水上賢治 映画ライター 2/15(土) 12:01
題名の「アイヌプリ」とは、「アイヌ式」という意味になる。
その言葉通りに本作は、変わりゆく時代と社会の中で、「アイヌ式」の伝統や文化を受け継ぎ、実践して生きるアイヌのある家族に焦点を当てる。
主人公として登場するのは、シゲさんこと天内重樹さん。北海道・白糠町で暮らす彼は、現代の生活を送りながら、自分のスタンスでアイヌプリを実践して、祖先から続く伝統の鮭漁の技法や文化を息子に伝えている。
作品は、シゲさん一家の日常生活に密着。自身のルーツを大切にしながら今の時代を生きる現代のアイヌ民族のリアルな実像が浮かびあがる。
手掛けたのは、「リベリアの白い血」「アイヌモシリ」「山女」と過去発表した長編映画がいずれも国際映画祭で高い評価を受け、大反響を呼んだ海外ドラマ「SHOGUN 将軍」(第7話)の監督を務めるなど目覚ましい活躍を見せる福永壮志監督。
「アイヌモシリ」に続いて再びアイヌというテーマと向き合った彼に、シゲさんにも話に加わってもらう形で、撮影の日々を振り返ってもらった。全四回/第三回
こんなに長い間、撮られるとは思っていませんでした(笑)
前回(第二回はこちら)は、天内家を撮影するまでの経緯について聞いた。
では、シゲさんに聞くが、カメラを常に視野にする日々はどうだったろうか?
天内「撮影はずっと楽しかったです。
ただ、こんなに長い間、撮られるとは思っていませんでした(笑)。
自分はアイヌの伝統漁法、マレプ漁を別に世に広めたいという気持ちでやっているわけではない。
自分の手で鮭を獲りたいだけ。
マレプ漁を復活させたとよく言われるんですけど、僕の中で復活させようなんて思ったことはないんです。
マレプ漁を始めたのも自然な流れで。
子どものころ、外でばかり遊んでいて釣りが大好きだった。海でも川でも釣りをしていました。
で、マレプ漁のことをしって、自分でいろいろと調べたり、長老からマレプ漁の道具の作り方を教わりました。
そして、道具を手にいれたら、やはり使いたくなるじゃないですか?
道具を使いたいということはマレプ漁をしたいということになる。それで、ちゃんと許可をとってマレプ漁で鮭を獲るようになった。
そのことが結果的にマレプ漁の伝統復活になった。
これがアイヌの伝統文化の継承につながるんだというならば、それはそれで最高だと思います。
でも、基本にあるのは鮭を自分はアイヌだから受け継がれてきた漁で獲りたいだけ。
そこまで食育を意識しているわけではないけれども、鮭を獲って食べるまでを子どもに見せれば、食べるということがどういうことなのかわかる。
食べ物のありがたみや命あるものをいただくことがわかる。
僕としてはやりたいことをやっているだけで、そこまで伝統文化の復活とか継承とか意識していない。結果として、そうつながっただけです。
そのことはたぶん福永監督もわかっていた。そここそ福永監督がとりたいところなのではないかとも思いました。
だから、僕としては変にかっこつけたりする必要はない。ふだん通り、いつもやっていることをそのままやればいいのかなと思っていました。
自分たちのふだんの暮らしをそのまま撮ってくれているという信頼もありました。
なので、撮られているストレスはあまりなかったです。
まあ、事前に来る日は福永監督から告げられてはいるのですが、朝起きたらもうカメラが目の前にいて、びっくりということはありましたけどね」
「アイヌプリ」より
シゲさんの日常の姿がきちんと伝われば大丈夫
福永監督自身は、撮影のとき、どのようなことを考えていたのだろうか?
福永「正直、どういう映画になるのかまったくわからずに最初は撮っていました。
ただ、撮った映像をその都度見ていくうちに、だんだん見えてきました。『シゲさんの日常の姿がきちんと伝われば大丈夫だ』と。
たとえば、シゲさんが息子さんになにか教えているところを撮れば、シゲさんが大事にしていて後世に残したいものが見えてくる。
シゲさんが普段の生活の中でアイヌプリを実践する姿や、彼の周りの人や環境を見つめていると、シゲさんがどのような意識を持って生きているかや、アイヌを取り巻く社会の変化など、いろいろなものが見えてきます。
そのようにシゲさんをしっかり撮れば、自然と広がりのある物語になっていくのではないかと思いながら撮っていました」
(※第四回に続く。「アイヌモシリ」の「リ」は小文字、マレプ漁の「プ」は小文字が正式な表記)
【「アイヌプリ」の福永壮志監督×天内重樹さんインタビュー第一回】
【「アイヌプリ」の福永壮志監督×天内重樹さんインタビュー第二回】
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/ba944110b99dc7555941f6b3bb6690aab79cc69b