10月9日、テレビ朝日が奇妙な放送をした。
<来日中のロシアのシンクタンク所属の対日専門家は18日、北方領土問題をプーチン大統領が妥協的に解決したくても譲歩を認めない国内世論が極めて強く、今は2島返還でさえ難しいという見方を示しました。
ロシア戦略策定センター、A・コーシキン上級研究員:「ロシア国民は前と違って、いかなる領土(問題への)譲歩にも反対する人が圧倒的多数。プーチン大統領が妥協的に解決したくても今のところはできません。」(北方領土の)2島返還でさえ、実現は前より難しくなりました。>
テレビ朝日は、アナートリー・コーシキンがどのような過去持つ男か、わかって番組に登場させたのだろうか。
コーシキンは、旧ソ連共産党中央委員会国際部で対日工作を担当していた対日強硬論者だ。
「ゴルバチョフ、エリツィン、プーチンの3大統領は北方領土問題に関して日本に譲歩しすぎた」
と考える陣営の中心人物で、
「戦後の現実を尊重すべきだ。北方領土を含むクリル諸島は合法的にロシア領になったのであり、ロシアは日本に領土を返還する法的、道義的義務は一切ない。」
と主張する日本専門家の代表だ。
1956年の日ソ共同宣言では、平和条約締結後に歯舞群島、色丹島をロシアが日本へ引き渡すことが約束されている。日ソ共同宣言は、両国の立法府批准された法的拘束力をもつ文書だ。コーシキンの主張は、日ソ共同宣言という国際条約を無視している。
ソ連共産党中央委員会では、日本社会党左派に対する革命工作がコーシキンの担当だった。
彼は、ソ連崩壊後、ロシアの日本専門家や国際政治の専門家の間で、まったく相手にされていない。クレムリン(露大統領府)へのアクセスもない。
こういう人物が日本のテレビに登場する背景には、2つの可能性がある。いずれにせよ、ろくでもない話だ。
(1)テレビ朝日関係者の水準が基準に達していない。ゆえに、日本専門家を自称する人物、出演料が安い人文を選んだ。
(2)ロシアの対日強硬派が日露関係の発展を阻止するという謀略を組み立て、その代表者=コーシキンに情報操作を担わせ、そのカモとしてテレビ朝日が使われた。
では、ロシアの日本専門家では誰の話を聞けば正確な事情が分かるのだろうか?
誰もが推薦するのは、日露外交の第一人者、アレクサンドル・パノフ氏だ。ロシアの外務次官、駐日ロシア大使を歴任し、現在はモスクワ国際関係大学外交学科長を務める。クレムリンへのアクセスもある。
ちなみに、コーシキンは、パノフ氏への非難を生業にしている。
テレビ朝日は、ロシアでまったく相手にされていないコーシキンのような輩を通じて、北方領土問題の解決を遠ざけるようなプロパガンダを展開している。この種の放送が繰り返されるならば、テレビ朝日内部か周辺の制作会社に「反日」の司令塔があると疑う必要があるかも。
一般の視聴者から見れば大したことに思えないようなニュースでも、プロの目には重大事件だ。
□佐藤優「さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~佐藤優の人間観察 第87回~」(「週刊現代」2014年11月8日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~」
「【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~」
「【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~」
「【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~」
「【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~」
「【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~」
「【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず」
「「森訪露」で浮かび上がった路線対立」
「【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~」
「【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」」
「【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~」
「【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~」
「【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~」
「【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~」
「【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~」
「【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~」
「【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~」
「【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ」
「【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 」
「【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 」
「【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~」
「【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 」
「【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~」
「【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~」
「【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~」
「【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~」
「【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~」
「【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~」
「【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~」
「【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~」
「【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~」
「【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~」
「【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~」
「【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」」
「【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~」
「【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~」
「【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~」
「【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~」
「【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~」
「【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~」
「【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~」
「【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~」
「【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~」
「【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア」
「【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~」
<来日中のロシアのシンクタンク所属の対日専門家は18日、北方領土問題をプーチン大統領が妥協的に解決したくても譲歩を認めない国内世論が極めて強く、今は2島返還でさえ難しいという見方を示しました。
ロシア戦略策定センター、A・コーシキン上級研究員:「ロシア国民は前と違って、いかなる領土(問題への)譲歩にも反対する人が圧倒的多数。プーチン大統領が妥協的に解決したくても今のところはできません。」(北方領土の)2島返還でさえ、実現は前より難しくなりました。>
テレビ朝日は、アナートリー・コーシキンがどのような過去持つ男か、わかって番組に登場させたのだろうか。
コーシキンは、旧ソ連共産党中央委員会国際部で対日工作を担当していた対日強硬論者だ。
「ゴルバチョフ、エリツィン、プーチンの3大統領は北方領土問題に関して日本に譲歩しすぎた」
と考える陣営の中心人物で、
「戦後の現実を尊重すべきだ。北方領土を含むクリル諸島は合法的にロシア領になったのであり、ロシアは日本に領土を返還する法的、道義的義務は一切ない。」
と主張する日本専門家の代表だ。
1956年の日ソ共同宣言では、平和条約締結後に歯舞群島、色丹島をロシアが日本へ引き渡すことが約束されている。日ソ共同宣言は、両国の立法府批准された法的拘束力をもつ文書だ。コーシキンの主張は、日ソ共同宣言という国際条約を無視している。
ソ連共産党中央委員会では、日本社会党左派に対する革命工作がコーシキンの担当だった。
彼は、ソ連崩壊後、ロシアの日本専門家や国際政治の専門家の間で、まったく相手にされていない。クレムリン(露大統領府)へのアクセスもない。
こういう人物が日本のテレビに登場する背景には、2つの可能性がある。いずれにせよ、ろくでもない話だ。
(1)テレビ朝日関係者の水準が基準に達していない。ゆえに、日本専門家を自称する人物、出演料が安い人文を選んだ。
(2)ロシアの対日強硬派が日露関係の発展を阻止するという謀略を組み立て、その代表者=コーシキンに情報操作を担わせ、そのカモとしてテレビ朝日が使われた。
では、ロシアの日本専門家では誰の話を聞けば正確な事情が分かるのだろうか?
誰もが推薦するのは、日露外交の第一人者、アレクサンドル・パノフ氏だ。ロシアの外務次官、駐日ロシア大使を歴任し、現在はモスクワ国際関係大学外交学科長を務める。クレムリンへのアクセスもある。
ちなみに、コーシキンは、パノフ氏への非難を生業にしている。
テレビ朝日は、ロシアでまったく相手にされていないコーシキンのような輩を通じて、北方領土問題の解決を遠ざけるようなプロパガンダを展開している。この種の放送が繰り返されるならば、テレビ朝日内部か周辺の制作会社に「反日」の司令塔があると疑う必要があるかも。
一般の視聴者から見れば大したことに思えないようなニュースでも、プロの目には重大事件だ。
□佐藤優「さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~佐藤優の人間観察 第87回~」(「週刊現代」2014年11月8日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~」
「【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~」
「【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~」
「【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~」
「【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~」
「【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~」
「【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず」
「「森訪露」で浮かび上がった路線対立」
「【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~」
「【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」」
「【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~」
「【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~」
「【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~」
「【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~」
「【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~」
「【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~」
「【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~」
「【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ」
「【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 」
「【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 」
「【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~」
「【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 」
「【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~」
「【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~」
「【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~」
「【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~」
「【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~」
「【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~」
「【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~」
「【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~」
「【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~」
「【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~」
「【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~」
「【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」」
「【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~」
「【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~」
「【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~」
「【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~」
「【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~」
「【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~」
「【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~」
「【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~」
「【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~」
「【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア」
「【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~」