語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【政治】解散の裏にある動き ~妄想と暴走~

2014年11月26日 | 社会
 11月17日、内閣府が2014年7~9月期の国内総生産(GDP)速報値を発表した。実質成長率は前期(4~6月期)より0.4%減、この状況が1年続いた場合の年率換算では1.6%減・・・・予想以上に悪い数字だった。
 結果的には、これが21日解散の直接の引き金になった。わけてもGDPの6割を占める個人消費の回復が弱い。その背景には、物価の伸びに賃金の上昇が追いついていないことがある。

 9月は、円安を原因とした倒産が28件と、前年同月の3倍に膨らんだ【東京商工リサーチ】。
 もっとも苦しいのは燃料費の高騰に苦しむ運輸業だろうが、製造業や卸売業にも負の影響が拡がっている。
 円安と消費増税で、天丼屋がコメをひそかに減らしたりしている。
 一方、輸出企業の代表格たるトヨタ自動車は、4~9月期の営業利益1兆3,519億円と、半期ベースでは7年ぶりの最高益を達成した。しかし、「為替による利益増は皮下脂肪のようなもの」だ。
 円安による輸入物価の上昇を主因とする倒産件数は今年4~9月期だと150件で、これも前年同期の2倍以上だ。
 
 GDP速報値が予想以上に悪かったとはいえ、この解散に大義はない。高村正彦・自民党副総裁が14日に「念のため選挙」と口を滑らしたが、この言葉がすべてを物語っている。
 消費増税を決めた民主・自民・公明の3党合意のなかには「景気弾力条項」があり、景気の如何によっては増税を止めることが制度的には可能だ。それにのっとって先送りすればすむ。「解散で国民に信を問う」理由にはならない。
 前回の総選挙には700億円のコストがかかっている。被災地の復興が遅れているなかで、「念のため」に700億円を使うことが許されるのか。

 もうひとつ。黒田東彦・日本銀行総裁が11月12日、衆院財務金融委員会で発言した。10月31日に決めた追加金融緩和について、「2015年10月に予定される消費税10%への引き上げを前提に実施した」。今回の解散は、黒田総裁の意思に反することだった、ということになる。
 誰が、どの段階で解散を決めたのか。

 「読売新聞」が11月11日付けで「来週の解散 浮上」と一面で打ち出し、四面で「『解散』 自民は歓迎」と打った。
 「読売」がリードしていることに疑問を持つ人は多い。
 「読売」と、軽減税率を導入したい公明党が主導したのでは、という指摘もある。
 変なのは、「読売」記事の見出し「自民は歓迎」。記事が出た11日、自民党内では、「まともな考えでいけば、常識的に閑散はない」「人間は間違うことがある。(首相が)間違った判断をされないと信じている」などと、野田毅・税制調査会長が解散に反対する意思を示した。
 14日には、村上誠一郎・元行革担当相が、「衆院で3分の2近い勢力を持つのに、これでは『積み木崩し解散』だ」と批判している。なぜ「読売」は「自民は歓迎」などと打てたのか。
 勝栄二郎・読売新聞社監査役(6月~)/元財務次官がリードしているのでは、という見立ても永田町では流れている。
 
 民主党と他の野党との連携がどこまで実現するかによるが、自民党は議席を落とすだろう。前回衆院選で当選した1年生議員は119人。そのうち選挙基盤の弱い50人弱が落選の危機にある。現有の295議席から議席減をどこまで食い止められるか、という話。1年生は借金もある。
 勝敗ラインは266議席と言われている。266議席取れれば、17ある常任委員会の委員長ポストを牛耳れるからだ。これを下回れば、安倍首相の責任問題が党内で出てくる。

 自民党議員にとっては、安倍首相の情緒不安定が気になる。
 この間の暴言・妄言はひどかった。
  ①「撃ち方やめ」発言は、「朝日」だけでなく、「読売」も「毎日」も「産経」も書いたのに、「朝日」にだけ「捏造だ」と噛みついた。
  ②枝野幸男・民主党幹事長に対しては、「革マル派が浸透する団体から献金を受け取っている」と言い放った。
  ③JR総連やJR東を「殺人団体」と国会で呼んでいる。
  ④吉田忠智・社民党党首が「相続税逃れ疑惑」を指摘したときは、「重大な名誉毀損だ。議員として恥ずかしくないのか」と激昂した。

 疑惑は、麻生太郎・副総理にもある。(株)ぎょうせいの(株)麻生の買収で、見返りに麻生副総理にみずほ銀行からヤミ献金が流れた疑惑を最近も民族派新聞が公然と指摘している。

 政策でも、アベノミクスは失速した。「自分の内閣で解決する」と豪語していた拉致問題は、まったく解決の見通しが立っていない。
 最近、横田めぐみさんは実は毒殺されていた、という話が韓国の報道などで出てきた。元は中国サイド。習近平・国家主席がその証拠を握っていて、4月頃から在北京日本大使館を通じて、「もう猿芝居はためろ」と日本サイドに伝えていた。しかし、安倍にしてみればそんな情報が出てきたら困るから、「無視」を決め込んだ。そこで、習国家主席は朴槿恵・韓国大統領と会談した際、この話をばらした。

 日本は、APEC会議で日中会談をどうにか実現させたが、その際、日中両国で合意した関係改善のための「四原則」はすごい中身だった。
 衝撃的なのは「尖閣問題」に係る記述。<尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し・・・・>と。これまで「領土問題は存在しない」としていた日本が、初めて両国の間に「異なる見解を有している」ことを認めた。戦後最大の譲歩だ。
 APECでは安倍首相の問いかけに顔をそむけた習国家主席の態度が話題になったが、衝撃的な「四原則」を中国と合意せざるをえないほど、習国家主席と安倍首相とのあいだに亀裂が入っていた。中韓日のあいだで有象無象の熾烈な駆け引きがあったのではないか。
 あの「四原則」を外務省がよくぞ承諾したものだ。

 年明けには九州電力・川内原発の再稼働問題がある。その後は通常国会で集団的自衛権に関する安保関連法が議論される。
 国論を二分するこれらのテーマが、じわじわと安倍首相を追い詰めていく。
 
 (1)アベノミクスが一部の株保有者と大企業をさらに富ませるもののマヤカシであったことが、今や明らかになりつつある。
 (2)消費増税をして格差をますます拡大させ、雇用と労働の破壊も進めている。
 (3)特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認など、「平和憲法破壊」も進める。
 (4)「河野談話」や「慰安婦」を否定しようとする歴史修正主義をはびこらせ、国際社会から批判を浴びている。
 ・・・・こんな安倍政権を今後も継続させるのか否か。有権者はそれを最大の争点にすべきだ。 

□編集記者匿名座談会「“妄想と暴走”解散の裏側」(「週刊金曜日」2014年11月21日号)
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 【参考】
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