(1)いち早く本行に見切りをつけ、構造改革を断行。富士フイルムHD古森会長の経営手腕は賞讃を集める。しかし、その儲けが海外子会社の「食い物」にされた。なぜ日本企業は外国でなめられるのか。
(2)「もう一丁(1兆)やるぞ!!」
これが富士フイルムホールディングス(HD)の子会社、富士ゼロックスのスローガンだった。売上高1兆円への回帰を誓う「売上至上主義」。これが結果として同社の不正会計と、その隠蔽工作につながった。
事の発端は、ニュージーランドの販売子会社の外国人社長ら幹部の悪行だった。彼等は、目標の売上げを達成すると多額のボーナスを受け取ることのできるインセンティブ契約を結んでいた。
リース契約を悪用して見せかけの売上高を増加させ続け、2010年4月から48ヵ月連続で業務目標を達成。数千万円単位のインセンティブ報酬を受け取っていた。この社長らは、ニュージーランドからオーストラリアに移ってからも同じ手口で不正を続け、その間には会社のクレジットカードで豪遊していた。家族ぐるみのプライベート旅行では約350万円、幹部らとの私的な飲食費は月に約36万円支出し、その総額は400万円にも及ぶ。【経済誌記者】
(3)外国人幹部の行状が富士ゼロックス内部で問題になったのは、2015年7月のこと。匿名の内部通報メールが富士ゼロックスの吉田晴彦・副社長(当時)に届いたのだ。吉田副社長は、柳川勝彦・専務(当時)に対応を指示し、同社は調査した。
調査の結果、海外子会社で不正会計が行われていることが明らかになった。
しかし、富士ゼロックスは、この問題を親会社である富士フイルムHDに報告しないで握りつぶした。不正会計であろうとも監査を通っている以上、バレる可能性は低いと高を括った。
それどころか、不正を働いた外国人社長を退職させることで、この問題を秘密裏に決着させようともした。退職にあたって支払われた金額は約8,800万円。盗人に追い銭である。
むろん、これで問題が解決するわけではない。
(4)2016年9月、ニュージーランド経済紙「ナショナル・ビジネス・レビュー」が富士ゼロックスのニュージーランド法人で不正に売上げが計上されていることを報じた。
これでようやく富士フイルムHDが、子会社の海外販売会社で何らかの不正が行われている可能性を察知することになった。富士フイルムHDは富士ゼロックスに対して詳しいことの報告を求めたが、吉田副社長は、
「説明するのはいいけれど、結論を言って、不正はありませんと答えればOK」
「富士ゼロックスは独立した会社だ」
などと社内で話し、質問に回答しなくてもいい、と部下に指示。その後ものらりくらりと質問をかわそうとし続けた。
(5)こうした富士ゼロックスの姿勢に対して、2017年3月、古森重隆・富士フイルムHD会長が不信感を抱いたのは当然のことだった。2017年3月期決算開示に先立ち、社内調査委員会及び第三者委員会を設置し、徹底的に調査することを命じた。
その結果、明らかになったのが、外国人幹部の放漫経営と、それを隠蔽しようとした富士ゼロックス幹部の姿だった。
6月12日、富士フイルムHDは記者会見を開き、不正会計による損失は累計375億円にも上ると発表した。
富士フイルムHDは、古森会長が強烈なリーダーシップで率いる企業群として有名だ。それが、一子会社の、しかもそのまた子会社である海外販売会社の外国人によって「食い物」にされていた。古森会長と富士フイルムHDにとっては、「屈辱」以外の何ものでもなかったはずだ。
(6)古森会長は、持ち株会社のトップとして、子会社のガバナンスに責任ある立場にいたことは事実だ。
ところが、いつもは率先してメディアの前に登場する古森会長は、記者会見に姿を現さなかった。
富士ゼロックスによる粉飾決算は、富士フイルムHDの経理に直結する一大事だ。責任の所在は、本来、古森会長にある。ところが、厳しい処分は富士ゼロックスの幹部だけに集中した。内部の人間によれば、古森会長に傷をつけないことが至上命令としてあったよし。事実、第三者委員会の調査報告書は、富士ゼロックスの売上至上主義を非難する内容で、古森会長の責任を指摘する記述は皆無。古森会長が優れた財界人に与えられる旭日大綬章を受章するため手心を加えた、とも言われている。【前出・経済誌記者】
(7)富士ゼロックスや東芝に限らず、日本企業が海外進出で巨額の損失を計上する事例は枚挙にいとまがない。2017年4月には、日本郵政が買収したオーストラリアの物流会社トール社をめぐって、約4,000億円の減損を計上したばかり。
なぜ日本企業の海外買収は失敗するのか。
日本企業による海外M&Aは、88%が失敗だ。10%は変化なし。買収前より業績が拡大した成功例は2%だけ。要因は、(a)高値づかみ、(b)トップが自ら統合作業をやらないから。欧米はCEOが統合作業をやる。そうでないと買収先がコントロールできない。単純に会社の規模を大きくしたいとか、多角化で違う分野に進出したい、といった動機は不純で、それでは相乗効果は生まれない。【数々のM&Aを成功させて一代で世界的なモーター会社を作り上げた永守重信・日本電産会長兼社長】
①買収しようとする会社に対する評価が甘い。買収先の企業価値を冷静に判断せず、何としてでも買収したいという焦りのため、「高値づかみ」をしてしまう。②買収相手との間に企業理念のギャップがある。企業理念や企業文化が大きく乖離していると、人間関係がギクシャクして業績にも悪影響を与える。③海外での経営を外国人に任せてしまう。好き勝手をやられて、気づいたら大きな損失が発生していた、というケースがよくある。【ジョンソン・エンド・ジョンソンなどで社長職を歴任した新将命(あたらし・まさみ)・国際ビジネスブレイン社長】
その他、土地勘がないところに進出して失敗するケースも散見される。その代表はキリンホールディングス(HD)。キリンHDは6年前、ブラジルの大手ビール会社を約3,000億円で買収したが、今年2017年2月に770億円でハイネケン子会社に売却し、ブラジルから撤退した。よく知らない地域での巨額買収は失敗する、という典型例だ。【保田隆明・神戸大学大学院経営学研究科准教授】
□記事「海外子会社にコケにされた富士フイルムの「屈辱」 現地マネージャーが年俸アップのために平気で不正会計」(週刊現代 2017年7月1日号)
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(2)「もう一丁(1兆)やるぞ!!」
これが富士フイルムホールディングス(HD)の子会社、富士ゼロックスのスローガンだった。売上高1兆円への回帰を誓う「売上至上主義」。これが結果として同社の不正会計と、その隠蔽工作につながった。
事の発端は、ニュージーランドの販売子会社の外国人社長ら幹部の悪行だった。彼等は、目標の売上げを達成すると多額のボーナスを受け取ることのできるインセンティブ契約を結んでいた。
リース契約を悪用して見せかけの売上高を増加させ続け、2010年4月から48ヵ月連続で業務目標を達成。数千万円単位のインセンティブ報酬を受け取っていた。この社長らは、ニュージーランドからオーストラリアに移ってからも同じ手口で不正を続け、その間には会社のクレジットカードで豪遊していた。家族ぐるみのプライベート旅行では約350万円、幹部らとの私的な飲食費は月に約36万円支出し、その総額は400万円にも及ぶ。【経済誌記者】
(3)外国人幹部の行状が富士ゼロックス内部で問題になったのは、2015年7月のこと。匿名の内部通報メールが富士ゼロックスの吉田晴彦・副社長(当時)に届いたのだ。吉田副社長は、柳川勝彦・専務(当時)に対応を指示し、同社は調査した。
調査の結果、海外子会社で不正会計が行われていることが明らかになった。
しかし、富士ゼロックスは、この問題を親会社である富士フイルムHDに報告しないで握りつぶした。不正会計であろうとも監査を通っている以上、バレる可能性は低いと高を括った。
それどころか、不正を働いた外国人社長を退職させることで、この問題を秘密裏に決着させようともした。退職にあたって支払われた金額は約8,800万円。盗人に追い銭である。
むろん、これで問題が解決するわけではない。
(4)2016年9月、ニュージーランド経済紙「ナショナル・ビジネス・レビュー」が富士ゼロックスのニュージーランド法人で不正に売上げが計上されていることを報じた。
これでようやく富士フイルムHDが、子会社の海外販売会社で何らかの不正が行われている可能性を察知することになった。富士フイルムHDは富士ゼロックスに対して詳しいことの報告を求めたが、吉田副社長は、
「説明するのはいいけれど、結論を言って、不正はありませんと答えればOK」
「富士ゼロックスは独立した会社だ」
などと社内で話し、質問に回答しなくてもいい、と部下に指示。その後ものらりくらりと質問をかわそうとし続けた。
(5)こうした富士ゼロックスの姿勢に対して、2017年3月、古森重隆・富士フイルムHD会長が不信感を抱いたのは当然のことだった。2017年3月期決算開示に先立ち、社内調査委員会及び第三者委員会を設置し、徹底的に調査することを命じた。
その結果、明らかになったのが、外国人幹部の放漫経営と、それを隠蔽しようとした富士ゼロックス幹部の姿だった。
6月12日、富士フイルムHDは記者会見を開き、不正会計による損失は累計375億円にも上ると発表した。
富士フイルムHDは、古森会長が強烈なリーダーシップで率いる企業群として有名だ。それが、一子会社の、しかもそのまた子会社である海外販売会社の外国人によって「食い物」にされていた。古森会長と富士フイルムHDにとっては、「屈辱」以外の何ものでもなかったはずだ。
(6)古森会長は、持ち株会社のトップとして、子会社のガバナンスに責任ある立場にいたことは事実だ。
ところが、いつもは率先してメディアの前に登場する古森会長は、記者会見に姿を現さなかった。
富士ゼロックスによる粉飾決算は、富士フイルムHDの経理に直結する一大事だ。責任の所在は、本来、古森会長にある。ところが、厳しい処分は富士ゼロックスの幹部だけに集中した。内部の人間によれば、古森会長に傷をつけないことが至上命令としてあったよし。事実、第三者委員会の調査報告書は、富士ゼロックスの売上至上主義を非難する内容で、古森会長の責任を指摘する記述は皆無。古森会長が優れた財界人に与えられる旭日大綬章を受章するため手心を加えた、とも言われている。【前出・経済誌記者】
(7)富士ゼロックスや東芝に限らず、日本企業が海外進出で巨額の損失を計上する事例は枚挙にいとまがない。2017年4月には、日本郵政が買収したオーストラリアの物流会社トール社をめぐって、約4,000億円の減損を計上したばかり。
なぜ日本企業の海外買収は失敗するのか。
日本企業による海外M&Aは、88%が失敗だ。10%は変化なし。買収前より業績が拡大した成功例は2%だけ。要因は、(a)高値づかみ、(b)トップが自ら統合作業をやらないから。欧米はCEOが統合作業をやる。そうでないと買収先がコントロールできない。単純に会社の規模を大きくしたいとか、多角化で違う分野に進出したい、といった動機は不純で、それでは相乗効果は生まれない。【数々のM&Aを成功させて一代で世界的なモーター会社を作り上げた永守重信・日本電産会長兼社長】
①買収しようとする会社に対する評価が甘い。買収先の企業価値を冷静に判断せず、何としてでも買収したいという焦りのため、「高値づかみ」をしてしまう。②買収相手との間に企業理念のギャップがある。企業理念や企業文化が大きく乖離していると、人間関係がギクシャクして業績にも悪影響を与える。③海外での経営を外国人に任せてしまう。好き勝手をやられて、気づいたら大きな損失が発生していた、というケースがよくある。【ジョンソン・エンド・ジョンソンなどで社長職を歴任した新将命(あたらし・まさみ)・国際ビジネスブレイン社長】
その他、土地勘がないところに進出して失敗するケースも散見される。その代表はキリンホールディングス(HD)。キリンHDは6年前、ブラジルの大手ビール会社を約3,000億円で買収したが、今年2017年2月に770億円でハイネケン子会社に売却し、ブラジルから撤退した。よく知らない地域での巨額買収は失敗する、という典型例だ。【保田隆明・神戸大学大学院経営学研究科准教授】
□記事「海外子会社にコケにされた富士フイルムの「屈辱」 現地マネージャーが年俸アップのために平気で不正会計」(週刊現代 2017年7月1日号)
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