漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「則ソク」<のり・きまり>と「測ソク」「側ソク」「惻ソク」「廁シ」

2024年02月08日 | 漢字の音符
 改定しました。
 ソク・のり・のっとる  刂部 zé

大克鼎(上海博物館蔵)
解字 金文第一字は「鼎(かなえ)+鼎(かなえ)+刂(刀)」の会意。鼎は溶かした青銅を鋳型に流し込んで作る。鼎二つは土の模範型と出来上がった鼎を表している。模範型は粘土で作り、出来上がると鋳物砂をいれた型枠にいれて外側の型をとる(足や持ち手は分離し型をとる)。次に模範型を刀で全体的に薄く削って鋳物を流し込むスペースを生み出し内側の型をとる。この二つが出来上がると、鋳物砂をいれた型枠のなかで外型と内型を組み合わせて組み立て、鋳物を流し込み固まったら型枠をはずし砂を取り除くと鼎が完成する。金文の意味は、「のっとる」や「すなわち」の意味で使われており、模範型に「のっとり」作業し、鋳型に流し込むと「すなわち」鼎ができあがる意と思われる。金文第二字は鼎(かなえ)が一つになり、篆文から鼎が貝に変化した則となった。鼎が貝に変化する字に、貞テイ・員イン・賊ゾクなどがある。
 鼎は祖先や神々を祀る祭祀で用いられることから春秋時代には[詩経・大雅]が「識ら不(ず)知ら不(ず)帝の則ソクに順(したが)ふ」(識らず知らずのうちに天帝の(法)則に従う)と、のり(則)。きまり(法則)の意味に用いており、現在に通じる意味が成立した。
意味 (1)のっとる(則る)。手本とする。「則天去私ソクテンキョシ」(天にのっとり私心を捨てる。我執を捨てて自然に身をゆだねる) (2)すなわち(則ち)。接続の助字。「否則ヒソク」[否(しか)らずんば則(すなわ)ち] (3)のり(則)。きまり。道理。「規則キソク」「法則ホウソク

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 「きまり・基準」
(則・測・惻)
  模様は鼎の側面にあることから、「かたわら」(側・廁)
音の変化   ソク:則・測・惻・側  シ:廁

きまり・基準
 ソク・はかる  氵部 cè
解字 「氵(水)+則(基準)」の会意形声。一定の基準(ものさし)を用いて水の深さをはかること。
意味 (1)はかる(測る)。長さ・広さ・深さを測る。「測定ソクテイ」「計測ケイソク」「測量ソクリョウ」 (2)おしはかる。「臆測オクソク」「推測スイソク
 ソク・ショク・いたむ  忄部
解字 「忄(心)+則(=測の略体。はかる)」の会意形声。相手の心を推し量ること。不幸な境遇にある相手に対して推し量る心をいう。
意味 いたむ(惻む)。悲しむ。あわれむ。「惻隠ソクインの情」(いたわしく思うこと)

かたわら
 ソク・がわ  イ部 cè・zè・zhāi
解字 「イ(人)+則(かたわら)」の会意形声。かたわらにいるひと。転じて、かたわら・そばを表わす。
意味 (1)そば(側)。かたわら(側ら)。「側近ソッキン」「側室ソクシツ」(貴人のそばめ) (2)かわ・がわ(側)。一方の面。「両側リョウがわ」「外側そとがわ」「側面ソクメン
廁[厠] シ・かわや  广部 cè
解字 「广(やね)+則(かたわら)」の会意。母屋のそばに作られる屋根のあるトイレ。厠は異体字。
意味 (1)かわや(廁)。日本語の「かわや」は、川屋(かわや)で、川の上に掛けて作った屋で、大小便をするところ。便所。俗字の「厠」もよく使われる。「廁神かわやがみ」「廁中シチュウ」(かわやの中)「廁溷シコン」(廁も溷も便所の意) (2)(廁は家の外にあり共用なので人が集まるから)まじる(廁る)。まじわる。まじえる。「雑廁ザッシ」(いりまじる)「雑廁間錯 ザッシケンザク」(縦横に交わり合っていること)
<紫色は常用漢字>

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音符「秦シン」(杵で禾をつく)「榛シン」「蓁シン」「臻シン」と「舂ショウ」「摏ショウ」

2024年02月06日 | 漢字の音符
増訂しました。
    シン <杵で禾をつく>
 シン・はた  禾部 qín   

解字 甲骨文と金文は杵(きね=午)を両手でもち、二つの禾(こくもつ)をうつ形。篆文と現代字は禾が一つになっている。いずれも杵で穀物をつく形である。本来の意味でなく、中国の王朝名や国名、また氏族の名前に使われる。現代字は上部が「三+人」の形に変化した。
意味 (1)中国の王朝・国名。「秦シンの始皇帝」「秦陵シンリョウ」(秦の始皇帝のみささぎ)「秦火シンカ」(始皇帝の焚書をいう) (2)はた(秦)。応神天皇のとき機織りを伝えて渡来した氏族に与えられた名。「秦氏はたうじ」(京都の太秦などを拠点とした渡来系氏族)「太秦うずまさ」(京都市右京区にある地名。秦氏が住んでいた地。秦の前に太(おおもと・はじめ)を付けて「うずまさ」とよませた) (3)地名。「秦嶺シンレイ」(中国中部を東西に走り、黄河と長江の流域を分ける山系)

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 「杵でつく」
(秦・榛)
 「形声字」(蓁・臻)
音の変化  シン:秦・榛・蓁・臻

杵でつく
 シン・はしばみ  木部 zhēn
ハシバミの実
解字 「木+秦(杵でつく)」の会意形声。実を杵でついて利用したと思われるハシバミの木。しば栗のような堅い実がなり食用になるハシバミの実は、殻を割って実を取り出すのに杵でつくように軽くたたいて殻を割った。現在はくるみ割り器のような専用ペンチがある。
意味 (1)はしばみ(榛)。カバノキ科の落葉低木。果実は球形で固く食用になる。セイヨウハシバミの実はヘーゼルナッツと呼ばれる。「榛栗シンリツ」(ハシバミと栗)「榛子シンシ」(ハシバミの実。中国で漢方薬となる。健脾・健胃、咳に効能がある) (2)はり(榛)。はんのきの古名。カバノキ科の落葉高木。 (3)草木がむらがり生えること。(=蓁)「榛草シンソウ」(茂った草)「榛荊シンケイ」(いばら。生い茂ったいばら) (4)地名。「榛名山はるなさん」(群馬県中部にある火山)「榛原はいばら」(奈良県宇陀郡などにある地名)(5)姓。「榛葉シンバ・シバ」「榛沢はいさわ・はりざわ」(6)人名。「北口榛花きたぐちはるか」(パリオリンピック槍投げ金メダリスト)

形声字
 シン  艸部 zhēn
解字 「艸(くさ)+秦(シン)」の形声。草が盛んにのびているさまを蓁シンといい、音符は「秦シン」。
意味 (1)草が盛んに伸びて茂るさま。「蓁蓁シンシン」(草が盛んに茂る)「桃の夭夭ヨウヨウ(若々しい)たる其の葉,蓁蓁シンシンたり」 (2)むらがり集まるさま。
 シン・いたる  至部 zhēn
解字 「至(いたる)+秦(シン)」の形声。至る意味で音符「秦シン」の形声。[説文解字]に「至るなり」とある。
意味 (1)いたる(臻る)。およぶ。「臻極シンキョク」(極に至る)「臻至シンシ」(至る) (2)あつまる。おおい。「臻湊シンソウ」(あつまる)


    ショウ <杵でうすをつく>
 ショウ・うすづく・つく  臼部 chōng

解字 甲骨文字から篆文まで、杵(きね=午)を両手でもち臼をつく形の会意。臼で穀物をつくこと。「杵を両手で持つ形+臼(うす)」の会意。現代字は杵を両手にもつ形が「三+人」の形に変化した。杵で臼の中のものをついて脱穀することをいう。
意味 うすづく(舂く)。つく(舂く)。うすで穀物をつく。「舂米ショウマイ・ショウベイ」(臼でついて精白した米。また、米を臼でつくこと)「磑風舂雨ガイフウショウウ」(磑風ガイフウとは、磑(石臼)を回すように羽虫が回るように飛ぶと風が吹くという言い伝え。舂雨ショウウとは、舂(うすづ)くときの杵のように羽虫が上下に飛ぶと雨が降るという言い伝え。両者を合わせて、物事の前兆の例えをいう)

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 「うすでつく」
(舂・摏)
音の変化  ショウ:舂・摏

うすでつく
 ショウ・つく  扌部 chōng
解字 「扌(手)+舂(うすでつく)」の会意形声。扌(手)を付けて臼でつく意を強めた字。
意味 つく(摏く)。うつ。

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音符「北ホク」<二人が背をむける> と 「背ハイ」「乖カイ」

2024年02月04日 | 漢字の音符
 ホク・きた  ヒ部 běi          

解字 二人の人が背をむけた形の会意。もと背中の意で、背の原字。二人が背を向けることから、そむく意。および、背を向けて逃げる意となる。また、太陽が南中したとき体を向けると背になる方角の北を意味し、この意味が主流となった。部首はヒ部。
意味 (1)きた(北)。⇔ 南。「北極ホッキョク」「北陸ホクリク」 (2)そむく。 (3)にげる。「敗北ハイボク

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 「背をむける」
(北・背)
 「同体異字」(乖)
音の変化  ホク:北  ハイ:背  カイ:乖

背をむける
 ハイ・せ・せい・そむく・そむける  月部にく bèi・bēi
解字 「月(からだ)+北(背をむける)」の会意形声。身体の背をむける部分。
意味 (1)せ(背)。せい(背)。せなか。うしろ。うらがわ。「紙背シハイ」(文書のうら)「背中せなか」 (2)そむく(背く)。そむける(背ける)「背信ハイシン」(信頼をうらぎる)「背任ハイニン」(まかされた任務にそむく)

同体異字
 カイ・そむく  ノ部  guāi             


 上は乖、下は羊
解字 篆文は、羊の角を上に、そこから下に伸びる線の両側に、左右に分けるしるしを描いた象形。羊の角が互いに分かれてそむき離れているさま。現代字は羊の角とそこから伸びる線が「千」に、分かれるしるしが「北」に変化 した。乖になった。
書き方 せんきた(千北)でカイ
意味 (1)そむく(乖く)。さからう。たがう。「乖隔カイカク」(そむきへだてる) (2)はなれる。わかれる。「乖離カイリ
<紫色は常用漢字>

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音符「虚キョ 」<中身がない>と「墟キョ」「嘘キョ」「歔キョ」「戯ギ」

2024年02月02日 | 漢字の音符
  増補しました。
[虛] キョ・コ・むなしい  虍部  xū


 上は虚、下は丘
解字 篆文は、「丘(おか)+虍(コ)」の形声。丘の字(下段)は甲骨文字からあり、それは三角形の山が二つ並んだ形。篆文では一の上に人が背を向けた形に変化している。この字の丘は乾燥地帯の植物も生えない小高い高まりが二つある丘で、それに発音を示す虍(虎の意とは関係ない)をつけた虚コ・キョは、丘の間のくぼんだ所が何もない意を表す。字形は隷書(漢代)での変化を経て旧字の虛になり新字体は、虛⇒虚に変化する。
意味 (1)むなしい(虚しい)。中身がない。から。うつろ(虚ろ)。「虚空コクウ」(何もない空間)「虚無キョム」(何事もなく虚しい) (2)うわべだけの。実がない。うそ。「虚栄キョエイ」「虚礼キョレイ」 (3)すなお。「謙虚ケンキョ」 (4)よわい。「虚弱キョジャク

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 「中身がない」
(虚・戯・墟・嘘・歔)
音の変化  キョ:虚・墟・嘘・歔  ギ:戯

中身がない
 ギ・ゲ・たわむれる  戈部 xì ・hū
解字 「戈(ほこ)+虚(中身がない)」の会意形声。武器である戈を、にぎやかにふざけて振り回すこと。本当でなく、あそびや戯れにすること。
意味 (1)たわむれる(戯れる)。たわける(戯ける)。ざれる(戯れる)。あそぶ。ふざける。「遊戯ユウギ」「戯画ギガ」(たわむれに描いた絵。こっけいな絵)「児戯ジギ」「戯事ざれごと」「戯歌ざれうた」 「戯作ゲサク」(①たわむれに書いた作品。②江戸時代後期の通俗小説の総称。黄表紙・洒落本など)(2)しばい。演技。「雑戯ザツギ」(奇術・軽業などの演技。民間の雑多な演技)「戯曲ギキョク」(雑戯の歌曲の意。演劇の脚本)
 キョ・あと  土部 xū
解字 「土(土地)+虛(中身がない)」の会意形声。地上に残った中身のない荒れはてたあと。
意味 (1)あと(墟)。昔あったものが朽ち果てて、空の廃墟だけが残ったところ。「廃墟ハイキョ」「殷墟インキョ」(甲骨文字などが出土した殷の都があった遺跡)「墟里キョリ」(荒れ果てた村里) (2)おか。大きな丘。
噓[嘘] キョ・うそ  口部 xū
解字 「口(くち)+虛(中身がない)」の会意形声。口から中身のない(言葉にならない)ものを出す意で、息をふくが原義。日本では中身のないことを口にする意で、うそ・いつわりの意となる。新字体に準じた嘘は印刷標準字体で、印刷物でよく使われる。
意味 (1)[国]うそ(噓)。いつわり。「噓言キョゲン」「嘘うそも方便ホウベン」(噓も時には必要な場合もある) (2)ふく。ながく息をはく。「吹噓スイキョ」(息をはく)
 キョ  欠部  xū
解字 「欠(口をあける)+虛(中身がない)」 の会意形声。口をあけて中身のない(言葉にならない)ものを出す意。嘘と同じ構造で息をはく意だが、歔は、すすりなく・ため息をはく意味で使われる。
意味 (1)すすりなく(歔く)。むせびなく。「歔欷キョキ」(歔も欷も、すすりなく意=欷歔キキョ)「歔泣キョキュウ」(すすりなく) (2)ため息をはく。「長歔チョウキョ」(長いためいき)
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