010年から再び国営に戻すことになった。

 (4)1990年代に南米・アジア都市部で、「水道民営化」の波を起こしたのは、世界銀行などの国際機関だ。
 <例:ボリビア>政府が多国間債務免除と引き換えに、市営水道会社を民営化し、米国の建設会社大手「ベクテル」の子会社を参入させた。同社は、早速設備費用のために水道料金を一気に200%も値上げしたうえ、地下水の権利も買収して、国民が自宅敷地内の井戸水を汲み上げたり、雨水を溜めることを違法にした。
 水というライフラインへのアクセスを失った市民の怒りは大規模な暴動へ発展した。労働者の無期限ストが拡大し、瞬く間に全国に広がっていった。
 結局、水道は再び公営に戻された。しかし、撤退を余儀なくされたベクテル社は、むろん黙っては引き下がらなかった。投資額の25倍にあたる2,500万ドルの賠償金をボリビア政府に請求したのだ。
 2,500万ドルあれば、ボリビアで25,000人の教師を雇用し、貧困層12万世帯に水道を敷くことができる。
 結局、最初から最後まで公共インフラ民営化のツケを支払わされたのは、ボリビアの国民だった。

 (5)多くの国際協定もまた、国境を越えた水ビジネスを積極的に推進中だ。
 北米自由貿易協定(NAFTA)は、締結国に対し、フェアな競争を維持するという名目で、商業用水資源利用における国内企業優遇政策を禁止した。さらに、3国間での大規模な水の輸出入によって、環境被害が起こっても、企業側に輸出量削減や輸出停止などの措置は一切課されない。

 (6)(3)や(4)や(5)のように、世界中で投資拡大や自由貿易協定が推進される一方、各国の水資源や環境保護のための法制化が追い付いていない。
 日本では、2014年3月にやっと、外資による水資源の乱開発や買収を規制する「水循環基本法」が成立した。
 だが、その翌月には大阪市が、水道事業の民営化計画を発表。効率化を図り、継続的黒字化を目指す、という。大阪市で勢いがつけば、その波は全国へ拡がるだろう。
 日本における社会的共通資本に対する国民の価値観が、いま問われている。

□堤未果「価格高騰に水質低下・・・・「水道の民営化」が招く社会インフラ大崩壊 ~ジャーナリストの目 第208回~」(「週刊現代」2014年6月14日号)
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