衆議院で自民党が今より議席を増やすのは難しい。
このたびの解散の裏には、安倍政権が描く身勝手な戦略がある。むろん、政権のつごうで解散するとは言えないから、表向きは安部総理が消費税増税を先送りにするに当たり、その是非を含めてアベノミクスへの信を問う必要があるという。なぜなら、増税延期が2012年6月の、増税に関する自公民の「三党合意」に反するというのだ。
これは全くおかしい。
三党合意にも、それに基づいて成立した消費税増税法の附則にも「景気条項」が入っている。要するに「経済状況をよく見て、悪ければ増税を延期する」と、書いてある。現在安倍政権が、各方面から有識者を集めて景気の状況について意見を求めているのは、まさにこの条項でいう「経済状況を見る」ためのものだ。
その結果、増税をできる状況ではない、と安倍政権が判断して増税を先送りするのは法律に沿ったものだし、三党合意違反でもない。
さらに、国会で野党が増税しろと強く主張して、それが対立点になっているのであればまだ分かるが、増税延期派がほとんどだ。
要するに、解散の大義はない。
三党合意を持ち出すなら、定数削減などの実施に係る三党合意はどうなっているのか。
当時の野田総理と安倍自民党総裁が大見得を切って約束したのに、それを実施しないまま、なし崩し的に増税を実施したことのほうが重大な約束違反だ。
もし解散するなら、こちらの約束の変更について信を問う選挙にすべきだ。
解散は、安倍政権が自民党内の消費税増税推進派や野党を脅すため、という面もあるが、実はアベノミクスが完全に行き詰まって、追い詰められている、という面が強い。
どういうことか。
仮に財務省の言いなりになって消費税増税をすれば、デフレ脱却と景気回復の両方が腰折れになる可能性が高い。一方増税先送りしても、明るい展望はない。八方ふさがりなのだ。
アベノミクス第一の矢(大胆な金融緩和)は、先日の黒田バズーカ第二弾でまたもや大幅な円安と株高を演出した。
しかし、2014年の円安株高で物価ばかりが上がって、実質賃金は消費税増税前からずっとマイナス。庶民の生活は、かえって苦しくなった。増えると安倍が思った輸出も増えない。
第二の矢(公共事業のバラマキ)も、需要が増えすぎて単価ばかりが異常に上がり、民間の投資を抑えてしまった。日本建設業連合会の統計では、今年度上半期の建設受注が、官需5割増に対し、民需は14%減という悲惨な状況だ。公共事業が民間による成長の芽を摘んでいるのだ。
結局、日本の矢だけではどうにもならないのだが、本命の第三の矢(成長戦略)も、安倍政権には、既得権と闘って新たな産業や企業を生みだそうという気力も能力もなく、成果は期待できない。
つまり、単に消費増税延期をしても、ジリ貧の道をたどるしかない。
増税強行なら、景気が悪化する。
どう転んでも先の見通しは真っ暗だ。
それなら野党の準備が整わない今のうちに解散すれば、議席が減るとしてもダメージは小さい。そういう計算なのだ。
しかし、選挙になれば、増税に反対する政党はない。争点は消費税やアベノミクスではなく、12月10日施行の特定秘密保護法や集団的自衛権、さらには原発再稼働、派遣法改正などになる可能性がある。
争点を決めるのは安部総理ではない。
「国家の暴走」を止めるには、国民が自ら争点を決めて自民党の議席を減らすしかない。
□古賀茂明「解散風と国家の暴走 ~官々愕々第132回~」(「週刊現代」2014年11月29日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【古賀茂明】文書通信交通滞在費と維新の法案」
「【古賀茂明】宮沢経産相は「官僚の守護神」 ~原発再稼働~」
「【古賀茂明】再生エネルギー買い取り停止の裏で」
「【古賀茂明】女性活用に本気でない安部政権」
「【古賀茂明】【原発】中間貯蔵施設で官僚焼け太り」
「【古賀茂明】御嶽山で多数の死者が出た背景 ~政治家の都合、官僚と学者の利権~」
「【古賀茂明】従順な小渕大臣と暴走する官僚 ~原発再稼働~」
「【古賀茂明】イスラム国との戦争 ~集団的自衛権~」
「【古賀茂明】「地方創生」は地方衰退への近道 ~虚構のアベノミクス~」
「【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器」
「【古賀茂明】【原発】凍らない凍土壁に税金を投入し続けたわけ」
「【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~」
「【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~」
「【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~」
「【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~」
「【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~」
「【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~」
「古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ」
「【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」」
「【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~」
「【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任」
「【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造」
「【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~」
「【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~」
「【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~」
「【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~」
「【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~」
「【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~」
「【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~」
「【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働」
「【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~ 」
「【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~」
「【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~」
「【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~」
「【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと」
「【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~」
「【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~」
「【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~」
このたびの解散の裏には、安倍政権が描く身勝手な戦略がある。むろん、政権のつごうで解散するとは言えないから、表向きは安部総理が消費税増税を先送りにするに当たり、その是非を含めてアベノミクスへの信を問う必要があるという。なぜなら、増税延期が2012年6月の、増税に関する自公民の「三党合意」に反するというのだ。
これは全くおかしい。
三党合意にも、それに基づいて成立した消費税増税法の附則にも「景気条項」が入っている。要するに「経済状況をよく見て、悪ければ増税を延期する」と、書いてある。現在安倍政権が、各方面から有識者を集めて景気の状況について意見を求めているのは、まさにこの条項でいう「経済状況を見る」ためのものだ。
その結果、増税をできる状況ではない、と安倍政権が判断して増税を先送りするのは法律に沿ったものだし、三党合意違反でもない。
さらに、国会で野党が増税しろと強く主張して、それが対立点になっているのであればまだ分かるが、増税延期派がほとんどだ。
要するに、解散の大義はない。
三党合意を持ち出すなら、定数削減などの実施に係る三党合意はどうなっているのか。
当時の野田総理と安倍自民党総裁が大見得を切って約束したのに、それを実施しないまま、なし崩し的に増税を実施したことのほうが重大な約束違反だ。
もし解散するなら、こちらの約束の変更について信を問う選挙にすべきだ。
解散は、安倍政権が自民党内の消費税増税推進派や野党を脅すため、という面もあるが、実はアベノミクスが完全に行き詰まって、追い詰められている、という面が強い。
どういうことか。
仮に財務省の言いなりになって消費税増税をすれば、デフレ脱却と景気回復の両方が腰折れになる可能性が高い。一方増税先送りしても、明るい展望はない。八方ふさがりなのだ。
アベノミクス第一の矢(大胆な金融緩和)は、先日の黒田バズーカ第二弾でまたもや大幅な円安と株高を演出した。
しかし、2014年の円安株高で物価ばかりが上がって、実質賃金は消費税増税前からずっとマイナス。庶民の生活は、かえって苦しくなった。増えると安倍が思った輸出も増えない。
第二の矢(公共事業のバラマキ)も、需要が増えすぎて単価ばかりが異常に上がり、民間の投資を抑えてしまった。日本建設業連合会の統計では、今年度上半期の建設受注が、官需5割増に対し、民需は14%減という悲惨な状況だ。公共事業が民間による成長の芽を摘んでいるのだ。
結局、日本の矢だけではどうにもならないのだが、本命の第三の矢(成長戦略)も、安倍政権には、既得権と闘って新たな産業や企業を生みだそうという気力も能力もなく、成果は期待できない。
つまり、単に消費増税延期をしても、ジリ貧の道をたどるしかない。
増税強行なら、景気が悪化する。
どう転んでも先の見通しは真っ暗だ。
それなら野党の準備が整わない今のうちに解散すれば、議席が減るとしてもダメージは小さい。そういう計算なのだ。
しかし、選挙になれば、増税に反対する政党はない。争点は消費税やアベノミクスではなく、12月10日施行の特定秘密保護法や集団的自衛権、さらには原発再稼働、派遣法改正などになる可能性がある。
争点を決めるのは安部総理ではない。
「国家の暴走」を止めるには、国民が自ら争点を決めて自民党の議席を減らすしかない。
□古賀茂明「解散風と国家の暴走 ~官々愕々第132回~」(「週刊現代」2014年11月29日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【古賀茂明】文書通信交通滞在費と維新の法案」
「【古賀茂明】宮沢経産相は「官僚の守護神」 ~原発再稼働~」
「【古賀茂明】再生エネルギー買い取り停止の裏で」
「【古賀茂明】女性活用に本気でない安部政権」
「【古賀茂明】【原発】中間貯蔵施設で官僚焼け太り」
「【古賀茂明】御嶽山で多数の死者が出た背景 ~政治家の都合、官僚と学者の利権~」
「【古賀茂明】従順な小渕大臣と暴走する官僚 ~原発再稼働~」
「【古賀茂明】イスラム国との戦争 ~集団的自衛権~」
「【古賀茂明】「地方創生」は地方衰退への近道 ~虚構のアベノミクス~」
「【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器」
「【古賀茂明】【原発】凍らない凍土壁に税金を投入し続けたわけ」
「【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~」
「【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~」
「【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~」
「【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~」
「【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~」
「【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~」
「古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ」
「【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」」
「【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~」
「【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任」
「【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造」
「【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~」
「【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~」
「【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~」
「【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~」
「【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~」
「【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~」
「【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~」
「【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働」
「【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~ 」
「【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~」
「【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~」
「【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~」
「【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと」
「【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~」
「【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~」
「【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~」