語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~

2014年11月29日 | ●佐藤優
 沖縄県知事選挙(11月16日投開票)では、翁長雄志・前那覇市長が当選した。米海兵隊普天間飛行場の県外移設と、辺野古(沖縄県名護市)に新基地を造らせないという姿勢を鮮明にした翁長候補に、保守、革新を超えた「オール沖縄」の支持が集まった。
 候補者は全員で4人。各人の得票数は、
  ・翁長雄志(無所属・新) 360,820票
  ・仲井眞弘多(無所属・現) 261,076票
  ・下地幹郎(無所属・新) 69,447票
  ・喜納昌吉(無所属・新) 7,821票

 翁長・新知事は、現職の仲井眞・前知事を10万票も離した堂々たる勝利で、有効投票数の51.6%を占めた。
 知事選挙の表面上の争点は、辺野古の新基地建設を認めるか否かだった。
 しかし、より本質的な問題は、今後、沖縄は日本とどう付き合っていくか、という「日本問題」だった。
 日本の国土面積の0.6%を占めるに過ぎない沖縄県に、在日米軍基地の74%が集中しているのは尋常な事態ではない。
 鳩山政権(民主党)は、普天間飛行場の移設先として沖縄県外を追求する姿勢を示したが、外務官僚と防衛官僚に包囲され、辺野古移設に回帰した。
 問題は、そのときの理屈だ。「沖縄以外の都道府県が米海兵隊基地を受け入れないのは、地元の民意が反対しているからだ」という理屈だ。
 地元の民意が反対する政策は強要しない、というのが、現憲法下の政府の民主主義政策のはずだ。沖縄の民意も海兵隊基地の受け入れに反対している。にも拘わらず、沖縄には海兵隊基地を押しつけっぱなしだ。これは、沖縄に関しては民主主義政策が適用されない、ということだ。つまり、政治的差別以外のなにものでもない。
 差別が構造化している場合、差別する側は、自らが差別者であることを認めない(通例)。
 それに対して沖縄は、「日本の中央政府がわれわれを本当に同胞と考えるならば、差別を固定化する政策(辺野古に新基地を建設するの)は止めろ」と主張しているのだ。
 
 中央政府は、圧力と懐柔によって「日本人以上に日本人的な沖縄人」を作り出すことができると勘違いしているようだ。そんなことだから、
 「翁長が当選しても、しょせんは保守系だから、沖縄振興策でカネをつければ、いずれ仲井眞のように辺野古容認に立場を変えるだろう」
というような希望的観測を口にする政治家、政治部記者、評論家が出てくるのだ。

 沖縄における米軍基地の加重負担が構造的差別であると指摘できるほど、沖縄は強くなった。その沖縄の強さを人格的に体現しているのが翁長・新知事なのだ。

 沖縄の血を引く人たちは、日本人と沖縄人の複合アイデンティティを持っている。この人たちは、過去数年の中央政府と沖縄の軋轢を観察する中で、「沖縄系日本人」から「日本系沖縄人」へと自己意識を変化させつつある。

 沖縄県知事は、沖縄県民にとってだけでなく、沖縄県外、日本国外に在住する在外沖縄人にとっても、沖縄を人格的に代表する人物だ。
 沖縄が自己決定権を確立しないと、中央政府による構造的差別を脱構築することができない、という意識が、沖縄人の間で急速に広まっている。
 国際基準で見た場合、沖縄で生じている出来事は、民族問題だ。 

□佐藤優「沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~佐藤優の人間観察 第91回~」(「週刊現代」2014年12月6日号)
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