語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】円安で日本はどんどん貧乏に ~藻谷浩介のアベノミクス批判~

2014年11月05日 | 社会
 9月中旬、会合の席上で安部首相は個人攻撃をし、出席するベテラン・ジャーナリストをびっくりさせた。
 ターゲットとなったのは、藻谷浩介・日本総合研究所主席研究員。ベストセラー『デフレの正体』『里山資本主義』で知られる。日本政策投資銀行時代から、各地で講演。現在は地方を中心に年間400回以上をこなす。刹那的な「マネー資本主義」から里山の恵み(食材や資源など)を活かし、地域でお金を回す「里山資本主義」にシフトしてこそ、地方再生(創生)の切り札になる、と主張する。
 首相の政策ブレーン(金融緩和論者)は、「円安と株価上昇」をアベノミクス効果だ、と礼賛する。しかし、藻谷研究員は、円安誘導こそ「国富流出の主原因」と批判し、株価上昇も「政権の成功と囃していいのか」と疑問を呈する。

(1)原発再稼働の嘘 ~国富流出は円安が原因~
 「原発が止まったから、火力発電所用の石油輸入量が増えて貿易赤字国になった」「国富を流出させないためには原発再稼働が必要だ」・・・・という話を多くの人が信じ込んでいる。
 とんでもない。真犯人は、政権が誘導している「円安」だ。
 確かに、日本の輸入は増えた。66兆円(野田政権)→77兆円(安倍政権)・・・・1年間で11兆円も。しかし、このうち石油・天然ガス・石炭は3割(3兆3,000億円)。7割は食品・雑貨・スマホなど、燃料以外の商品の輸入額が円安で膨れあがってしまったもの。
 しかも、燃料代の増加3兆3,000億円も、円安が原因で、原発停止が原因ではない。原発は野田政権の時から全部止まっていたのだから。輸入額ではなく、輸入量を見れば明白。日本の石油・天然ガスの輸入量は、原発事故前(2010年)も、安倍内閣の時(2013年)も、2億5,000万キロリットルと横ばいのままなのだ。
 それでも、原発を全部再稼働すれば、化石燃料の輸入額を1兆6,000億円程度減らせると経産省は言う。しかし、2013年の貿易赤字は8兆5,000億円なので、これでは焼け石に水。
 安倍政権は、自分で円安にし、日本を大赤字にしておいて、「さあ、原発再稼働」と言う。相手を転ばせ、怪我をさせておいて、「さあ、薬を買え」と言うようなものだ。

(2)株価上昇への反論 ~貿易赤字国へ転落~
 国全体で「赤字がかさんでいる」とは、企業や個人の損が合計でそれだけ増えているということ。特にガソリンや電気を使っている企業や個人の儲けがどんどん減っている。株価上昇で儲けて喜んでいるのは、ごく一部の人たちだ。多くの人は、ひたすら「中東諸国に貢ぐために働く」という羽目になってしまった。
 株が上がったと浮かれている人は、「国全体が赤字になっても、自分だけは儲けることができた」と喜んでいるわけだ。そういうのを「政権の成果」と囃していいのか。
 しかも、今年上半期の数字から試算すると、今年の貿易赤字は十数兆円に膨らむ。2010年(鳩山政権)には10兆円の黒字だったから、日本はものすごい勢いで貿易赤字国に転落している。
 アベノミクス以降、日経平均株価は9割も上がったのに、国内の小売販売額は1%しか伸びていない。2013年の小売販売額は139兆円で、2012年の138兆円とほとんど変わっていない。
 国民や中小零細企業の大多数は、円安で輸入原材料費が上がって経費がかさむばかり。恩恵の実感はない。
 株が上がって儲けた人がどんどん使えばよいのだが、彼らは金融商品を買うばかりで、国内でモノを買わない。海外にビルが建つだけ。「飢えている人の横で、食べ物を冷蔵庫にしまい込んで腐らせている金持ち」という行動だ。

(3)経済的反日主義 ~中国との貿易も赤字に~
 日本は、中国(香港を含む)に対して、2012年までの12年間、貿易黒字を続けてきた。鳩山政権の時、史上最高の4兆円に近い黒字を稼いだ。
 それが、安倍政権の2013年、1兆円の赤字に転落してしまった。
 日本は、雑貨でも食品でも部品でも安いものを何でも、コストダウンのために中国から買いまくる体質になってしまっていて、それが円安で裏目に出た。
 「中国と毅然と対決する」という姿勢の安倍政権の円安政策が、こうした結果を招いている。
 対中貿易赤字を招くような政策を経済的な「反日」政策だとすると、皮肉なことに、「安倍政権は反日の極み」だ。「鳩山政権が最も親日」だった。

(4)大企業・富裕層優先 ~里山資本主義へ移行せよ~
 日本は、20年前から、一人当たりのGDP(国内総生産)が世界の20位以内の水準で、失業率も先進国で最低水準なのに、「もっと稼いでGDPを増やさなければ」と叫ぶ政治家ほど支持率が上がる。
 刹那的な「マネー資本主義」に走り、やりすぎると、未来のために残さないといけないものまで使い尽くす。今稼ぐために、残してはいけないものを残す。具体的には、借金と汚染物質だ。
 マネー資本主義に走る大企業は、人員を減らすことで給料の総額を減らし、原材料を安くするために中国からの輸入量を増やし、配当を確保する。一部上場の大企業は株主総会で叩かれるので、配当は減らさない。減らすと、ソニーのようにボロクソに批判される。
 その分、貿易赤字が増えて、内需は縮んでしまう。

□横田一「安倍首相から名指しされた藻谷浩介氏のアベノミクス批判 “経済的反日”政権の幻想から目覚めよ」(「週刊金曜日」2014年10月31日号)
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