語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】世界イスラム帝国へ、ネット時代の世界革命 ~イスラム国の行方~

2014年11月15日 | ●佐藤優
 2014年6月29日、イスラム過激派組織ISISが「イスラム国」樹立を宣言。シリア人、イラク人を始め、世界80か国から15,000人の戦闘員が集まり、勢力を強めている。

 イスラム教には多数派の(a)スンニー派と少数派の(b)シーア派がある。
 (b)が唯一政権を握っている国がイランだ。
 (a)はシャリーア(イスラム法)の解釈によって4つの法学派に分かれる。①ハナフィー派、②マーリキー派、③シャーフィー派、④ハンバリー派だ。①~③は世俗の伝統や土地の慣習を大事にし、過激な運動はあまり出てこない。
 問題なのは④。世の中の真理はクルアーン(コーラン)とハディース(ムハンマド伝承集)に全て書かれており、その通りにすべきとするイスラム原理主義だ。
 サウジアラビアは④の中でも特に厳格なワッハーブ派を国教としている。その武装勢力がアルカイダだ。
 また、北アフリカ・マグレブ諸島のアルカイダ、チェチェンのテログループ、アフガニスタンのタリバンなど、イスラムの過激派はすべて④。
 今回のイスラム国も、当然④。昨今できた組織ではなく、20世紀のムスリム同胞団(1928年~)を源流とするイスラム原理主義の歴史を受け継いだ革命組織だ。

 イスラム国は初期のソビエト連邦に似ている。
 マルクスの国家観では、国家は最終的になくなるべきものだ。ソ連は社会主義国の「同盟」である。他の国家は人民を抑圧するが、われわれは抑圧しない。われわれは国家が持っている原罪、悪を持っていない。だから国家を規制するメカニズムは要らないという考えだ。それが凄まじい恐怖政治につながった。それはさて措き、スターリンが出てきて一国社会主義になる前のソ連は、世界から国家をなくして社会主義世界をつくるという世界革命を狙っていた。
 イスラム国の目的も、世界革命を起こして世界イスラム帝国をつくることだ。
 世界に国家はただ一つ。
 神はアッラーのみ。
 この世界を支配する法律はシャリーア一つ。 
 それを指導するのは、ムハンマドの後継者であるカリフ(最高権威者)ただ一人。

 組織形態の大きな特徴は、ネットワーク型であること。
 アルカイダのように、ウサマ・ビンラディンの命令で下部が動く・・・・といった組織形態ではない。
 小さなテロのユニットが無数にあり、それぞれに必ずメンター(指導者)がつく。それがインターネットでつながって、世界中に結び付いている。散発的・突発的にテロが起きるため、封じ込めが難しい。

 テロ組織が活動を継続するためには、次の4つが必要だ。
  ・カネ
  ・指導するメンター
  ・武器を製造する技術部門
  ・インテリジェンス
 さらに、外側でそれをサポートする「人民の目」があればなお強い。今のイスラム国はそのすべてが確保されているので、勢力は今後も広がるだろう。

 他の学派(①~③)の若者も、少しずつ④に引きずられてきている。
 シャリーアに忠実・厳格とは、解釈としてはある意味で一番簡単なので、今のイスラム国の勢いを見て、イスラム穏健派の人々も④に惹きつけられる可能性が十分にある。実際、イスラム国にはカタールやサウジアラビアかなりカネが流れ込んでいるらしい。

 いま、欧米や日本からも、若者が戦闘員としてイスラム国に向かっている。この根底に、宗教より社会問題がある。世の中に過激な考えを持つ人、社会のどこにも帰属感を得られない人はいつの時代にもいる。かつて彼らを糾合したのはマルクス主義であり、日本では連合赤軍などの過激派だった。
 それが、いまはイスラム国。世の中の矛盾を憎んでいる若者、社会の境界線をさまよう若者に、革命という処方箋を提示し、惹きつけている。
 本質的には、ソ連ほどの脅威はない。ソ連は自前の計画経済をつくったが、イスラム国はシリアとイラクで秘密裏に産出した原油をヨルダンに流し、資本主義国に密売して生きている。つまり、資本主義を批判し、ムハンマドがいた時代に戻ることを目的としつつ、資本主義に「寄生」しているという自己矛盾を抱えている。したがって、彼らの目標が達成されるときには、皮肉なことに彼らは生きられなくなるのだ。

 イスラム国を弱体化させるために重要なのは、イスラム穏健派をサポートすることで、封じ込めることだ。イスラム過激派をキリスト教徒や無神論者など外部の人間がつぶすことはできない。そのことを知っている米国は、今回の空爆は有志連合という形で、サウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦、カタール、ヨルダンに加わってもらった。 

□記事「佐藤優が指南 宗教から読み解く国際ニュース」(「週刊ダイヤモンド」2014年11月15日号)
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 【参考】
【佐藤優】来世より現世を生きる教えが強い絆を生む ~欧州南北問題~
【佐藤優】米国人とユダヤ人が共有する選民思想 ~米国とイスラエル~

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【佐藤優】来世より現世を生きる教えが強い絆を生む ~欧州南北問題~

2014年11月14日 | ●佐藤優
 ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン(PIIGS)の財政危機など、ヨーロッパの南北問題は深刻化している。南部にはローマ・カトリック国、北部にプロテスタント国が多い(英国、独国、デンマーク、北欧3国)が、宗派の違いは経済に影響しているだろうか。

 北部ヨーロッパの強い経済の鍵になるのは、プロテスタントのカルヴァン派・改革派だ。彼らは生まれる前から神に選ばれているという選民思想がある。天国に神のノートがあり、そこに自分の名前が書かれているのだ(「予定説」)。「自分たちにはこの世での成功が保証されている。一見失敗したようであっても、それは神の試練であり、これに耐えれば必ず成功する」と信じている。「世の中のため人のために努力すれば神は喜ぶ。自分の人生は神を喜ばせるためにある」といった教えだ。
 プロテスタンティズムが資本主義を生んだのは、こうした背景がある。

 大航海時代にあれほどの富を得たスペインやポルトガルなどのカトリック国から、なぜ資本主義が生まれなかったのか。
 それは、天国における来世を重視するカトリシズムと関係がある。
 この世はたかだか80年だが、あの世は永遠である。だから人々は自分がこの世に貢献するよりも、天国に行けるよう教会にすべてを寄付しよう・・・・。よって、資本は社会を循環しないで、教会にお金がたまり、豪華な建物を建て、教会インフラという形で富が蓄積させた。

 現世をどう生きるかという考え方が、カトリックとプロテスタントではまるで違うのだ。
 また、プロテスタントやユダヤ経済の強さの背景には、日本や中国とは違う時間の概念がある。

 日本人は、大晦日にはみな、「紅白歌合戦」のお祭り騒ぎを見た後、「行く年くる年」で厳かな除夜の鐘を聞き、新年を迎える。カオス(混沌)の後のコスモス(秩序)を経て、私たちは年が改まったと感じる。・・・・これは宗教儀式そのものだ。
 これは日本や中国の特徴で、時間の概念が円環を成している。春夏秋冬があり、毎年同じ行事があり、1年ごとに新しくなる。農耕民の特徴だ。

 キリスト教、ユダヤ教、イスラム教はそうした考え方をしない。時間は始点から終点まで一直線だ。
 この終点をギリシャ語で「テロス」という。テロスには目的や完成という意味もある。つまり、この世には終わりがあり、その時に神の目的が完成する。また、その途中には神が上から介入し、時間の質が変わるような事件を起こす。これを「カイロス」という。
 かれらは、必ず目的(テロス)に行き着くのだという考えがベースにあるため、人生の目標、仕事の目標をきちんと立てる。直線的な時間の中で、時間を管理、区別していく。何か大きな出来事(カイロス)が起きたときに、それ以前と以後では自分が変わっていくんだと自己革新ができる。
 「これくらいでいい」という考え方はない。自己実現のためではなく、神を喜ばせるためにやっているのだから、終わりがない。そうした意識がプロテスタントの国には強い。

□記事「佐藤優が指南 宗教から読み解く国際ニュース」(「週刊ダイヤモンド」2014年11月15日号)
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 【参考】
【佐藤優】米国人とユダヤ人が共有する選民思想 ~米国とイスラエル~
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【佐藤優】米国人とユダヤ人が共有する選民思想 ~米国とイスラエル~

2014年11月13日 | ●佐藤優
 世界を股にかけて動きまわらねばならないビジネスマンにとって、宗教は必須の教養だ。
 たとえばユダヤ教と米国的キリスト教の関係。
 イスラエルは、いまや世界中から非難される国家だ。
 そのイスラエルをマクドナルド、インテル、IBMなど多数の米国企業が支援し、世論調査では米国民の6割以上がイスラエルを支持している。何故か。

 米国には独特な宗教集団「ユニテリアン」があって、従軍牧師やCIAの職員に信者が多くいる。
 ユニテリアンは米国で勢力を持つ市民宗教なのだが、これが実はユダヤ教ととっても親和性があるのだ。

 正統派のキリスト教において、イエス・キリストは真の神であり、かつ、真の人であると信じられている。父(神)=子(イエス)=聖霊は「三位一体」である、というのが、キリスト教の根幹的な教理だ。
 ところが、ユニテリアンはこの教理を否定する。「イエスは真の神ではなく、偉大な教師である」というのだ。イエスの死後の復活など自然科学に反する、として認めていない。
 この考え方は、イエスという宗教指導者は認めるが、神の子とは認めないユダヤ教に近い。
 こうした感覚が米国のキリスト教の標準になっている。だから、米国大統領は「神に懸けて」とは言っても、「イエス・キリストに懸けて」とは言わない。

 エマニュエル・トッド(仏)『移民の運命』によれば、米国は差別する人たちの集団だ。
 米国の白人民主主義は、米国先住民を排除し、黒人を排除した。17世紀後半から1950年代ごろまで、多くの州政府は白人女性が先住民や黒人と結婚することを禁止した。
 これはカルヴァン派の「自分たちは神に選ばれたピューリタン(清教徒)だ」という意識からきている。
 ピューリタンは、英国国教会の迫害から逃れて米国大陸に渡り、この地に理想の国を築こうとした。この米国建国の民からすると、平等とは選ばれた民の中での平等であり、それ以外の者は差別してよい。これはユダヤ教の持っている選民思想とシンクロする。その意味で米国人はユダヤ教にシンパシーを感じやすい。

 シオニズムは、イスラエルの地に故郷を再建しようとするユダヤ人の運動だ。
 米国には、「クリスチャン・シオニズム」という思想が存在する。新約聖書には、この世の終わりがやって来るとき、イスラエルのエルサレムにイエスが再臨し、最後の審判を行う、と書かれている。そのために、聖地イスラエルを異教徒から守ることが宗教的に重要である、という考えだ。 

□記事「佐藤優が指南 宗教から読み解く国際ニュース」(「週刊ダイヤモンド」2014年11月15日号)
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【堤未果】格差大国アメリカの後を追う日本 ~金融緩和と年金改革~

2014年11月12日 | 社会
 2014年10月31日、日本銀行は追加金融緩和政策を発表した。
  ・市場への資金供給量は年間60兆~70兆円から80兆円へと拡大。
  ・長期国債買い入れ額は年間50兆円から80兆円へと増額。
  ・ETF買い入れ額は年1兆から3兆円へと増額。
 市場は驚愕。ニューヨークでは外資・証券関係者が、お祭り騒ぎとなった。

 日経平均株価は一時800円以上も上昇した。株高が進めば消費増税への追い風となる。
 だが、「これで日本の実体経済はますます苦しくなるだろう」【NYのあるトレーダー】。
 事実、8月の実質賃金(9月に発表)を見ると、地方の大半は大幅に下落している。
 今回、同時期に発表された米国連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和終了で、①円安、②物価上昇、③消費増税・・・・が今後進む。
 この3つが、地方の賃金低下にいっそうの拍車をかける。この実質賃金低下と、②物価上昇とが、国民生活をますます苦しくさせる。

 いま政府とマスコミは、雇用率の上昇を繰り返し謳う。
 だが、雇用人口5,613万人(7月)のうち、正規社員は前月より17万人減っている。その一方、非正規社員が増えている。
 日本は、米国と同様の非正規雇用大国と化しつつある。

 オバマ民主党政は、中間選挙前に雇用回復をアピールしたが、じつは米国は非正規雇用大国なのだ。
 米国は、インフレ推進政策と大企業優遇政策によって、実質賃金が1970年代以下の水準まで下落。リーマンショック以降、上位1%の所得が31%増える一方、99%の国民の所得の伸びはわずか0.4%に過ぎない。
 あらゆる分野が民営化され、アカデミズムにまで非正規化の波が迫る。福利厚生のない使い捨て職種を掛け持ちする中間層が増える一方で、投資家と株主の所得だけが順調に上昇している。

 こういう政治に対する不信の高まりが、今回の米国中間選挙で顕著に示された。
 ほぼ全州の有権者が、現職の再選を望まず、議会支持率は10%に過ぎなかった。
 政治不信の主因は、猛スピードで広がる経済格差を両党とも推進しているからに他ならない。

 そんな米国の後を、日本政府はまっしぐらに追っている。それは、安倍政権がパッケージで導入する政策に明らかだ。
 「派遣法」改正・・・・あらゆる職種について無期限に派遣社員を雇用し続けることを可能にする。
 「戦略特区法」改正案の閣議決定・・・・特区内で家事代行サービス会社雇用を通じて移民を拡大する。
 安部は、施政方針演説で「世界一企業がビジネスをしやすい国にする」と宣言した。その宣言からちっともぶれずに驀進している。
 しかし、このまま進めば、非正規社員が移民と低賃金労働職を奪い合う社会になる。貧困大国アメリカと同様に。

 米国追随の流れを強化するように、GPIFの年金株式運用比率拡大が、今回の日銀追加緩和と同時発表された。
 これまで年金基金は国債(低リスク運用)を中心にしてきた。ところが政府は、今夏から、年金基金の株式運用比率拡大を今夏から進めている。いったい誰のために、130兆円(世界最大規模の年金基金)の株式運用比率を拡大するのだ?
 新たにアクティブ運用委託先に選ばれた外資らは、損益に拘わらず毎年1兆円の手数料を受け取る。株安となって年金基金が失われた時にツケを払わされるのは、ほかでもない日本国民だ。
 この点を細野豪志・議員(民主党)が10月30日に衆議院予算委員会で質問した。しかし、一連の質疑応答はテレビからカットされた。国民は、知らぬが仏の闇の中に置かれている。
 知らぬが仏はまだある。社会保障審議会年金部会で、現行60歳までの「国民年金保険料納付期間」を65歳まで延長する方針が決定された。来年の通常国会に改正案が提出される。
 かくして年金は、ますます国民から縁薄くなり、彼方へと遠ざかっていく。

 安倍政権下、あらゆることが「閣議決定」やら各種審議会やらで、議会を通さずに猛スピードで決められていく。
 かかる政治体制によって、「企業栄えて国滅ぶ」。その日は近い。

□堤未果「金融緩和と年金改革で格差大国アメリカの後追いをする日本 ~ジャーナリストの目 第228回~」(「週刊現代」2014年11月22日号)
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【政治】「道徳教科書化」を笑う ~安倍政権の自業自得~

2014年11月11日 | 社会
 「道徳」が特別の教科になるという。
 笑いを噛み殺さざるを得ない。
 単にばかばかしいだけではない。安倍晋三・首相を始めとする国家社会主義的な国会議員が、自らの首を絞める愚策に気付かない愚かさを笑うのだ。

 安倍らの考えているのは「修身復活」なのだろう。
 自己よりも国家を優先する思想に染め上げれば、
  戦争をしようが、
  労働力を搾取しようが、
  言論の自由を奪おうが、
国民は国家に楯突かなくなる。「非国民」は獄につないでしまえばいい・・・・。
 時代錯誤も、ここまでくると喜劇でしかない。

 そもそも教科書には何を載せるのか。
  「愛国心」
  「日の丸・君が代の尊重」
・・・・ここまでは想像がつくが、結局
  「環境を守ろう」
  「人権を尊重しよう」
とかに触れなければ、ネタ切れになってしまう。
 その際、原発やヘイト・スピーチについてはどうやってテーマから外すのか。

 そして、安倍首相お得意の「積極的平和主義」だ。
 内実は自衛隊の米国傭兵化だが、建て前としては「国際平和に積極的に貢献する」となる。
 当然、「愛国主義」との整合性をどう図るのか、という難問が生じる。
 解決は、簡単ではない。
 安倍首相に妙案があるとは思えない。

 とはいえ、日本の官僚は小狡さという点において、国際的にトップ・レベルにある。たぶん、あれこれと悪知恵を使って、「道徳」の教科書を仕立てあげるはずだ。
 しかし、経済的にも文化的にもグローバル化した時代、ましてインターネット社会の時代に、「修身」を持ち込むのは、鮨をソースで食べろと強制するようなものだ。
 教育現場の現状をみると、当面は学校も文科省の指示に従うだろうが、いずれ破綻するのは目に見えている。

 さらに「修身」が成立した背景にあったのは、申すまでもなく、「天皇=神」の構図だ。
 天皇制の是非はいったん棚の上に置くとしても、現状では多くの国民がそれを受け入れている。もはや「神」ではないのだ。この点からも、安倍的「道徳」は迷走するしかない。

 国家社会主義的色彩に染めれば染めるほど、「道徳」は時代からかけ離れる。
 それが結局は、安倍首相を中心とする「日本会議」所属議員のアナログぶり、喜劇性を浮き彫りにする。
 「期待」を持って見守りたい。 

□北村肇「「道徳」教科書化を笑う ~風速計~」(「週刊金曜日」2014年11月7日号)
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 【参考】
【教育】考え方や行動まで評価対象に ~「道徳の教科書化」2018年度実施~ 
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【経済】カジノよりずっとあくどい「胴元」が牛耳る日本のギャンブル

2014年11月10日 | 社会
 カジノでは掛けたカネの一部が胴元に流れる。その一部のことをテラ銭といい、テラ銭の割合を控除率という。韓国のカジノでは、ゲームによって若干の違いはあるが、控除率は5%前後だ。
 <例>1,000円を掛ければ、50円前後が胴元=カジノにとられ、残りが配分される。以後も5%ずつ胴元のフトコロに収まっていく。

 日本では、刑法が賭博を禁じているにも拘わらず、巷には博打が溢れかえっている。競馬、競輪、競艇、オートレースといった公営ギャンブルに加えて、パチンコ、宝くじだって立派な賭博だ。
 その控除率たるや、パチンコはおおむね十数%とされ、競艇といった公営ギャンブルは25%。宝くじの控除率に至っては何と50%。
 しかも、公営ギャンブルの巨大利権は、各省庁の役人がガッチリ握り、関係団体への天下りといった形で甘い汁を吸い上げている。
 <例>パチンコ・・・・近年は警察の利権と化し、関係団体が警察官僚の天下り先になっている。

 かくのごとく、日本のギャンブルは悪徳博打だ。
 こんなものに貴重なカネを捨てるお人好しはいない・・・・はずなのだが、それどころか、日本全体のギャンブル(競馬やパチンコなど)の粗利益は合計3兆6千億円。ギャンブル都市マカオの粗利益が4兆7千億円だから、日本も立派なギャンブル大国だ。
 「ギャンブル依存症」の疑いのある人の数は、推計で成人の4.8%(536万人)。これは米国の1.6%や韓国の0.8%に比べて格段に高い。

 そんな日本で今、カジノを含む統合型リゾート(IR)の導入をめざす法案(いわゆるカジノ法案)が検討され、賛否両論が巻き起こっている【注】。
 政権、与党幹部、地方自治体の長らは「経済効果」の喧伝に躍起となり、反対派は「ギャンブル依存症や治安悪化などの悪弊を考慮すべきだ」と批判する。

 反対派の声にも一理あるが、親方日の丸のボッタクリ賭博をのさばらせ、大量の「ギャンブル依存症」を生み出しつつ、いまさら「悪弊」といっても聞く者は鼻白む。なんだかカマトトっぽい。
 それよりも、この際、公営ギャンブルを含めた賭博のありようを再検討し、異様に高い控除率や役人の利権に根本的なメスを入れてみてはどうか。
 チャレンジの価値はある。 

 【注】閣僚スキャンダルが続出し、政府提出法案ですら見通しが立たない中、議員立法による法案処理が難しくなり、安倍が「成長戦略の目玉」と位置づけた通称カジノ法案の成立はなくなった。【後藤謙次「内閣改造の失敗で環境一変 カジノ法案も成立は困難に ~永田町ライブ 216~」(「週刊ダイヤモンド」2014年11月8日号)】

□青木理「カジノよりずっとあくどい「胴元」が牛耳る日本のギャンブル ~ジャーナリストの目 第227回~」(「週間金曜日」2014年11月15日号)
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【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~

2014年11月09日 | ●佐藤優
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~アレクサンデル・ストゥッブ~

 「フィンランド化」・・・・東西冷戦中にこんな国際政治用語があった。
 NATO加盟国のノルウェーとソ連との間にあるフィンランドの中立政策を指す言葉だった。
 フィンランドは、ソ連と二度戦争をした。
  ①冬戦争(1939~1940年)
  ②継続戦争(1941~1944年)
 ソ連が勝利した。フィンランドは独立を維持することはできたが、民族発祥の地(カレリア地方)を割譲することを余儀なくされた。
 だから、フィンランド人の反ソ感情は強い。

 フィンランドは、資本主義体制にとどまるが、西側の軍事同盟には所属せず、ソ連を刺激するような外交・安全保障政策を行わないように細心の配慮をしていた。
 「フィンランド化」という言葉には、ソ連に配慮した中立政策に対して、国家主権の一部を自発的に放棄するようなもので、従属化だ、という批判的なニュアンスが伴っていた。
 もっとも、ソ連のような危険国家に隣接しながら、独立を維持するための現実主義として「フィンランド化」を肯定的に評価する専門家もいた。

 ソ連崩壊後、フィンランドは、かつてのソ連に対するような配慮をロシアに対して行うことはなくなり、西側との統合を進めた。しかし、NATO加盟のシナリオは封印していた。
 この状況に変化が生じつつある。
 6月24日、ニーニスト・フィンランド大統領は、議会の承認に基づきアレクサンデル・ストゥッブ欧州・貿易相を新首相に指名した。ストゥッブはNATO加盟が持論だ。
 <ストゥッブ首相は毎日新聞と単独会見し、ロシアによるウクライナ介入は短期的な政策変更ではなく「欧州や世界への影響力低下を懸念し行動を起こしている」と分析。当面はロシアが「普通の西側の国になることはない」との現実を受け入れつつ、忍耐強くロシアとの共存を目指すべきだとの考えを示した。
 ロシアによるウクライナ・クリミア半島編入や東部への軍事介入について、「(欧米諸国と)勢力圏を争う政策がロシア外交に戻った。こうしたゼロサムゲームが今後もロシア外交の基本になる」との見方を示した。また、「プーチン露大統領が、自分の望む政策を具体化する好機だった」と指摘した。>【注1】

 ただし、ストゥッブ首相の対露強硬論は、口先だけで内実を伴っていない。その証拠に、フィンランドはロシアの技術を基にした原発建設を9月に認めている。
 同首相は、<「原発は50?70年の寿命がある。それまでにウクライナの紛争が問題にならなくなることを希望する。これが忍耐の一例だ」と話し、ロシアとの相互利益をはかりつつ変化を待つ政策が必要と主張した>。【注2】
 逆に言えば、ストゥッブ首相は毎日新聞を通じて、「原発が稼働する50~70年間は、フィンランドが本格的にロシアと対峙することはできない」というメッセージをロシアに送っている。

 ロシアの帝国主義政策が自国に向かうのを避けるために、相互依存を強める・・・・というフィンランド外交の知恵は、ソ連崩壊から20年以上経つ現在も生きている。  

 【注1】記事「ストゥッブ・フィンランド首相:緊張続くロシア関係 忍耐強く共存目指す」(毎日新聞 2014年10月27日)
 【注2】前掲記事。

□佐藤優「ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~佐藤優の人間観察 第88回~」(「週刊現代」2014年11月15日号)
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 【参考】
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 
【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~
【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~
【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~
【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~
【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~
【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~
【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~
【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~
【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~
【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~
【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~
【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」
【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~
【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~
【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~
【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~
【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~
【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~
【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~
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【食】ポテトチップスで癌になる ~食品安全委員会が警告~

2014年11月08日 | 医療・保健・福祉・介護
 ポテトチップスを食べると癌になる。
 今年10月、内閣府・食品安全委員会が正式に公表した。「ポテトチップスなどに含まれる化学物質アクリルアミドは遺伝毒性を有する発癌物質である」
 同委員会は、2011年からポテトチップス、フライドポテトに含まれるアクリルアミドについて調査していた。研究資料は、すでに農林水産省、厚生労働省に提出済み。来年度には結果が出る。今後は、さらに消費者やメーカーにアクリルアミドの危険性を警告していく。
 ちなみに、遺伝毒性とは子孫に伝わるという意味ではなく、染色体やDNAに直接悪影響を及ぼし、細胞が突然変異を起こして癌化する恐れがあるという意味だ。すでに動物実験では、アクリルアミドを摂取し続けたラットに高確率で甲状腺癌や精巣癌が発生することが確認されている。

 これまでにも「ポテトチップスは体に良くない」とする意見はあったが、その主な観点は「塩分」と「肥満」だった。
 今回の食品安全委員会の発表は次元が異なる。
 消費者にとってインパクトの大きな話だが、メーカー側は上を下への騒ぎだ。消費者からの問い合わせが急増し、売り上げに影響が出始めている。

 アクリルアミドは、本来は地下工事の際に使われる土の凝固剤、ガラス繊維などの接着剤、アクリル系塗料の原料などに使用される化学物質だ(「劇物」指定)。
 アクリルアミドが食品に含まれていることが判明したのは2002年だ。スウェーデン政府が、ストックホルム大学と共同で行った研究の結果、「ジャガイモなどの炭水化物を多く含む食品を高温で揚げたり焼いたりすると、その際にアクリルアミドが生成される」と発表し、世界を震駭させた。
 もともとジャガイモにはアクリルアミドは含まれていない。しかし、120℃以上の高温で加熱すると、ジャガイモに含まれているアスパラギン(アミノ酸)がブドウ糖などと反応して、アクリルアミドに変化する。普通に加熱調理しているだけで有害物質が生成されてしまう。【高橋久仁子・群馬大学名誉教授/『食べものの落とし穴』の著者】

 日本では食品安全委員会の警告がまだ周知徹底されていない。
 しかし、世界では2002年の発表以来、すでに大問題になっている。
 「食品中のアクリルアミドは、神経への影響や発癌のリスクを高めるなど、健康上の問題となり得る。よって、食品のアクリルアミドを減らす努力を続ける必要がある」【国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)、2005年】
 これにより、ヨーロッパではポテトチップスの売り上げが激減した。

 日本でも、遅まきながら、その危険性をハッキリ認めたのが、今回の食品安全委員会発表だった。
 いま、アクリルアミドは国際癌研究機関(IARC)の5段階評価の中で2A(上から2番目/「人に対して恐らく発癌性がある」)に分類されている。1A(「人に対して発癌性がある」)に分類されているアスベスト、コールタール、タバコの次に発癌性があり得る危険な物質、という位置づけだ。

 アクリルアミドは、120℃以上の高熱で調理された他の食品(クッキー、かりんとう、パン、コーヒー、ほうじ茶など)にも多かれ少なかれ発生している。
 その中でも特にポテトチップスが危険な理由は何か。
 ポテトチップスは180℃以上の高温で揚げないと、あの食感、旨味が出ない。アクリルアミドは高熱であればあるほど生成されやすい。しかも、薄くスライスしたジャガイモを揚げることで、中心部まで熱が入り、アクリルアミドの含有量が多くなってしまう。【高橋名誉教授】 
 ちなみに、食品1kg中に含まれているアクリルアミドの数値は、厚生労働省によると、
  ・ビスケット・・・・53~302μg
  ・コーヒーパウダー・・・・151~231μg
  ・フレンチフライ・・・・512~784μg
  ・ポテトチップス・・・・467~3,544μg
 
 ポテトチップスは日本人の食生活に深く浸透している。
 カルビーがポテトチップスの原料として使用するジャガイモの量は24万トン(日本全体のジャガイモ消費量の7%)。
 上位3社のメーカー(カルビー、湖池屋、山芳製菓)だけでも、80種類以上の商品が市場に流通している。

 メーカー側は、今回の食品安全委員会発表をどう受けとめているのか。
 (a)カルビー広報部・・・・国内シェア6割強
  2002年の発表以来、自社ホームページでもアクリルアミドに係る情報を発信し、濃度低減に努めている。ただ、当社としては商品を買ってもらえなければ事業として成り立たない。客には真摯に安全性を訴えていくしかない。
  濃度低減の具体策は、①フライする時間を短くする。②フライする温度を低くする。③フライ直後に風をあて冷却する。④フライする前に、湯通ししてアスパラギンを低減する。⑤アスパラギンの少ない原料ジャガイモの研究・開発。・・・・当社は2002年の発表時からアクリルアミドの低減対策には相当の費用をかけて取り組んでいる。以前よりかなり低減できるようになっている。

 (b)湖池屋広報部、山芳製菓広報部・・・・カルビーにつぐシェア
  取材対応は業界団体「日本スナック・シリアルフーズ協会」に任せている、と両者とも回答。
  「日本スナック・シリアルフーズ協会」担当者によれば、2002年から、こうした騒ぎがあるたびに各メーカーは自社で設備投資をして対策を講じてきた。その一方で、低減措置をやり過ぎると味や風味が落ちてしまい、商品が売れなくなるという問題もメーカー側は抱えている。  

 カルビー幹部社員も認めているように、根本的な対策は「販売を止める」しかない。
 だが、ポテトチップスはカルビーの売り上げの34%を占める。その存続は、企業にとって死活問題だ。
 他方、消費者にとって命を失うかどうかの問題だ。

□記事「内閣府食品安全委員会が警告 ポテトチップスで「がん」になる!」(「週刊現代」2014年11月15日号)
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【古賀茂明】宮沢経産相は「官僚の守護神」 ~原発再稼働~

2014年11月07日 | 社会
 経産相に就いた小渕優子は、官僚に従順だったし、官僚は暴走した。最悪の組み合わせだった【注】。
 その小渕は、あっという間に辞任してした。

 安倍首相が後任として投入したのが宮沢洋一だが、この人もまた就任直後から
  ・SMバーへの政治資金支出
  ・外国人株主が過半を占める企業から受けた献金
の問題などで追究を受けている。
 一方、安倍政権や自民党はもとより、マスコミ政治部の記者たちの中に、こんな下らないことにエネルギーを割かないで政策論議をすべきだ、という声も出ている。
 ところが、安倍内閣の最大の問題は、カネの問題ではない。実は、行政を適切に執行する能力に大きな疑いがある閣僚が多数いる点にある。

 経産相の前後任二人の能力を比較すると、
  (1)小渕の能力のなさは、国会答弁、記者会見のやり取りなどで、マスコミや霞が関官僚の間では評判となっていた。経産相という重責を担えないことは既にハッキリしていた。早めにクビにできたことは、安倍政権にとって不幸中の幸いであった。 
  (2)では、財務官僚OBで、永田町では「政策通」と言われる宮沢が進める政策は信頼できるか。心配なのは、
   (a)東電株を保有している。福島の大事故以後、まじめな政治家なら、東電との癒着を疑われないよう、株を売却するものだ。しかし、宮沢の東電株は含み損状態なので、持ち続けて東電株を持っていたらしい。そんな人が経産相をやるのは、完全な利益相反だ。株式を信託して売却できないようにした、と言い訳しているが、何の意味もない。売却しなくても、東電に都合のより政策を連発して、東電株が値上がりすれば宮沢にとって万々歳だからだ。
   (b)福島に行ったことがなかった。菅官房長官は、宮沢が復興支援に尽力したというが、震災からすでに3年半。1回も行ってないのは奇妙だ。宮沢はおそらく財務官僚の典型なのだろう。現場は見ずに、机の後ろにふんぞり返って、国民からの陳情に応えてやっている、という上からの目線。こんな人に住民目線の政策は期待できない。
   (c)【最大の問題】宮沢が「官僚の守護神」であることだ。<例>公務員改革法案を徹底的に骨抜きにしようと画策した。宮沢は「過去官僚」として、官僚にとって何が重要かを最もよく分かっている政治家の一人として、官僚を守るため必死に働いた。

 宮沢は、今後、原発再稼働も含め、経産省が抱える諸問題の処理に当たって、経産官僚の利権をうまく温存することによって彼らに大きな恩を売れば、それを自分の利権につなぐことができる。
 経産省の立場から見れば、官僚の利害を熟知した大臣であれば、修羅場で想定外の事態になっても応用動作が可能で、その場で官僚をうまく守る振る舞いができる・・・・と期待する。それこそが、霞が関のいわゆる「政策通」だ。

 小渕のスキャンダル辞任で暗雲が垂れ込めたかに見えた原発再稼働。
 宮沢経産相がスキャンダルをうまく乗り切ってくれれば・・・・。
 経産官僚は、そう願っているだろう。

 【注】「【古賀茂明】従順な小渕大臣と暴走する官僚 ~原発再稼働~

□古賀茂明「宮沢経産相は「官僚の守護神」 ~官々愕々第130回~」(「週刊現代」2014年11月15日号)
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 【参考】
【古賀茂明】再生エネルギー買い取り停止の裏で
【古賀茂明】女性活用に本気でない安部政権
【古賀茂明】【原発】中間貯蔵施設で官僚焼け太り
【古賀茂明】御嶽山で多数の死者が出た背景 ~政治家の都合、官僚と学者の利権~
【古賀茂明】従順な小渕大臣と暴走する官僚 ~原発再稼働~
【古賀茂明】イスラム国との戦争 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】「地方創生」は地方衰退への近道 ~虚構のアベノミクス~
【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器
【古賀茂明】【原発】凍らない凍土壁に税金を投入し続けたわけ
【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~
【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~
【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~
【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~
【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~
古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ
【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」
【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~
【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任
【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造
【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~
【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~
【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~
【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~
【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~
【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~
【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~
【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~  
【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~
【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと
【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~
【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~
【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~


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【教育】考え方や行動まで評価対象に ~「道徳の教科書化」2018年度実施~ 

2014年11月06日 | 社会
 10月21日、文部科学省・中央教育審議会は答申した。道徳を「特別の教科」として正規の教科に格上げする、と。
 これを受けて、文科省は、2018年度から実施する、としている。

 「道徳の教科化」は、第一次安倍政権の「教育再生」政策の「目玉」の一つだった。 
 これが第二次安倍政権の政治課題として急浮上したきっかけは、滋賀県大津市の中学生が自殺した事件(2011年)だ。首相直属の「教育再生実行会議」(2013年1月24日設置)は、「いじめ問題等への対応について(第一次提言)」を出し(同年2月)、いじめをなくするため道徳の教科化が必要だ、と主張した。これを受けて、下村博文・文科相は「道徳教育の充実に関する懇談会」を設置(同年3月)。その後、異例の速さで手続きが進められた。

 中央教育審議会の道徳教育専門部会がまとめた(2014年9月19日)案を中央教育審議会は同月末の総会で大筋了承し、翌月の総会で一部修正して答申を出した。 
 くだんの答申は、「道徳教育の使命」は「人格の基盤」となる「道徳性」を育てることにあり、道徳教育は「教育の中核をなすべきもの」としている。これに基づいて、例えば次のような提言を行った。さらに、いまは道徳の時間がない幼稚園、高等学校、特別支援学校でも道徳教育を「充実」することも提言している。
 (1)道徳を「特別な教科 道徳」(仮称)として正規な教科に格上げし、道徳教育を義務化する。
 (2)「特別な教科 道徳」を「要」として学校の教育活動全体を通じて道徳教育をより確実に展開するよう教育課程を「改善」する。
 (3)国が検定基準を定める検定教科書を導入する。
 (4)数値での評価はしないが、子どもの「作文やノート、質問紙、発言や行動面に表れたものを評価する」。
 (5)授業は原則学級担任が担当する。
 (6)授業時間数は当面週1コマ(年間35時間)。
 (7)道徳教育推進リーダー教師を地域に設置する。
 (8)家庭や地域と連携して行う。

 くだんの答申の問題点は、少なくとも二つある。
 (a)第一次安倍政権の時、「道徳の教科化」を諮問された中央教育審議会は、「実現困難」とした。その主要な理由の一つが評価の問題だった。正規の教科にすれば当然「評価」が必要になるが、道徳を5段階評価などの数値で評価するのはなじまない、とした。
 そこで、くだんの答申は、数値による評価はしない、とした。しかし、一方で、子どもの考え方から行動まで、全面的に評価の対象としている。
 これは、ある意味では数値による評価以上に重大な問題をはらむ。子どもは、考え方、意見、行動など全人格を評価されるので、「よい評価」を得るための発言・行動へ偏ることになる。子どもを評価する教員も、大変な負担を強いられることになる。子どもの心と身体は深刻な分裂に追い込まれ、今よりストレスを溜めこむ。そのストレスが「いじめ」など「問題行動」をいっそう増加させる恐れがある。国連「子どもの権利条約」違反だ。

 (b)道徳の検定教科書の発行も重大な問題だ。国家が定めた特定の徳目(価値)を検定基準として教科書を作成し、それだけが唯一正しい「日本人の道徳」だとして「愛国心」をはじめとした特定の価値観を教え込むことになる。
 これは憲法が定める「思想・良心の自由」を踏みにじり、国家が定める「愛国心」「公共の精神」などの徳目(価値観)を子どもたちに押しつけるものだ。

 グローバル企業のための「人材」と「戦争する国」の「人材」(兵士およびそれを支える国民)をつくる・・・・これが、安部「教育再生」政策の真の狙いだ。
 そのために、道徳を正規の教科に「昇格」させ、全教科の上に置き、「愛国心」などを植えつける「教育」の強化を図るのだ。

□俵義文(子どもと教科書全国ネット21事務局長【注】)「「道徳の教科書化」答申で文科省は2018年度実施を表明 考え方や行動まで評価対象に」(「週刊金曜日」2014年10月31日号)

 【注】「俵のホームページ

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【経済】円安で日本はどんどん貧乏に ~藻谷浩介のアベノミクス批判~

2014年11月05日 | 社会
 9月中旬、会合の席上で安部首相は個人攻撃をし、出席するベテラン・ジャーナリストをびっくりさせた。
 ターゲットとなったのは、藻谷浩介・日本総合研究所主席研究員。ベストセラー『デフレの正体』『里山資本主義』で知られる。日本政策投資銀行時代から、各地で講演。現在は地方を中心に年間400回以上をこなす。刹那的な「マネー資本主義」から里山の恵み(食材や資源など)を活かし、地域でお金を回す「里山資本主義」にシフトしてこそ、地方再生(創生)の切り札になる、と主張する。
 首相の政策ブレーン(金融緩和論者)は、「円安と株価上昇」をアベノミクス効果だ、と礼賛する。しかし、藻谷研究員は、円安誘導こそ「国富流出の主原因」と批判し、株価上昇も「政権の成功と囃していいのか」と疑問を呈する。

(1)原発再稼働の嘘 ~国富流出は円安が原因~
 「原発が止まったから、火力発電所用の石油輸入量が増えて貿易赤字国になった」「国富を流出させないためには原発再稼働が必要だ」・・・・という話を多くの人が信じ込んでいる。
 とんでもない。真犯人は、政権が誘導している「円安」だ。
 確かに、日本の輸入は増えた。66兆円(野田政権)→77兆円(安倍政権)・・・・1年間で11兆円も。しかし、このうち石油・天然ガス・石炭は3割(3兆3,000億円)。7割は食品・雑貨・スマホなど、燃料以外の商品の輸入額が円安で膨れあがってしまったもの。
 しかも、燃料代の増加3兆3,000億円も、円安が原因で、原発停止が原因ではない。原発は野田政権の時から全部止まっていたのだから。輸入額ではなく、輸入量を見れば明白。日本の石油・天然ガスの輸入量は、原発事故前(2010年)も、安倍内閣の時(2013年)も、2億5,000万キロリットルと横ばいのままなのだ。
 それでも、原発を全部再稼働すれば、化石燃料の輸入額を1兆6,000億円程度減らせると経産省は言う。しかし、2013年の貿易赤字は8兆5,000億円なので、これでは焼け石に水。
 安倍政権は、自分で円安にし、日本を大赤字にしておいて、「さあ、原発再稼働」と言う。相手を転ばせ、怪我をさせておいて、「さあ、薬を買え」と言うようなものだ。

(2)株価上昇への反論 ~貿易赤字国へ転落~
 国全体で「赤字がかさんでいる」とは、企業や個人の損が合計でそれだけ増えているということ。特にガソリンや電気を使っている企業や個人の儲けがどんどん減っている。株価上昇で儲けて喜んでいるのは、ごく一部の人たちだ。多くの人は、ひたすら「中東諸国に貢ぐために働く」という羽目になってしまった。
 株が上がったと浮かれている人は、「国全体が赤字になっても、自分だけは儲けることができた」と喜んでいるわけだ。そういうのを「政権の成果」と囃していいのか。
 しかも、今年上半期の数字から試算すると、今年の貿易赤字は十数兆円に膨らむ。2010年(鳩山政権)には10兆円の黒字だったから、日本はものすごい勢いで貿易赤字国に転落している。
 アベノミクス以降、日経平均株価は9割も上がったのに、国内の小売販売額は1%しか伸びていない。2013年の小売販売額は139兆円で、2012年の138兆円とほとんど変わっていない。
 国民や中小零細企業の大多数は、円安で輸入原材料費が上がって経費がかさむばかり。恩恵の実感はない。
 株が上がって儲けた人がどんどん使えばよいのだが、彼らは金融商品を買うばかりで、国内でモノを買わない。海外にビルが建つだけ。「飢えている人の横で、食べ物を冷蔵庫にしまい込んで腐らせている金持ち」という行動だ。

(3)経済的反日主義 ~中国との貿易も赤字に~
 日本は、中国(香港を含む)に対して、2012年までの12年間、貿易黒字を続けてきた。鳩山政権の時、史上最高の4兆円に近い黒字を稼いだ。
 それが、安倍政権の2013年、1兆円の赤字に転落してしまった。
 日本は、雑貨でも食品でも部品でも安いものを何でも、コストダウンのために中国から買いまくる体質になってしまっていて、それが円安で裏目に出た。
 「中国と毅然と対決する」という姿勢の安倍政権の円安政策が、こうした結果を招いている。
 対中貿易赤字を招くような政策を経済的な「反日」政策だとすると、皮肉なことに、「安倍政権は反日の極み」だ。「鳩山政権が最も親日」だった。

(4)大企業・富裕層優先 ~里山資本主義へ移行せよ~
 日本は、20年前から、一人当たりのGDP(国内総生産)が世界の20位以内の水準で、失業率も先進国で最低水準なのに、「もっと稼いでGDPを増やさなければ」と叫ぶ政治家ほど支持率が上がる。
 刹那的な「マネー資本主義」に走り、やりすぎると、未来のために残さないといけないものまで使い尽くす。今稼ぐために、残してはいけないものを残す。具体的には、借金と汚染物質だ。
 マネー資本主義に走る大企業は、人員を減らすことで給料の総額を減らし、原材料を安くするために中国からの輸入量を増やし、配当を確保する。一部上場の大企業は株主総会で叩かれるので、配当は減らさない。減らすと、ソニーのようにボロクソに批判される。
 その分、貿易赤字が増えて、内需は縮んでしまう。

□横田一「安倍首相から名指しされた藻谷浩介氏のアベノミクス批判 “経済的反日”政権の幻想から目覚めよ」(「週刊金曜日」2014年10月31日号)
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【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~

2014年11月04日 | ●佐藤優
 10月9日、テレビ朝日が奇妙な放送をした。
 <来日中のロシアのシンクタンク所属の対日専門家は18日、北方領土問題をプーチン大統領が妥協的に解決したくても譲歩を認めない国内世論が極めて強く、今は2島返還でさえ難しいという見方を示しました。
 ロシア戦略策定センター、A・コーシキン上級研究員:「ロシア国民は前と違って、いかなる領土(問題への)譲歩にも反対する人が圧倒的多数。プーチン大統領が妥協的に解決したくても今のところはできません。」(北方領土の)2島返還でさえ、実現は前より難しくなりました。>

 テレビ朝日は、アナートリー・コーシキンがどのような過去持つ男か、わかって番組に登場させたのだろうか。
 コーシキンは、旧ソ連共産党中央委員会国際部で対日工作を担当していた対日強硬論者だ。
 「ゴルバチョフ、エリツィン、プーチンの3大統領は北方領土問題に関して日本に譲歩しすぎた」
と考える陣営の中心人物で、
 「戦後の現実を尊重すべきだ。北方領土を含むクリル諸島は合法的にロシア領になったのであり、ロシアは日本に領土を返還する法的、道義的義務は一切ない。」
と主張する日本専門家の代表だ。

 1956年の日ソ共同宣言では、平和条約締結後に歯舞群島、色丹島をロシアが日本へ引き渡すことが約束されている。日ソ共同宣言は、両国の立法府批准された法的拘束力をもつ文書だ。コーシキンの主張は、日ソ共同宣言という国際条約を無視している。
 ソ連共産党中央委員会では、日本社会党左派に対する革命工作がコーシキンの担当だった。
 彼は、ソ連崩壊後、ロシアの日本専門家や国際政治の専門家の間で、まったく相手にされていない。クレムリン(露大統領府)へのアクセスもない。

 こういう人物が日本のテレビに登場する背景には、2つの可能性がある。いずれにせよ、ろくでもない話だ。
 (1)テレビ朝日関係者の水準が基準に達していない。ゆえに、日本専門家を自称する人物、出演料が安い人文を選んだ。
 (2)ロシアの対日強硬派が日露関係の発展を阻止するという謀略を組み立て、その代表者=コーシキンに情報操作を担わせ、そのカモとしてテレビ朝日が使われた。

 では、ロシアの日本専門家では誰の話を聞けば正確な事情が分かるのだろうか?
 誰もが推薦するのは、日露外交の第一人者、アレクサンドル・パノフ氏だ。ロシアの外務次官、駐日ロシア大使を歴任し、現在はモスクワ国際関係大学外交学科長を務める。クレムリンへのアクセスもある。
 ちなみに、コーシキンは、パノフ氏への非難を生業にしている。

 テレビ朝日は、ロシアでまったく相手にされていないコーシキンのような輩を通じて、北方領土問題の解決を遠ざけるようなプロパガンダを展開している。この種の放送が繰り返されるならば、テレビ朝日内部か周辺の制作会社に「反日」の司令塔があると疑う必要があるかも。
 一般の視聴者から見れば大したことに思えないようなニュースでも、プロの目には重大事件だ。

□佐藤優「さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~佐藤優の人間観察 第87回~」(「週刊現代」2014年11月8日号)
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 【参考】
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 
【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~
【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~
【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~
【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~
【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~
【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~
【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~
【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~
【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~
【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~
【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~
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【経済】宇沢弘文が残したもの ~社会的共通資本の思想~

2014年11月03日 | 社会
 宇沢弘文、2014年9月18日没。
 彼は1928年に鳥取県米子市に生まれ、東京で育った。東京大学数学科で学んだ後、経済学に転じた。経済学者としては遅いスタートになったが、1956年にケネス・アロー教授に招かれてスタンフォード大学に渡ると、数理経済学においてたちまち頭角をあらわした。
 その後、経済成長の分野「宇沢の二部門成長モデル」を発表し、その名を知らぬものはない存在となった。

 36歳の若さでシカゴ大学教授に就いた宇沢だったが、まもなく転機が訪れた。40歳を迎える年に、東京大学へ戻るのだが、帰国のきっかけはベトナム戦争だった、という。
 シカゴ大学でベトナム反戦運動に関与していた宇沢は、後年、エッセイ「苦悩の道を歩んできた友人たち」(『経済学と人間の心』、東洋経済新聞社、所収)を書いた。いわく、
 <すぐれた才能をもち、するどい社会的正義の感覚をもっていた経済学の学生の多くがヴェトナム反戦運動に関わって、姿を消してしまったのであるが、かれらが残っていたら、アメリカの経済学はまったく違った姿になっていたに違いない。>
 このエッセイは、次の一文で締めくくられている。
 <かれらの苦難を救うために、何もすることができなかったことに対して、つよい心の呵責を感じざるを得ない。>

 日本へ帰国した宇沢は、当時深刻になっていた公害の問題に取り組むに至る。
 そして、1974年、『自動車の社会的費用』(岩波新書)を刊行し、多数の読者を獲得した。このころから、宇沢自身が提唱者である「社会的共通資本」の探求が本格的に始まった。

 だが、同僚の経済学者からは賛同を必ずしも得たわけではない。宇沢の「二部門成長モデル」などの輝かしい業績は、あくまでも新古典派経済学の枠組み内での研究成果だった。新古典派経済学は、基本的には自由放任を是認する経済がくだ。

 新古典派の世界的指導者だった宇沢が、社会的共通資本への探求へ向かったことに対して、戸惑いや批判の声が聞こえるようになった。
 自動車の社会的費用に始まり、公害の理論的分析など、社会的共通資本の概念を用いた研究について、「経済学の仕事ではない」などと経済学者から批判されると、宇沢は憤慨して反論した。
 <もともと経済学は、その範囲や定義を固定的、独断的に決めるべきものでなく、現象に対して柔軟に対応して、経済学的な考察を進めてゆくものです。そして何よりも、現実の不公正、不平等を是正して、社会正義に適った途を探るのが経済学の目的でなければならないと思うからです。>

 宇沢は長身で、長い髭を生やしていた。
 インドに滞在中、聖者と間違えられ、拝まれることもあった。
 晩年の10年には、バスクの農民が愛用する赤いベレー帽をかぶって、それがよく似合っていた。
 宇沢は、質問のサイズに合わせて答えるようなところがあった。接する者には、宇沢の大きさがわかりにくい。

□佐々木実「宇沢弘文が残したもの 社会的共通資本の思想を求めて ~佐々木実の経済私考~」(「週間金曜日」2014年10月17日号)
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書評:『後方見聞録』

2014年11月02日 | エッセイ
 交遊した詩人、画家等の芸術家や出版人をしのぶ回想録である。
 第1部には稲垣足穂から吉田一穂まで15人をとりあげる。これが旧版の本体である。
 文庫化にあたり、新たに、20数年間のうちに鬼籍に入った10人を追憶して補足した。これが第2部の点鬼簿追懐である。
 さらに第3部として、現役の飯島耕一と、刊行当時は存命の矢川澄子が加えられた。

 錚々たる列伝である。あくまで加藤郁乎との関わりにおいて語られるが、加藤郁乎自身個性的な俳人にして詩人だから、個性と個性のぶつかり合うところに火花が散る。大詩人を相手にしても、対等にわたりあって昂然たるものだ。

 「何にでも、オの字をつけると一応の諧謔が成り立つ、と見極めて来者を恐れようともしない西脇順三郎翁から、そろそろ、呼び出しの電話がかかってきそうな気がする、『オカトウさん、お遊びにいらっしゃい』」(第Ⅰ部「西脇順三郎の巻」)。
 西脇順三郎のもち味、諧謔味を巧みに点描する。
 と同時に、夫子自身の全身に満ちる風狂と諧謔の精神を活写して余すところがない。本書の題名「後方見聞録」からして、俳味にみちている。『東方見聞録』のもじり、回想の意の造語だ。

   昼顔の見えるひるすぎぽるとがる

 初期句集『球体感覚』の代表作だ。一読、茫洋、第四次鎖国令前後の長崎をしのぶ思いが湧いてこないか。
 名高い「とりめのぶうめらんこりい子供屋のコリドン」をふくむ句集『形而情學』の室生犀星賞受賞が決まった日、著者は飲み歩き、知人宅に泊まった。連絡がとれないままやきもきし、一夜を出版社ですごした森谷均は、痛風が発症したという。
 かくのごとく、加藤郁乎にとっては、酒と交遊とは切り離せない関係なのだ。
 ただし、すべての飲兵衛が加藤郁乎になれるわけではない、当然。
 豪快で切れ味がよく、しかも飄逸な文章。決して薄くはない本書を、一気に通読させるだけの力が全編にみなぎる。

□加藤郁乎『後方見聞録』(学研M文庫、2001)
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書評:『トロイアの秘宝 -その運命とシュリーマンの生涯-』

2014年11月01日 | ノンフィクション
 著者は、伝記『バートランド・ラッセル』をもつ英国のノンフィクション・ライターである。
 1991年4月、米国のアート・ニュース誌に掲載された「戦利文化財」という記事は多方面に衝撃を与えた。大戦直後、150万点もの美術品が西側から旧ソ連へ運び込まれ、50年間も隠匿され続けてきたことを実証したからである。同年秋、旧ソ連の当局は不承不承、この事実を認めた。ベラスケスの肖像画、エル・グレコ『聖ベルナドゥス』、ゴヤ『戦争の惨禍』などと並んで、シュリーマンがヒッサリクの丘で発掘した財宝もあった。

 といった書き出しだが、本書は戦利文化財を追求するものではない。シュリーマンの伝記である。
 ハインリッヒ・シュリーマンは、ひと口に言えば冒険家であった。精神においてはあくなき好奇心と精力を集中力と勤勉さが支え、行動においては古代ギリシャ史を闇から救いだした。
 たとえば、丸暗記という独特の学習法で22か国語を習得し、うち10か国語は流暢に書き、暇があれば復習、朗読、語彙の習得に努めた。
 あるいは、寝食を忘れて事業に没頭し、世界各国をわたり歩いた。丁稚奉公から出発して大富豪となった後も、隠退前に、世界を一周して日本にも立ち寄っている。

 こうした仕事人間は家族の離反をまねく。
 事実、家庭を顧みないシュリーマンに対して妻は冷淡になった。シュリーマン自身は彼なりに妻子を愛していたらしいが、離婚にいたる。
 さいわい、再婚したソフィアとは、考古学への関心を同じくしていたこともあって琴瑟相和する関係となった。

 成功したシュリーマンは、思いこみが激しく、機を見るに敏で、抜け目がない、油断のならない人物だったらしい。
 あるいは、こうした性格だから成功したのかもしれない。
 本書は言う。シュリーマンが笑っている肖像画や写真は一葉も残されていない、と。

 思いこみの激しさは、それが動機となってヒッサリクの丘やミュケナイ文明を発掘させた。
 しかし、科学的組織的でなく直感にしたがったから、シュリーマンがあれほど求めてやまなかった真のトロイアのあった地層とは異なる地層の遺跡をトロイアと命名する喜劇を生んだ。

 また、自分の利益追求のために他を顧みない性格は、シュリーマンをヒッサリクの丘へ導き、発掘に際して多大な支援を与えた米国人外交官フランク・カルヴァートを平然と裏切ったし、トルコ政府やギリシャ政府が与えた発掘許可の条件をちっとも守らなかったから、それぞれの政府から追求され、おおいに悩むはめにおちいった。
 要するに、シュリーマンは稀代の畸人である。さればこそ、その伝記は無類におもしろい。

□キャロライン・ムアヘッド(芝優子訳)『トロイアの秘宝 -その運命とシュリーマンの生涯-』(角川書店、1997)
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