語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【政治】安倍が描いた解散戦略の全内幕 ~周到な準備~

2014年11月18日 | 社会
 11月11日、永田町に衆院解散の突風が吹いた。安倍晋三・首相がアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合に日本を出発する前に仕込んだ「時限爆弾」が炸裂した。
 導火線に火をつけたのは、二階俊博・総務会長だ。11日、自民党役員会で、二階は谷垣禎一・幹事長に質問した。マスコミで取り沙汰されている衆院解散の現状を説明してもらいたい、云々。
 谷垣は、解散の可能性を否定せず、「解散の大義名分」と解散をめぐるスケジュール管理の必要性だけを説明した。
 むろん、この時点で二階も谷垣も安倍の意向のほとんどを知っていた。谷垣と二階は、記者会見でさらにアクセルを踏んだ。
 谷垣:「総理は熟慮されて判断されると思う」・・・・政界の常識では「熟慮」に続く言葉は「断行」でしかない。
 二階:「常在戦場の意気込みで、時が来れば果敢に戦い、党が圧勝できるような態勢を整えたい」・・・・谷垣より明確に語った。

 さらに解散風を煽ったのは、山口那津男・公明党代表だ。
 「報道では年内選挙のシナリオがある。それに対応できる構えを取りたい」
 山口は、外国訪問に出発する直前に安倍と1時間会談し、解散の方針を伝えられた。

 安倍は「解散の大義名分」も早くから決めていた。来年10月の消費増税先送りだ。
 (1)消費増税・・・・2012年8月、野田佳彦・首相(当時)と谷垣禎一・自民党総裁(当時)と山口代表の三者で結ばれた3党合意に基づく。2012年12月の衆議院選挙でこの合意は国民の信を得ており、修正するとなればもう一度国民の意見を聞かねばならない。それが安倍の「解散の大義名分」だ。
 (2)国際公約でもある財政再建・・・・増税を1年半先送りして「2017年4月1日からの実施」を法律に明記することによって財政再建路線の堅持を担保する。菅義偉・官房長官が「安倍内閣はデフレ脱却と財政再建の二兎を追う内閣だ」と繰り返す真意はここにある。
 (3)公明党の強い要請でもある軽減税率の導入・・・・従来の自公合意は「税率10%時」として具体的な実施時期については曖昧にしてきたが、それを2017年4月1日の「引き上げ時」と明確にすることになった。
 (4)公明党としては、年内解散総選挙は、来年4月1日の地方選挙に影響が少ないことと、最も回避したい2016年夏の衆参同日選挙が事実上消えることを意味する。
 (5)政敵・・・・民主党の選挙準備が全く整っていない。この時期の選挙は、安倍が機をうかがっていたタイミングでもあった。民主党は海江田万里・代表が求心力を欠き、彼が代表に就いて以来「海江田降ろし」がくすぶり続けていた。しかし、海江田に代表を辞める意思がなく、苦肉の策として海江田に距離を置く枝野幸男・幹事長、福山哲朗・政調会長らによって執行部を固めた。こんな組み合わせでまともな選挙態勢が組めるだろうか。安倍は、そこを見逃さなかった。民主党は、つい1週間前まで来年4月の統一地方選の準備を進めていた。不意をつかれ、なすすべもない。

 安倍は、解散に執念を燃やし、周到に準備した。それは、外交面に端的に表れている。
 解散戦略の一環に日中首脳会談の実現があった。安倍は「何が何でも会談を設定するように」と外務省に厳命している。
 それまでの安倍は、首脳会談の設定には「前提条件を付けない」ことが基本だった。その基本を変え、谷内正太郎・国家安全保障局長を北京に派遣し、「玉虫色の4項目合意」をまとめさせている。
 2年前の総選挙で、安倍は民主党政権を「外交敗北」と攻撃していた。その安倍が日中首脳会談すらできないようでは同じ言葉で反撃される可能性があったからだ。そのためのつじつま合わせが、逆に「外交成果」となった。
 極めつきは外務省への指示だ。「12月には外交日程を入れないでほしい」
 月に一度は外国訪問をしている安倍が、早くから「12月選挙」のシナリオを描いていたことの証しだ。
 
□後藤謙次「安倍が描いた解散戦略の全内幕 消費増税は1年半先送りで実施 ~永田町ライブ 218~」(「週刊ダイヤモンド」2014年11月22日号)
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