漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「農ノウ」<石製の農具でたがやす> と「儂ノウ」「濃ノウ」「膿ノウ」

2024年10月27日 | 漢字の音符
 ノウ  辰部 nóng

 
  上は農、下は辰シン
解字 甲骨文第一字は「草が2本生える形+辰シン(石製の農具)」で、草を石製農具で刈るかたち。第二字は「林+辰(石製の農具)」で、木々を石製農具で刈るかたち。辰の甲骨文の三角形が石の部分[甲骨文字辞典]。意味は地名や祭祀名であり、このかたちは農業の前段階となる開墾のさまと思われる。金文から「田(耕作地)+草二つ+辰(石製の農具)」で、耕作地の草を石製農具で刈りつつ、たがやす形となった。(草(屮屮)の代わりに「木木」の形もある)。[簡明金文詞典]は農を、①農耕、②厚い・勤勉、の意味で用い、さらに「農穡ノウショク」という語で播種・収穫・農事という意味で用いている。篆文で上部が、「草または木二つ⇒上からの両手、田⇒囟」に誤った形になり、現代字では上部⇒曲に変化した農になった。意味は農具で耕作地をたがやすこと。現代字は上が曲に変化したが、下は甲骨から続く石製農具の辰が残った「曲+辰」になっている。
参考音符「辰シン」へ
意味 (1)たがやす。作物を作る。「農業ノウギョウ」「農耕ノウコウ」「農稼ノウカ」(耕して作物を植える)(2)たがやす人。「農民ノウミン」「農家ノウカ」「農奴ノウド」(3)勤勉なさま。つとめる。「力農リョクノウ」(農(つと)め耕す。力は耜スキの意)「農(つと)めて嘉穀カコク(よい穀物)を植える」「耕者は農農に用力」(耕す者は農農ノウノウ(勤勉)に力(すき)を用いる。《管子·大匡》戦国・漢代の書)

イメージ  
 「たがやす」
(農・儂)
 「形声字」(濃・膿)
音の変化  ノウ:儂・農・濃・膿

たがやす
 ノウ・ドウ・わし  イ部 nóng
解字 「イ(人)+農(たがやす)」の会意形声。たがやす人で農民の意だが、中国・中世の俗語で自分を指す言葉として使われた。また、相手をよぶ意でも使われた。
意味 (1)われ。あなた。 (2)[国]わし(儂)。おれ。自称のことば。年配の男性が使う。

形声字
 ノウ・こい  氵部 nóng
解字 「 氵(水)+農(ノウ)」の形声。後漢の[説文解字]は「露(つゆ)多き也(なり)。水に従い農ノウの聲(声)」とし、「詩経」曰(いわ)くとして「蓼蕭リョウショウ」(小雅)の「蓼リョウ(長く大きな)彼の蕭ショウ(よもぎ)零露レイロ(落ちる露)は濃濃ノウノウ(しっとり)たり」を挙げていることから、当初は地面がしっとり濡れる意味であった。のちに転じて、色や味が濃い意味となった。
意味 (1)こい(濃い)。色や味が濃い。「濃紺ノウコン」(濃い紺色。ダークブルー)「濃淡ノウタン」(色彩や味の濃いうすい)(2)液体の濃度が高い。ねっとりとする。「濃厚ノウコウ」(こってりしている)「濃縮ノウシュク」(煮詰める等して濃度をたかめる)「濃茶こいちゃ」(とろっとした濃厚で芳醇な味わいのお茶)(3)こまやか。「濃密ノウミツ」(濃くてこまやか)(4)[国]だむ(濃む)。だみ(濃み)。金銀泥や岩絵の具などの極彩色を用いて絵を描くこと。「濃絵だみえ」(5)地名。「美濃みの」(①旧国名。岐阜県南部。②美濃市。岐阜県南部の市)。
 ノウ・うみ・うむ  月部にく nóng
解字 「月(からだ)+農(=濃。ねっとりした)」の会意形声。はれものや傷などにより、皮膚にできるねっとりしたうみ(膿)。
意味 うみ(膿)。うむ(膿む)。炎症を起こした部位で生じる不透明な粘液。ただれる。「化膿カノウ」「膿瘍ノウヨウ」(膿がたまる病気)「膿汁ノウジュウ」(化膿した傷口などから出る液)「歯槽膿漏シソウノウロウ」(歯周病が最も進行した状態で、歯槽骨(歯茎の骨)から膿が漏れる症状」
<紫色は常用漢字>

   バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする