語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】世界イスラム帝国へ、ネット時代の世界革命 ~イスラム国の行方~

2014年11月15日 | ●佐藤優
 2014年6月29日、イスラム過激派組織ISISが「イスラム国」樹立を宣言。シリア人、イラク人を始め、世界80か国から15,000人の戦闘員が集まり、勢力を強めている。

 イスラム教には多数派の(a)スンニー派と少数派の(b)シーア派がある。
 (b)が唯一政権を握っている国がイランだ。
 (a)はシャリーア(イスラム法)の解釈によって4つの法学派に分かれる。①ハナフィー派、②マーリキー派、③シャーフィー派、④ハンバリー派だ。①~③は世俗の伝統や土地の慣習を大事にし、過激な運動はあまり出てこない。
 問題なのは④。世の中の真理はクルアーン(コーラン)とハディース(ムハンマド伝承集)に全て書かれており、その通りにすべきとするイスラム原理主義だ。
 サウジアラビアは④の中でも特に厳格なワッハーブ派を国教としている。その武装勢力がアルカイダだ。
 また、北アフリカ・マグレブ諸島のアルカイダ、チェチェンのテログループ、アフガニスタンのタリバンなど、イスラムの過激派はすべて④。
 今回のイスラム国も、当然④。昨今できた組織ではなく、20世紀のムスリム同胞団(1928年~)を源流とするイスラム原理主義の歴史を受け継いだ革命組織だ。

 イスラム国は初期のソビエト連邦に似ている。
 マルクスの国家観では、国家は最終的になくなるべきものだ。ソ連は社会主義国の「同盟」である。他の国家は人民を抑圧するが、われわれは抑圧しない。われわれは国家が持っている原罪、悪を持っていない。だから国家を規制するメカニズムは要らないという考えだ。それが凄まじい恐怖政治につながった。それはさて措き、スターリンが出てきて一国社会主義になる前のソ連は、世界から国家をなくして社会主義世界をつくるという世界革命を狙っていた。
 イスラム国の目的も、世界革命を起こして世界イスラム帝国をつくることだ。
 世界に国家はただ一つ。
 神はアッラーのみ。
 この世界を支配する法律はシャリーア一つ。 
 それを指導するのは、ムハンマドの後継者であるカリフ(最高権威者)ただ一人。

 組織形態の大きな特徴は、ネットワーク型であること。
 アルカイダのように、ウサマ・ビンラディンの命令で下部が動く・・・・といった組織形態ではない。
 小さなテロのユニットが無数にあり、それぞれに必ずメンター(指導者)がつく。それがインターネットでつながって、世界中に結び付いている。散発的・突発的にテロが起きるため、封じ込めが難しい。

 テロ組織が活動を継続するためには、次の4つが必要だ。
  ・カネ
  ・指導するメンター
  ・武器を製造する技術部門
  ・インテリジェンス
 さらに、外側でそれをサポートする「人民の目」があればなお強い。今のイスラム国はそのすべてが確保されているので、勢力は今後も広がるだろう。

 他の学派(①~③)の若者も、少しずつ④に引きずられてきている。
 シャリーアに忠実・厳格とは、解釈としてはある意味で一番簡単なので、今のイスラム国の勢いを見て、イスラム穏健派の人々も④に惹きつけられる可能性が十分にある。実際、イスラム国にはカタールやサウジアラビアかなりカネが流れ込んでいるらしい。

 いま、欧米や日本からも、若者が戦闘員としてイスラム国に向かっている。この根底に、宗教より社会問題がある。世の中に過激な考えを持つ人、社会のどこにも帰属感を得られない人はいつの時代にもいる。かつて彼らを糾合したのはマルクス主義であり、日本では連合赤軍などの過激派だった。
 それが、いまはイスラム国。世の中の矛盾を憎んでいる若者、社会の境界線をさまよう若者に、革命という処方箋を提示し、惹きつけている。
 本質的には、ソ連ほどの脅威はない。ソ連は自前の計画経済をつくったが、イスラム国はシリアとイラクで秘密裏に産出した原油をヨルダンに流し、資本主義国に密売して生きている。つまり、資本主義を批判し、ムハンマドがいた時代に戻ることを目的としつつ、資本主義に「寄生」しているという自己矛盾を抱えている。したがって、彼らの目標が達成されるときには、皮肉なことに彼らは生きられなくなるのだ。

 イスラム国を弱体化させるために重要なのは、イスラム穏健派をサポートすることで、封じ込めることだ。イスラム過激派をキリスト教徒や無神論者など外部の人間がつぶすことはできない。そのことを知っている米国は、今回の空爆は有志連合という形で、サウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦、カタール、ヨルダンに加わってもらった。 

□記事「佐藤優が指南 宗教から読み解く国際ニュース」(「週刊ダイヤモンド」2014年11月15日号)
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 【参考】
【佐藤優】来世より現世を生きる教えが強い絆を生む ~欧州南北問題~
【佐藤優】米国人とユダヤ人が共有する選民思想 ~米国とイスラエル~

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