書きそびれていたが、盆休最終日のこと。
長い休みはありがたいが、翌日からの仕事を思うと気が滅入るもので、
この気分、サラリーマンなら多かれ少なかれ共感いただけることと思う。
いつもなら、できるだけ安穏に過ごそうとするのだが、
むしろ「街」へ出て大騒ぎをしたほうがかえって気分転換になるのではと、ふと思い立った。
帰省ピークも過ぎた頃ともなれば観光客も減っているだろうし、休みとはいっても曜日としては平日、
早い時間ならどこでも空いているだろうと意気揚々と「街」へと繰り出した。
ところがである。
普段から通いなれた店はどこも予約でいっぱい。
ガイドブックで紹介される店などは開店前と言うのに長蛇の列ができている。
新幹線の開業以来、金沢の飲食事情が大きく様変わりしたことを、
甘く見るべきではなかったと痛感した。
繁華街を行きつ戻りつしながら、これじゃかえって気分が滅入る、いっそ帰ろうかと思った時、
思いついたのがこの店、倫敦屋酒場である。
金沢の繁華街の裏通り、そこからさらに路地に入ったところにこの店がある。
流行っていないということを言っているのではない。
おいしい食べ物もあるが、「酒場」(ちなみに、これを当て字として「倫敦屋バー」と呼ぶ)とあるように
酔客は2軒目、3軒目に洋酒やカクテルをひっかけにやってくる、つまりは客足が遅いのだ。
ひっそりとした佇まい...つい、「人知れず」などど表現してしまいそうだが、
多少なりとも酒をたしなむなら、金沢でこの店を知らない人はいない。
1969年創業とあるから、すでに半世紀近い歴史を刻んでいるわけだが、
自分としても社会に出て間もない頃から来ているので、
途中、金沢を離れたときのブランクはあるものの、かれこれ40年近くはお世話になっている。
そして、この日の乾杯は...
ギネスをはじめとしたスタウトビールにスコッチやアイリッシュなど...
さらには日本の洋酒も含めてその種類が豊富なことが、くどいが「酒場(バー)」たる由縁だろう。
そして...それらを供してくれるのがこのバーテンダー。
先に「金沢で知らない人はいない店」と書いたが、
それどころか、倫敦屋酒場は全国でも屈指のバーでその顔がこのひと、戸田マスターなのだ。
そのマスターの後ろに掲げられた色紙に書かれた言葉が「今日無事」。
マスターと交流が深かった作家山口瞳氏の直筆だ。
さて、その言葉を繁々と眺めながら...
明日、仕事があろうとなかろうと、とりあえずは、“今日も”無事なら、それで充分ではないか。
多少の酔いも手伝ってか、いつしかそんな楽観的な気分になっていた。
そして、「ひょっとしたら...」、
「そんな気持ちになりたくてこの店に来たのかもしれない」とも思えてきたのである。
ともかくも「今日無事」、そして明日からも「とりあえずは無事でありたい」と。
ということで、サラリーマンの愚痴めいた話は置いといて
このすばらしい夜にあらためて乾杯!
Eric Clapton- Wonderful Tonight