語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】公正な税を求める市民運動2つ ~資産と再分配~

2015年03月09日 | 社会
 (1)税を通じた富の再分配・・・・に焦点をあてた市民運動組織が、2月に相次いで旗揚げした。
    「民間税調」
    「公正な税制を求める市民連絡会」

 (2)2月8日に第1回フォーラムを開いた「民間税調」は、水野和夫・日本大学教授/元内閣官房内閣審議官、三木義一・青山学院大学教授/元政府税調専門家委員会委員らが提唱した。 
 政権に近い位置にいた人々が、政府の政策の追認しかできない政府税調に限界を感じた結果、対抗軸の創設となった。
 日本では、税をめぐる透明性が他の先進国に比べてきわめて低い。主権者(国民)の間で税制論議が起きるよう、税制やその使途・財政の情報をわかりやすく提供することを目指す。【設立宣言】

 (3)「公正な税制を求める市民連絡会」は、反貧困運動の中心になった宇都宮健児・弁護士、雨宮処凜・作家らが呼びかけ、2月15日、問題提起のための緊急市民シンポジウムを開催した。
 利益をあげている大手企業には、さらに有利となる法人税率の引き下げや、兵器への大幅な支出増がある。その一方で、財政難を理由に介護報酬や生活保護基準を引き下げる。こうしたアベノミクス予算に対抗する市民のネットワーク作りが狙いだ。

 (4)「民間税調」と「公正な税制を求める市民連絡会」に共通するのは、格差の是正、分厚い中間層の回復へ向けた再分配のための税制・財政を市民レベルで作っていこうとする姿勢だ。
 (2)のフォーラムも(3)のシンポジウムも、会場は立ち見も出る満席だった。
 関心の高さの背景に、「放置すれば資産は集積し、格差は広がり続ける」【トマ・ピケティ】事態への危機感がある。いずれの集会でもピケティが引用された。「ピケティは日本に合わない」とするさまざまな火消し論にもかかわらず、ピケティの議論が日本社会で実感を持って受けとめられ始めている。

 (5)ピケティによれば、戦後世界の平等化は、
   ・二つの大戦による富裕層の資産の崩壊
   ・戦費調達のための富裕層への課税強化
   ・ロシア革命による革命への不安
   ・兵士を送り出す低・中所得層への配慮
   ・大恐慌による統制経済への合意
などによる再分配の仕組みの構築があったからこそ可能だった。
 ところが、戦後に再開した富の再蓄積で富裕層の政治への発言力が強まり、1980年代以降、レーガン、サッチャー、中曽根政権下で
   ・労組の解体
   ・資産税の最高税率の引き下げ
などによって壊されていく。

 (6)日本では、グローバル化による製造業の海外脱出で柱となる雇用が失われた。所得っを見るかぎり、「格差」どころか、国民全体が下へずり落ちつつある。
 だが、そんな中、過去の蓄積の結果である資産の有無が人々の生活を一段と左右し、格差拡大を生み出す。
 だからこそ、
    「成長と賃金」 → 「資産と再分配」
に焦点をあてた経済政策へと力点は移らざるをえない。

 (7)経済成長は、再分配の仕組みがあってこそ・・・・という事実を、日本人は戦後30年の間に忘れ去った。それが、1980年代以降の再分配機能の解体を許した。
 いま、ようやく、再分配機能の復活という歴史の転換点の入口の、そのまた入口に立ち会いつつあるのかもしれない。

□竹宮三恵子「公正な税を求める市民運動が映す「資産と再分配」 ~竹宮三恵子の経済私考~」(「週刊金曜日」2015年3月6日号)
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【原発】小出裕章、定年退職を前に語る ~福島第一原発の現在~

2015年03月08日 | 震災・原発事故
 小出裕章・京都大学原子炉実験所助教(65歳)が、この3月、定年退職する。

 (1)もっとも懸念された福島第一原発4号機の使用済み燃料は取り出せた。
 最大の危機は乗り越えた。プールの燃料はセシウム換算で広島原爆の14,000発分あった。これが半分壊れた建屋に宙づり状態だった。崩れ落ちて冷却できなければ、東京も放棄しなければならない。それは事故当時、近藤駿介・原子力委員会委員長すら言っていた。危機の少ない場所に移さなくてはならないが、キャスク(100トンの容器を吊るクレーン)も吹き飛び、燃料交換機も壊れた。東京電力は、壊れた部分を撤去し、別の建屋を建てて交換機とクレーンを設置。1,331体の使用済み燃料は、昨年11月までに隣の共用プールに無事移せた。東電は、犯罪組織だが、プールの中に瓦礫が落ち、燃料も変形した可能性がある困難を、放射線に晒されながら、よく克服した。

 (2)第一原発の汚染水の現状は・・・・
 運転中に溶け落ち、どこにどれだけあるかもわからない1~3号機の炉心冷却でかけ続けた水が、放射性汚染水になるのは当然だ。毎日400トン。地下構造物がヒビだらけで、それ以外に毎日地下水が建屋に流れ込む。溶接は時間がかかり、被曝するのでタンクも応急。鋼板にパッキンを挟んでボルト締めだから漏れる。東電は、地下水が建屋に流れる前に海に流そうとしたが、(建屋に流れ込む)400トンが350トンに減っただけ。いずれにしても破綻する。
 そこで、東電は浄化して法律の限度以下にして海に流したいと考えた。しかし、捕捉できる放射性物質はセシウムだけ。重要なのはストロンチウム90とトリチウム(三重水素)だ。東電は、ストロンチウム90を捕まえようと多核種除去設備(ALPS)を入れたが、まともに動かない。仮にストロンチウム90を捕捉できても、トリチウムは環境中に出れば水になる。水そのものだから、トリチウムだけは取り出せないまま海に放出せざるをえない。

 (3)困難ばかりだが、妙案はあるか。
 基本的には二つだ。
  (a)炉心に水をかけることを止めて金属を使う炉心冷却はどうか。鉛、錫など融点の低い金属を炉心に届かせれば、多分、溶けて炉心と一体化する。崩壊熱は時間とともに減少するし、炉心と一体化して金属の量が増えればこれ以上は溶けないというバランスポイントになる。金属がうまく到達しなくても、崩壊熱は当初の10万kWほどが数百kWに減り、空冷できる。チェルノブイリ原発事故では元々の炉心の発熱量は低く、地下に広大なコンクリート構造物の空きがあり、空冷できた。そう持って行きたい。金属の粉を水で流すとポンプが壊れやすくなるので工夫が要るが、不可能ではない。
  (b)遮水壁。2011年5月から主張したが、東電は「1,000億円かかり、株主総会で通らない」と採用しなかった。それでも、東電は遮水壁は必要だと2年ほど前から計画した。それは地面に冷媒を流し続け、深さ30m、長さ1.4kmにわたり周囲の土を氷で固めた凍土遮水壁を作るというものだった。しかし、停電すれば壁は崩壊するし、何十年も維持できない。最初から鋼鉄とコンクリートの壁を作るべきだった。しかし、何百億円もかかる凍土壁の失敗なんて、彼らには痛くも痒くもない。国、東電が負担し、鹿島建設が請け負い、駄目なら普通の遮水壁だ。失敗するほどゼネコンが儲かるからだ。

 (4)除染、そこから出る汚染土は・・・・
 国は「除染」と言うが、実際には「移染」だ。汚染物質は移動しかできない。残念ながら日本は法治国家ではなかった。東北地方、関東地方の広大な地域が放射線管理区域にしなくてはならない汚染レベルになった。1,000万人に近い住民を国は棄てた。水も、飲んではいけないレベル(京大原子炉実験所の実験室と同じ汚染レベル)で生活する彼らが、少しでも被曝を少なくしたいと思うのは当然だ。しかし、家の周囲や校庭で剥ぎ取っても山、森林、田畑などは無理だ。
 国は県ごとに汚染土などのゴミ捨て場を提供させ、福島県の猛烈な汚染地帯に中間貯蔵市悦を作る予定だが、大反対だ。汚染物質は東電の原子炉の中にあった東電の所有物だ。人々が被曝して集めた核のゴミは、東電に返すべきだ。返すべき先は本来第一原発だが、放射能の泥沼で7,000人が闘っていて難しい。
 福島第二原発も、広大な敷地がある。東電は壊れた4基を再稼働するなどと言っているが、すべて廃炉にしてゴミ捨て場にすべきだ。足りなければ、本社ビルでも柏崎刈羽原発の敷地でもいい。
 住民に中間貯蔵を引き受けさせるなど、あってはならない。責任は、あくまで東電だ。福島の事故で電力会社が国から得たメッセージは、どんな失敗をし、住民にどんな苦難を与えても誰一人責任を取らなくていい、ということだった。だから、関西電力も九州電力も再稼働できる。「もんじゅ」も1兆円以上をドブに捨てた責任を誰も取らない。

□語り手:小出裕章/聞き手・まとめ:粟野仁雄「住民に中間貯蔵を引き受けさせてはいけない」(「週刊金曜日」2015年3月6日号)
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【経済】回想の宇沢弘文

2015年03月07日 | ノンフィクション
 鳥取県米子市出身の世界的経済学者、宇沢弘文に関する回想ふたつ。

 八幡泰治は、全国自治研究集会(1998年10月)における地元事務局として宇沢に講演を依頼した。2年前の長野大会でもメイン講演を行っていたが、ふるさと米子でも是非、とお願いしたら、快諾を得た。
 以後数か月間、打ち合わせなどで宇沢その人と、さらには会話を成立させるためその著作に付き合った。
 当時70歳だったが、ビールを大量に飲む人だった。体力も凄い人で、講演のあと皆生の温泉宿に泊まったが、翌朝湊山の城山までランニングした。

 中川幾郎・帝塚山大学名誉教授は、その仕事を要約する。
 20世紀の欧米先進諸国の経済政策と経済学は、ケインズ的な政策と新古典派的な政策とが振り子のように主導権争いを繰り返してきた。
 しかし、21世紀のいま、双方の限界が露呈している。
 ①ハードの公共土木投資を主流としたケインズ主義的な政策の有効性は落ちてきた。
 ②シカゴ学派的な市場原理主義的政策が社会的格差を急速に拡大し、社会不安をもたらしている。
 宇沢経済学は人間を大切にする。
 宇沢は、シカゴ学派的な市場原理主義に厳しく対抗しつつ、ケインズを超える公共政策の理論的地平を切り開いた。特に、「社会的共通資本」の概念は、公共投資の向かうべき新たな対象を明確に示した。
 ハードウェアだけでなく、ソフトウェアやヒューマンウェアにも示唆が及んでいるこの概念は、成熟経済段階に到達しないまま、いたずらに巨額の国公債を増加させている日本国の政策に、厳しく警鐘を鳴らすものだ。

 宇沢弘文:
 1928(昭和3)年7月21日~2014(平成26)年9月18日。享年86。
 東京大学名誉教授。従三位。1983年文化功労者、1989年日本学士院会員、1995年米国科学アカデミー客員会員、1997年文化勲章、2009年ブループラネット賞、Econometric SocietyのFellow(終身)、1976年から1977年までEconometric Society会長。

□記事「経済学者「宇沢弘文」がくれた救いと勇気」(今井書店「かわら版」第140号、2014年12月22日)
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【震災】過剰徴収したビル管理費の返還は ~神戸市長田区~

2015年03月07日 | 社会
 (1)阪神・淡路大震災後に再開発で建てられた高層ビルの「管理費が高すぎる」として、入居していた商店主ら(神戸市長田区)が、ビル管理会社を相手取り、過剰徴収した管理費の返還を求めていた。
 返還請求額は、約3億1,500万円。これをめぐる訴訟で、神戸地裁は2月10日、店主らの請求を棄却する判決を言い渡した。

 (2)原告は、「アスタくにづか」9棟の店舗所有者58人。
 (1)のビルは、JR新長田駅南側の再開発地区に立地する。1、2階および地下が店舗で、上階は分譲マンション。
 神戸市は、同ビルの管理を第三セクター「新長田まちづくり」に委託してきた。同社は、エスカレータや空調の維持費など管理費の多くを店主から徴収していた。
 これに対し、原告は「住宅所有者より4.75倍から8.7倍も高いのは違法」と主張していた。

 (3)(1)の判決で、酒井和徒・裁判長は、格差が生じていても店舗所有者と住宅所有者で釣り合いが取れていないとは言えない、と退けた。
 原告は語る。
 「頭にきます。後から入ってきた住人の方がずっと安い。不公平です」【藤原満世】
 「管理費が高すぎて毎月ほとんど赤字。これでは商売人として生きていけない」【染谷繁】
 「敗訴したが、この裁判過程で二つのビルでは管理者を交代させることもできた」【江後利幸・弁護士/代理人】

 (4)同地区は長屋がひしめいていた。
 震災で消滅したのを契機に、神戸市は44棟もの高層ビルを建てる再開発計画を強行、8割近くを完成させた。さらに、店主らが元の地区で商売する条件として、分譲店舗購入も押し付けた。
 だが、現在、商店街は閑散としている。店舗を売ろうにも買い手がつかない。
 過剰開発のしわ寄せの責任を、市当局の誰一人取ろうとしない。

□粟野仁雄(ジャーナリスト)「神戸地裁訴えを棄却 ~“高額管理費”に返還請求~」(「週刊金曜日」2015年2月20日号)
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 【参考】
【震災】住民無視の巨大開発のツケ ~神戸市~
【震災】住民の生命や生活より箱モノ造りを優先 ~神戸市~
【震災】神戸市長田区に見る「復興災害」(2)
【震災】神戸市長田区に見る「復興災害」(1)
【旅】復興を絵画で表現できるか ~平町公の試み~
【震災】二重ローン 得するのは銀行だけだ ~その対策~
【震災】復興のカギはパイプ役(住民の自主組織) ~神戸の過ち、奥尻の教訓~
書評:『神戸発 阪神大震災以後』
書評:『復興の闇・都市の非情 --阪神大震災、五年の軌跡』


【古賀茂明】「政治とカネ」を監視するシステム ~マイナンバーの使い方~

2015年03月06日 | 社会
 (1)西川公也・農林水産相は、2月23日、政治資金疑惑の責任を取って辞任した。
 安部総理は、「任命責任は私にある」と陳謝したが、ちっとも真摯な反省ではないらしい。

 (2)国の補助金をもらった企業や団体の関連会社から献金を受けた・・・・というのが、西川前農水相の疑惑の核心だ。外形的には、賄賂と似ている。
 西川前農水相は、補助金交付決定があったことを知らなかったから違法ではない、と弁明し、安部総理もそういう理屈でかばっている。しかし、
  (a)国の補助金交付が決まった木造加工会社(栃木県)から300万円の寄付を受けていた件では、
    ①西川前農水相はその企業の顧問を務めていた。会社の経営情報を知らなかった、というのは不自然だ。
    ②仮に経営に全く関与していなかったら、顧問料は実質的な寄付で、贈与または政治献金になり、こんどはその処理が問題になる。
  (b)さらに、西川前農水相は自民党のTPP対策委員長(当時)だったのだが、2013年7月(TPP交渉直前)に砂糖(交渉の重要5品目の一つ)の業界団体「精糖工業会」の関連企業から100万円の寄付を受けていた。

 (3)西川前農水相は、農水族のドンだ。このような族議員は、献金を受けた企業などのために役所に口利きをする。疑惑の目で見られるのは当然だ。
 「いくら説明しても分からない人は分からない」と、西川前農水相は妙な発言をした。
 驚くべし、安部総理はこれをかばい、さらに「すぐ罪があるかのごとく・・・・決めつけていくのはいかがなものか」などと、西川前農水相があたかも被害者であるかのような答弁までしている。また、「選挙の場において、国民からそのこと(説明責任)も含めて審判を受けていく」として、政治資金問題で説明責任を全く果たしていない小渕優子・前経産相が先の衆議院選挙で禊ぎを済ませたかのような答弁もしている。

 (4)説明責任は自ら果たすものだ、という安部総理の考え方は、全く信用できない。これまでの自民党の実績からして。
 議員が説明できないなら、国民の側から政治資金の流れをより厳しくチェックする仕組みが必要だ。
  (a)大前提・・・・企業・団体の政治献金を全面禁止すべきだ。企業の献金は何らかの賄賂性がある、と考えるのが常識だ。維新の党は、政党および政党支部への企業・団体献金を禁止する、と決めた。その他の政治団体などへの献金も全面禁止すべきだ。
  (b)(a)を実現した上で、「マイナンバー」制度を活用して、政治資金の流れを市民が監視する仕組みを作るべきだ。プライバシー侵害問題などで非常に評判の悪い制度だが、これをまず、政治資金監視のために使うのだ。

 (5)(4)-(b)の例。
 今年の10月から個人に割り当てられるマイナンバーについて、政治家と政治献金をしたい個人に関しては全ての資産(銀行預金、株式、不動産など)にマイナンバーをリンクさせる。
  (a)これをしない個人の献金は禁止する。もし、政治家が一つでも資産をリンクしなかったら、厳罰とする。
  (b)政治資金の収支について毎月全てをネット上で公開する義務を課す。領収書も、むろんネット公開だ。この情報を使って、各地でオンブズマン活動を行っているNPOなどに政治資金の分析を促す。一つ不正を見つけるごとに、一定の成功報酬を支払い、その財源は罰金などから賄う。
 全国民の資産をマイナンバーにリンクさせなければ不完全だが、これだけでも政治資金の流れがかなりオープンになる。政治家の脱税も監視できる。
 マイナンバーは、使い方によっては国民の味方になる。

□古賀茂明「マイナンバーと「政治とカネ」 ~官々愕々第145回~」(「週刊現代」2015年3月14日号)
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 【参考】
【古賀茂明】南アとアパルトヘイト ~曽野綾子と産経新聞~
【古賀茂明】報道自粛に抗する声明
【古賀茂明】「戦争実現国会」への動き
【古賀茂明】日本人を見捨てた安倍首相 ~二つのウソ~
【古賀茂明】盗人猛々しい安倍政権とテレビ局
【古賀茂明】安倍政権が露骨な沖縄バッシングを行っている
【古賀茂明】官僚の暴走 ~経産省と防衛省~
【古賀茂明】安倍政権が、官僚主導によって再び動き出す
【古賀茂明】自民党の圧力文書 ~表現の自由を侵害~
【古賀茂明】自民党が犯した最大の罪 ~自民党若手政治家による自己批判~
【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走 ~傾向と対策~
【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走
【古賀茂明】文書通信交通滞在費と維新の法案
【古賀茂明】宮沢経産相は「官僚の守護神」 ~原発再稼働~
【古賀茂明】再生エネルギー買い取り停止の裏で
【古賀茂明】女性活用に本気でない安部政権
【古賀茂明】【原発】中間貯蔵施設で官僚焼け太り
【古賀茂明】御嶽山で多数の死者が出た背景 ~政治家の都合、官僚と学者の利権~
【古賀茂明】従順な小渕大臣と暴走する官僚 ~原発再稼働~
【古賀茂明】イスラム国との戦争 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】「地方創生」は地方衰退への近道 ~虚構のアベノミクス~
【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器
【古賀茂明】【原発】凍らない凍土壁に税金を投入し続けたわけ
【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~
【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~
【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~
【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~
【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~
古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ
【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」
【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~
【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任
【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造
【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~
【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~
【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~
【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~
【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~
【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~
【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~
【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~  
【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~
【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと
【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~
【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~
【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~


【佐藤優】ウクライナ問題に新たな枠組み ~独・仏・露と怒れる米国~

2015年03月05日 | ●佐藤優
 (1)ウクライナ問題では、米国抜きで、ドイツ・フランス・ロシアで問題を処理する枠組みができあがりつつある。
 これに対して、ジョン・ケリー・米国務長官が怒り心頭に達している。2月24日、米議会上院の公聴会において、
 <(ケリー国務長官は)上院の公聴会で証言し、ロシアのプーチン大統領らがウクライナ東部への軍事介入を否定していることについて「うそ」と断言、ロシアが「冷戦時代以降、最もあからさまで広範囲にわたるプロパガンダを展開している」と批判した。ウクライナ政府に防衛用武器を供与する件については、オバマ政権内で「積極的に検討している」と説明した。
 ケリー氏は歳出委員会と外交委員会で証言。親露派について「事実上、ロシア軍の延長であり、ロシア国家の道具だ」と指摘。ロシアが「危険で不要な、東西間の新たなゼロサム(一方の得点が他方の失点になる)ゲームを始めている」と指摘、米国との対立を意図的に深刻化させているとの認識を示した。>【注1】

 (2)米国は、ウクライナに高性能の兵器を供給することを本気で考えているらしい。
 しかし、ポロシェンコ・ウクライナ大統領が米国の提案を受け入れれば、親露派武装勢力と本格的な内戦が再開する。ウクライナ正規軍は、将兵の訓練が不十分で、士気も低い。
 これに対してウクライナ政府を支持する寡占資本家や過激な民族主義者は、よく訓練された傭兵集団を擁している。米国から最新兵器が提供されれば、それらが傭兵集団に流れるのは必至だ。そうなると、
   ウクライナ正規軍vs.親露派武装勢力
の戦いに、傭兵を用いた利権をめぐる
   ウクライナ内部の権力闘争
が加わることになる。ウクライナ情勢は、いっそう泥沼化する。

 (3)ケリー国務長官には、事態の見通しがまったくついていない。
 <ケリー氏はウクライナ情勢に関するロシアの情報戦についても強い危機感を表明。ロシアによる「ロシア語話者を守る」といった情報発信が中東欧諸国などで一定の支持を獲得していると説明し、対抗的な宣伝に資金を投入する必要があると重ねて主張した。一方、ウクライナ危機の打開策についてケリー氏は、12日の停戦合意を完全に履行し、緊張緩和を図るべきだと改めて説明した。同氏によると、28日にもロシアのラブロフ外相とシリア情勢について会談する予定といい、ウクライナ問題についても話し合う可能性がある。>【注2】

 (4)ケリー国務長官がラブロフ外相にいくら恫喝をかけても、ロシアは怯まないだろう。なぜなら、ロシアは、ドイツとフランスを味方にすることに成功したからだ。
 米国のオバマ政権は、「イスラム国」とロシアの二つの正面作戦を展開しようとしている。
 これに対して、メンケル・ドイツ首相もオランド・フランス大統領も、ヨーロッパにとっての最大の脅威は「イスラム国」であって、ウクライナ問題をめぐってロシアと対決する愚を避けたい、と考えている。
 「イスラム国」にとっては、ロシアも打倒の対象になっている。
 このような状況で、ウクライナ問題を過剰に重視するケリー国務長官は、国際政治の現実がわからない浮き上がった存在になっている。

 【注1】記事「ウクライナ:新停戦合意、国内で批判 親露派に譲歩しすぎ」(毎日新聞電子版 2015年02月14日)
 【注2】前掲記事。

□佐藤優「ウクライナ 守られなかった「停戦合意」」 ~佐藤優の人間観察 第102回~」(「週刊現代」2015年3月7日号)
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 【参考】
【佐藤優】守られなかった「停戦合意」 ~ウクライナ~
【佐藤優】【ピケティ】『21世紀の資本』が避けている論点
【ピケティ】本では手薄な問題(旧植民地ほか) ~佐藤優によるインタビュー~
【佐藤優】優先順序は「イスラム国」かウクライナか ~ドイツの判断~
【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~
【佐藤優】ウクライナによる「歴史の見直し」をロシアが警戒 ~戦後70年~
【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~
【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した
【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~
【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~
【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~
【佐藤優】の実践ゼミ(抄)
【佐藤優】の略歴
【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
【佐藤優】戦争の時代としての21世紀
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~
【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 

【安保】「人質救出作戦」は「バカ派」の妄想 ~米軍ですら失敗~

2015年03月04日 | 社会
 (1)「イスラム国」が湯川、後藤の2氏を殺害したため、軍事知識に欠ける日本のタカ派の間では「自衛隊が人質を救出できるよう法の壁を取り払え」という声が出ている。
 安倍首相も、国会で「国民の命、安全を守ることは政府の責任、最高責任者は私だ」と答弁している。

 (2)だが、人質救出のためには、まずその正確な所在をリアルタイムで把握しなければならない。
 米国は、①解像力の高い偵察衛星5機、②偵察機、③無人の偵察・攻撃機800機を持つ。④国家保全庁(NSA、職員3万人)は、⑤数百万回線もの電話、無線、インターネット通信を同時に傍受し、⑥ハッキングの達人や世界各地の出身者が盗聴、翻訳に当たり、⑦紛争地域には地元出身の情報機関員が潜入して協力者を多数確保している。
 それでも、人質の居場所を知るのは困難だ。

 (3)米軍は、昨年3回救出作戦を行い、すべて失敗した。
  (a)7月、ラッカ(シリア)郊外の石油施設内に囚われている2人の米国人ジャーナリストを救出しようと特殊部隊をヘリで潜入させたが、人質はいなくて、2人は後に殺された。
  (b)11月、イエメンで人質となった米国人写真家の救出作戦を行ったが、人質は他の場所に移されていた。
  (c)12月、再び別の場所を急襲したが、警備兵に発見されて銃撃戦となり、写真家は死亡、すでに解放が決まっていた南アフリカ人の人質も死亡した。

 (4)オサマ・ビン・ラディンが潜むパキスタンの邸を知るには10年もかかったが、作戦自体は当人も護衛も殺してもよいから比較的簡単だった。
 人質救出では警備兵を制圧しつつ、人質は無事に連れ帰らねばならない。至難のワザだ。
  (a)1970年11月、北ベトナムで撃墜された米国の飛行士がいるはずのソンタイ捕虜収容所をヘリ6機、特殊部隊53人が襲った。しかし、まったくのカラだった。
  (b)1980年4月、米国は、テヘランの米国大使館で軟禁されていた館員ら53人を大型ヘリ8機、特殊部隊92人で救出しようとした。アラビア海の空母から1,300kmもの距離に、ヘリでは一気には行けない。そこで、途中の、使用されていない砂漠の飛行場に夜間着陸し、輸送機から給油した。給油中、ヘリが輸送機と地上で衝突。火災となって失敗した。

 (5)ハイジャックの場合、成功例が幾つかある。これは人質の所在が最初から明確だし、飛行場は接近が容易なので、(4)とは事情が違う。
  (a)1976年7月、イスラエル軍が行ったエンテベ空港(ウガンダ)における乗客救出。
  (b)1977年10月、西独逸の国境警備隊が行ったモガディシュ空港(ソマリア)における救出。

 (6)日本が人質救出作戦をやろうとするなら、
  (a)テロはどこで起こるか分からないから、まず各地の言語に熟達した人々を集める必要がある。アラビア語だけでも広い地域で使われるだけに、20以上の方言があり、テロリストなどが訛りの強い言葉で隠語を使って電話や無線で交信するのを盗聴するには、世界各地から優秀な移民を交代要員を含めて数百人を募らねばならない。
  (b)潜入する特殊部隊は槍の穂先にすぎない。大型のヘリ、有人・無人の偵察機を運ぶには空母が要る。潜入失敗で戦闘になる場合に備え、空挺部隊、戦闘・攻撃機なども空母に乗せて行かねばならない。空母1隻が常時出動できるためには、修理中、訓練中の空母を含めて3隻が必要だ。
  (c)人質救出作戦を外国で行うには、その国の同意が必要だ。どの国の軍、警察にも面目があるから、同意を得るのは不可能に近い。・・・・仮に日本で中国大使館員を人質に、ウイグル人の釈放を迫る事件が起き、中国の特殊部隊が日本で人質救出作戦を行うことに同意を求めれば、警察庁も防衛省も「情報交換だけをお願いする」と答えるだろう。

 (7)米国務省は、出国者に対し、「軍の援助は期待してはならない。ヘリコプターで救出され、軍の護衛付きで脱出、と期待するのはハリウッドの台本の影響」と警告する。
 法律さえ変えれば、自衛隊が映画か漫画のように人質を救出できると思う人は、現実的思考ができない「タカ派」ならぬ「バカ派」だ。

□田岡俊次「「人質救出作戦」は「バカ派」の妄想 あの米軍ですらほとんどが失敗」(「週刊金曜日」2015年2月27日号)
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 【参考】
【佐藤優】「イスラム国」は今後どうなるか ~イスラム国との「新・戦争論」(2)~
【佐藤優】「イスラム国」は今後どうなるか ~イスラム国との「新・戦争論」(1)~
【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~
【中東】安倍政権の「大失態」 ~「イスラム国」日本人人質事件~
【中東】【本】『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』
【中東】に敵をつくった安倍政権 ~二つの愚策~
【中東】なぜ「イスラム国」がはびこったのか
【中東】崩壊の抑止というシンポ ~「イスラム国」どこから来たか~
【古賀茂明】日本人を見捨てた安倍首相 ~二つのウソ~
【古賀茂明】盗人猛々しい安倍政権とテレビ局
【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した
【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~
【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~
【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
【佐藤優】戦争の時代としての21世紀
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~
【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~



【安保】進む武器輸出 急接近する“戦争”と“ビジネス”

2015年03月03日 | 社会
 (1)「三本の矢」のたとえは経済政策の話だ・・・・と思っていると間違う。
 安全保障政策のバージョンもあるのだ。すなわち、
   「集団的自衛権の行使容認」
   「武器輸出三原則の撤廃」
   「政府開発援助(ODA)大綱の見直し」
 この三点セットが防衛政策における三本の矢なのだ。
 安倍政権は、「積極的平和主義」の名のもとに三本の矢を次々と放ち、戦後日本の安全保障政策をひっくり返した。

 (2)手始めとなったのが、「武器輸出三原則」の撤廃だ。
 昨年4月、安倍政権は閣議決定によって
   「武器輸出三原則」 → 「防衛装備移転三原則」
へと取り替えた。
 ついで、昨年7月、安倍晋三・首相が強くこだわってきた「集団的自衛権の行使容認」を閣議決定した。
 今年2月、これまた閣議決定で
   「ODA大綱」 → 「開発協力大綱」
に差し替えた。・・・・従来のODAでは、他国の軍隊へ支援しなかった。これが、「非軍事分野に限って」という条件付きで他国軍を支援できるように変わった。

 (3)こうした防衛政策の大転換は、日本にも“戦争ビジネス”を育成する土壌が整えられたことを意味する。
 武器輸出三原則に代わる防衛装備移転三原則では、
   「国際条約の違反国などへの輸出禁止」
などの条件を満たしたうえで、国家安全保障会議(NSC)の審査で認められれば、日本の企業が他国に武器関連製品を輸出できるようになった。新たな三原則には、日本の防衛産業を兵器の国際共同開発や生産に参加させやすくする狙いもある、という。

 (4)さっそく日本の企業は動き出した。
 昨年6月、パリ、「ユーロサトリ」(世界最大規模の軍事製品展示会)には三菱重工業、川崎重工業、日立製作所、東芝、富士通、NECなど名だたる企業13社が参加した。
 「今までは抑制的にやっていたが、今後は強みのある技術をもっと積極的に売り込める」【山本正己・富士通社長】
 国内の防衛産業市場は1兆7,000億円程度だが、世界の市場規模は40兆円超だ。企業が武器関連商品の輸出に意欲を示すのは、ビジネスの論理からすれば当然といえる。

 (5)武器輸出三原則撤廃に合わせ、政府も動き出した。(2)のとおり、ODA大綱を見直し、ODA予算による他国軍への支援に道を拓いた。
 防衛省では、「能力構築支援事業」(東南アジア諸国連合(ASEAN)の各国軍を対象)において、これまでの人材支援だけでなく、防衛装備品の供与もできるよう法整備を図るよう検討中だ。
 ODAとは別枠の防衛省予算とはいえ、最初から軍事目的の装備品供与を想定している。「軍事版ODA」だ。【毎日新聞・社説】【注】

 (6)米国の巨大な軍産複合体のようなものが突如形成されるとは考えにくい。
 しかし、官民足並みをそろえた武器輸出の振興を通じて、「戦争」に対する心理的なハードルがぐんと低くなるだろうことは想像に難くない。
 安倍政権による防衛政策の大転換によって、日本においても“戦争”と“ビジネス”とが急速に接近し始めている。
 
 【注】社説「社説:他国軍への援助 ODA原則の抜け道だ」(毎日新聞電子版 2015年2月16日)

□佐々木実「「積極的平和主義」で進む武器輸出 急接近する“戦争”と“ビジネス” ~佐々木実の経済私考~」(「週刊金曜日」2015年2月27日号)
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【地域】空き家増加で街が廃墟に ~新潟・秋田・千葉~

2015年03月02日 | 社会
 (1)川端康成『雪国』のモデル地、新潟県湯沢町のマンションに空き家が増え、ゴーストタウン化している。
 1980年代後半のバブル期にはリゾートマンションが乱築されたが、今や50平米当たりの販売価格は、下落率6~9割に及ぶ。

 (2)豪雪地帯の秋田県大仙市、仙北市、美郷町も、空き家が廃墟をなす。ここで問題になっているのは戸建て住宅だ。
 雪下ろし費用が年間30万~50万円。この地出身だが、住んでない人でも、固定資産税より高い雪下ろし費用を払わねばならない。さもないと、雪の重みで崩壊してしまう。
 秋田県は人口減少率が全国ワースト1位。持ち家比率も78.4%と全国1位。今後、空き家の増加が加速度的に進んでいく。
 昨年6月末、秋田銀行では、全国初の「空き家解体ローン」を商品化した。空き家解体に150万円ぐらいかかる。秋田県下では14の自治体が解体補助として30万~50万円を給付する制度を設けているが、補助金では足りない100万円程度を銀行ローンで補おうというものだ。

 (3)空き家問題の顕在化は地方だけではない。むしろ都会、首都圏の問題になりつつある。
 千葉県・木更津駅からバスで15分、丘陵地に造成された敷地に1,800戸の戸建て住宅が建ち並ぶ大久保団地がある。その多くは雨戸が閉められ、人の気配が全くない。草木が生え放題の家、壁の塗装が剥げ落ちた家。
 開発されたのは、高度経済成長期。近隣には、新日鐵住金の君津製鉄所が1965年に稼働、川崎市の工業地帯ともカーフェリーで往来できたため、大久保団地はベッドタウンとして急成長を遂げた。
 それから50年。住人の多くは高齢者となった。高齢化率(65歳以上の人が占める)は、団地内7ブロック全てで40%超、中には50%超のブロックもある。
 50%超とは、共同体としての体をなさない限界集落だ。
 空き家の増加で、トラブルが頻発する。突風でトタンやアンテナなどが隣家に飛んできたり、植栽が歩道に飛び出したり。
 街から人が消える。街が荒廃する。固定資産税や住民税の納付が減り、自治体の財政が逼迫する。

 (4)日本全国に820万戸の空き家が存在する【総務省「2013年住宅・土地統計調査」】。全住宅に占める空き家の比率は13.5%で、戸数・構成比率共に過去最高となった。
 2035年の空き家率は32.0%、つまり3軒に1軒は空き家になる【野村総合研究所】。

 (5)空き家はなぜ生まれるのか。
  (a)高齢化と人口(世帯数)減少が根元だ。
  (b)更地にした場合、固定資産税が6倍に跳ね上がるため、建物をそのままにしておく所有者が多い。
  (c)業界では、建物の価値を適切に反映させていない。税法上の耐用年数22年に引きずられて、20~25年で建物の価値をゼロにしている。

 (6)深刻化する空き家問題の浮上に、国・行政も重い腰をあげた。
  (a)空き家対策特別措置法・・・・昨年11月成立。放置すれば倒壊の危険があったり、治安を害したりする建物が「特定空き家等」に指定された。
  (b)自民党の2015年度税制大綱・・・・空き家放置を助長する固定資産税の優遇措置の見直しが盛り込まれた。「特定空き家等」に指定されると、固定資産税が一気に6倍になる。
  (c)空き家撤去ガイドライン・・・・今年2月18日、国土交通省や総務省がまとめた。(a)の行動指針に相当するもの。「1年間使用のない建物」を判断目安として、市町村が強い権限を持ちながら空き家のスクラップや利活用を促進できる。
 
□記事「不動産が「負」動産に 中古住宅暴落の危機」(「週刊ダイヤモンド」2015年3月7日号の「特集1 高く売れる家 売れない家」のうち第1章)
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【古賀茂明】南アとアパルトヘイト ~曽野綾子と産経新聞~

2015年03月01日 | 社会
 (1)コラム「労働力不足と移民」(2月11日付け産経新聞)で曽野綾子・作家は、
   介護の労働移民についての受け入れを提示したうえで、
   南アフリカで人種差別撤廃後でも生活習慣などの違いから、黒人が入ってきたマンションから白人が逃げ出した例を挙げ、
   日本人と移民とは、「居住だけは別にした方がいい」
と述べた。

 (2)(1)は人種差別・アパルトヘイトを称揚した、という国際的な批判を呼んでいる。
 20~30年前の南アの実情を見てそう思うようになった、と曽野はいう。
 後に大統領になるネルソン・マンデラが27年間の投獄生活から解放されたのは、1990年のことだ。その頃はアパルトヘイト撤廃の前夜だ。インフラが整い、豪邸が並ぶ白人居住区の一角には、一部の裕福な黒人が、何の問題も起こさずに居住していた。他方、都心部には一般の黒人が流入し、生活レベルや習慣の違いなどから白人が逃げ出してスラム化する例もあった。
 一方SOWETOなどの黒人居住区は、劣悪な居住環境だが、一部には黒人富裕層が豪邸を建てているケースもあった。黒人居住区では、白人も黒人もない。黒人居住区の犯罪発生率は高く、住民の多くは教養や知識のレベルは低かった。しかし、黒人でも、高等教育を受けた人々は、知的で社会的使命感も非常に高く、人間的にも尊敬できるケースがほとんどだった。
 そこにある偏見と抑圧の連鎖を生むのは、肌の色でも民族の違いでもない。その原因は、貧困と教育の欠如であることは明らかだった。
 世界中が、その元凶である白人政権に対して憤り、共感した。
 黒人居住区で支援活動に従事した人々には、黒人と白人が別々に暮らすべきだなどという考えは微塵も浮かばなかった。それは南アに関与した人々(古賀茂明もその一人)に共通の感情である。

 (3)曽野が南アで(2)と同じものを見たはずなのに、正反対とも言える意見に到達した原因は何か。
  (a)真実を知らなかった。・・・・白人やそれに連なる黒人団体などから、白人に都合のよい解説を聞いていた。
  (b)上からの目線の発想。・・・・移民に対して同じ人間だという感覚がない。コラムの記述には、仕事をさせてやっているという感覚が見える。これは昔の南ア白人の考え方だ。
  (c)相手の気持ちを考えない独善的態度。・・・・居住区を分けろといえば、移民の側は、低賃金でも仕事をもらえてよかった、と喜ぶどころか、「差別され搾取されている」となる。欧州で、中東やアフリカの移民が持つ感情と同じ。テロの温床だ。
  (d)国際感覚の欠如。・・・・「居住を分ける」と行ったら、「アパルトヘイトだ!」となり、嫌悪感を生み出すのは世界の常識。反アパルトヘイト運動がピークの30年前の世界を見ていながら、これに気づかないとは驚きだ。

 (4)さらに問題なのは、産経新聞だ。
 曽野綾子には持論を述べる自由があり、産経新聞にはそれを掲載する権利がある。
 他方、それと反対の意見を掲載する権利もあったが、それをあえてしなかった。曽野と同じ病根を抱えるからだろう。
 「あらゆる差別は許されないと考えている」との口先の言い逃れでは許されない。曽野に反対する意見を大きく掲載すべきだ。過ちを改める勇気があるならば。

□古賀茂明「南アとアパルトヘイト ~官々愕々第144回~」(「週刊現代」2015年3月7日号)
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 【参考】
【古賀茂明】報道自粛に抗する声明
【古賀茂明】「戦争実現国会」への動き
【古賀茂明】日本人を見捨てた安倍首相 ~二つのウソ~
【古賀茂明】盗人猛々しい安倍政権とテレビ局
【古賀茂明】安倍政権が露骨な沖縄バッシングを行っている
【古賀茂明】官僚の暴走 ~経産省と防衛省~
【古賀茂明】安倍政権が、官僚主導によって再び動き出す
【古賀茂明】自民党の圧力文書 ~表現の自由を侵害~
【古賀茂明】自民党が犯した最大の罪 ~自民党若手政治家による自己批判~
【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走 ~傾向と対策~
【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走
【古賀茂明】文書通信交通滞在費と維新の法案
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【古賀茂明】再生エネルギー買い取り停止の裏で
【古賀茂明】女性活用に本気でない安部政権
【古賀茂明】【原発】中間貯蔵施設で官僚焼け太り
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