語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」

2014年04月15日 | ●佐藤優
 (1)3月18日、ロシアがクリミア自治共和国を編入した日、プーチン大統領は演説した。
 <今日、われわれは、われら全員にとって死活的に重要な意味と歴史的意義を持つ問題に関連して集まった。16日、クリミアで住民投票が行われた。それは民主主義的手続きと、国際法規範に完全に従って行われた。投票には82%以上が参加した。96%以上がロシアとの統合に賛成した。この数字はきわめて説得的である>
 しかし、「自警団」という名の国籍不明軍(実態はロシア軍)がクリミアを実効支配する状況で行われた住民投票の結果が「国際法規範に従った」とは言えない。
 米国、EU、日本がロシアによるクリミア編入を認めないのは当然のことだ。

 (2)(1)の演説でプーチンいわく、<ヒステリーをやめ、「冷戦」のレトリックを拒否し、明白な事実を承認する必要がある。ロシアは、国際関係の自立した、積極的な参加者だ。他の諸国と同様にロシアには、考慮せねばならず、尊重しなければならない国益がある>。
 「考慮せねばならず、尊重しなければならない国益」のためには、近隣諸国の領土を編入しても構わないというのは、典型的な帝国主義者の発想だ。
 クリミアが独立を宣言し、住民投票でロシアへの編入を決定したとしても、プーチンが「われわれは領土拡張を望まない」という姿勢を明確にし、ロシアと「クリミア国家」の間で同盟条約を結ぶという選択をしたならば、国際関係がこれほど緊張することはなかった。
 ロシアが強気に出てクリミアを編入した理由は3つ。
  (a)クリミア住民の圧倒的多数がロシアへの編入を心底から望んでいるから。
  (b)ウクライナの新政権が、クリミアの離脱を阻止する軍事力を持っていないから。
  (c)米国に、クリミアのロシア編入を覆すことができる外交力、軍事力がないから。

  (3)ロシアの(2)の立ち居ふるまいが、米国の力の衰退を可視化させることになった。この現実に直面して、米国の政治エリートや国際政治専門家は、プーチン政権に対する不信感を高めている。
 例えば、アレクサンダー・モティル・米ラトガース大学教授(「フォーリン・アフェアーズ・レポート」4月号掲載論文)。
  (a)プーチンは、クリミアを力任せに奪い取った後、他のウクライナ地域へと侵略対象を拡げていく。
  (b)ロシア軍の数万の部隊、数百の戦車や装甲車がウクライナとの国境近くに終結している。単なる軍事演習のためとは思われない。
  (c)南東部の複数の州では、軍事情報を収集し、現地で騒乱を煽り立てることを任務とするロシアのスパイがすでにウクライナ軍によって拘束されている。
  (d)国境警備隊がウクライナへの入国を阻止した「武装したロシア人観光客=特殊部隊」の規模はすでに数千人に達している。
  (e)クリミアだけでなく、ドネック州、ハルキウ州など東部諸州でも親ロシア武装勢力が政府庁舎を占拠し、反ロシアのデモ隊を襲撃している。

 (4)(3)の事実はどうか。
 (b)について、ロシア軍との国境付近に展開しているのは事実だ。軍事演習の目的がウクライナに対する牽制であることは間違いない。
 (c)について、ロシアとウクライナが相互にインテリジェンス戦を展開していることも事実だ。ウクライナの諜報機関がロ・ウ関係の悪化を狙って送り込んだ過激派組織が、ロシアで摘発された、と4月4日の露国営ラジオ「ロシアの声」は報じている。
 インテリジェンス戦について、欧米発、ロシア発の情報はいずれも一方的なので、双方を比較して総合的な評価を下す必要がある。

 (5)(3)-(d)は、あり得ない。かかる稚拙な方法をロシアのインテリジェンス機関は用いない。
 (3)-(e)は、ウクライナの新政権がロシア語を公用語から除外する方針を示したからだ。そうなると、東部諸州においてウクライナ語を解しない公務員が解雇され、新政権から送り込まれたウクライナ民族至上主義者が権力を掌握し、ロシア語を常用する圧倒的多数の住民が「二級市民」として取り扱われることを恐れたのだ。このような自然発生的な動きをロシアの工作と見なすのは間違いだ。
 モティル教授の懸念はさらに広がり、ロシアが大西洋に向かって侵略を拡大する可能性まで考えている。プーチンのユーラシアニズムが、ウラジオストクからリスボンまでを内包するユーラシア国家を誕生させようとしている・・・・とモティルは考える。
 ユーラシア主義とは、ヨーロッパとアジアにまたがるロシアは、ユーラシア国家として独自の論理と発展法則を持っている、という考え方だ。米国型の自由民主主義、市場原理主義からヨーロッパが解放されない限り、旧ソ連領域にユーラシア国家を回復することはできない、というのがユーラシア主義者の標準的な考え方だ。
 それをモティルは、ロシアがポルトガルまで侵略する危険性がある、と曲解している。このような見解が米国の政治エリートを支配している。米国人は、「恐露病」にかかっている。
 日本政治は、かかる「恐露病」と一線を画し、冷静な対露外交を展開している。

□佐藤優「ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」 ~佐藤優の飛耳長目 94~」(「週刊金曜日」2014年4月11日号)
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 【参考】
【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~
【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~
【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~
【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~
【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~
【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~
【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~
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【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~

2014年04月14日 | 社会
 (1)アベノミクスの三本の矢は、
  (a)金融緩和 → 昨年の初め、株高と円安が進み、一気に景気浮揚への期待が高まった。
  (b)機動的財政出動・・・・借金頼みの公共事業のバラマキ → 建設分野ではバブルが起きるほどの好況。
  (c)成長戦略
 成長戦略は、効果が出るまでに時間がかかる。本来は第一の矢として最初に放つべきだった。安部総理最初のチャレンジは政権発足後半年の昨年6月、鳴り物入りで発表した。が、中身がなくて、発表の最中に株価大暴落という大失態となった。安部総理の成長戦略への期待がガタ落ちになった瞬間だった。
 これが一度目の挑戦であり、その失敗だ。

 (2)慌てた官僚は、「実はこの成長戦略は本物ではない。本物は秋に出す」と言い訳し、秋の臨時国会は「成長戦略国会」と銘打った。
 しかし、二度目の挑戦も何も出てこないまま終わった。

 (3)今年の通常国会は、安倍政権によって「好循環実現国会」と名付けられた。「『成長戦略』が不十分なわけではない。成長への好循環につなげるための最後の一押しが足りないだけだ。それを今国会でやる」という言い訳のための命名だ。
 しかし、2013年度補正と2014年度本予算は、ただのバラマキばかり。三度目の挑戦の目玉となる「国家戦略特区」も中途半端なもので終わった。これで日本の成長率が上がる、という識者はいない。

 (4)(1)-(c)に期待できなければ、(a)と(b)しかない。
 しかし、カネをジャブジャブにして、国の借金をどんどん増やしても、人手不足で公共事業の消化もままならない。
 企業も、投資する資金はあっても、付加価値を高めるイノベーションがないので、結局コストカットへと再び向かう。
 公共事業のためにも民間企業のためにも安い労働力が必要ということになり、建設分野への外国人労働者活用の拡大が決まった。

 (5)人々の生活を高めるために最も重要なのは、高い給料をもらえる職場の創出だ。
 その意味では、付加価値の低い分野で、人手不足という理由だけで外国人を多数流入させるのは、本筋を離れた一時しのぎにでしかない。このままでは、昔のように公共事業に頼る経済に逆戻りするだけだ。

 (6)で、新たな対策・・・・ということなのか、ここへきて武器輸出と原発輸出の動きが加速している。
 武器輸出三原則の廃止で、武器輸出が原則禁止から原則解禁になった。水面下の動きが一気に表面化してきた。
 米国だけではない。英、仏、豪、印、フィリピン、ベトナム、トルコなどいたるところで企業間、政府間で武器や武器技術輸出の相談が始まっている。
 今や、(1)-(c)の三本柱は、次のものになった感すらある。
   ①武器
   ②原発
   ③外国人
 一頃三本柱といわれた「医療・農業・電力」の3分野はどうなったか。利権にまみれた自民党族議員と官僚たちは、引き続き、本丸は死守するつもりだ。

 (7)安部総理いわく、「岩盤規制を打ち破るドリルの刃になる」。
 これまで三度失敗した成長戦略。
 四度目の挑戦は6月に出る。
 しかし、「武器・原発・外国人」の成長戦略をあなた方は信じることができるか?
 
□古賀茂明「成長戦略は「武器・原発・外国人」 ~官々愕々第105回~」(「週刊現代」2014年4月26日号)
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 【参考】
【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~
【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~
【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~  
【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~
【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと
【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~
【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~
【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~
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【心理】女性自身による女性差別、有色人種自身による有色人種差別

2014年04月13日 | 心理
 西水美恵子・元世界銀行副総裁は、毎日新聞の「時代の風」で、「女性の社会進出」と題し、次のように書いた。

----------------(引用開始)----------------
 (前略)
 制度化された差別は、トップの確固たる意志があれば解消できる。難しいのは、目に見えない無意識的差別。本人が自覚しない差別意識は、人間なら誰でも持つ。自分も例外ではないと初めて肌で知った時は、計り知れない打撃を受けた。

 社会心理学で開発された潜在的連合テストという手法がある。Implicit Association Test を略してIAT。人間が社会的な対象に関して無意識に持つ態度を測定するテストだ。手法が簡単で、結果の信頼性が高く妥当性に優れていることから、教育や経営など、さまざまな分野で応用されてきた。
 その簡易版を、世界銀行の管理職研修で受けたことがある。ふた昔ほど前、女性職員に対する差別が問題になり、改革を手がけ始めていた頃だった。
 絵2枚1組を1枚ずつ見て、いいと感じたほうを選ぶだけのテストだった。絵を掲げた人が登場して、あっという間に退場し、もう1枚の絵を掲げた人が同じように現れて、またすぐ下がる。研修生は、選んだ絵を用紙に記入し、次の1組を見る。それがあきるほど幾度も繰り返された。
 結果の発表となり、最初の1組の得点が公表されて2枚の絵が初めて同時に並んだ。その瞬間、うめくようなどよめきが起きた。2枚の絵は同じ絵だった。誰一人それを認知せぬまま1枚の絵を選んでいたのだ。
 その理由は、1組ごとに絵が現れ、結果が発表されるたびに明確になり、研修生を打ちのめした。全員が、絵ではなく、絵を掲げた人を選んでいたのだ。私自身も含めて、研修生の大半が、女性より男性が掲げた絵を選び、アジア・アフリカ系の有色人種より白人が掲げた絵を選んでいた。
 自分の幽霊を見たような思いに鳥肌が立った。吐き気を覚えた同僚もいた。キューバと北朝鮮を除く全世界の加盟国国民が働く世界銀行。その多民族組織を率いる管理職の心に、おのおのの性別や人種に関わらず女性と有色人種への偏見が潜む。この事実を無視したらリーダー失格、真っ正面から向き合うしかないと、皆で眠れない一夜を語り明かした。管理職が共有したこの恐ろしい体験は、女性問題解消に本腰を入れる原動力のひとつとなった。
 (後略)
----------------(引用終了)----------------

 世界銀行は、全職務階級において女性を増やす戦略を採った。生え抜きの女性が多数進出するまで想定外の時間がかかり、脱線の可能性もある。内外から人材を登用し、既存文化に負けないよう組織的に支援する作戦を選んだ。

□西水美恵子(元世界銀行副総裁)「女性の社会進出 ~時代の風~」(毎日新聞 2014年3月2日)
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【佐藤優】プーチン訪日と「ソチの宿題」

2014年04月12日 | ●佐藤優
 (1)2月8日、ソチ(ロシア)で、安倍晋三・首相とプーチン大統領が会談した。会談の冒頭、プーチンは、秋田犬「ユメ」(一昨年秋田県知事が贈呈)を連れて現れた(←プーチンが日本に対して好感を持っている、と報道させるための演出)。
 安部・プーチン会談は現地時間14時10分から1時間、小人数で行われ、その後車で移動、15時25分から16時30分まで昼食会が開催された。

 (2)ソチ冬季五輪に合わせて行われた非公式会談に2時間以上もプーチンが時間を割いたのは異例だ。
 米、英、独、仏など西側主要国の首脳が、同性愛宣伝禁止法などロシアにおける人権問題に対する懸念からオリンピック開会式を欠席した。だが、安倍首相は出席した。これをプーチンが高く評価していることを可視化するため、(1)の厚遇を行った。
 会談の実質的成果もあった。(a)今後の政治対話については、①プーチンの今秋の公式訪日に合意した。10月or11月に行われる。②6月でソチで行われるはずだったG8サミットにおける日露首脳会談を安部が提案したところ、プーチンは「検討する」と答えた。その後外交ルートで調整され、2月10日の記者会見で管義偉・内閣官房長官が、首脳会談が実現される、と発表した。この時点では、本年中に日露首脳会談が少なくとも3回行われることが確実視され、日露の戦略的提携が進んでいることを国際社会に示すことになるはずだった。

 (3)ロシアはしたたかに勢力均衡外交を行っていた。
 <ソチ五輪開幕式に合わせた安倍晋三首相の訪露はロシアで好感されている。ただ、プーチン大統領は6日、ソチを訪れた各国首脳の中で最初に中国の習近平国家主席と会談しており、日中両国を天秤(てんびん)にかけて国益の最大化を図る姿勢が鮮明だ。北方領土問題では、露外務省が日本側の受け入れられない歴史認識を振りかざし、日本に「譲歩」を迫る構図となっている。プーチン政権は「愛国主義」による支持基盤強化に動いてもおり、領土交渉を大胆に動かせる状況にはない。>【注1】
 <中国国営新華社通信によると、プーチン氏は6日の中露首脳会談で「日本の軍国主義による中国などアジア被害国に対する重大な犯罪行為を忘れることはできない」と述べ、2015年に予定される戦勝70周年の記念行事を共同開催する考えを示した。ただ、露主要メディアはこの内容を報じておらず、日本を刺激することを避けたい政権の意向があったもようだ。>【注2】

 (4)首脳会談の後、各国がジャーナリストに対してブリーフィングを行う。通常、
  (a)自国首脳の発言を説明し、相手国首脳の発言については必要最低限のことしか言わない。
  (b)表に出さないことについては、会談終了後に双方の事務方で合意する。
 「日本の軍国主義による中国などアジア被害国に対する重大な犯罪行為を忘れることはできない」というプーチン発言について、中露は「表に出さない」という約束はしていない。ロシア側としては、中国がこの発言を表に出すことは織り込み済みということだ。
 こういう形で日本に、「中国との外交カードとしてロシアを使うことは、そう簡単ではない」というシグナルを送っているのだ。
 ロシアのマスメディアは、この内容を報じてない(要注目)。
 ロシア政府は、日中対立に巻き込まれないように細心の注意を払っている。
 ロシア政府はいまは、マスメディアを全面的に統制することはできない。(2)のとおり日本はリスクを負って安部が開会式に出席した。露マスメディア関係者もこれを心から歓迎し、反日感情を煽るような報道は「ニュース性がない」という判断を下したのだ。

 (5)今秋のプーチン訪日は、北方領土交渉の正念場となる。北方領土交渉について、両首脳は慎重な発言に終始しているが、基本的な2つの方向性について合意している。
  (a)平和交渉に関する外務次官級協議(杉山晋輔・外務審議官・日本側団長、モルグロフ外務次官・ロシア側団長)で論点を整理し、解決できない部分を首脳間の決断で解決する。
  (b)経済協力、安全保障協力を拡大する中で、北方領土問題解決の環境整備を行う。

 (6)安倍首相は、日本側の交渉のスタンスのハードルを下げている。2月7日、ソチに向けて飛び立つ直前、東京の北方領土返還要求全国大会の挨拶で、「四島」に言及しなかった。この点をクレムリンはシグナルと受け止めている。前記挨拶は、四島の日本への帰属問題を前提とせずに交渉を行い、解決の糸口を探るという「出口」論を安部が採っていることを強く示唆している。

 (7)今回の首脳会談で、安部はプーチンに谷内正太郎・国家安全保障局長/元外務次官を紹介した。谷内はこの後、安部の「個人代表」としてプーチンとの連絡係になることが示唆された。ロシア外務省を迂回し、プーチンに直接つながるチャンネルの構築を安部首相は試みた。
 もっとも、谷内が両国外務省を迂回して、北方領土問題に関する交渉をクレムリンと直接行うわけではない。
 今秋のプーチン訪日に向けて、杉山・外務審議官とモルグロフ外務次官が、歴史的・法的問題について交渉する。
  (a)ロシア側:連合国の一員として国際法的な手続きを踏んで南クリル地方(北方四島)はソ連に編入された、と主張。
  (b)日本側:ソ連による日ソ中立条約侵犯が国際法違反であることを強調し、北方四島は今もロシアによって不法に占拠されている、と強調。
 結局、外交当局間の交渉では水掛け論になり、北方四島の帰属に係る問題は安部とプーチンの政治的判断に委ねられることになる。このことを見据えて谷内が連絡係になった(推定)。よって、歴史的・法的問題に係る論議はプーチン訪日までに終えなくてはならない。

 (8)さらに重要なのは、セーチン・ロスネフチ(ロシア石油)会長との関係強化だ。セーチンは、プーチンのインナーサークルの一員であり、ソチの首脳会談に同席した。
 ブリーフィングで、世耕官房副長官は、「セーチン会長からも具体的なプロジェクトに言及があった」と述べた。セーチンは、ロシアから日本へのLNG、電力供給などのプロジェクトを考えているのだろう。セーチン提案の具体的なプロジェクトがどの程度実現するかにによって、プーチンの北方領土に関する日本への譲歩の内容が変わってくる。

 【注1】【注2】記事「日露首脳会談 露したたか、日中天秤」(msn産経ニュース 2014.2.9)

□佐藤優「秋のプーチン訪日までに課された「ソチの宿題」を解く2人のキーマン ~SAPIO intelligence database第178回~」(「SAPIO」2014年4月号)
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【銀行】みずほがまた「問題放置」で巨額賠償の危機

2014年04月11日 | 社会
 (1)ビットコイン取引所「マウント・ゴックス」の経営破綻が、予想外の展開を見せている。
 3月14日、破綻したマウント社に対し、被害者の投資家たちがカナダで損害賠償の集団訴訟を提訴。その賠償請求先がマウント社のみならず、みずほ銀行にまで向けられた。日本の金融界は騒然となった。
 加えて、同日、すでに取引所を訴えていた米国の投資家も新たにみずほを提訴した。グレゴリー・グリーン(イリノイ州在住の投資家)は、マウント社を相手取っていち早く25,000ドルの損害賠償を請求していたが、みずほ相手の訴状を提出し直した。その追加の提訴理由は次のとおり。
 「みずほが、マウント社の不正を知りながらサービスを提供して利益を得ていた」

 (2)なぜこんな羽目になったのか。
 そもそも銀行は、マウント・ゴックスの口座を開設し、ビットコインの投資家たちの振り込みや配当などの送金手続きをするだけ。といっても、何千万単位の巨額の出し入れが頻繁にあったため、大きな手数料収入が見込める。だから、おいしい口座でもあって、一時は他の銀行にも口座があった。
 しかし、当然のごとく仮想通貨の取引上のトラブルが頻発。 
 それで、投資家から銀行に苦情が寄せられるようになった。仮想通貨はマネーロンダリングに利用されている疑いもあるという情報も上がってきた。で、他行は2年ほど前、口座そのものを解約してもらおうと、交渉を始めた。早いところでは1年半ほど前に口座を閉じていた。だが、みずほはその対応が遅かった。

 (3)問題の放置はみずほのお家芸だ。
 結果的にそれが裏目に出た。みずほ銀行がこんどの訴訟の対象になったのも、そのせいだ。
 昨年半ばには、すでに米国土安全保障省が取引上口座の資産を差し押さえ、一時的に米ドルの引き出しがストップされたことがある。
 ところが、みずほの対応は後手、後手。本格的な口座解約交渉は、今年1月、マルク・カルプレス・マウント社代表と担当者が話し合った。しかも、その日本語のやり取りの音声録音が、インターネット上に流出してしまったのだ。
 「銀行としては御社の口座を閉鎖したいと考えていると。以前からお伝えしているとおり」
 みずほの担当者がそう迫り、
 「弁護士と話したところ、閉鎖する必要はないと言われたので、当社としてはそのまま維持したいと考えている」
 とカルプレス(マウント社)が応じる音声がネットで広まった。

 (4)みずほにしてみれば、昨年来の暴力団がらみの反社会取引発覚で金融庁から大目玉をくらったばかり。マネーロンダリングの疑いのあるマウント社を放っておくわけにはできず、それを理由に口座の閉鎖を強行しようとしたわけだ。
 が、それは裏を返せば、これまで不正を知っていた証左にもなる。
 で、カナダや米国の投資家たちから、そこを突っ込まれ、訴訟を起こされたのだ。

 (5)みずほにしてみれば、とんだとばっちり、と言いたいところだろう。が、そうとも言い切れない部分がある。
 暴力団との取引と同じく、実態に気がついたとき、いかに迅速に対応できるか、さらにどううまく取引を断るか、そこが肝心だ。
 やり方次第では、問題がこじれる。
 反社会的な相手とうすうす分かっていても、確証がないと名誉毀損や人権侵害で逆に訴えられる危険性もある。
 マウント社の場合も、どうやればトラブルなく口座を閉鎖できるか、みずほはもっと素早く緻密にそこを検討すべきだった。甘かった、というほかはない。

□森功「音声データまで流出! みずほがまた「問題放置」で巨額賠償の危機 ~ジャーナリストの目第201回~」(「週刊現代」2014年4月12・19日号)
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 【参考】
【野口悠紀雄】仮想通貨が財政ファイナンスを阻止 ~経済政策と金融政策~
【野口悠紀雄】ビットコインが持つ経済価値はどの程度か?
【野口悠紀雄】ビットコインは地球通貨の夢を見るか?
【野口悠紀雄】ビットコインに関して政府がなすべきこと
【野口悠紀雄】ビットコインに関する深刻な誤報と誤解
【野口悠紀雄】ビットコインは理想通貨か徒花か?
【仮想通貨】ビットコインは中国経済をどう変えるか?
【仮想通貨】ビットコインは円を駆逐するか?


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【野口悠紀雄】仮想通貨が財政ファイナンスを阻止 ~経済政策と金融政策~

2014年04月10日 | 社会
 (1)異次元金融緩和策が導入されて、ほぼ1年経った。マネタリーベースは著しく増えた。しかし、マネーストックはほとんど増えなかった。
 異次元金融緩和策は空回りを続けている【注1】。追加緩和措置が必要だ、という意見が多いのだが、追加とは国債を増やすことだ。過去1年と同じことが繰り返されるだけだ。
 政府と日本銀行は、「物価上昇率引き上げ」という誤った目標を立て、国債購入を激増させた。しかし、実体経済には何の影響も与えられなかった。
 いまの日本経済で金融緩和が経済拡大効果を持ち得ないことは、あらかじめ予想されたことだ。企業が巨額の内部留保を持ち、しかも設備投資意欲がないため借り入れ需要は弱い。しかも、日銀当座預金残高は過剰準備状態にあり、貸し出し増の制約になっていない。かかる状況下で国債を購入して当座預金を増やしたところで、貸し出しが増えるはずはない。だから、マネーストックが従来の趨勢から離れて増えるはずはないのだ。

 (2)何のために金融緩和政策が行われるのか?
 その真の目的は「財政ファイナンス」=「国債の貨幣化」だ。
 それによって、金利の高騰を抑え、財政の資金調達を円滑にするのだ。
 日銀による国債の購入そのものが重要なのであって、教科書的な意味での金融緩和効果【注2】は、初めから政策当局の念頭にはない(推定)。

 (3)財政ファイナンスは、異次元金融緩和政策によって、日銀の国債購入額は飛躍的に増加した。このため、国債利回りは高騰しなかった。巨額の公共投資増加を行ったにもかかわらず、また、2012年以降ユーロ圏からの資金流入が止まったにもかかわらず。
 日本の財政事情を考えると、本来はいまのような低金利で財政が資金調達できるはずはない。これは、明らかに「
国債バブル」だ。
 
 (4)長期的に見ると、社会保障費はさらに増大する。よって、(a)社会保障制度を大改革するか、(b)大増税を行うか、いずれかをしないと日本の財政は破綻する。
 だから、本来なら金利高騰=国債価格暴落によって支出削減や増税をせざるを得ない状況に追い込まれているはずだ。

 (5)現実には国債金利高騰せず=危険信号働かず。ゆえに財政改革が進まず。この状態は、2つの意味で異常だ。
  (a)物価上昇率が名目金利を上回り、その結果実質金利がマイナスになっている。この状況下では、借り入れをして財を購入し、一定期間保有して売却すれば、借り入れの金利を払ってもなお利益が生じる。よって、裁定取引によって金利が上昇して、解消されるはずのものだ【注3】。こうした状態は異常なものであって、長続きしない。
  (b)負担なしの支出増が継続している。社会保障費が増大すれば、受給者の消費支出が増える。よって、経済全体で見れば、誰かの支出が減らなければならないはずだ。①保険料負担が増えるなら負担者の消費が、②増税されるなら納税者の消費が、③金利が上がるなら投資支出が、それぞれ減らされるはずだ。しかし、①~③のどれも起こらない。誰の負担も増えず、増発された国債は日銀に購入されるので、金利も上昇しない。だから、他の支出は何も削減されないで社会保障費が増大する。
 こんな旨い話がいつまでも続くだろうか? むろん、永続できるはずはない。経済の供給能力に余裕がある間は持つが、いずれ限界に突き当たって、誰かの負担が明示的な形で増えざるを得なくなる。
 ただし、ここまで赤字が膨張してしまうと、増税や歳出削減で対処するのは不可能だ。
 政治的に最も容易なのは、インフレによって国債残高の実質価値を減らすことだ。これが歴史の示すところだ。終戦直後の日本財政も、巨額の赤字の実質価値をインフレで減らした。

 (6)国債バブルと負担なしの財政膨張は、正常な経済ではあり得ない歪んだ状態だ。
 日銀による強引な大量国債購入によって、初めて実現しているものだ。

 (7)ビットコインが普及した経済では、(6)は生じ得ない。理由は2つ。
  (a)ビットコインの「発行」は、マイニングによって行われるのであって、日銀券のように国債を購入することによって行われるのではない。日銀は、自らの債務である日銀券を印刷することで国債を購入でき、しかも、その規模を恣意的に決めることができる【注4】。
    ミルトン・フリードマンのいわゆる「kパーセント・ルール」は、中央銀行の裁量的な政策を排除しようとするものだ。ただし、ここで問題にされたのは、マネーストックの伸びだ。財政ファイナンス阻止の立場からすると、マネタリーベースの恣意的な拡張を阻止すが必要がある。 
  (b)インフレが予想されると、ビットコインが資産逃避手段として用いられる。2013年におけるキプロスと中国の経験が示したのは、為替管理を強化しても、資金がビットコインに逃げられてしまう、ということだ。このように、ビットコインが広く使われるようになった経済では、国や中央銀行が勝手な経済政策をしようとしても、それに強い制約がかかる。

 (8)そもそも、中央銀行の役割は、信用秩序を維持し、預金通貨を守ることだ。恣意的な金融政策を行うことではない。ましてや、国債を貨幣化して財政放漫化を放置することではない。
 これを担保するため法律で日銀の独立性が保障され、また日銀引き受けによる国債発行が禁じられている。しかし、現実には、それらが空文化してしまった。
 ビットコインは、経済政策や金融政策の本質を、原点に立ち返って見つめ直すことを迫っている。

 【注1】
 (a)長期的傾向からすると伸び率は若干高まっているが、消費増税前の住宅駆け込み需要によって住宅ローンが増えたためであって、マネタリーベースが増加した結果ではない。消費増税後、反動で減少するだろう。
 (b)物価上昇率は高まったが、主として円安のためだ。円安は金融緩和によって生じたのではなく、国際的投機資金の流れが変化したために生じたものだ。
 (c)実質GDP成長率は、安倍内閣の成立直後(2013年1~3月期)が最も高く、その後は次第に低下している。物価上昇率が高まったために、実質消費の伸び率が低下しているからだ。物価が上昇する半面、賃金は上がらないので、人々の生活は苦しくなっている。
 【注2】マネーストックの増加を経る経済拡大。
 【注3】その結果実現するのが「フィッシャー方程式」に表されている関係だ。
 【注4】実際には、日銀の国債購入の大部分は、日銀当座預金という負債を増やすことによって行われている。日銀券も日銀当座預金もマネタリーベースなので、経済的な意味は同じだ。

□野口悠紀雄「財政ファイナンスを仮想通貨が阻止する ~「超」整理日記No.704~」(「週刊ダイヤモンド」2014年4月12日号)
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 【参考】
【野口悠紀雄】ビットコインが持つ経済価値はどの程度か?
【野口悠紀雄】ビットコインは地球通貨の夢を見るか?
【野口悠紀雄】ビットコインに関して政府がなすべきこと
【野口悠紀雄】ビットコインに関する深刻な誤報と誤解
【野口悠紀雄】ビットコインは理想通貨か徒花か?
【仮想通貨】ビットコインは中国経済をどう変えるか?
【仮想通貨】ビットコインは円を駆逐するか?


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【NHK】受信料をしゃぶり尽くす「電波貴族」の優雅な生活

2014年04月09日 | 社会
 (1)NHK職員の待遇は手厚い。「放送界のキャリア官僚」や「電波貴族」と呼ばれる。
 給与水準、各種手当、健康保険、取材現場での特権。
 NHK職員が、安部政権にすり寄るのは、既得権を守りたいからか。

 (2)昨年4月、NHKは5年かけて職員の給与を10%削減することを決定した。
 10%カットしても、NHK職員の給与は「社会一般の給与水準」とはかけ離れている。職員の平均年収は1,177万円だ(予算における給与支出総額を職員数で割った試算、2013年度)。平均的な国家公務員の年収600万円(行政職俸給表「一」の職員の平均、2013年度)を大幅に上回る。10%削減されても、民間サラリーマンの平均年収408万円(国税庁「民間給与実態統計調査」、2012年)の2倍以上ある。
 ちなみに、籾井勝人・NHK会長の報酬は、基準どおりなら年間3,092万円となる。

 (3)しかも、10%削減は基本給や賞与について適用されるだけだ。各種手当はそのままだ。
 NHK職員の厚遇を支えるのは、各種手当なのだ。
  <世帯給>扶養家族が3人いれば、37,500円/月。子ども2人が23歳未満なら、さらに17,500円。
  <住宅補助手当>首都圏で扶養家族がいれば50,000円/月。地方だと20,000円/月だが、単身赴任であれば3,3000円/月の単身赴任手当がある。
  <地域間調整手当>物価の高い都市部勤務職員のための手当。
  <寒冷地手当>北海道の職員。
  <国内家族手当>海外赴任の職員に、100,000~150,000円。
  <教育手当>海外赴任の職員が現地に連れて行った子ども1人につき、70,000円。
  <超勤手当>残業代の割増率は30%(法定25%)、休日出勤は40%(法定35%)。
 福利厚生も手厚い。
  <転勤者用住宅>例:東京・広尾にあるNHK羽沢寮。都心の一等地に3階建ての社宅が3棟建ち並ぶ。3LDKの間取りで、周辺の家賃相場からすると30万円/月はするが、年齢などの条件次第では3万円程度で住むことができる。・・・・こうした社宅は、格安公務員住宅と同様、民間相場との差額が職員にとっては「非課税のヤミ給与」となる。
  <健康保険の保険料率>NHK健康保険組合の保険料率は5.35%で、協会けんぽ(中小企業の従業員などが加入)の9.97%(東京都)はおろか、大手企業の健康保険組合の平均保険料率8.635%すら大きく下回る。年収は高く、負担は低くなっているのだ。
  <企業年金>2009年まで予定利率(期待運用収益率)は年率4.5%という高い水準が維持され続けてきた。実際の運用で得られる利率は一般に1.5~2%程度とされ、NHKのような確定給付型の企業年金では足りない分は企業が補填することになる。その原資もむろん「みなさまの受信料」だ。多くの日本企業が2000年代に入って予定利率を引き下げてきたが、NHKは問題を先送りして高水準の給付を維持してきた。そうしたツケが溜まって2008年度末には企業年金の積立不足が3,300億円にのぼった。2010年度末に確定拠出年金への一部移行を決めた際に、NHKは2014年度末までに積立不足を半減させるとしたが、これまた「みなさまの受信料」だ。管理職以外の職員が受け取ることのできる退職年金(上限)は月額8万円。公的年金のほかに、これだけ積み増しされる。

□本誌編集部「平均年収1177万円、年金月額8万円増し、都内3LDKが3万円 「みなさまの受信料」をしゃぶり尽くす「電波貴族」生活」(「SAPIO」2014年4月号)
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 【参考】
【NHK】の偏向、政権べったりの報道 ~特定秘密保護法~
【NHK】波乱の「籾井新体制」スタート ~「世界」のメディア批評~
【NHK】誤報の隠蔽 ~タガのはずれた安部政権~
【NHK】呆れた新会長会見、幼稚で傲慢な偏向報道
【NHK】籾井会長の就任会見発言 ~どこが「間違いだらけ」か~
【NHK】支配計画 ~安倍晋三政権の計算がずれはじめた~
【NHK】権力と癒着し続けた歴史 ~NHK会長~
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【INET】「善意」を装った情報収集・解析アプリの危険性

2014年04月08日 | 社会
 (1)知人から、「漢字変換がおかしい。単語登録してあったはずの言葉が出てこない」と相談があったので、見に行った。
 確かに変換効率が悪いし、登録してあった単語が変換されない。調べてみると、「バイドゥ(百度)」という中国製のかな漢字変換システムがいつのまにかインストールされていた。常識的なウィルス対策はしてあったが、「バイドゥ」はいわゆるコンピュータ・ウィルスではなく、アプリケーションだ。ウィルス対策をすり抜けていた。
 不都合なのは、変換した文字がいちいち中国の同社のサーバーに送られてしまう点だ。つまり、何を書いていたのか、丸わかりなのだ。
 一部の役所のPCにこの「バイドゥ」が入り込んで、機密漏洩が懸念されたニュースを目にした人も多かろう。

 (2)市井のユーザーに特段の機密があるわけではなかろう。が、削除しようとすると、萌えキャラが出てきて「お願いですから削除しないでください」と懇願してくる。
 かまわず削除すると、アンケートソフトが立ち上がって、ビジネスソフト然として「どのような点が不満でしたか」と訊いてくる。
 忍び込むだけなく、削除されない工夫もされているのだ。

 (3)すべて削除してリスタートしたところ、今度は「グーグルプラス」のインストールの勧めが出てきた。
 このソフトはパソコンのデータを無料でインターネット上にバックアップしてくれるものだ。パソコンが壊れた際にデータを復旧できるのだが、無償なのには裏がある。テキストはもちろん、画像データすら解析される。数百枚の写真を幾億人かのユーザーがバックアップとして登録すると、その写真の中から、同一人物を探し出して、誰がどこにいて、どういう交友関係であるかがわかる仕組みだ。

 (4)被害妄想でもSFでもない事実なのだが、(3)と同様のシステムがJR大阪駅の監視カメラに導入されようとした【注】。人物特定のためだ。
 反対の声があがって、頓挫したが。
 「バイドゥ」の思惑は不明だが、「グーグルプラス」は広告の精度を上げるために情報を収集し、解析している。商業ベースで稼働しているのだ。

 (5)「バイドゥ」や「グーグルプラス」のようなスパイウェアは、いわゆるコンピュータ・ウィルスではない。通常のセキュリティソフトでは新入を防ぐことはできない。
 むしろ“善意”を装ってインストールを勧めてくる。無償で、出来映えもいい。グーグルが提供するかな漢字変換システムは、インターネット上の膨大なテキストに基づいて稼働するので、とりわけ固有名詞の変換に強い。使いようによっては、市販のソフトよりも便利だ。
 ただし、プライバシーを代償としなければならない。

 (6)自衛するには、かなりの知識がいる。
 個人情報を収集してまわるソフトを、善意を装って、こっそり導入させるのは社会的公正に照らしてどうなのか。 
 「バイドゥ」は問題視された。無償ソフトと広告のあり方についても、社会的合意を形成すべきだ。

□谷村智康(マーケッティング・プランナー)「“善意”を装った情報収集・解析アプリの実態 広告はプライバシーにどこまで踏み込むのか ~谷村智康の経済私考え~」(「週刊金曜日」2014年4月4日号)
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【本】新社会人のために ~不安な時代に生きる本6冊~

2014年04月07日 | 社会
(1)「雇用破壊の進む社会で」【雨宮処凜】
 (a)東海林智『15歳からの労働組合入門』(毎日新聞社、2013)
 (b)小熊英二『社会を変えるには』(講談社現代新書、2012)
 (c)AKIRA『COTTON100%』(現代書林、2013)

 「自分で自分の身を守る方法」・・・・今、社会に出ようとする若者にとって、もっとも必要な情報だ。
 だが、多くの若者は労働基準法や労働組合について、何一つ知らされていない。
 (a)は、タイトルのとおり、若者向けの「労働問題」入門書だ。紹介されるケースはどれも過酷だが、解決策が示されている。政治によって雇用政策がいかに変えられてきたか、に係る記述も興味深いと思う。
 こんな「雇用破壊」を進めてきた政治に対して疑問が湧いたら、その時にぜひ読んでほしいのが(b)だ。3・11以降の脱原発デモを入口として、今、この国で一体何が起きているのか、歴史を振り返りながら分析する。
 「日本企業」や「日本の社会」に疲れた時、読んでほしいのが(c)だ。逃げろ! 落ちろ! 目覚めろ! 旅立て! 堂々と間違えろ! 元ジャンキーの著者の「どん底の旅」の記録は、きっとあなたが生きる支えになるはずだ。

         

(2)「自由を失うという試練」【佐高信】
 (a)黒井千次『働くということ』(講談社現代新書、1982)
 (b)雨宮処凜『生き地獄天国 雨宮処凜自伝』(ちくま文庫、2007)
 (c)佐藤優『獄中記』(岩波現代文庫、2009)
 
 会社に入ると、学生時代と何が変わるか。黒井千次・作家/元富士重工社員は、(a)において、入社後の「生活上の一大革命」を4点を挙げた。
 ①「猶予の匂い」がつきまとっている学生が、稼ぐことと支払うことのバランスを自分でとらなければならない生活者へと変貌する。
 ②時間の自由を失う。朝早く起きて、夕方まで自分の時間がなくなる生活に入る。
 ③人間関係の自由を失う。企業に入ると、嫌いな人間とも付き合わなければならない。
 ④住む土地の自由を失う。事業所のあるところなら、どこへでも行かなければならない。
 これらの不自由を経験することで、何を得ることになるか。
 いずれにせよ、生きることはもがくことだが、(b)と(c)を試練の書として推薦する。

         

□記事「編集委員オススメ 不安な時代に生きる本6冊」(「週刊金曜日」2014年4月4日号)
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【NHK】の偏向、政権べったりの報道 ~特定秘密保護法~

2014年04月06日 | 社会
 (1)特定秘密保護法案は、2013年12月6日、参議院での自公による「強行採決」によって成立した。
 この前後、テレビ報道の検証が行われた。
  (a)期間・・・・同年10月6日から12月10日。
  (b)モニター・・・・①ニュース:「NHKニュース7」と「ニュースウォッチ9」。②番組:「クローズアップ現代」と「時論公論」。

 (2)「クローズアップ現代」は、特定秘密保護法案を一度も取り上げなかった。臨時国会の焦点に浮上し、反対運動も大きく展開されたこの法案を、この番組はまったく無視した。安倍政権を意識し、自己規制が強まっている(疑い)。

 (3)「時論公論」は、(1)-(a)の期間中、この法案を4回取り上げた。出演した各解説委員は、批判的視点を明確にした論評を加えている。
  <例1>この法案は当初から国民の知る権利を侵すという懸念が指摘されていた。(12月5日)
  <例2>「由らしむべし、知らしむべからず」という現代民主主義社会では到底認められない発想に基づく。もう一つ、審議は尽くされたのか。(12月6日)
 しかし、法案成立前後の終盤でなく、もっと早い時期に指摘できなかったのはなぜか。

 (4)「NHKニュース7」は、(1)-(a)の期間中、計26回にわたって法案関連のニュースを伝えたが、法案の中身に係る説明、解説は政府関係者の発言や資料に基づいた発表ものがほとんどだった。キャスターがフリップなどを使って政府側の説明を逐一補強するという念の入れようだった。
 なかでも臨時国会閉会を受けての安部首相会見のニュース(12月9日)では、
  ・法律の施行によって「秘密の範囲が際限なく広がることはない」
  ・「国民の通常の生活が脅かされることはない」
などのフレーズを会見の音声とキャスターコメントで4、5回も繰り返した(異常な伝え方)。

 (5)「ニュースウォッチ9」も、法の目的や条文解説は、政府説明をなぞってそのままコメントした(10月17日)。
 法案解説は政府説明の丸写しに加えて、法案の必要性を首相・外相・防衛相の3人がかりのコメントで強調した(10月25日)。視聴者には、政府広報のように感じられる構成だった。
 参議院国家安全保障特別委員会で強行採決された法案解説で、相変わらず政府説明のオウム返し(12月5日)。反対の声が高まり、法案への厳しい批判が展開されているにもかかわらず、それには一切触れずに政府の趣旨説明どおりの解説は、政府寄りの報道姿勢を改めて浮き彫りにした。

 (6)「ニュースウォッチ9」は、「衆院通過」のタイトルで朝から強行採決に至るまでの国会の動きを詳細に伝えた(11月26日)。しかし、ひたすら事実報道に徹し、「強行採決」の用語は一言もなかった。
 参院特別委員会強行採決の一日を詳細に追った日(12月5日)、VTR取材では、採決に反対する声を野党、沖縄・福島など地方を含めて丁寧に拾っている。委員会の強行採決ぶりは、ポイントをおさえて報じている。しかし、この日も、字幕・コメントとも「強行採決」を一切使わなかった。
 参議院本会議を通過した日(6日)、「採決をめぐって」と題する法案成立直前の一日を報道。この日も「強行採決」の表現はなかった。
 国会内の動きを批判的視点抜きでひたすら事実報道するだけでは、視聴者には自公の強引な議会運営・強行採決の異常さは伝わらない。

 (7)「ニュースウォッチ9」、10月17日、
  (a)<安全保障の強化に不可欠として安部首相が強い意欲を示す「特定秘密法案」>と政権の意図だけを強調(井上あさひ・キャスター)。
  (b)<国民の知る権利との兼ね合いで議論を呼んでいる法案だが、政府は公明党の主張に大幅に譲歩し大筋で合意。政府・与党一体でこの法案の成立を期す体制を整えた>と、政府・与党の動きと意気込みばかりを取り出して伝えた(大越健介キャスター)。

 (8)「ニュースウォッチ9」、12月5日、<ここまで議論してきて、民主党を含めて一定の「秘密」の保全は必要だということろまでは共通基盤がある>。
 同、12月6日、<同盟国アメリカなどと、できるだけ高度の情報共有するために、秘密とすべき情報がいたずらに漏れる事態をなくすべき、という認識は多くの政党が共有している>。
 法案に反対する野党の存在を無視し、「強行採決」にも目をつむり、あたかも「秘密保護法は必要」というコンセンサスができたと錯覚させるようなコメントばかりだ。
 国会の外では、連日、各地の市民が抗議運動を繰り広げ、「安保闘争以来」と言われるほど反対の声が高まった。12月世論調査で法案「反対」が50%(2日付け朝日新聞)、9月の政府パブリックコメントでも反対77%、という根強い反対の数字と合わせて考えれば、井上・大越のキャスターコメントは明らかに世論と乖離した政権寄りコメントだ。

 (9)政府発表の裏にある法案の危険性を掘り起こす調査取材は皆無に近かった。
 (1)-(a)の期間中、)「ニュースウォッチ9」は20回秘密保護法を取り上げたが、独自取材・調査報道は米国の秘密指定を監視する国立公文書館・情報保全監察局の調査報道など4例に過ぎなかった。 
 政府広報化し、結果として安倍政権の世論操作の片棒を担わされた秘密保護法報道により、NHKのニュース報道は視聴者の期待を大きく裏切った。

□放送を語る会/レポート再構成:編集部「世論から乖離した大越健介キャスターの政権すりより “政府広報化”際立つNHK」(「週刊金曜日」2014年3月28日号)
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 【参考】
【NHK】波乱の「籾井新体制」スタート ~「世界」のメディア批評~
【NHK】誤報の隠蔽 ~タガのはずれた安部政権~
【NHK】呆れた新会長会見、幼稚で傲慢な偏向報道
【NHK】籾井会長の就任会見発言 ~どこが「間違いだらけ」か~
【NHK】支配計画 ~安倍晋三政権の計算がずれはじめた~
【NHK】権力と癒着し続けた歴史 ~NHK会長~

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【野口悠紀雄】ビットコインが持つ経済価値はどの程度か?

2014年04月05日 | ●野口悠紀雄
 (1)米国金融界は、ビットコインの存在を無視できなくなった。その反映が「BAレポート」だ。BAレポートとは、昨年12月【注1】、バンク・オブ・アメリカ=メリルリンチが公表した、ビットコインに関するレポートのことだ。大手金融機関による最初のレポートであり、しかもビットコインの経済価値に係る定量的な分析だ。
 ビットコインに係る米国金融界における議論は、すでに、役割の大きさに関する定量的な検討にまで至っている。

 (2)BAレポートは、ビットコインが
  (a)eコマースで約10%の比重の決済手段になり、
  (b)送金産業において主要な役割を果たすようになるだろう、としている。
  (c)1BTC=1,300ドル程度が適切な価格(フェアバリュー)であろう、としている【注2】。

 (3)BAレポートは、3つの分野について分析している。
  (a)eコマースにおける決済・・・・50億ドル(推計)のビットコインが必要だ。
    根拠・・・・2012年の米国のB2C(個人向け)eコマース売上高は2,240億ドル。これにどれだけの現金が必要か。2012年の個人消費総額は11兆ドル、世帯の預金および現金の合計は0.7兆ドル。後者を前者で割った値は0.07(BAレポートのいわゆる「貨幣の流通速度」=流通速度の逆数=「マーシャルのk」)。過去10年間の平均値は0.04。つまり、1ドルの年間個人消費のために4セントのマネーを保有している。
    eコマースでの流通速度が通常取引と同じだとすると、100億ドルのマネーが必要になる。このうち1割がビットコインになれば10億ドル相当のビットコインが必要だ。世界経済における米国経済のシェアは2割だから、全世界における必要額は50億ドル(推計)だ。
  (b)国際送金におけるビットコイン価値・・・・現在、国際送金業務を行っている大手企業はウェスタンユニオン、マネーグラム、ユーロネットで、これらで20%のシェアを占め、3社の時価総額の平均は45億ドルだ。
     ビットコインがこれら3社の平均と同程度の役割を果たすようになるならば、その価値は45億ドル程度になる。
  (c)価値保存手段としての価値・・・・ビットコインが銀と同様の評価を得られるとすると、その市場価値は50億ドルに達する可能性がある。
  (d)以上、(a)+(b)+(c)≒150億ドル。発行総額と比較すると、1BTCの市場価格は1,300ドル程度と評価される【注3】。

 (4)(3)における技術的な点。
  (a)①eコマースのための必要額・・・・ここで用いられている値を流通速度に換算すれば25程度になるが、この値は高すぎるのではないか? 流通速度は、分子と分母にどのような変数を持ってくるかで値はかなり変わる。
    <例>日本の場合、経済全体の貨幣残高としてM2、売上高として法人企業の総売上高をとると、最近時点での流通速度が2であるとすれば、必要額は上記推計の10倍となる(500億ドル程度)。
    ②eコマースの10%がビットコインで決済されるとしているが、この仮定に格別の根拠はない。別の値を想定すれば、結果は大きく変わる。
  (b)①国際送金業務の価値点・・・・「ビットコインの価値が3社の時価総額の平均になる」というのも、確たる根拠はない。ウェスタンユニオンの時価総額は90億ドルだから、それと同じになるとすれば90億ドルになる。
    ②現在の国際送金業者の扱いを全部代替してしまえば、ビットコインの価値はずっと大きくなる。

 (5)(4)のように、仮定を変えれば結果は10倍にも20倍にもなる。かつ、仮定について誰もが認める値を設定するのは、現状では困難だ。よって、現段階ではビットコインの「フェアバリュー」を定量的に評価するのは無理だ。
 それより重要なのは、「どの程度まで既存の支払い手段を代替し得るか」に関する大まかなイメージだ。
  (a)BAレポートのイメージは、「eコマース決済の1割がビットコインで行われ、国際送金においてウェスタンユニオンの半分くらいの役割を担う」というものだ。
  (b)しかし、(a)のイメージは保守的だ。わけても、①ビットコインの利用主体として個人しか考えていないこと、②銀行が現在果たしている決済業務をビットコインが代替する可能性を考慮してないこと、の点でかなり控えめだ。
  (c)(b)のことは、特に国際送金について言える。送金業者(ウェスタンユニオンなど)は、銀行以外の送金主体であり、利用者は主として個人だ。しかし、企業による輸出入業務で、はるかに巨額の国際送金がなされているし、かつ、この分野は銀行がほぼ独占している【注4】。それが、ビットコインに代替されれば、その影響は極めて大きい。2012年のウェスタンユニオンの収入は57億ドルだ。これは国際送金の収入30兆円【注5】の2%程度でしかない。つまり、貿易関連送金業務をビットコインがすべて担うとすれば、BAレポートの100倍程度のコインが必要になる。

 (6)BAレポートの結論は、「価格はファンダメンタルズに比べて割高」というものだ。
 しかし、「現実の価格は、控えめな価値の推計より低い」とも言える【注6】。
  (a)日本株は2013年に6割上昇したが、それは円安によるものだった(生産性向上やビジネスモデル改善によるものではなかった)。
  (b)ビットコインは、コンピュータ技術の新しいイノベーションに裏付けられている。
 (a)と(b)のどちらの価格がファンダメンタルズに近いと言えるか?

 【注1】中国人民銀行が金融機関の関与を禁止する前。BAレポートの分析は送金手段としての価値を主として評価しており、その部分についての考え方は今でも有効だ。
 【注2】最近時点での価格は1BTC=600ドル程度。
 【注3】昨年12月初めの価格は1,200ドル超。中国が金融機関の関与を禁止したため、12月中旬に600程度に暴落した。
 【注4】「【野口悠紀雄】ビットコインは地球通貨の夢を見るか?
 【注5】前掲論考。
 【注6】電子コインはビットコインだけでないことに注意が必要。さまざまなコインで役割を分け合えば、個々のコインの価格は安くなる。

□野口悠紀雄「ビットコインが持つ経済価値はどの程度か? ~「超」整理日記No.703~」(「週刊ダイヤモンド」2014年4月5日号)
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 【参考】
【野口悠紀雄】ビットコインは地球通貨の夢を見るか?
【野口悠紀雄】ビットコインに関して政府がなすべきこと
【野口悠紀雄】ビットコインに関する深刻な誤報と誤解
【野口悠紀雄】ビットコインは理想通貨か徒花か?
【仮想通貨】ビットコインは中国経済をどう変えるか?
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【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~

2014年04月04日 | 社会
 (1)2つの政治資金疑惑事件(猪瀬直樹・前東京都知事と渡辺喜美・みんなの党代表)は、類似性が高い。
 猪瀬5,000万円、渡辺8億円なので、渡辺は猪瀬よりいっそう罪が重い、という論調も多い。
 一方、猪瀬は資金のやり取りを現ナマで行い、貸金庫に隠していたのに対して、渡辺は銀行口座振込みで行っている点で大きな相違がある。少なくとも、資金をもらっていたか否かについては争う余地がないし、いつそのカネを引き出したか、通帳を見れば一目瞭然だ。
 ただし、その先、何に使ったか、わからない。資金使途を訊かれて、大きな熊手、と答えられる仕組みだ。

 (2)過去の闇資金疑惑で立件されたケースでは、銀行口座は使わず、現ナマを裏で動かすのが普通だった。やましいカネだから、隠す。逆に言えば、隠せるから、悪いことができる。
 では、隠すことのできない仕組みは作れないか。

 (3)(2)の問いに関連して、政府税制調査会で非常に重要な議論が交わされている。「マイナンバー」制度に係る議論だ。
 2016年から、国民一人一人に識別番号がつけられる。
 この制度構築のために1,000億円単位の巨額の費用がかかり、維持更新のために永遠にITゼネコンにカネが落ち続ける。これは総務省の大きな利権となり、関連団体への天下りを助長する。
 では、何がメリットかというと、引っ越しの際の届出における提出資料が少なくなる、などと宣伝されている。逆に言うと、それくらいしかメリットがない。
 さらに、国家によるプライバシー侵害につながる、という強い批判もある。
 こんな制度なら止めたほうがよさそうだが、本当はみんなが喜ぶ有効な活用法がある。
 それは、脱税摘発、政治資金規制強化、不正診療報酬請求摘発、本当に貧しい人に限定した手厚い支援など、庶民から見れば是非やってくれ、という話ばかりだ。

 (4)マイナンバー活用のためには、すべての銀行口座を名寄せしてマイナンバーとリンクさせることが必要だ。ところが、コストと手間がかかる、という銀行業界の反対で、政府税調では、新規開設口座だけをマイナンバーにリンクすることで妥協した。
 しかし、本来は、一日も早く「すべての」口座の名寄せとマイナンバーとのリンクを実現させなければならない。その上で、一般国民に先立って、まず政治家にマイナンバーを適用する。
  (a)政治家限定なら、「プライバシー侵害」という反対も出ないだろう。
  (b)政治資金収支報告、選挙活動資金収支報告、議員の資産報告をすべてマイナンバーとリンクして監視する制度を導入する。
  (c)政治家はすべての出入金を銀行口座を通して行い、支出は原則としてクレジットカードまたは銀行口座振り替えで行うことも義務づける。
  (d)さらに、政治家の資金貸借には、契約書の作成・公表を義務づける。そして、借り入れ金額にも数千万円程度の上限を設ける。
 以上のようにすることで、何か問題がありそうだ、という際には、非常に効率的に捜査できる。
 今なら、野党の議員提案が出れば、国民は支持するだろう。野党も、少しは存在意義を示すがよい。

 (5)渡辺の8億円問題でマスコミが盛り上がっている中、猪瀬の件は略式起訴で終わった。事件の詳細が法廷で明らかにされないまま、完全幕引きとなる。
 徳洲会マネーの全容を解明せよ、という世論が盛り上がるのではないか、と恐れて、これまで息を潜めていた自民党などの徳洲会マネー議員は、みな生き延びる。その上、弱体野党はさらに弱体化していく。
 安部自民への順風は、いつまで吹き続けるのか。

□古賀茂明「渡辺・猪瀬問題と「マイナンバー」 ~官々愕々第104回~」(「週刊現代」2014年4月12・19日号)
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【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~

2014年04月03日 | ●佐藤優
 (1)外交官に必要とされる2つの能力は、
  (a)どのような状況においても自国の主張を貫く能力。そのためには、自国が大嘘をついているときでも、面の皮を厚くして、正々堂々のフリをして無理難題を主張できる根性がすわっていなければならない。
  (b)希望的観測を排し、情勢を客観的に捉え、妥協点を探る能力。

 (2)セルゲイ・ラブロフ・ロシア外相は、(1)の2つの能力を兼ね備える。 
 3月24日、ハーグ(オランダ)で、G8のうちロシアを除くG7が首脳会談を行った。G7はそこで「ハーグ宣言」を採択し、ロシアによるクリミア併合は国際法に違反するので認めない、と明言するとともに、6月にブリュッセル(ベルギー)でG7首脳会合を開催することに合意した。
 同月、ソチ(ロシア)で開催が予定されていたG8首脳会合をG7はボイコットする。

 (3)これで、G8の枠組みが無くなるか否か、現時点では不明だ。
 ロシア人は、「俺たちは圧力には屈しない。お前たちがそういう態度を取るならば、こっちからG8を出て行ってやる。しかし、この借りは利息をつけて返してやるからな」と思っている。
 G7の「ロシア外し」の動きについて、ラブロフ・露外相は24日、<、「西側が必要ないというのならば、ロシアはG8(主要8カ国)の枠組みに固執しない」と述べた。ソチで6月に予定されていた主要国首脳会議(G8サミット)が開けなくても構わないという姿勢を強調した>【注1】
 <ラブロフ氏は、ロシア代表として核保安サミットに参加している。インタファクス通信などによると、ラブロフ氏は記者団に「国際的な問題は主要20カ国・地域(G20)やその他の枠組みの中で話し合うことができる」と指摘した>【注2】
 ロシアの大衆は、「ついにわれわれも大国の地位を取り戻した」と有頂天になっている。こういう世論を背景に強硬論を述べることは、どんな凡庸な外交官にもできる。
 しかし、ラブロフ外相は、内心では「かなりまずい状況になっている」と思い、事態の打開について考えている。

 (4)報道を注意深く読めば、プーチン政権がシグナルを出していることが目に入る。
 <ロシアのラブロフ外相は24日、訪問先のオランダ・ハーグで、ウクライナ新政権のデシツァ外相代行と初めて会談した。ラブロフ氏が記者会見で明らかにした。>【注3】
 <ロシアは、新政権の正統性を認めてないが、イタル・タス通信によると、ラブロフ氏は「キエフ指導部と実務的な接触を保つようにというプーチン大統領の指示に基づいて会談した」と説明した。ウクライナ危機についてのロシア側の考えを伝えたという。>【注4】
 正統性を認めていない政権との外相会談が行われることは稀だ。それが外交の常識というものだ。
 外相会議は「プーチン大統領の指示に基づいて行われた」とラブロフが明言している。このことが重要だ。
 ロシアは、クリミア編入以上の行動を取らず、ウクライナ新政権との関係を正常化する用意がある、というシグナルだ。
 ウクライナが、東部、南部に広範な自治を認める連邦制に転換するところが、ロシアの考える妥協点だ。

 【注1】【注2】記事「G7、ロシア抜きで6月会合 ソチでのG8はボイコット」(朝日デジタル 2014年3月25日) 
 【注3】【注4】記事「ロシア外相、ウクライナ外相代行と初会談」(朝日デジタル 2014年3月25日) 

□佐藤優「プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~佐藤優の人間観察 第62回~」(「週刊現代」2014年4月12・19日号)
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 【参考】
【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~
【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~
【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~
【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~
【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~
【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~

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【家族】子どもへの依存を捨てる ~捨てる哲学~

2014年04月02日 | 心理
 (1)「AERA」3月31日号の大特集は「捨てる哲学」。
 例えば、漆紫穂子・品川女子学院校長の「子どもへの依存を捨てる」。

 (2)ある高校生の保護者から相談を受けた。素直だった娘から初めて「うるさい」と言われ、悩んでいるのだ。
 漆、答えていわく、「反発というのは、親がしていたさまざまの決定を自分自身でできるようになった証拠。悩むことはない。よかったですね」

 (3)社会の変化(少子化、核家族化など)によって親子関係は濃くなっている。子どもを守っていたつもりが、気がつくと、
  (a)「子どもに依存されること」への依存・・・・に変わっていたり
  (b)子どもの自己決定の場を奪ったり・・・・してしまっていることがある。
  (d)自分のためにはできなくても、子どものためならできる・・・・ことも多い。

 (4)そうやって愛情を持って育てた子どもは、捨てたくても捨てられない。そこに依存関係ができてしまう。当然のことだ。
 その依存関係にどう向き合うか。
  (a)まず、自分だけが特別ではないことを知る。
  (b)ついで、未来からの視点で子どもとの関係を考えてみる。
   <例>子どもが30歳になったとき、今のような一心同体の関係を続けられるか。・・・・ノーだ。
  (c)だから、日ごろから「自分と子どもは別の存在」という意識を持つことが大切だ。
   <例>「娘があんな服を着ているのが嫌だ」と思ったら、小言をいう前に、自分にとっての問題を考えてみる。娘がヘンな目で見られたら可哀想、などという親の気持ちをいったん横に置いて見れば、実は子どもにとっての問題はないことが分かる。
  (d)子どもに言い分があったら、口をはさまずに最後までしっかり聞く。こうして自分と子どもを切り離して考える習慣をつけるのだ。

 (5)品川女子学院が生徒に向けてアンケート調査を行ったところ、生徒が親にしてほしいことは「見守り」だ、という声が多かった。

□漆紫穂子(品川女子学院校長)「子どもへの依存を捨てる」( 「AERA」2014年3月31日号)。
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【税】「個人課税」から「世帯課税」 ~税制「改悪」~

2014年04月01日 | 社会
 (1)政府が所得税改革の検討を始める、という。次のような改革だが、その方向は正しいか。
  (a)「個人課税」から「世帯課税」への移行。
  (b)配偶者控除の廃止・縮小

 (2)世界を見ると、経済協力開発機構(OECD)の主要24か国において、
  (a)個人課税・・・・日本、英国、カナダ、スウェーデン、オランダなど15か国。
  (b)個人・世帯選択・・・・米国、独国など5か国。
  (c)世帯課税・・・・仏国、ルクセンブルクなど4か国。
 70年代以降の制度移行の状況を見ると、
   ①「世帯課税」から「個人課税」へ・・・・9か国。
   ②「世帯課税」から「選択」へ・・・・2か国。
   ③「選択」から「世帯課税」へ・・・・1か国。
というように、次のように趨勢は「個人課税」へだ。その理由は、「個人課税」のほうが課税の中立性があるからだ。
 <例1>専業主婦が働こうとすると、「世帯課税」では累進税率が効いて不利になるが、「個人課税」では中立的。
 <例2>結婚についても、フランス式の「世帯課税」は有利(結婚ボーナス)に働くが、「個人課税」では中立的。

 (3)経済政策としては、税制ですべてに対応するのではなく、ほかの政策で対応し、税制はできるだけ中立性をもたらせるのが「常識」だ。仮に税制対応するときも、各種控除で対応するほうが簡素になるので望ましい。
 かかる理由から、個人課税を基本とし、必要な時には控除措置で対応するのが世界の常識になっている。
 つまり、(1)の政府案は世界の常識にまったく反している。

 (4)(1)の改革は、女性の社会進出を促進させることが一つの狙いとされている。
 しかし、本当に女性の社会進出促進を実現させたいならば、政府方針とは逆に、
  (a)所得税の基本は中立的である「個人課税」のまま、
  (b)配偶者控除を拡充すればよい。
 (b)により多少は税収が落ちるが、女性に働いてもらってその所得に課税して税収を増やすという「損して得とれ」方式で対応すればよい。
 にも拘わらず、目先のことしか考えられない財務官僚は、とにかく配偶者控除をなくして増税したい一心だ。それだけでは増税がミエミエなので、世帯課税にして少しばかりの減税を大きく見せたいのだ。
 
 (5)しかし、(1)のような所得税改革案ができると、結局増税になって、女性の社会親巣津を「後ろからスカートを踏む」形になってしまう。狡猾な財務官僚は、安倍政権の取り巻きが右寄りで、そうした人たちは個人課税より家族課税のほうがいいと信じていることをうまく利用して、「個人課税から世帯課税へ」を吹き込んでいるのだろう。
 世界の趨勢は、そうしたイデオロギーより税制の中立性を選んでいるので、この点でも日本は逆行している。 
 いずれにせよ、女性の社会進出という目的は達成できずに、最終的には増税になるような所得税「改悪」だ。
 そして、世帯課税の国では、所得税の持つ累進課税の効果が薄れて、所得格差に対応できなくなっていることを忘れてはいけない。

 (6)消費税に関しても、世界の国では消費税=一般財源なのだが、日本では社会保障目的税にする、という世界で例を見ない「改悪」を平気で行い、デフレ脱却前に消費増税を強行して、景気を中折れさせようとしている財務官僚だ。

□「財務官僚が狙っている所得税「改悪」 ~ドクターZは知っている~」(「週刊現代」2014年3月29日号)
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