1972年9月、ミュンヘン・オリンピック開催中、武装したパレスチナのテロリスト集団“黒い九月”がイスラエルの選手村を襲撃、最終的にイスラエル選手団の11名が犠牲となる悲劇が起きる。これを受けてイスラエル政府は犠牲者数と同じ11名のパレスチナ幹部の暗殺を決定、諜報機関“モサド”の精鋭5人による暗殺チームを秘密裏に組織する。チームのリーダーに抜擢されたアヴナーは、祖国と愛する家族のため他の4人の仲間と共に冷酷な任務の遂行に当たるのだが…。
スティーブン・スピルバーグ監督最新作。多くの人の命が失われた実在の出来事に基づいた話だけに、かなり重くのしかかってくる映画だった。164分という長尺にもかかわらず、全編を通して緊張感にあふれており、全く飽きさせられなかった。ただ、トイレを我慢するのが辛かったけど。
日本人には、あまりなじみのあるとは言えないパレスチナ問題に関する映画であり、パレスチナ人とイスラエル人の国土を持つことへの執着や愛国心というものは、僕にとって、教科書的にはわかっていてても、心情としては、なかなか理解できないものなのだが、それでも最後まで画面に釘付けにさせる映画が撮れるとは、さすがスピルバーグだ。表向きは政治的な作品なんだけど、サスペンスとして十分に見ごたえのある演出がされているためだろう。
また、最初は人を殺すのをためらっていたアヴナーが、少しずつ自分の行っていることに疑問を抱き、悩み始めるという人間臭さを描き出しているところも生々しい。暗殺されていくパレスチナ人も、それぞれ家族を持っていたり、普通に社会に溶け込んで生活している姿をみせるところなんかも報復に対する報復という行為の残酷さを浮き彫りにさせている。テロと報復の繰り返しからは何も生み出せないのではという監督の思いが、世界貿易センタービルの映像と共にどっしりとのしかかってきた気がした。