花歳時記などというカテゴリーを作りながら
実は花の種類や名前を覚えることにほとんど興味がない。
いや一度だけ...。
せっかく写真を撮るのだから、常識的な花の名前くらい知っておこうと
フローリストをしている長男に教えを乞うてみたのだが...。
「きれいだと思ったならそれで充分じゃない。
それでも覚えたければ図鑑で調べたら...」と、つれない。
けれども、花を商売にするわけでもなし、
「それもそうだな」と思い直し、それ以来、無理に覚えることはやめた。
だが、花オンチながら、冬に咲く花でひとつだけ思い入れがある。
福井県越前海岸に群生する水仙だ。
越前海岸は房総や淡路島とともに日本三大群生地のひとつ。
日本海を望む崖地一面に群生する光景は、毎年「見事!」としか言葉がでないのだが
今年は暖冬など天候不順で、残念ながらその見ごろを特定できず
また、年明け以降の慌ただしさもあって、
今年の水仙はあきらめていた。
ところがである。
ふと立ち寄った福井県内の高速道路サービスエリアで
小規模ながら群生する水仙を見つけたのだ。
もう開花の時期はとうに過ぎたと思っていたので
生き生きとして咲く水仙に出会ったことがうれしく
夢中でシャッターを切ったのである。
サービスエリア施設の陰に隠れた小さな緑地。
近寄る人もほとんどいない場所に人知れず咲く水仙。
それを眺めながら、何かで見た武者小路実篤の色紙を思い出していたのだが、
その色紙には水仙の絵とともにこんな言葉が記されていた。
「人見るもよし 人見ざるもよし 我は咲く也」
そして、この言葉は長男の言葉、
「きれいだと思ったならそれで充分じゃない…」にも通じるな、と
思ってみたりもしたのだった。
さて、ついでながら...。
せっかくなので以前撮った越前海岸の水仙をご紹介。
群生する水仙が冬の日本海から吹き付ける
雪まじりの強風をものともせず咲き誇る姿は圧巻。
しかも、一様に可憐な花を踏ん張るように海に向けているのだ。
その凛とした姿を眺めるたびに勇気づけられ、
そして、それこそが越前海岸の水仙の魅力に他ならない。
そんな水仙の可憐さと力強さを
福井県で育った俵万智さんはこう詠んでいる。
海鳴りに耳を澄ましているような水仙の花ひらくふるさと