漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「卑ヒ」<いやしい身分の召使> と 「碑ヒ」「婢ヒ」「脾ヒ」「稗ハイ」

2023年08月01日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 ヒ・いやしい・いやしむ・いやしめる  十部

解字 金文は甲字形の下に横線がつきでており、その下に左手がつく形。この字形は解字不明だが、金文の意味は、①使い(=俾)②順従・順服(さからわず素直に従う)となっている[簡明金文詞典]。篆文は現代字で甲の字となる下方を曲げて横に左手を描く。[説文解字]は「賤セン(身分が低い)也。執事(身分の高い人の家で家政や事務をおこなう人)也」とする。執事は金文の意味をほぼ引きついでいるが、さらに賤センを付け加え卑(いやし)い意味が加わった。これは世の中の動きにつれて使用人への見方に変化が起きたのであろう。字形はその後の変化で、新字体は「ノ+田+ノ+十」の卑となったが、旧字は田の字の中央タテ画がノの形で連続してのびる。音符となる字は、新字体の卑・碑以外は、すべて旧字体で表される。
意味 (1)いやしい(卑しい)。ひくい。地位や身分がひくい。「卑賤ヒセン」(身分・地位の低くいやしいこと) (2)心がいやしい。下品な。「野卑ヤヒ」「卑猥ヒワイ」(いやしくみだら) (3)いやしむ(卑しむ)。いやしめる(卑しめる)。さげすむ。「卑下ヒゲ」(自分をいやしめる) (4)(貴人のそばにいることから)近い。身近な。「卑近ヒキン」 (5)自分のことをいうときの謙譲語(へりくだって言う)。「卑見ヒケン
覚え方  
<新字体> の()た()の()じゅう()で、
<旧字体> の()ひ()の()じゅう()で、の右辺 

イメージ 
 「召使い・地位がひくい」
(卑・婢・稗・俾・裨)
  召使いが主人のそばで「じっと立つ」(碑・牌)
 「形声字」(痺・脾・髀・睥・鵯)

音の変化  ヒ:卑・婢・俾・裨・碑・痺・脾・髀・鵯  ハイ:稗・牌  ヘイ:睥 
 
召使い・地位がひくい 
 ヒ・はしため  女部
解字 「女(おんな)+卑の旧字(召使い)」の会意形声。女の召使いをいう。
意味  はしため(婢)。身分の低い女性。下女。「婢僕ヒボク」(下女と下男)「奴婢ヌヒ」(身分の一番低い民。召使いの男女)
 ハイ・ひえ  禾部
ヒエ(ウィキペディアより)
解字 「禾(こくもつ)+卑の旧字(地位がひくい)」の会意形声。穀物の中でも地位が低いヒエ。また、実が小さいので、小さい・こまかい意がある。
意味 (1)ひえ(稗)。いぬびえ。イネ科の一年草。冷害に強いので、古来、救荒作物として栽培されたが、実が小さく精白もむずかしい為、米や麦より一段と低い作物とみなされていた。「稗搗節ひえつきぶし」(稗を搗く時の唄。宮崎県椎葉地方の民謡) (2)小さい。こまかい。「稗販ハイハン」(小さい商人) (3)(米・麦の育たぬ地で栽培されることから)地方・在野・民間。「稗官ハイカン」(昔の官名。民間の細かい話を集めることを任務とした)「稗史ハシシ」(民間のこまごましたものを記録したもの。野史)
 ヒ・ヘイ・しむ  イ部
解字 「イ(ひと)+卑の旧字(召使い)」の会意形声。人が召使いに仕事をさせる意。使役の助字として用いられる。
意味 (1)しむ(俾む)。せる。させる。「俾+A+B」(AをしてBせしむ) (2)したがう。「率俾ソツヒ」(したがう) 
 ヒ・おぎなう  衤部
解字 「衤(ぬの)+卑の旧字(=俾。させる)」の会意形声。布を加えさせること。布をつぎたすことから、おぎなう意となる
意味 (1)おぎなう(裨う)。益す。「裨益ヒエキ」(おぎない益する。役にたつ)「裨補ヒホ」(おぎないたすける) (2)たすける。補佐する。「裨助ヒジョ」(たすけ)「裨将ヒショウ」(副将)

じっと立つ
 ヒ・いしぶみ  石部  
解字 「石(いし)+卑(じっと立つ)」の形声。[説文解字]は「豎(た)てたる石也(なり)」とし立てた石とする。[同注]は「宮に必ず碑有り。所以(それにより)日景(影)で(時刻)を識る」と補足する。また、その石に文字を刻んで恒久に残すのに用い、この意味が主流になった。
意味 (1)たていし。宮廷内で太陽の影を測る石柱。 (2)いしぶみ(碑)。文字を刻んで立てておく石。「石碑セキヒ」「碑文ヒブン」「碑林ヒリン」(西安市にある2,300余の碑石を集め保存している陳列館)「歌碑カヒ」(歌を刻みこんだ碑)
 ハイ・ふだ  片部  
解字 「片(薄い板)+卑の旧字(じっと立つ)」の会意形声。木の掲示用の札の意。さらに転じて、遊びや勝負事につかうカルタ・パイ(マージャンのこま)の意ともなった。
意味 (1)ふだ(牌)。文字を書いて掲げる札。「門牌モンハイ」(門の前の立て札。現代中国では、町名・番地などを記した入口の住居表示札)「招牌ショウハイ」(看板のこと)「位牌イハイ」(死者の戒名などを書いた木の札) (2)遊びや勝負事の札。「骨牌コッパイ」(①カルタ。②マージャンのパイ) (3)メダル。「金牌キンパイ」(金メダル)「銀牌ギンパイ」(銀メダル)

形声字
 ヒ・しびれる  疒部

解字 本字は篆文の痹で、「疒(やまい)+畀(矢じり・かぶら矢)」の会意形声。畀の金文は、矢じり・かぶら矢の形であり、ここでは毒を塗った矢じりの意。痹は、毒矢を受けて体がしびれて感覚がなくなること。現代字の痺は、畀を同音の卑の旧字に置きかえた字。
意味 しびれる(痺れる)。感覚がなくなり運動の自由がなくなる。神経や筋の機能が停止する状態。「麻痺マヒ」(しびれること)
 ヒ  月部にく
解字 「月(からだ)+卑の旧字(ヒ)」の形声。ヒは畀(かぶら矢・矢じり)に通じ、かぶら矢(尖端に風を切ると音がでるふくらみを付けた矢)のように膨らんだ臓器の脾臓をいう。
意味 ひぞう(脾臓)。五臓の一つ。血液の貯蔵・処理・リンパ球を作る機能などを司る。「肝脾カンピ」(肝臓と脾臓)(2)もも。ふともも。(=髀)
 ヒ・もも  骨部
解字 「骨(ほね)+卑(ヒ)」の形声。ヒは肥(こえる・ふとる)に通じ、骨のまわりの肉が肥えている腿(もも)をいう。
意味 (1)もも(髀)。ふともも。脚の膝より上の部分。「髀肉ヒニク」(ふとももの肉)「髀肉之嘆ヒニクノタン」(三国時代、蜀ショクの劉備リュウビが久しく乗馬しなかったため、内ももの肉が肥えてしまったことを嘆いた故事。実力を発揮する機会がないのを嘆くこと)(2)ももの骨。
 ヘイ  目部
解字 「目(め)+卑の旧字(ヘイ)」の形声。ヘイは、埤ヘイ・ヒ(城壁上の低い垣。卑にひくい意がある)に通じ、城壁の垣から目であたりを見回すこと。
意味 にらむ。「睥睨ヘイゲイ」に使われる字。睥睨とは、①横目でにらむこと。流し目で見ること。②城壁上の垣から敵情をのぞき見ること。転じて、周囲を睨みつけて勢いを示すこと。
 ヒ・ひよどり  鳥部

ヒヨドリ(「動物図鑑」のヒヨドリ」より)
解字 「鳥(とり)+卑の旧字(ヒ)」の形声。ヒーヒーと鳴く鳥。
意味 ひよどり(鵯)。ヒヨドリ科の鳥。ヒーヨヒーヨとやかましく鳴く。日本では里山や公園でよく見られる身近な野鳥の一つ。
<紫色は常用漢字>

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