沖縄県知事選挙(11月16日投開票)では、翁長雄志・前那覇市長が当選した。米海兵隊普天間飛行場の県外移設と、辺野古(沖縄県名護市)に新基地を造らせないという姿勢を鮮明にした翁長候補に、保守、革新を超えた「オール沖縄」の支持が集まった。
候補者は全員で4人。各人の得票数は、
・翁長雄志(無所属・新) 360,820票
・仲井眞弘多(無所属・現) 261,076票
・下地幹郎(無所属・新) 69,447票
・喜納昌吉(無所属・新) 7,821票
翁長・新知事は、現職の仲井眞・前知事を10万票も離した堂々たる勝利で、有効投票数の51.6%を占めた。
知事選挙の表面上の争点は、辺野古の新基地建設を認めるか否かだった。
しかし、より本質的な問題は、今後、沖縄は日本とどう付き合っていくか、という「日本問題」だった。
日本の国土面積の0.6%を占めるに過ぎない沖縄県に、在日米軍基地の74%が集中しているのは尋常な事態ではない。
鳩山政権(民主党)は、普天間飛行場の移設先として沖縄県外を追求する姿勢を示したが、外務官僚と防衛官僚に包囲され、辺野古移設に回帰した。
問題は、そのときの理屈だ。「沖縄以外の都道府県が米海兵隊基地を受け入れないのは、地元の民意が反対しているからだ」という理屈だ。
地元の民意が反対する政策は強要しない、というのが、現憲法下の政府の民主主義政策のはずだ。沖縄の民意も海兵隊基地の受け入れに反対している。にも拘わらず、沖縄には海兵隊基地を押しつけっぱなしだ。これは、沖縄に関しては民主主義政策が適用されない、ということだ。つまり、政治的差別以外のなにものでもない。
差別が構造化している場合、差別する側は、自らが差別者であることを認めない(通例)。
それに対して沖縄は、「日本の中央政府がわれわれを本当に同胞と考えるならば、差別を固定化する政策(辺野古に新基地を建設するの)は止めろ」と主張しているのだ。
中央政府は、圧力と懐柔によって「日本人以上に日本人的な沖縄人」を作り出すことができると勘違いしているようだ。そんなことだから、
「翁長が当選しても、しょせんは保守系だから、沖縄振興策でカネをつければ、いずれ仲井眞のように辺野古容認に立場を変えるだろう」
というような希望的観測を口にする政治家、政治部記者、評論家が出てくるのだ。
沖縄における米軍基地の加重負担が構造的差別であると指摘できるほど、沖縄は強くなった。その沖縄の強さを人格的に体現しているのが翁長・新知事なのだ。
沖縄の血を引く人たちは、日本人と沖縄人の複合アイデンティティを持っている。この人たちは、過去数年の中央政府と沖縄の軋轢を観察する中で、「沖縄系日本人」から「日本系沖縄人」へと自己意識を変化させつつある。
沖縄県知事は、沖縄県民にとってだけでなく、沖縄県外、日本国外に在住する在外沖縄人にとっても、沖縄を人格的に代表する人物だ。
沖縄が自己決定権を確立しないと、中央政府による構造的差別を脱構築することができない、という意識が、沖縄人の間で急速に広まっている。
国際基準で見た場合、沖縄で生じている出来事は、民族問題だ。
□佐藤優「沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~佐藤優の人間観察 第91回~」(「週刊現代」2014年12月6日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~」
「【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~」
「【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~」
「【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~」
「【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~」
「【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~」
「【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~」
「【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~」
「【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~」
「【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~」
「【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず」
「「森訪露」で浮かび上がった路線対立」
「【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~」
「【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」」
「【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~」
「【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~」
「【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~」
「【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~」
「【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~」
「【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~」
「【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~」
「【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ」
「【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 」
「【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 」
「【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~」
「【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 」
「【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~」
「【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~」
「【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~」
「【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~」
「【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~」
「【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~」
「【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~」
「【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~」
「【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~」
「【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~」
「【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~」
「【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」」
「【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~」
「【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~」
「【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~」
「【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~」
「【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~」
「【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~」
「【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~」
「【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~」
「【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~」
「【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア」
「【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~」
候補者は全員で4人。各人の得票数は、
・翁長雄志(無所属・新) 360,820票
・仲井眞弘多(無所属・現) 261,076票
・下地幹郎(無所属・新) 69,447票
・喜納昌吉(無所属・新) 7,821票
翁長・新知事は、現職の仲井眞・前知事を10万票も離した堂々たる勝利で、有効投票数の51.6%を占めた。
知事選挙の表面上の争点は、辺野古の新基地建設を認めるか否かだった。
しかし、より本質的な問題は、今後、沖縄は日本とどう付き合っていくか、という「日本問題」だった。
日本の国土面積の0.6%を占めるに過ぎない沖縄県に、在日米軍基地の74%が集中しているのは尋常な事態ではない。
鳩山政権(民主党)は、普天間飛行場の移設先として沖縄県外を追求する姿勢を示したが、外務官僚と防衛官僚に包囲され、辺野古移設に回帰した。
問題は、そのときの理屈だ。「沖縄以外の都道府県が米海兵隊基地を受け入れないのは、地元の民意が反対しているからだ」という理屈だ。
地元の民意が反対する政策は強要しない、というのが、現憲法下の政府の民主主義政策のはずだ。沖縄の民意も海兵隊基地の受け入れに反対している。にも拘わらず、沖縄には海兵隊基地を押しつけっぱなしだ。これは、沖縄に関しては民主主義政策が適用されない、ということだ。つまり、政治的差別以外のなにものでもない。
差別が構造化している場合、差別する側は、自らが差別者であることを認めない(通例)。
それに対して沖縄は、「日本の中央政府がわれわれを本当に同胞と考えるならば、差別を固定化する政策(辺野古に新基地を建設するの)は止めろ」と主張しているのだ。
中央政府は、圧力と懐柔によって「日本人以上に日本人的な沖縄人」を作り出すことができると勘違いしているようだ。そんなことだから、
「翁長が当選しても、しょせんは保守系だから、沖縄振興策でカネをつければ、いずれ仲井眞のように辺野古容認に立場を変えるだろう」
というような希望的観測を口にする政治家、政治部記者、評論家が出てくるのだ。
沖縄における米軍基地の加重負担が構造的差別であると指摘できるほど、沖縄は強くなった。その沖縄の強さを人格的に体現しているのが翁長・新知事なのだ。
沖縄の血を引く人たちは、日本人と沖縄人の複合アイデンティティを持っている。この人たちは、過去数年の中央政府と沖縄の軋轢を観察する中で、「沖縄系日本人」から「日本系沖縄人」へと自己意識を変化させつつある。
沖縄県知事は、沖縄県民にとってだけでなく、沖縄県外、日本国外に在住する在外沖縄人にとっても、沖縄を人格的に代表する人物だ。
沖縄が自己決定権を確立しないと、中央政府による構造的差別を脱構築することができない、という意識が、沖縄人の間で急速に広まっている。
国際基準で見た場合、沖縄で生じている出来事は、民族問題だ。
□佐藤優「沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~佐藤優の人間観察 第91回~」(「週刊現代」2014年12月6日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~」
「【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~」
「【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~」
「【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~」
「【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~」
「【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~」
「【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~」
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「【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~」
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「「森訪露」で浮かび上がった路線対立」
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「【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」」
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「【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~」
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「【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ」
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「【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~」
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「【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~」
「【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~」
「【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~」
「【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~」
「【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~」
「【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」」
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「【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~」
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