アメリカの女流作家ハーパー・リーが亡くなった。
こどもの頃、彼女の代表作「アラバマ物語」を何度も読み、
その時の熱い感動とさわやかな読後感を今でも忘れない。
今さらながらではあるが、彼女に感謝するとともに、ご冥福を祈りたい。
子供の頃の感動は、大学生となったときに別の形で蘇る。
東京の名画座でリバイバル上映された映画「アラバマ物語」である。
1962年の作品と云うからその当時で封切からすでに20年近く、
そして今となっては50年以上も昔の映画となる。
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主演はグレゴリー・ペック。
グレゴリー・ペックと言えば「ローマの休日」のオードリー・ヘップバーン”王女”が恋に落ちる新聞記者役で有名。
その彼が正義感の強い父親像を演じて、アカデミー主演男優賞に輝いている。
おおまかにその内容をご紹介。
舞台は、人種差別がまだまだ根強い1930年代のアラバマ州の小さな町メイコム。
そこに住むペック演ずる弁護士のアティカスと2人の子供たち。
そのアティカス一家と町の人たちのふれあいと人種差別による悲しい出来事を横糸に、
子供たちの心の成長とそれを見守る父親の絆を縦糸として紡いだ物語である。
観客を意識した過度な演出、意図的なシーンやセリフがあるわけではない。
あえてモノクロ(この頃、カラー技術はすでに定着していたと思うが)の淡々とした映像の中に、
その時代を忠実に再現したかったのではないかと感じている。
さて、そのあらすじはと云うと…。
貧しい町メイコムに住む正義感あふれる弁護士アティカス。
そして、幼い時に母を亡くしたものの、父アティカスを尊敬して素直に育った2人の子供達。
好奇心旺盛な12歳の兄ジェムと6歳になるおてんばの妹スカウト。
そんな2人の最大の関心事は近所の古びた家の地下室に潜むという噂の「怪人ブー」のこと。
2人は何度となく、ブーを探しに行こうとするが、途中で尻込みし、決まって逃げ出してしまう。
そんなアティカス家が貧しくとも幸せに暮らすある夏、一家を巻き込む大きな出来事が起こる。
白人女性レイプの疑惑で起訴された黒人青年トムを弁護することとなったアティカス。
トムはまじめな青年で明らかに冤罪。
しかし、メイコムは人種差別が色濃く残る南部の小さな町、
アティカスは心無い白人達の非難や妨害を受けるが、
持ち前の正義感で懸命にトムを弁護する。
判決が下される法廷。
トムの無罪を信じる人達に混じって裁判を見守るジェムとスカウトの姿も。
アティカスの必死の弁護で誰が聞いても明らかにトムは無罪。
判決は陪審員に委ねられるが、白人だけの陪審員が出した判断は有罪。
無念の気持ちを押し殺し、トムを励ますアティカスだったが、その夜、トムは失意から逃亡し、射殺されてしまう。
やるせない事件の夏が過ぎさったその年のハロウィーンの夜。
ふたたび、たいへんな災難がアティカス一家に降りかかる。
事件の弁護を引き受けたアティカスを逆恨みした被害者女性の父がジェムとスカウトを襲ったのだ。
スカウトをかばうジェムは重症を負って気絶。スカウトは捕えられ絶体絶命。
と、その時。 間一髪、2人を救ったのは思いがけない人物だった...
先にも書いたが、どちらかというと地味な映画である。
しかしながら、客観的であろうとする演出がかえって心に迫ってくる。
今でも思い出すと目の奥が熱くなるのはこのシーン。
・・・トムの判決が下り、人がまばらになった法廷。
まるで何事もなかったように、淡々とした様子で書類を片付けているアティカスのうしろ姿。
そのアティカスを見つめる黒人の一団の中にいるジェムとスカウト。
ジェムは無念さから顔を覆い声を殺して泣き出してしまう。
長い裁判に疲れたのか、隣の黒人にもたれて無邪気に眠るスカウト。
アティカスが退廷しようとする、その瞬間。
一人の黒人が「(アティカスを)見送ろう」と言って立ち上がり、一団はその声に従う。
もちろん、ジェムとスカウトも・・・・。
黒人達のアティカスへの尊敬と感謝の気持ち。そして同時にアティカスの無念さややるせなさ。
それぞれの人の思いが重層的に表現された、印象に残るシーンだった。
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永遠の感動作!
感動したい人はもちろん、人の優しさに触れたい人、泣きたい人・・・・お奨めである。
映画とは直接関係ないが、ニール・ヤングの1972年の名作「ハーヴェスト」に収められていた曲「アラバマ」 。
当時、まだ人種差別が根強く残るアメリカ南部を皮肉った曲で、
この曲に対抗して、南部出身のロックグループ、レナードスキナードがアンサーソング「スィートホーム・アラバマ」を発表したのは有名な話。
(...というか、かなりマニアックな話)
Alabama Neil Young