北海道新聞 05/10 16:00
【阿寒湖温泉】アイヌ古式舞踊などを上演する劇場「阿寒湖アイヌシアターイコㇿ」(釧路市阿寒町阿寒湖温泉4)は今春、アイヌ文化をもっと身近に感じてもらおうと、2演目を初めて全面リニューアルした。古式舞踊は神への祈りの儀式「カムイノミ」で使う祭具「イナウ(木幣)」を題材に内容を一新。伝統儀式と古式舞踊で構成していた「イオマンテの火まつり」は、3DCG(3次元コンピューターグラフィックス)を使った「阿寒ユーカラ『火のカムイの詩(うた)』」として生まれ変わった。(熊谷知喜)
古式舞踊 イナウとカムイ焦点
イコㇿでは、2012年4月の開設時から古式舞踊と「イオマンテの火まつり」を上演してきた。今回のリニューアルで、古式舞踊はカムイ(神)と意思疎通を図る役割を持つイナウと、火や水、土、風、太陽の五つのカムイに焦点を当てた。歌や踊り、楽器演奏、祈りに加え、ナレーションも組み合わせ、アイヌ民族が大切にする思いを伝える。
古式舞踊は、アイヌ民族の男性がカムイから作り方を教わったイナウを削る場面で幕を開ける。その後、女性がカムイノミで使うトノト(神酒)を歌いながら作ったり、男性が「イクパスイ(酒をささげる祭具)」でカムイにトノトをささげたりするなど、アイヌ民族とカムイの関係性を紹介する内容にまとめた。
□ ■ □
火のカムイの詩 自然再生の姿を表現
一方、「火のカムイの詩」は、白糠町出身で阿寒町に住んでいたアイヌ文化伝承者の故四宅(したく)ヤエさん(1904~80年)が語り残した神々の物語「オイナ」の一つ、「アペヤテンナ」を中心に、他のオイナを組み合わせた新しい物語。人間が汚した湖の危機をカケスや、人間に見立てたマリモが使者となって「アペフチカムイ(火の神)」に助けを求め、魚や動物など自然が再生していく姿を表現する。
語り部は四宅さんの孫で阿寒町在住の平良智子さんが担当。3DCGで阿寒の自然を立体的に映し出し、幻想的な雰囲気を演出する。歌や踊り、伝統楽器「トンコリ(五弦琴)」の生演奏に加え、日本語に節を付けて語る独自の表現方法も取り入れた。
4月中旬に古式舞踊と「火のカムイの詩」が地元住民に披露された。民宿従業員黒沢加代子さん(71)は「分かりやすい内容で、アイヌ文化への理解をより深めることができた。この感動を知り合いや観光客に伝えたい」と目を輝かせた。
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このほか、アイヌ民族が狩猟の神「ホㇿケウカムイ」とあがめたエゾオオカミの絶滅を題材に、古式舞踊や現代舞踊、3DCGを組み合わせた演目「阿寒ユーカラ『ロストカムイ』」も上演している。上演時間は各約30分。入場料は中学生以上が古式舞踊1500円、「火のカムイの詩」2千円、ロストカムイ2200円で、いずれも小学生700円、未就学児無料。上演日程はホームページ(https://www.akanainu.jp/about/ikoro)。問い合わせは同シアター(電)0154・67・2727へ。
舞台監督 床州生さん
デジタル技術を使った紙芝居
「阿寒湖アイヌシアターイコㇿ」の舞台監督を務める阿寒アイヌ工芸協同組合理事の床州生(とこしゅうせい)さん(55)に上演演目のリニューアルの狙いなどを聞いた。
――演目の全面リニューアルは初めてです。
代々受け継がれてきた歌や踊りなどを披露してきましたが、それだけではアイヌ文化を伝えるのは難しいと感じていました。カムイとの意思疎通を仲介するイナウやカムイノミを古式舞踊の題材にすることで、なぜイナウを作るのか、なぜカムイノミを行うかなど、アイヌ民族が大切にしている考えを具体的に紹介できると思いました。
――「イオマンテの火まつり」も「火のカムイの詩」として一新しました。
イオマンテの火まつりは20年ほど前に屋外で実施したのが始まりですが、イコㇿでの会場が屋内のため、ダイナミックに披露できませんでした。そこで「火」をキーワードに、故四宅ヤエさんの「アペヤテンナ」というサコㇿベ(口承文芸)を中心に構成しました。語りかけるようなナレーションや3DCGを融合させ、アイヌ文化に興味のない人も楽しめる「デジタル技術を使った紙芝居」とも言えます。
――映像や音楽、演出にこだわりが見られます。
新演目は「ロストカムイ」の制作メンバーが、出演者たちの意見も取り入れて生み出しました。阿寒湖が凍る時に鳴り響く地鳴りのような音なども録音し、阿寒湖を体感できる作品に仕上げました。
――今後、どのような企画を考えていますか。
体験型観光の「アドベンチャートラベル」が注目されています。イコㇿの上演も、「阿寒湖の森ナイトウオーク『カムイルミナ』」も夜のイベントです。阿寒湖のアイヌ文化と自然を組み合わせ、日中に体験できるイベントを企画したいですね。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/542037
【阿寒湖温泉】アイヌ古式舞踊などを上演する劇場「阿寒湖アイヌシアターイコㇿ」(釧路市阿寒町阿寒湖温泉4)は今春、アイヌ文化をもっと身近に感じてもらおうと、2演目を初めて全面リニューアルした。古式舞踊は神への祈りの儀式「カムイノミ」で使う祭具「イナウ(木幣)」を題材に内容を一新。伝統儀式と古式舞踊で構成していた「イオマンテの火まつり」は、3DCG(3次元コンピューターグラフィックス)を使った「阿寒ユーカラ『火のカムイの詩(うた)』」として生まれ変わった。(熊谷知喜)
古式舞踊 イナウとカムイ焦点
イコㇿでは、2012年4月の開設時から古式舞踊と「イオマンテの火まつり」を上演してきた。今回のリニューアルで、古式舞踊はカムイ(神)と意思疎通を図る役割を持つイナウと、火や水、土、風、太陽の五つのカムイに焦点を当てた。歌や踊り、楽器演奏、祈りに加え、ナレーションも組み合わせ、アイヌ民族が大切にする思いを伝える。
古式舞踊は、アイヌ民族の男性がカムイから作り方を教わったイナウを削る場面で幕を開ける。その後、女性がカムイノミで使うトノト(神酒)を歌いながら作ったり、男性が「イクパスイ(酒をささげる祭具)」でカムイにトノトをささげたりするなど、アイヌ民族とカムイの関係性を紹介する内容にまとめた。
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火のカムイの詩 自然再生の姿を表現
一方、「火のカムイの詩」は、白糠町出身で阿寒町に住んでいたアイヌ文化伝承者の故四宅(したく)ヤエさん(1904~80年)が語り残した神々の物語「オイナ」の一つ、「アペヤテンナ」を中心に、他のオイナを組み合わせた新しい物語。人間が汚した湖の危機をカケスや、人間に見立てたマリモが使者となって「アペフチカムイ(火の神)」に助けを求め、魚や動物など自然が再生していく姿を表現する。
語り部は四宅さんの孫で阿寒町在住の平良智子さんが担当。3DCGで阿寒の自然を立体的に映し出し、幻想的な雰囲気を演出する。歌や踊り、伝統楽器「トンコリ(五弦琴)」の生演奏に加え、日本語に節を付けて語る独自の表現方法も取り入れた。
4月中旬に古式舞踊と「火のカムイの詩」が地元住民に披露された。民宿従業員黒沢加代子さん(71)は「分かりやすい内容で、アイヌ文化への理解をより深めることができた。この感動を知り合いや観光客に伝えたい」と目を輝かせた。
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このほか、アイヌ民族が狩猟の神「ホㇿケウカムイ」とあがめたエゾオオカミの絶滅を題材に、古式舞踊や現代舞踊、3DCGを組み合わせた演目「阿寒ユーカラ『ロストカムイ』」も上演している。上演時間は各約30分。入場料は中学生以上が古式舞踊1500円、「火のカムイの詩」2千円、ロストカムイ2200円で、いずれも小学生700円、未就学児無料。上演日程はホームページ(https://www.akanainu.jp/about/ikoro)。問い合わせは同シアター(電)0154・67・2727へ。
舞台監督 床州生さん
デジタル技術を使った紙芝居
「阿寒湖アイヌシアターイコㇿ」の舞台監督を務める阿寒アイヌ工芸協同組合理事の床州生(とこしゅうせい)さん(55)に上演演目のリニューアルの狙いなどを聞いた。
――演目の全面リニューアルは初めてです。
代々受け継がれてきた歌や踊りなどを披露してきましたが、それだけではアイヌ文化を伝えるのは難しいと感じていました。カムイとの意思疎通を仲介するイナウやカムイノミを古式舞踊の題材にすることで、なぜイナウを作るのか、なぜカムイノミを行うかなど、アイヌ民族が大切にしている考えを具体的に紹介できると思いました。
――「イオマンテの火まつり」も「火のカムイの詩」として一新しました。
イオマンテの火まつりは20年ほど前に屋外で実施したのが始まりですが、イコㇿでの会場が屋内のため、ダイナミックに披露できませんでした。そこで「火」をキーワードに、故四宅ヤエさんの「アペヤテンナ」というサコㇿベ(口承文芸)を中心に構成しました。語りかけるようなナレーションや3DCGを融合させ、アイヌ文化に興味のない人も楽しめる「デジタル技術を使った紙芝居」とも言えます。
――映像や音楽、演出にこだわりが見られます。
新演目は「ロストカムイ」の制作メンバーが、出演者たちの意見も取り入れて生み出しました。阿寒湖が凍る時に鳴り響く地鳴りのような音なども録音し、阿寒湖を体感できる作品に仕上げました。
――今後、どのような企画を考えていますか。
体験型観光の「アドベンチャートラベル」が注目されています。イコㇿの上演も、「阿寒湖の森ナイトウオーク『カムイルミナ』」も夜のイベントです。阿寒湖のアイヌ文化と自然を組み合わせ、日中に体験できるイベントを企画したいですね。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/542037