漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「粛 シュク」<淵に臨む心境>と「繍シュウ」「簫ショウ」「嘯ショウ」「蕭ショウ」「瀟ショウ」

2023年08月21日 | 漢字の音符
  解字を改めました。
[肅] シュク・つつしむ  聿部ふでづくり


  上が粛、下が淵
解字 金文は第一字・二字とも「聿イチ・イツ(手に筆をもつ形)+淵(ふち)」となっている(聿は甲骨・金文では、下部が三つに分かれた形。筆を参照)。第一字の淵(ふち)は淵の金文第二字とほぼ同じであり、第二字も水流の点があることから淵と思われる。金文は淵に面して聿イチ・イツがある形である。金文の意味は[簡明金文詞典]に、①厳粛。②決断、とあり、また同書に「肅哲シュクテツ」という語があり意味は「威厳、明知」とする。この意味から考えると、淵を前にその心境を筆で記した会意と解字することができる。
 後漢の[説文解字]は「事を持する振敬シンケイ(つつしみうやまうう)也。聿に従い淵(氵なし。以下同じ)上に在り,戰戰兢兢キョウキョウ也」とする。意味は完全にはつかみ難いが、「事にあたってつつしみ敬う。聿が淵の上にある。戰戰兢兢(おそれつつしむさま)」。つまり、深く水流が渦巻く淵を前に、その心境を戰戰兢兢と表現した。また後の宋代の[広韻]は「恭也,敬也,戒也」としている。
意味 (1)つつしむ(粛む)。うやうやしい。「粛恭シュクキョウ」「自粛ジシュク」「粛粛シュクシュク」 (2)きびしい。おごそか。「厳粛ゲンシュク」 (3)しずか。「静粛セイシュク」 (4)ただす。いましめる。「粛清シュクセイ」(反対者を逮捕し排除する)「粛正シュクセイ」(きびしくただす)「綱紀粛正コウキシュクセイ

イメージ 
 「淵に臨む心境」
(粛)
 「形声字」(繍・簫・蕭・嘯・瀟)
音の変化 シュク:粛  シュウ:繍  ショウ:簫・嘯・蕭・瀟

形声字
繡[繍] シュウ・ぬいとり  糸部
解字 正字は繡で「糸(いと)+肅(シュク⇒シュウ)」の形声。シュウは秀(ひいでる)に通じ、色糸で布を縫いすばらしい文様を縫い出すこと。綉シュウは異体字。[説文解字]は「五采(彩)の備(そな)え也。糸に従い肅の聲(声)」とする。新字体に準じた繍も通用する。
意味 (1)ぬいとり(繍)。ししゅう。「刺繍シシュウ」「繍衣シュウイ」 (2)うつくしい。「錦繍キンシュウ」(錦と刺繍を施した織物。美しい衣服)
 ショウ・よもぎ  艸部
解字 「艸(くさ)+肅(シュク⇒ショウ)」の形声。[説文解字]は「艾蒿ガイコウ(よもぎ)也。艸に従い肅の聲(声)」とし、ショウという名の草で、ヨモギに当てる。また、さびしい意に用いられることがある。
意味 (1)よもぎ(蕭)。かわらよもぎ。キク科の多年草。「蕭艾ショウガイ」(①よもぎ。蕭も艾も、ヨモギの意。②身分の低い人) (2)さびしい。ひっそりした。「蕭然ショウゼン」(ものさびしいさま) (3)姓の一つ。「蕭何ショウカ」(漢の高祖を助け天下を統一した功臣)
 ショウ・ふえ  竹部

排簫(復元品)(「音楽研究所」の排簫から)
解字 「竹(たけ)+肅(シュク⇒ショウ)」の形声。ショウという名の竹管の笛をいう。[説文解字]は「參差シンサ(ふぞろいな)管楽。象は鳳(おおとり)之(の)翼。竹に従い肅の聲(声)」とし、排簫の説明をしている。
意味 (1)ふえ(簫)。しょうの笛。「排簫ハイショウ」(長短の竹管10~24本を長さ順あるいは左右対称となるよう平らに並べて、木帯でおさえた笛)「簫鼓ショウコ」(笛と太鼓) (2)単管の笛。「洞簫ドウショウ」(尺八に似て底がない笛)
※笙ショウは、竹管をまるく並べた管楽器で吹き口は一つ。(排)簫ショウは吹き口は管の数だけある。
 ショウ・うそぶく  口部
解字 「口(くち)+肅(ショウ)」の会意形声。ショウは小ショウ(ちいさい)に通じ、口をちいさくすぼめて声を強く出すこと。口笛をふく形だが、鳥や動物の鳴き声、詩歌を歌う、大きなことを言う等の意味にひろがった。[説文解字]は「吹く聲(声)也。口に従い肅の聲」とする。また、「同注」は「(詩経の)召南箋曰く。嘯は口を蹙(ちぢ)め而(て)出す聲(声)也」とする。
意味 うそぶく(嘯く)。①口をすぼめて声を大きく強く出す。また、口笛をふく。②鳥や獣が鳴き声をあげる。長く声を引く。「猿嘯エンショウ」「虎嘯コショウ」「海嘯カイショウ」(海が鳴るように波が川を溯り押し寄せてくる現象)③詩歌を口ずさむ。「吟嘯ギンショウ」(声を長く引いて詩歌を歌う)④大きなことを言う。えらそうなことを言う。
 ショウ   氵部
解字 「氵(水)+蕭(ショウ)」の形声。ショウという名の川で瀟水ショウスイをいう。湖南省にみなもとを発し湘水ショウスイに合流する。瀟水は水が清く深いので、きよい意ともなる。[説文解字]は「水名。水に従い蕭の聲(声)」とする。
意味 (1)中国の川の名。「瀟水ショウスイ」(湖南省の山間部から流れ永州市で湘水に合流する)「瀟湘八景ショウショウハッケイ」(瀟水が湘水に合流する付近の八つの良い景色。中国の山水画の伝統的な画題)(2)きよい。清く深い。「瀟洒ショウシャ」(さっぱりとして清らかなさま。すっきりと洗練されたさま)
<紫色は常用漢字>

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