漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「奇キ」<人がまたがる> と「騎キ」「寄キ」「崎キ」「埼キ」「椅イ」

2023年08月13日 | 漢字の音符
  奇の解字をやりなおし増補改訂しました。
キ・めずらしい・く  大部

解字 戦国(秦)の奇は「大(手足をひろげた人)+「可(カ⇒キ)」の会意声形。この字形は篆文・隷書および現代にいたるまで変わらない。この字は大の人がどんな状態かを表しており、発音はカが変化したキである。可の丁(実際は上部の右が短い。パソコンで出ない)の部分は木の枝を利用した斧の柄を表しており、発音はカで柯(斧の柄)の原字である。
石斧の復元模型(ネット写真より。現在なし)
 写真は石斧複製展示品であるが、木の枝別れした部分を切り取り柄にしており、鋭角の枝を利用している。これは枝の先に付ける石刃を傾斜させて使いやすくするためである。したがって柄は鋭角にまがったものを表している。では「大+可」の奇は何を表すのか? 私は大の人の脚が鋭角に開いている形であると思う。つまり何かにまたがっている形であり、それは馬にまたがる形である。
 人が馬にまたがる形の騎は戦国時代からあり、奇も同じ時代に成立している。[説文解字]は奇を「大に従い可に従う。異(ことな)る也。一に曰(いわ)く耦(偶)不(なら)ず」とし、他と異なっており偶グウ(つれあう)でなく単独だとする。しかし、奇がもつ豊富な意味には言及していない。私は奇の主な意味は同音の騎に由来するのではないかと思う。
 古代中国の人びとにとって乗馬は遊牧民族の習俗であり、それを見ることは「めずらしい」ことだった。また、乗馬の兵は機動力があり、「おもいがけない」所から表れ攻撃をする「すぐれた」兵士であった。また、馬に乗るのは単騎であることから、偶数に対する「奇数」の意となる。
意味 (1)めずらしい(奇しい)。ふしぎな。「奇術キジュツ」「奇妙キミョウ」「奇貨キカ」(めずらしい品物) (2)特にすぐれた。「奇才キサイ」 (3)思いがけない。くしくも(奇しくも)。「奇跡キセキ」「奇遇キグウ」 (4)二で割り切れない数。半端(はんぱ)。「奇数キスウ

イメージ 
 「またがる」
(奇・騎・羇)
 意味(1)の「めずらしい」(綺)
 「形声字」(倚・椅・寄・崎・埼)
 「その他」(畸)
音の変化  キ:奇・綺・寄・崎・埼・騎・羇・畸  イ:椅・倚 
 
またがる
 キ・のる  馬部 
  
解字 「馬(うま)+奇(またがる)」の会意形声。戦国期の騎は、形の整わないプリミティブな字形だが「漢字古今字資料庫」に見える。奇は、またがる人の形。そこに馬をつけて馬にまたがる意を表す。
意味 (1)のる(騎る)。馬にのる。「騎乗キジョウ」「騎射キシャ」 (2)馬に乗った兵士。また、その兵士を数える語。「騎将キショウ」「騎士キシ」「単騎タンキ
 キ・たび  罒部よこめ   
解字 「罒(=网。あみ。かぶせる)+革(かわ紐)+奇(=騎。馬にのる)」の会意形声。人が乗っている馬のあたまにかぶせる革のひもである、「おもがい」や「たずな」の意。また、馬に乗って、たずなをとり旅をすること。
意味 (1)たび(羇)。たびびと。「羇旅キリョ(たび。羇も旅も、たびの意)」「羇旅漫録キリョマンロク」(曲亭馬琴が書いた江戸時代後期の旅行記) (2)おもがい。馬具の一種。くつわを固定するため馬の頭からかける革紐。また、たずなをいう。

めずらしい
 キ・あや  糸部
解字 「糸(いと)+奇(めずらしい)」の会意形声。めずらしい模様を糸で織りだしたぬの。
意味 (1)あや(綺)。あやぎぬ。美しい模様を織りだした絹織物。「綺羅キラ」(あやぎぬと、うすぎぬ)「綺雲キウン」(あやぎぬのような雲) (2)うつくしい。きれい。きらびやか。「綺麗キレイ

形声字  
 イ・よる  イ部
解字 「イ(ひと)+奇(キ⇒イ)」の形声。[説文解字]は「依(よ)る也。人に従い奇の聲(声)」とする。
意味 (1)よる(倚る)。もたれる。よりかかる。「倚門イモン」(門によりかかること)「倚伏イフク」(よりそってひそむ)「禍福倚伏カフクイフク」(災いと幸せはよりそってひそむ。順繰りにやってくる) (2)たよる。たよりにする。「倚信イシン」(信用してたよる)「倚頼イライ」(たよる。=依頼)
 イ  木部
解字 「木(き)+奇(=倚。よりかかる)」の会意形声。人がよりかかる木製のイス。
意味 いす。こしかけ。「椅子イス」「椅几イキ」(寄りかかる台。脇息キョウソク。)
 キ・よる・よせる   宀部  
解字 「宀(いえ)+奇(=倚。よりかかる)」の会意形声。家によりかかること。家をたよる意。日本では、立ち寄る、集まる(寄席)意でも使われる。
意味 (1)よせる(寄せる)。身をよせる。たよる。「寄宿キシュク」(①他人の家に身をよせる。②学校の宿舎に住むこと)「寄生キセイ」(他人にたよって生活する) (2)他の人にたより、まかせる。あずける。「寄託キタク」(あずけたのむ) (3)おくる。やる。あたえる。「寄付キフ」「寄進キシン」 (4)[国]たちよる。よる(寄る)。「寄港キコウ」 (5)[国]あつまる。人をよせる。「寄り合い」「寄席よせ
 キ・さき  山部
解字 「山(やま)+奇(キ)」の形声。キは危(危ない)に通じ登るのに危険な山をいう。[説文解字]は「険ケン也。本(もと)は、危に従い攴の聲(声)に作る。今の文、崎に作る」とし、もとは危に従う字であった。山道がけわしいこと。日本では、陸部が水中に突出し、地形が変化の多いところをいう。
意味 (1)けわしい。「崎傾キケイ」(けわしくかたむく)「崛崎クッキ」(山が険しくそそりたつさま) (2)[国]さき(崎)。みさき。海中につき出た陸地。また、地名・姓に用いられる。「長崎ながさき」「山崎やまざき」「大崎おおさき
 キ・さい・さき  土部
解字 「土(つち)+奇(キ)」の形声。[広韻]などの韻書は「岸べの曲(まが)った頭(あたま)也」とし、湾曲した岸をいう。日本では山や丘のつき出た部分をいう。
意味 (1)[国]さい(埼)。さき。みさき。山や丘のつき出た部分。「埼玉さいたま」(地名。関東地方の県名) (2)陸地が海や湖などの中へつきでた所。みさき。きし。
 イ・ああ  犭部
解字 「犭(けもの。動作が俊敏)+奇(イ)」の形声。動作が俊敏なけものに感嘆の声をあげること。発音はイ。ああ。感嘆の声。 
意味 (1)ああ。感嘆の声。「猗嗟イサ」(ああ) (2)うつくしい(猗しい)。「猗猗イイ」(うつくしい) (3)たおやか。なよやか。すなお。「猗靡イビ」(女子の容姿のたおやかなさま)
 イ・キ・ああ・そばだてる・かたむける  欠部
解字 「欠(口をあける)+奇(イ・キ)」の会意形声。①イの発音。猗(ああ)に通じ、感動の声を表す。②キの発音。崎(けわしい)に通じ、そばだつ・かたむく意。  
意味 (1)ああ(欹)。嘆美の声。「欹與イヨ」(嘆美のことば。ほめそやす) (2)そばだてる(欹てる)。かたむける(欹ける)。「欹傾キケイ」(かたむくさま)「欹斜キシャ」(斜めにかたむける)「欹器キキ」(かたむける器。水を入れる器で、空のときは傾き、半分ほど水を入れると真っ直ぐたち、満ぱいにするとひっくりかえる。『荀子ジュンシ』に見える言葉で中庸の大切さを示す器として古くから親しまれた。 別名「宥坐ユウザの器」(自らの戒めとするために身近に置いてある道具のこと。「宥坐」は身近や身の回りという意味 )

宥坐の器「欹器キキ(壬生町立歴史民俗資料館。復元品)
その他
 キ  田部
解字 「田(区切った土地)+奇(はんぱ)」の会意形声。奇は奇数の意味があり、二で割り切れない数から、半端(はんぱ)の意がある。古代中国の土地制度(井田法)で開墾した土地を分配する際、一定の大きさにならない半端な耕作地のこと。転じて、人とそりが合わないさまの意で用いられる。
意味 (1)井田として区切ることのできない半端な耕作地。(2)単位以下の半端な数。「畸零キレイ」(小数点以下の数。はした) (3)人とそりが合わないさま。孤立したさま。風変わりなさま。「畸人キジン」(=奇人)
<紫色は常用漢字>

<関連音符>
 カ  口部
解字 「口(くち)+丁(斧の柄にするまがった木)」の形声。音符「可カ」を参照。
 ア  阝部こざと
解字 「阝(おか)+可(まがる)」の会意形声。おかの曲がったところ。音符「阿ア」を参照。

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