(1)ジャーナリストの仕事の基盤である取材とは何か。それは、本当のことを語る証言者を探す作業だ。守秘義務などの壁を越え、真実を明かしてくれる人物。内部告発者はその筆頭格であり、そうした者が現れれば事実が明るみに出るし、現れなければすべては闇の中に隠されてしまう。
ただ、内部告発者はしばしば不当な攻撃や圧力にさらされる。ことに強大な権力を持つ者と対峙すれば、公私ともに強烈な圧迫を受け、時には無惨に押しつぶされてしまうこともある。
(2)代表的な例は、古くはあるが、沖縄返還をめぐる日米密約だ。西山太吉・毎日新聞(政治部)記者は、1972年、外務省の女性事務官から極秘の外交公電を入手した。沖縄返還に際して、日米両政府が密約を結んでいたことを示す内容だった。
しかし、当時の検察は策を弄し、事実をねじ曲げた。西山記者と当該事務官は「男女の仲」であり、取材手法が不当だ、と盛んに宣伝したのだ。そして、二人は逮捕され、本来は「沖縄返還をめぐる密約事件」と呼ぶべき政治的事件が、「外務省機密漏洩事件」に矮小化された。
(3)少し前だと、三井環・元大阪高等検察庁公安部長の例もある。三井氏は、検察が長年組織ぐるみで行ってきた裏金づくりという犯罪行為を告発しようと決意した。動機は私憤だった、と三井氏は明かしているが、検察は口封じのため三井氏を微罪逮捕するという暴挙に出た。メディアは、検察の思惑に踊らされた。
三井氏の事件が示すように、告発者の人間性や告発の動機は多様だ。もちろん、そこにも目を凝らすべきだが、それはあくまでも脇の話で、肝心なのは告発の中身であることを忘れてはならない。
(4)(2)や(3)の例と比べるのが適当であるかどうかはさて措き、青木理・ジャーナリストは前川喜平・元文部科学省事務次官に直接会って話を聞き、実に誠実で真摯な人物であると感じ入った。その前川氏は、加計学園問題をめぐって勇気ある告発に踏み切ったが、現在、陰に日に不当な圧力が加えられている。
特に読売新聞は醜悪だった。<前川前次官 出会い系バー通い>・・・・そんな見出しの5月22日付け朝刊の記事は、官邸からのリークを受けて前川氏を貶め、その証言の信用性に疑問符を付けようした意図が露骨だった。
権力の走狗と化して告発潰しに走った読売紙は、メディアとして死んだ。いや、これ以前から死んでいた。
(5)メディアの醜態は、これにとどまらない。前川氏の告発報道では、朝日新聞などが先行し、インタビューも掲載しているが、実はNHKも同時期にインタビュー収録に成功していたのである。
なのに、NHKは現時点でこれを一切報道していない。ニュース価値がない、などという理屈が通るはずはない。誰が考えても、前川氏の証言は第一級のニュース。これほどのインタビューを収録しながら報じないとは、異様極まる。
これもまた政権の意向を“忖度”したのか。
それとも官邸の強烈な圧力に屈したのか。
いずれにせよ、加計学園問題と前川氏の告発をめぐる報道のありようは、それなりに信用できるメディアとまったく信用できないメディアとの真贋を見事にあぶり出すリトマス試験紙となった。
□青木理「前川前次官の告発が見事にあぶり出した「メディアの真贋」」(「週刊現代」2017年6月17日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【加計学園疑惑】説明責任は首相にある ~朝日紙社説・抄~」
「【加計学園疑惑】獣医学部新設に日本獣医師会が「反対」する理由」
「【加計学園疑惑】愛媛県・今治市も「共犯」か ~地元の発言・文書も示す加計学園「総理のご意向」~」
「【神保太郎】首相の妻(安倍昭恵)、日本の公教育を否定」
「【後藤謙次】【加計学園疑惑】沈黙していた政官双方から異論 ~加計学園問題が招く想定外反応~」
「【加計学園疑惑】と官邸 ~「総理の意向」隠蔽か~」
「【加計学園疑惑】「忖度」ではなく首相の直接指示か ~首相主導の“官製談合”~」
「【後藤謙次】共謀罪に加計学園問題まで炎上 ~予想以上に高い「6月の壁」~」
ただ、内部告発者はしばしば不当な攻撃や圧力にさらされる。ことに強大な権力を持つ者と対峙すれば、公私ともに強烈な圧迫を受け、時には無惨に押しつぶされてしまうこともある。
(2)代表的な例は、古くはあるが、沖縄返還をめぐる日米密約だ。西山太吉・毎日新聞(政治部)記者は、1972年、外務省の女性事務官から極秘の外交公電を入手した。沖縄返還に際して、日米両政府が密約を結んでいたことを示す内容だった。
しかし、当時の検察は策を弄し、事実をねじ曲げた。西山記者と当該事務官は「男女の仲」であり、取材手法が不当だ、と盛んに宣伝したのだ。そして、二人は逮捕され、本来は「沖縄返還をめぐる密約事件」と呼ぶべき政治的事件が、「外務省機密漏洩事件」に矮小化された。
(3)少し前だと、三井環・元大阪高等検察庁公安部長の例もある。三井氏は、検察が長年組織ぐるみで行ってきた裏金づくりという犯罪行為を告発しようと決意した。動機は私憤だった、と三井氏は明かしているが、検察は口封じのため三井氏を微罪逮捕するという暴挙に出た。メディアは、検察の思惑に踊らされた。
三井氏の事件が示すように、告発者の人間性や告発の動機は多様だ。もちろん、そこにも目を凝らすべきだが、それはあくまでも脇の話で、肝心なのは告発の中身であることを忘れてはならない。
(4)(2)や(3)の例と比べるのが適当であるかどうかはさて措き、青木理・ジャーナリストは前川喜平・元文部科学省事務次官に直接会って話を聞き、実に誠実で真摯な人物であると感じ入った。その前川氏は、加計学園問題をめぐって勇気ある告発に踏み切ったが、現在、陰に日に不当な圧力が加えられている。
特に読売新聞は醜悪だった。<前川前次官 出会い系バー通い>・・・・そんな見出しの5月22日付け朝刊の記事は、官邸からのリークを受けて前川氏を貶め、その証言の信用性に疑問符を付けようした意図が露骨だった。
権力の走狗と化して告発潰しに走った読売紙は、メディアとして死んだ。いや、これ以前から死んでいた。
(5)メディアの醜態は、これにとどまらない。前川氏の告発報道では、朝日新聞などが先行し、インタビューも掲載しているが、実はNHKも同時期にインタビュー収録に成功していたのである。
なのに、NHKは現時点でこれを一切報道していない。ニュース価値がない、などという理屈が通るはずはない。誰が考えても、前川氏の証言は第一級のニュース。これほどのインタビューを収録しながら報じないとは、異様極まる。
これもまた政権の意向を“忖度”したのか。
それとも官邸の強烈な圧力に屈したのか。
いずれにせよ、加計学園問題と前川氏の告発をめぐる報道のありようは、それなりに信用できるメディアとまったく信用できないメディアとの真贋を見事にあぶり出すリトマス試験紙となった。
□青木理「前川前次官の告発が見事にあぶり出した「メディアの真贋」」(「週刊現代」2017年6月17日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【加計学園疑惑】説明責任は首相にある ~朝日紙社説・抄~」
「【加計学園疑惑】獣医学部新設に日本獣医師会が「反対」する理由」
「【加計学園疑惑】愛媛県・今治市も「共犯」か ~地元の発言・文書も示す加計学園「総理のご意向」~」
「【神保太郎】首相の妻(安倍昭恵)、日本の公教育を否定」
「【後藤謙次】【加計学園疑惑】沈黙していた政官双方から異論 ~加計学園問題が招く想定外反応~」
「【加計学園疑惑】と官邸 ~「総理の意向」隠蔽か~」
「【加計学園疑惑】「忖度」ではなく首相の直接指示か ~首相主導の“官製談合”~」
「【後藤謙次】共謀罪に加計学園問題まで炎上 ~予想以上に高い「6月の壁」~」