2014.11.24 09:47 産経デジタル
中国の習近平国家主席(61)が掲げるスローガンや実行するキャンペーンは、毛沢東(1893~1976年)を気取っているとも分析されるが、失敗例の学習は滅亡時期が早まり歓迎したい。しかし、南北米大陸に勢力圏を構築するに至る19世紀の米国《モンロー(孤立)主義》や、「成功例」のフィリピン支配/ハワイ併合といったモンロー主義に続く《棍棒外交》を学んでいるとすれば、大きな災いがわが国に降りかかる。
共通する背景
米国は先住民掃討完了(フロンティア消滅宣言=1890年)後10年も経ずしてスペインに戦争を仕掛け、フィリピンやグアム島などスペイン領を奪い取りハワイも併合。棍棒外交を駆使し怒濤の勢いで太平洋を席巻、莫大な権益を得る。消滅宣言以前の米国は移民建国~西部開拓時代で、広大な土地を有し、欧州列強のように国外に植民地を求める必要がなかった。だが、白人入植者が西海岸に到達すると、開拓地がなくなる。そこで米大陸内で力を蓄えてきた米国は、消滅宣言まで看板だった、安全保障・経済上の生命線である米大陸以外は不干渉を貫くモンロー主義に軸足を残しつつも封印し、植民地強奪レースに参戦したのであった。
当時の米国と現代中国には共通の背景が在る。すなわち▽チベット/ウイグル文化を葬る民族浄化に狂奔▽経済発展で資源・食料が必要となり、チベット/ウイグル以外に領域を拡大▽軍事・経済力が伴わぬ内は抑制的=孤立主義的だったが、力を付けるや凶暴に-など。
凶暴さを増した米国は、太平洋を越え中国大陸を目指し、必然的に大日本帝國と激突した。習氏が5月《アジア相互協力信頼醸成措置会議》で行った講演にも「中国版モンロー主義」宣言=棍棒外交激化前夜の凶暴性が潜んでいた。
「アジアのことは、詰まる所アジア人民がやればよい。アジアの問題は、詰まる所アジア人民が処理すればよい。アジアの安全保障も、詰まる所アジア人民が保てばよい」
「中国はアジア安全保障観の積極的唱道者で、路線を確実に実践する」
習氏の講演は(1)日本や韓国を含むアジア各国と米国との同盟は不必要(2)アジア太平洋の政治・安全保障環境安定に向けたASEAN(東南アジア諸国連合)地域フォーラム(ARF)に加盟していても、アジア以外の米国や豪州は口出しするな-と恫喝したに等しい。
際限ない「戦略的国境」
実際(1)に関連するが、習氏は国家主席就任前から、米国はアジアの諸問題対処に当たり、まず中国と協議せよと求める《新型大国関係》を提案している。米国と日韓など同盟国との間にくさびを打ち込む誘い水だ。(2)に関しても、そもそも米モンロー主義は欧州への不干渉姿勢を維持する一方、逆に南北米大陸より欧露列強を除き、北米や裏庭=中南米に過剰介入すれば敵対行為とみなす、戦いも辞さぬ決意表明と換言できる。
モンロー主義は敵対行為に敏感とはいえ、中国の反応は過剰にして正常ではない。例えば、外国軍艦艇・航空機による自国EEZ(排他的経済水域)内での軍事的監視活動を拒絶する。国際法上の少数意見というだけでなく、国際法上の《航行・上空飛行の自由》原則を否定する「縄張り宣言」だ。ところが、自らは他国のEEZはじめ領域や係争海域にさえ侵入・占領を平然としてのける。
モンロー主義は、実力や必要がない場合に「不干渉」を強要。実力や必要に応じて、棍棒外交を開始し激化させ、やがて勢力圏の盟主に就く。烈度を比較的低く抑えているつもりでいる中国の棍棒外交は、必ずエスカレートする。世界の海洋の3分の1を占めるEEZ。国際法に逆らう中国の《法律戦》を放置すれば、「欲しい所が領域」と考える地政学上の理屈《戦略的国境》は際限なく膨らむ。
18日の中露国防相会談にも、イヤな前兆を観た。両国防相は、アジア太平洋地域における米国の軍事・政治面での影響拡大を牽制し、地域集団安全保障体制構築で一致。しかも来春、地域ばかりか地中海での演習実施も合意した。地中海はクリミア問題を抱えるロシアとのお付き合いにせよ、太平洋~東シナ海~南シナ海~インド洋の広い地域・海域で武威を高め、経済・エネルギー覇権を狙う、中国の野望が透ける。
限界が有るシナリオ
だのに、ASEAN諸国やインドの危機意識は濃淡を繰り返す。ASEANが17日に発表した東アジアサミットの議長声明は、予想通りとはいえ失望した。中国の海洋侵出を念頭に「海洋の平和と安全が脅かし続けられている」との、東アジアサミットでも海洋安全保障を扱うべしとする従来案が撤回され「平和的解決が重要」と格段に薄められた。これも、米国などサミット参加強国の関与を嫌う中国の工作。ASEAN各国は経済・金融支援で中国に一本釣りされ、警戒感は持ちながらも切り崩されている。
なすがまま切り崩されていくか否かは、地域諸国に対する中国版モンロー主義のさじ加減による。確かにモンロー主義は、南北米大陸と太平洋でスペインの覇権を一掃したが、覇者が米国に変わったに過ぎぬ。当初こそ中南米諸国は歓迎したが、米国は次第に政治・経済や安全保障面で干渉を増大させた。そして一連の政策が頓挫すると、各地で反米政権を誘発した。
もっともそれ以前の問題として、米国が欧露列強を排除したごとく、中国が勢力圏から米国を除けるかは疑問も指摘されている。ユーラシア大陸より離れた「島」=北米とは、異なる地政学的前提に立つためだ。陸地で14カ国、海洋を隔てて5カ国と、計19カ国+台湾と国境を接する中国が、いずれの国とも摩擦を起こさず中国版モンロー主義→棍棒外交を達成するシナリオには限界が有る。加えて、中国は信頼に足る強力な同盟・友好国を持たない。かくして、カネと武威でつなぎ止める中華戦略が国際社会で通用しなくなれば、安全保障上は大朗報だ。
共産主義帝国は歴代中華王朝同様、凶暴・傲慢だが哀れでもある。経済崩壊と、その後に訪れる孤立で「孤独死」する前に、わが国に、領有権問題は存在しない現実を認め歴史問題で謝罪してはいかが。真実と正しく向き合うのなら、お友達になれそうな国を紹介して進ぜる。応じる国があればよいが…。(政治部専門委員 野口裕之)
http://dmm-news.com/article/899558/
中国の習近平国家主席(61)が掲げるスローガンや実行するキャンペーンは、毛沢東(1893~1976年)を気取っているとも分析されるが、失敗例の学習は滅亡時期が早まり歓迎したい。しかし、南北米大陸に勢力圏を構築するに至る19世紀の米国《モンロー(孤立)主義》や、「成功例」のフィリピン支配/ハワイ併合といったモンロー主義に続く《棍棒外交》を学んでいるとすれば、大きな災いがわが国に降りかかる。
共通する背景
米国は先住民掃討完了(フロンティア消滅宣言=1890年)後10年も経ずしてスペインに戦争を仕掛け、フィリピンやグアム島などスペイン領を奪い取りハワイも併合。棍棒外交を駆使し怒濤の勢いで太平洋を席巻、莫大な権益を得る。消滅宣言以前の米国は移民建国~西部開拓時代で、広大な土地を有し、欧州列強のように国外に植民地を求める必要がなかった。だが、白人入植者が西海岸に到達すると、開拓地がなくなる。そこで米大陸内で力を蓄えてきた米国は、消滅宣言まで看板だった、安全保障・経済上の生命線である米大陸以外は不干渉を貫くモンロー主義に軸足を残しつつも封印し、植民地強奪レースに参戦したのであった。
当時の米国と現代中国には共通の背景が在る。すなわち▽チベット/ウイグル文化を葬る民族浄化に狂奔▽経済発展で資源・食料が必要となり、チベット/ウイグル以外に領域を拡大▽軍事・経済力が伴わぬ内は抑制的=孤立主義的だったが、力を付けるや凶暴に-など。
凶暴さを増した米国は、太平洋を越え中国大陸を目指し、必然的に大日本帝國と激突した。習氏が5月《アジア相互協力信頼醸成措置会議》で行った講演にも「中国版モンロー主義」宣言=棍棒外交激化前夜の凶暴性が潜んでいた。
「アジアのことは、詰まる所アジア人民がやればよい。アジアの問題は、詰まる所アジア人民が処理すればよい。アジアの安全保障も、詰まる所アジア人民が保てばよい」
「中国はアジア安全保障観の積極的唱道者で、路線を確実に実践する」
習氏の講演は(1)日本や韓国を含むアジア各国と米国との同盟は不必要(2)アジア太平洋の政治・安全保障環境安定に向けたASEAN(東南アジア諸国連合)地域フォーラム(ARF)に加盟していても、アジア以外の米国や豪州は口出しするな-と恫喝したに等しい。
際限ない「戦略的国境」
実際(1)に関連するが、習氏は国家主席就任前から、米国はアジアの諸問題対処に当たり、まず中国と協議せよと求める《新型大国関係》を提案している。米国と日韓など同盟国との間にくさびを打ち込む誘い水だ。(2)に関しても、そもそも米モンロー主義は欧州への不干渉姿勢を維持する一方、逆に南北米大陸より欧露列強を除き、北米や裏庭=中南米に過剰介入すれば敵対行為とみなす、戦いも辞さぬ決意表明と換言できる。
モンロー主義は敵対行為に敏感とはいえ、中国の反応は過剰にして正常ではない。例えば、外国軍艦艇・航空機による自国EEZ(排他的経済水域)内での軍事的監視活動を拒絶する。国際法上の少数意見というだけでなく、国際法上の《航行・上空飛行の自由》原則を否定する「縄張り宣言」だ。ところが、自らは他国のEEZはじめ領域や係争海域にさえ侵入・占領を平然としてのける。
モンロー主義は、実力や必要がない場合に「不干渉」を強要。実力や必要に応じて、棍棒外交を開始し激化させ、やがて勢力圏の盟主に就く。烈度を比較的低く抑えているつもりでいる中国の棍棒外交は、必ずエスカレートする。世界の海洋の3分の1を占めるEEZ。国際法に逆らう中国の《法律戦》を放置すれば、「欲しい所が領域」と考える地政学上の理屈《戦略的国境》は際限なく膨らむ。
18日の中露国防相会談にも、イヤな前兆を観た。両国防相は、アジア太平洋地域における米国の軍事・政治面での影響拡大を牽制し、地域集団安全保障体制構築で一致。しかも来春、地域ばかりか地中海での演習実施も合意した。地中海はクリミア問題を抱えるロシアとのお付き合いにせよ、太平洋~東シナ海~南シナ海~インド洋の広い地域・海域で武威を高め、経済・エネルギー覇権を狙う、中国の野望が透ける。
限界が有るシナリオ
だのに、ASEAN諸国やインドの危機意識は濃淡を繰り返す。ASEANが17日に発表した東アジアサミットの議長声明は、予想通りとはいえ失望した。中国の海洋侵出を念頭に「海洋の平和と安全が脅かし続けられている」との、東アジアサミットでも海洋安全保障を扱うべしとする従来案が撤回され「平和的解決が重要」と格段に薄められた。これも、米国などサミット参加強国の関与を嫌う中国の工作。ASEAN各国は経済・金融支援で中国に一本釣りされ、警戒感は持ちながらも切り崩されている。
なすがまま切り崩されていくか否かは、地域諸国に対する中国版モンロー主義のさじ加減による。確かにモンロー主義は、南北米大陸と太平洋でスペインの覇権を一掃したが、覇者が米国に変わったに過ぎぬ。当初こそ中南米諸国は歓迎したが、米国は次第に政治・経済や安全保障面で干渉を増大させた。そして一連の政策が頓挫すると、各地で反米政権を誘発した。
もっともそれ以前の問題として、米国が欧露列強を排除したごとく、中国が勢力圏から米国を除けるかは疑問も指摘されている。ユーラシア大陸より離れた「島」=北米とは、異なる地政学的前提に立つためだ。陸地で14カ国、海洋を隔てて5カ国と、計19カ国+台湾と国境を接する中国が、いずれの国とも摩擦を起こさず中国版モンロー主義→棍棒外交を達成するシナリオには限界が有る。加えて、中国は信頼に足る強力な同盟・友好国を持たない。かくして、カネと武威でつなぎ止める中華戦略が国際社会で通用しなくなれば、安全保障上は大朗報だ。
共産主義帝国は歴代中華王朝同様、凶暴・傲慢だが哀れでもある。経済崩壊と、その後に訪れる孤立で「孤独死」する前に、わが国に、領有権問題は存在しない現実を認め歴史問題で謝罪してはいかが。真実と正しく向き合うのなら、お友達になれそうな国を紹介して進ぜる。応じる国があればよいが…。(政治部専門委員 野口裕之)
http://dmm-news.com/article/899558/