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『われらの世紀』刊行記念インタビュー|真藤順丈「ずっと出したかった短編集が、ようやく結実」

2021-05-28 | アイヌ民族関連
本がすき 5/27(木) 11:02
四月に刊行された真藤順丈氏の『われらの世紀』。作家の黒木あるじ氏に、一作ずつの感想を交えながらインタビューをお願いした。短編好きの、短編書きによる、短編の楽しみ方を開陳しよう。(聞き手/作家 黒木あるじ)
ずっと出したかった短編集が、ようやく結実
真藤 黒木さん、今日はわざわざどうもです。よろしくお願いします。
黒木 お久しぶりです。普段インタビューの仕事はしないのですが、今回の『われらの世紀』を早くお読みしたい、その一心でお受けしました。短編集が好きな僕ですけど、この作品集は読後の疲労感がすごかったです。本当に一作読み終えるたびに長編一作読んだようにぐったりしました。
真藤 大長編、長編、短編、掌編のいずれも書けてこその作家だと思うのですが、とりわけ短編は難しいです。長編と短編の違いは、よく長距離走と短距離走にたとえられるけど、実際には、大きな建築物を建てるのと精緻(せいち)な時計細工を作る、というぐらいの技術の差があると思いますね。黒木さんはそのあたりではいかがですか。
黒木 僕は〈怪談〉から出てきたので、短編になじみがありますが、最近は長編を書く筋肉を模索していますね。それとは別に、短編を夢中になって読んだ、あの興奮を自分の作品でも出したいなとは常に考えています。やはり短編に惹(ひ)かれるんですね。
真藤 たとえば未読作家の作品に入っていくうえで、短編集が入り口にもなる。短編集から入って、この人はいいぞとなったら長編に手を伸ばすというようなことをやってきた。安部公房(あべこうぼう)や筒井康隆(つついやすたか)、ロバート・ブロック、スティーブン・キングや江戸川乱歩(えどがわらんぽ)といった名手の短編集で小説をおぼえたので、自分でも短編集は出したかったんです。前作で反響があって、わりと企画が通りやすくなったなかで、今なら短編集イケるかもと下心が働きました。
黒木 チャンスが来たぞと。
真藤 連作とかじゃない純粋な短編集って、新人とかだと嫌われるじゃないですか。セールスにつながりにくいし、長編みたいに賞にからむ機会も少ないし。だけど今なら版元がGOくれるかもって。幸いにしてこの「小説宝石」や光文社は、短編に対して懐が深いというのもあった。黒木さんも寄稿している『異形コレクション』(光文社文庫)もあったしね。
黒木 短編の着想はどのあたりから生まれてくるのでしょう。
短編のつもりで読み終えると、長編を読了したような疲労感が真藤短編にはあって、「あれ? コンビニに行ったはずなのに、フルマラソンしたぞ」という錯覚を……。
真藤 だけど短編は、本当はそれじゃいけないというのもあるじゃないですか。読むほうは、つっかけサンダルで出てきてるんだってことでしょ。いかに面白いコンビニの風景を見せるかが短編の妙味であって、僕はどうしても長編の考え方で短編を構想してしまうんだと思います。
黒木 とはいえ、短編でこれほど濃くて切れ味の鋭いものを書くというのは、僕なんかは一人の書き手としても、恐ろしい着想の力だなと。
真藤 アイディアの鉱脈はあるんだけど、それをどうやってカッティングして宝石を削りだすか、というのが短編の難しさだと思います。
黒木 では、それぞれの作品についてお聞きします。収録第一作「恋する影法師」。あのときの広島を書くというのは、とんでもない決意だと思ったんです。多くの先人が書いてきたテーマを、真藤さんはこんな幻想譚(げんそうたん)めいた形にするのか、すごいと唸(うな)ってしまいました。アイディアとしては、広島の八月六日を書こうというところからですか。
真藤 あれは、パントマイムで一本書きたくて『天井桟敷(てんじようさじき)の人々』という映画がまず浮かんで。広島に原爆が落ちたときに、銀行の前に影が焼き付いたという話があるじゃないですか。それとパントマイムを重ねたときにあの話ができた。人影の石は知られているけど、それについての物語って読んだことないなあって。
黒木 あくまでも記録として残っているだけですね。
真藤 だれしもの心に引っかかっているものをもとに寓話(ぐうわ)風のものを書きたいというのが最初ですね。
黒木 あれが第一話なのは、入り口として巧みだと思います。真藤さんは、こうやって人間を生み出していくのかと読者が理解できますもんね。私はあれを読んで、おなかがいっぱいになって、その日はそれ以上読まずに、お茶を飲んで過ごした記憶があります。まず落ち着こうと思って。
真藤 あれだけはちゃんと短編になっているかもしれないですね。二作目からは短編のふりをした他の何かというか……。
黒木 翌日「一九三九年の帝国ホテル」を、気を取り直して読み終えて「……どういうことだ?」と。さっき言った「俺は今、一冊読んだぞ」という感覚があったんですよ。ボリューム的には短編です。分厚い長編を読んだような、あるいはスペクタクル大作の映画を観たような濃さがあります。あのボリュームなのに、すごい冒険活劇じゃないですか。続く三作目「レディ・フォックス」も終戦間際の話ですが、戦中戦後の混乱期は、真藤さんの中でもテーマになっているのでしょうか。
真藤 近代史はひとつの軸として突きつめたいので、沖縄の戦後を描いた『宝島』から、このところ書くものはどんどん時代をさかのぼっていますね。
黒木 冒頭の三作を読んで、『宝島』でも感じたんですが、教科書とかニュース・報道等でこういうことがあった、あるいは、もう少し深掘りしたルポとかドキュメンタリーで知る「記録」が、真藤さんの手にかかると、ものすごい血が通うものになります。言ってみれば、どれも盛大なほらじゃないですか。
真藤 大ぼらね。
黒木 その大ぼらのマジックにかかると、あの時代に生きていた人たちから受け継ぐものが、われわれの中にあることを実感できます。「レディ・フォックス」に好きな一文がありまして、「思うんだども、わたしたちはみんな誰かのつづきだばい」この@台詞(せりふ)が、中盤でさらっと出てくる。「ひゃー、すげえ!」と声になりました。僕は青森の生まれで、函館(はこだて)とか北海道にも縁がいろいろあります。この作品が『アイヌ神謡集(しんようしゆう)』にまでつながるのは、予想しませんでした。こんなに上手に、津軽(つがる)から派生した北海道のあの辺りの方言を書いた短編を見たことがないですよ。
真藤 方言に関しては、割りきりも必要というかね。結局、言文一致というのは実際には不可能であるのだから、物語世界の中で独自のクレオールを作っていくぐらいがいい。
黒木 真藤さんはどの辺りまで資料を集めたりしますか。
真藤 作品にもよりますが、たとえば『宝島』なら、沖縄は非常に豊かに資料があります。警察ОBにせよ活動家にせよ、自分たちの生(なま)の記憶を残していこうという意思が強いから。「県産本」という本屋の棚分けがあるのは沖縄ぐらいです。資料を深掘りしようと思えばどこまでもできるけど、強すぎる史実に物語が呑(の)みこまれそうになったらそこで一旦止めますね。
黒木 なるほど。そこで線を引くんですね。
真藤 ストーリーの飛翔できる余地を残す、というかね。個人の物語を自分なりに微分できなくなるのは危険なので。
黒木 興味があって探って、調べ倒した中からイリュージョンが出てくるんでしょうね。そして第四話の「笑いの世紀」。ここでまた打ちのめされるわけです。第六話の「ダンデライオン&タイガーリリー」と第九話の「終末芸人」の三作が芸人の話で、共通点がありますね。
真藤 当初、ゆるい縛りとして芸能や興行の話で集めてみましょうというのがあったんだけど、他に書きたいものも出てきたので。
黒木 そうだったんですか。これまでも「苦しいときほど人は笑うんだぜ」というところに着地する物語は、いくつか読んできましたが、「笑いの世紀」は「負けるんだよ。戦争の前では、笑いも負けるんだ」と。これほどハッとさせられるのは初めてでした。「すげえな、これ、ハッピーエンドだぜ」と思いきや、読者を奈落に落とすじゃないですか。
真藤 落とす? ああ、そのあとの短編ですね。
黒木 つまり、「ダンデライオン&タイガーリリー」は同じく芸人の話で、読むうちに、登場人物に読者としては愛着が湧くわけです。「ああ、幸せになってほしいな。ぶきっちょだけれども、この小屋の中で生きていく人たちよ」と思うわけです。それが、ラストでは……。「こう来るのかよ」という。その派生で言えば、第七話「無謀の騎士」も最初の三ページぐらいで、「うわっ、嫌な話だな」と思ったんです。YouTubeとかの動画を見ていく中で、ふいにオススメみたいなものに、いたたまれない気持ちになる人というのが登場するじゃないですか。多分この主人公もその手の人物で、僕は愛情を持つことはないだろうと思いながら読み進めていったら、ラストで大好きになったんですよ。読者の想像を裏切ろうというか、予想していないところに連れていこうと考えてから書くものですか。それとも書くうちに生まれてくるんでしょうか。
真藤 長編は、最初に組んだプロットを越えて話が動きだすとうまくいくところがありますが、短編はそうはいかない。僕は、短編はインプロビゼーションみたいに書けないです。けっこう決めこんで書かないとなんべんも書き直すはめになる。最初に青写真を描くときは、できるかぎり人類の知らない感情にたどりつきたいというか、未知の領域に達したいという思いで構想を固めていきますね。
黒木 「終末芸人」ですが、「笑いの世紀」と「ダンデライオン&タイガーリリー」を読んでいるから、「さあ、どう来るんだ?」と、ファイティングポーズで、次はやられないぞと思っていると、「そう来たのか」「幸あれ」みたいなところに連れていかれます。幸福な読書体験です。
真藤 「終末芸人」は『異形コレクション』の「喜劇綺劇」という、笑いをテーマにした異色のお題のときの作品で、それがこうして芸人を書くきっかけになりました。小説で芸人を取り上げるとは思ってなかったけど、われわれはテレビのお笑いの洗礼を受けた世代じゃないですか? それに芸人は書いていて物語が思わぬ方向へドライブしていく。「無謀の騎士」のYouTuberのような、ボンクラだけどいとおしいという人と、横山(よこやま)やすしや桂春團治(かつらはるだんじ)のような狂気の破滅型芸人が表裏一体で共存している世界を書きたかったんです。
黒木 すごく優しいまなざしだと思ったんです。嘘(うそ)つきでくだらなくて、善意のかけらもない人たちばかりなんだけれどもいとおしい、そういうテーマを全編から感じました。
真藤 近現代だと、今のように漂白されていないむき出しの、えげつない人間性みたいなものが、ごろっと投げ出されていたりしますよね。そういう人たちを見たり考えたりしていると、つい嬉しくなって見入ってしまうのかも。本当にこの作品集を読んで、作者の優しいまなざし、なんて感じました?
黒木 はい、しみじみと。さて、ようやくラストにたどり着いたんですが、第十話「ブックマンーありえざる奇書の年代記」が僕は一番好きなんです。
真藤 こんな、怪物がうようよ出てくる話を?
黒木 大好きなんですよ、何度も読み直しましたから。すごく壮大な物語を四十ページほどで書いてある。第五話「異文字」で語られたこともあわせて〈言葉をつづって人は死ぬし、歴史はついえるし、建物は空爆されたり朽ち果てたりして壊れる。あらゆるものは変わっていくし、死に絶えるんだけれども、言葉によって次に受け継がれてバトンとなって、物語という形で皆は生き続けるんだ〉ということを、九編で語り、十編めの「ブックマン~」で、「だろ?」と言っているような形式。この作品で終わるのが啓示的で、ありがとうという感じになりました。『われらの世紀』というタイトルにも絡みますが、今読むべき本だと、僕は感じたんです。
真藤 それはこちらこそありがとう。黒木さんはやっぱ奇特な人ですね。
黒木 おべっかとかお世辞とか社交辞令とかではなく、この十編を読んで「真藤順丈って、ジャンルだよね」という気がしました。
真藤 あ、それは完全に社交辞令だな。
黒木 いや、そんなことはないですって(笑)。
『われらの世紀 真藤順丈作品集』
真藤順丈/著
洋の東西を問わず、昭和、平成、令和の百年をつらぬいて生き抜くひとびと=「われら」の人生模様を、『宝島』で直木賞を受賞した真藤順丈が凄まじい熱量で描きだす作品集。
真藤順丈(しんどう・じゅんじょう)
1977年、東京都生まれ。2008年『地図男』でダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞しデビュー。同年『庵堂三兄弟の聖職』で日本ホラー小説大賞、その他に電撃小説大賞銀賞、ポプラ社小説大賞特別賞をそれぞれ別の作品で受賞。2018年『宝島』で山田風太郎賞、直木三十五賞、沖縄書店大賞を受賞。他に『黄昏旅団』など著書多数。
聞き手/黒木あるじ(くろき・あるじ)
1976年、青森県生まれ。2009年『おまもり』でビーケーワン怪談大賞・佳作を受賞。同年『ささやき』で『幽』怪談実話コンテストブンまわし賞を受賞、2010年『怪談実話 震』でデビュー。実話怪談の分野で活躍し、多大な支持を得る。著書に『葬儀屋 プロレス刺客伝』『怪談四十九夜 断末魔』など多数。
https://news.yahoo.co.jp/articles/a7fcfdadf3e89ba6558e23cbc9d1b43a9c65477e

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違法な金採掘がアマゾン先住民族を脅かす(動画)

2021-05-28 | 先住民族関連
Bloomberg 2021年5月27日 13:43 JST
違法な採掘グループによって、アマゾン先住民族の土地の森林破壊が30%進んだことが、最近の調査報告で分かった。動画リポート。 (Source: Bloomberg)
https://www.bloomberg.co.jp/news/videos/2021-05-27/QTR14OT1UM1001

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《ブラジル》最高裁が連邦政府にアマゾン先住民保護を命令=感染拡大や金鉱夫襲撃に悩むヤノマミ族らを

2021-05-28 | 先住民族関連
ニッケイ新聞 2021年5月27日

ヤノマミ族の集落の一つ(Terra Indígena Yanomami/Leonardo Prado/PG/FotosPúblicas/2015)
 【既報関連】ロライマ州などで先住民居住地への襲撃事件が頻発している事などを受け、最高裁のルイス・バローゾ判事が24日、改めて、連邦政府に先住民の保護を命じたと24~25日付現地サイトが報じた。
 先住民への襲撃事件が頻発しているのは、ロライマ州やアマゾナス州に広がるヤノマミ族の居住地やパラー州のムンドゥルク族の居住地だ。
 先住民居住地で不法侵入者らによる襲撃事件が頻発している事や、不法伐採や違法木材の輸出などが起きている事、新型コロナウイルスへの感染者や死者が多発している事は、市民団体や先住民保護に関心を持つ政党などからの訴えでも繰り返し伝えられていた。
 ヤノマミ族居住地で起きた金鉱夫らによる襲撃事件は今月10日以降も何日か繰り返され、先住民と金鉱夫の双方に死傷者が出ている。
 ムンドゥルク族の居住地での不法伐採と違法木材輸出問題では、連警が19日に、リカルド・サレス環境相や国立再生可能天然資源・環境院(Ibama)の院長らも含めた公職者の汚職を視野に入れた「アクアンドゥバ作戦」を敢行した。
 同作戦敢行直後も、米国がブラジルから輸入した木材に輸出許可証がないものが含まれていたと通達してくるなど、法定アマゾンの開発に関連する犯罪行為や先住民の人権問題は相変わらず、国内外の注目を浴びている。
 24日の判決は、ブラジル先住民連合(Apib)や社会党(PSB)の訴えを受けたもので、ヤノマミ族やムンドゥルク族など、7種族の居住地からの侵入者撤去などを含む治安維持と、先住民の権利擁護が確認された。
 司法当局は既に連邦政府に対して侵入者隔離計画を提出する事を命じており、バローゾ判事は、「連警は7テーラ・インディジェナ計画も提示済み」と前置き後、連警や国家治安部隊の派遣なども含む、先住民の生命と健康、治安を守るための措置をただちに採るよう命じた。先住民居住地を巡る連警の作戦は4月末から始まる予定で、極秘扱いで展開される事になっている。
 同判事は昨年7月も新型コロナのパンデミック下での先住民保護に関する仮判決を出しており、大法廷も全員一致で仮判決を支持した。
 だが、先住民居住地での保健対策や、居住地以外の場所や市街地にいて統一医療保健システム(SUS)へのアクセスが困難な先住民への予防接種などは不十分で、24日には同件に関する連邦政府の対応への批判も行われた。
 19日に連警が行った「アクアンドゥバ作戦」は、アレッシャンドレ・モラエス判事が担当しているが、連邦検察庁のアウグスト・アラス長官が25日にモラエス判事を同件から外すよう要請し、物議を醸した。
 アラス長官は、同件はサレス環境相が連警や環境監査団体による監査活動を阻害し、違法木材の押収を妨げているとのアマゾナス州連警の訴えを扱っているカルメン・ルシア判事が扱うべきとした。だが、モラエス判事は26日、二つの件は内容や対象が異なり、担当交代は不要と明言した。
 連警は25日も、環境相らの不正関与を示す報告書を提出している。
https://www.nikkeyshimbun.jp/2021/210527-12brasil.html

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人間の運命を、生と死を、圧倒的なスケールで描く

2021-05-28 | 先住民族関連
ブックバン 5/27(木) 7:30
『複眼人』呉明益[著]小栗山智[訳](KADOKAWA)
『歩道橋の魔術師』『自転車泥棒』で日本の読者にも知られる台湾の作家、呉明益の『複眼人』は、ノスタルジックなその二作と大きく作風が異なっている。
 神話やフォークロアの世界と、自然科学に裏打ちされたディストピア的近未来を大胆に融合させた『複眼人』は、人間の運命を、その生と死を、「麗しの島」と呼ばれた台湾の雄大な自然を舞台に、圧倒的なスケールで描く。
 登場人物はさまざまな過去を背負う。太平洋に浮かぶワヨワヨ島で生まれ育った少年アトレ。文学研究者で大学教員のアリス。タクシー運転手兼救助隊隊員で、先住民族布農族のダフ。海辺でバーを営む阿美族のハファイ。トンネル掘削の専門家であるデトレフと海洋生態学者サラのカップルはヨーロッパから台湾を訪れ、アリスの夫トムもデンマーク出身だ。
 アトレが生きる世界と、アリスたちが暮らす世界には、まったく接点がない。小説も、それぞれの視点で進行するが、太平洋上のゴミの浮島の存在が劇的にふたりを結びつける。次男は島を離れるという島の掟に従い、小舟で島を出たアトレが流れ着くのがそのゴミの島で、アトレを乗せた浮島はアリスの暮らす海辺に接近するのだ。
 恋人との再会を信じて生き延びようとするアトレと、死を願っていたアリス。思いがけず出会ったふたりに共通言語はないが、身ぶり手ぶりをまじえて意思の疎通をはかり、気持ちが通じ合う。
 次男を死なせることで、資源の限られた小さな島の人々は命をつないできた。ワヨワヨ島は台湾の縮図であり、台湾は世界の縮図である。
 タイトルにもなった複眼人とは何か。登場場面はわずかだが、この小説はまさに、複眼人の視点で描かれたものだと思う。人が生き延びるために必要なものとして、言葉、物語、記憶が美しく描かれる。
[レビュアー]佐久間文子(文芸ジャーナリスト)
新潮社 週刊新潮 2021年5月27日号 掲載
https://news.yahoo.co.jp/articles/bf41e1bd81a9dadcc6862691cec6e340a4b561c2

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「明治維新の舞台と城」【松前城】虚を突かれて落城した鉄壁の城

2021-05-28 | アイヌ民族関連
城びと 2021/05/27 19:00
海防のために築かれた松前城。築城後わずか15年で戦場となるなど数奇な運命をたどった(城びと)
今大河ドラマで話題の幕末〜明治。明治維新と関連の深いお城を紹介。幕末に築城された松前城。鉄壁と思われた城の意外な弱点とは…?
明治新政府軍の不条理な会津藩攻撃命令に反発して結成された奥羽越列藩同盟は崩壊し、旧幕府軍の中核だった会津藩も会津戦争に敗れ会津若松城(福島県)が開城。旧幕府軍の命運は風前の灯となります。
しかし旧幕臣の榎本武揚や新選組副長の土方歳三たちは、まだ幕府の復権をあきらめませんでした。もはやよりどころはないため、はるか北の蝦夷へと渡り、自分たちの手で亡命政府・蝦夷共和国を築きます。
そして蝦夷での基盤を固めるため、蝦夷松前藩の城・松前城(北海道)攻略を開始しました。
蝦夷に樹立された旧幕府の亡命政府
「亡命政府」というものをご存知でしょうか。クーデターや戦争などで政治から追放された政府の関係者が外国に亡命して結成する、独自の政府組織です。
現代日本ではなじみがありませんが、紛争の多いアジアやアフリカ諸国の政界には、欧米を拠点に活動する亡命政府が多数存在します。
幕末の蝦夷で旧幕臣の榎本武揚を中心に樹立された蝦夷共和国も、このような亡命政府です。蝦夷は松前藩が管理していたので厳密にいえば外国ではありませんが、海を隔てて本州と離れている点で独自性を保ちやすい土地でした。
鳥羽・伏見の戦いで旧幕府軍が敗北したとき、江戸幕府15代将軍・徳川慶喜は勝手に幕府の軍艦・開陽丸に乗りこんで江戸へ逃げてしまいます。この開陽丸の艦長が榎本武揚でした。
江戸で開陽丸を取り戻した榎本武揚は、江戸城無血開城が決定すると幕府復権を目ざして蝦夷へと舵を取ります。この道中の仙台藩で会津戦争に敗れた新選組副長の土方歳三と出会い、ともに蝦夷へと向かいました。
蝦夷に上陸した旧幕府軍はまず、新政府軍の政庁・五稜郭(北海道)を落として蝦夷共和国の拠点とします。そして次に、松前藩の中核である松前城の攻略に乗り出しました。
幕府の命令で誕生した江戸軍学者渾身の傑作
蝦夷はもともと先住民族・アイヌの土地で、室町時代ごろから日本勢力が進出したといわれます。このためアイヌ文化が地盤にある松前藩には、長らく日本様式の城がありませんでした。
しかし幕末になって外国船が日本近海に出没するようになると、危機感を強めた幕府が松前藩に新しく城を築くよう命じます。こうして蝦夷唯一の日本様式の城・松前城が誕生しました。
松前城を設計したのは、高崎藩のお抱え軍学者・市川一学(いちかわいちがく)。幕末の三大兵学者のひとりと名高い人物です。市川一学は城壁のほとんどを鈍角に曲げ、さまざまな方向から攻撃が仕掛けられるようにしました。
しかもこの複雑な左右非対称構造によって本丸までの道が迷路のようになり、攻め入った敵が城の全容をつかみにくいという利点も持っていました。まさに松前城は江戸軍学のエッセンスが結集した城だったのです。
ところが松前城主となった幕末の松前藩主・松前徳弘(まつまえのりひろ)は生まれつき体が弱く、自分で戦えるような状態ではありませんでした。藩政も重臣が中心となって行っており、これが藩内の分裂を招いてしまいます。
上層部の重臣たちがほかの家臣への相談もなく幕府を支持する奥羽越列藩同盟への参加を決めたため、明治新政府を支持する若い家臣たちが反発して「正議隊(せいぎたい)」を結成。重臣たちを排除して実権を奪ったのです。
こうして松前藩が新政府側についた直後に蝦夷共和国が成立したため、松前城は蝦夷共和国軍の攻撃を受けることになりました。
鉄壁の城の弱点を見破った土方歳三
松前城に迫る兵力700の共和国軍を率いたのは土方歳三です。共和国軍は当初、東側の馬坂門方面から攻めましたが、迎え撃つ松前軍の巧みな戦術に進軍を阻まれます。
松前軍は門の後ろに大砲を置き、砲撃直前に門を開いて砲撃が終わるとすぐに門を閉めるという作戦で、共和国軍が城内に入れないようにしたのです。
このままでは埒が明かないと思った土方歳三は、別の突破口を探します。すると、松前城の意外な弱点がわかりました。外国船との戦いを想定した松前城は海に向かった南側の防備を重視しており、陸に続く北側の守りはとても薄かったのです。
本来なら守りが薄いなりに堀切や土塁を設けるものですが、実は松前藩の財政は松前城築城でかなり圧迫されており、そこまで手が回っていませんでした。
「ここしかない」と判断した土方歳三は、搦手となる北側から一気になだれこみ、鉄壁の防御であるはずの松前城を1日で落とします。土方は宇都宮城の戦いでも城の弱点を突いて1日で決着をつけていますから、かなり攻城戦上手だったのですね。
松前城の防御力から長期戦を想定していた松前軍はあまりにも早い決着にあわてふためき、城下町に火を放って逃走します。この火によって町の3分の2が灰になりました。こうして松前城を手に入れた蝦夷共和国軍は、いよいよ新政府軍との最終決戦に臨みます。
■松前城(まつまえ・じょう/北海道松前市)
松前城は異国船が蝦夷地に接近していることに危機感を感じた江戸幕府が松前氏に命じて築かせた城。廃城令により多くの建物が取り壊されるが、天守は破却を免れ国宝(現在の重要文化財)に指定される。その天守も1949年の火災により焼失したが、1961年に外観復元された。
お城情報WEBメディア「城びと」
2018年7月初出の記事を再編・再掲載
https://news.goo.ne.jp/article/shirobito/region/shirobito-20181203152745567.html



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