漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「滕トウ」< 上にあがる > と「藤トウ」「騰トウ」「謄トウ」「謄トウ」「鰧トウ」「縢トウ」「勝ショウ」「媵ヨウ」

2024年10月21日 | 漢字の音符
 増訂しました。
 トウ・わく・あがる  水部 téng      


上段が滕トウ、下段が朕チン
解字 朕チンの甲骨文は「舟形(いれもの)+両手で棒状のものを捧(ささ)げるかたち)」である。意味は仮借カシャ(当て字)で一人称(われ)であるが、本来の意味は貴重なものを舟(容器)にいれて両手でさしあげる形である。金文で棒の中ほどに肥点がはいり上にハがついた形になり、これが篆文で火に変化した。この形は滕の篆文の水を除いた部分と同じ形である。したがって滕は「水+朕チンの篆文(両手でさしあげる)」の形で、水があがる意味となる。朕は後に天子の自称の意となったが、本来は容器に入れた貴重な物をささげる形なので、上にあげる・あがる意味がある。すなわち滕は、水がわく意となる。
意味 (1)わく。水がわきあがる。(2)あがる。(3)地名。山東省滕県。湧き出る泉水がある。

イメージ 
 「水があがる」
(滕・藤・籐)
 「上にあがる」(勝・騰・謄・鰧)
 「その他」(縢・媵)

音の変化  トウ:滕・藤・籐・騰・謄・鰧・縢  ショウ:勝  ヨウ:媵

水があがる
 トウ・ふじ  艸部 téng
解字 「艸(草木)+滕(水があがる)」の会意形声。水がつるの中を上ってくるつる性の草木。

藤のつる(「庭木図鑑・藤/フジ/ふじ」より)
意味 (1)ふじ(藤)。マメ科フジ属の蔓性落葉木本の総称。「藤棚ふじだな」「藤蔭トウイン」(藤棚の木陰)「藤色ふじいろ」(薄い紫色)「藤袴ふじばかま」(キク科の多年草。秋の七草。花の色が藤色で花弁が袴の形から)「藤布ふじぬの」(藤づるの皮を剥いで糸とし、それを織りあげた布)(2)つる状に生える木の総称。かずら。つる。「葛藤カットウ」(葛やつる性の木(藤)がもつれからむ。いざこざ)(3)姓。藤原氏のこと。源・平・藤・橘の4大貴種名族のひとつ。
 トウ  竹部 téng
解字 「竹(たけ)+滕(水があがる)」の会意形声。水がつるを上がってくる竹に似たつる性の木。
意味 (1)とう(籐)。とうづる。ヤシ科トウ属植物の総称。熱帯アジアに自生するつる性の木本。茎は強靭で竹に似て自由に曲げて細工ができる。ラタン。「籐本トウホン」(蔓性植物のこと)(2)籐で編(あ)んだ器具。「籐椅子トウイス」「籐細工トウザイク」「籐枕トウまくら

籐椅子籐家具店のHPから)

上にあがる
 ショウ・かつ・まさる  力部 shèng
解字 「力(ちから)+滕の略体(上にあげる)」 の会意形声。力を入れて物を持ちあげてたえること。長く持ちこたえた人は他の人よりすぐれており(勝れる)、相手をしのぐ(勝つ)意となる。
意味 (1)たえる(勝える)。もちこたえる。(2)まさる(勝る)。すぐれる。「健勝ケンショウ」(健康がすぐれる)「景勝ケイショウ」(景色がすぐれる)(3)かつ(勝つ)。かち(勝)。力を入れて相手をしのぐ。「勝利ショウリ」「勝算ショウサン
 トウ・あがる  馬部 téng  
解字 「馬(うま)+滕の略体(上にあがる)」の会意形声。馬に乗る意。転じて、高くあがる意となる。
意味 あがる(騰がる)。のぼる。たかくあがる。「騰貴トウキ」(物価や相場のあがること)「沸騰フットウ」(沸き上がる)「高騰コウトウ」「騰勢トウセイ」(物価や相場などが騰がる勢い)
 トウ・うつす  言部 téng
解字 「言(文字)+滕の略体(上にのせる)」の会意形声。言(文字)の上に紙をのせて写しとること。
解字 うつす(謄す)。原本をしきうつす。原本通りに書き写す。「謄写トウシャ」(①そのままを書き写す。②謄写版で印刷する)「謄写版トウシャバン」(蝋引原紙をやすり板にのせ鉄筆で文字を書いたものをローラーインクで印刷する)「謄本トウホン」(原本の内容を全部そのまま写し取った文書。また、戸籍謄本の略。対語は、抄本ショウホン
 トウ・おこぜ  魚部 téng

おこぜ(GOOブログ「鰧・虎魚(おこぜ)」より)
解字 「魚(さかな)+滕の略体(上にのせる⇒お供えする)」の会意形声。山の神にお供えする魚である「おこぜ」をいう。おこぜは醜い顔の魚であるため、女神である山の神は顔が不器量なうえ嫉妬深いので、醜いオコゼの顔を見ると、安心して静まるのだといわれる。
意味 おこぜ(鰧)。虎魚とも書く。カサゴ目の海魚のうちオコゼ類の総称。特に食用となるオニオコゼ(鬼鰧・鬼虎魚)をさすことが多い。頭は凹凸が激しく、背びれのとげが強大で奇異な姿をしている。本州中部以南の海底に分布し、山の神の供物にするなど山の神と関係のある伝承が多い。
戸川幸夫著「マタギ 日本の伝統狩人探訪記」の中のオコゼ(鰧)に関する記述(山と渓谷社 2021年刊)
「山入りのときシカリ(頭領)は「山達根本之巻」(日光権現から狩猟を許されたとする秘密の巻物)とオコゼ(鰧)の干物を懐中にしてゆく。オコゼも秘巻(秘密の巻物)も里では絶対に見てはならぬとされていた。これらは山に入って狩小屋の棚に供えるが、緊急な場合はとり出して祈る。(中略)オコゼは十二枚の紙に包んで持参するが、これには面白い理由がある。オコゼというのはオニオコゼという魚であるが、必ずしも魚のオコゼと限らず、土地によってはシカの耳の切りとったものや、毒毛虫、巻貝などの干したものをオコゼといっているところもある。
 山神さまはひどい醜女である―と何時の頃からか伝わった。山神は自分の面相の悪いのをひどく気にやんでいる。ところで山が荒れたり、雪崩が頻発して獲物がとれないのは山神さまのご機嫌がわるいからだ。そんなときシカリはお守りのように大事にしているオコゼを、紙を開いてそっと見せる。オコゼという魚はまたグロテスクな面構えをしているから、山神さまはこれを見て、世の中にあたしよりもひどい顔をした奴がいるのかーと安心して機嫌をなおす。それで山も鎮まり、獲物もとれる、と言い伝えられているからだ。十二枚の紙に包んであるのは、一度に見せず、一枚一枚めくって山神さまを騙しだまし機嫌をとり結ぶためだといっている古老もある。」(同書P160~161) ※本書でマタギと呼ぶのは、奥羽山中で実漁をしている人たちを指す。

その他
 トウ・かがる・からげる  糸部 téng
解字 「糸(ひも)+滕の略体(トウ)」の形声。貴重なものを入れた凾(はこ)を糸(ひも)でかがることを縢トウという。かがる・からげる・とじる意となる。
意味 (1)かがる(縢る)。からげる(縢げる)。とじる。「金縢キントウ」(縢った金庫。文書保管用)「縢書トウショ」(金縢の中の書)「緘縢カントウ」(緘も縢も、紐でとじる意。また、封をする意)「封縢フウトウ」(かがって封をする)  
 ヨウ・おくる  女部 yìng
解字 「女+滕の略体=朕チン(篆文で同じ形。貴重なものを月(舟=いれもの)に入れて両手でささげもつ)」の会意形声。貴重な自分の娘を嫁ぎ先に送りだすとき、婚家に贈る品物をいう。また、嫁ぎ先に娘と一緒につきそう同姓の親族(姪めいや甥おい)をいう。
意味 (1)おくる(媵る)。嫁入りの器をおくる。「媵爵ヨウシャク」(爵を贈る。爵は酒器) (2)(嫁入りの)つきそいの姪(めい)や甥(おい)「媵侍ヨウジ」(入嫁のときのつきそい)「媵臣ヨウシン」(入嫁した女のつきそい男)「媵婢ヨウヒ」(つきそいの侍女)
<紫色は常用漢字>

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