「9」のつく日は空倶楽部の日。
日没寸前、焼けた空はわずかでしかなかったが
それでも川面を茜色に染めるには十分だった。
Sony α99 Vario-Sonnar 24-70㎜/f2.8 (70mm f/8,1/1200sec,ISO100)
夏から秋へと季節が移ろうとする頃。
この日この時間この場所でしか出会えなかった景色だが、
一方でいつか遠い昔に眺めた景色のようにも思えたのだった。
そして、この時間を楽しみながら、
ふとなつかしい歌を思い出していた。
歌ってよ夕陽の歌を 吉田拓郎
歌ってよ夕陽の歌を
歌ってよ心やさしく
あなたは坂を登って行く
私はあとからついて行く
影は私達をへだてるので
やさしい夕日は 時々雲に隠れてくれる
歌ってよ夕陽の歌を 歌ってよ心やさしく
歌ってよ夕陽の歌を 歌ってよ心やさしく
あなたは夏をおりて行く
私は秋に登って行く
心を季節がへだてるので
すばやい風はこうして二人を寒くさせる
歌ってよ夕陽の歌を 歌ってよ心やさしく
歌ってよ夕陽の歌を 歌ってよ心やさしく
フォークミュージックの旗手として
1970年代の音楽シーンに鮮烈に登場した吉田拓郎。
これまで経験したことのない激しさとやさしさ。
彼の歌に当時の若者は大いに共感し、
学園祭などでもこぞって彼の歌を熱唱したものだった。
そして、時代の先駆者として疾走する吉田拓郎がふと立ち止まり、
力を抜いて作ったアルバム。
それが「ぷらいべえと」だった。
「夜霧よ今夜もありがとう」や「くちなしの花」など
当時の彼からは想像もできない曲が収録されている。
それらの曲を彼はまるで「鼻歌」のように歌っていて
リラックスした雰囲気とともに
ユーモアさえ感じられるのである。
さて、収録曲にはまた、彼がほかの歌手のために書いた曲のセルフカバーも含まれている。
梓みちよが歌った「メランコリー」やキャンディーズの「やさしい悪魔」、
そして、森山良子が歌ったこの曲
「歌ってよ夕陽の歌を」である。
森山良子版の曲は、持ち前の澄んだ、そして包み込むような歌声を、
バックコーラスやストリングスがさらに盛り上げる完成度の高い曲作りとなっている。
一方の吉田拓郎によるセルフカバーは至ってシンプルで
まるで気の合った仲間たちと一発録りをしたように荒削りな感じさえする。
しかも、同じ曲とは思えないほどロック調で、
これまた「どうだ!」とばかりの遊び心が伝わってくる。
あらためて聴いてみて、
彼に熱狂した多感な時代をほんのりとなつかしく思い出していた。
そしてまた、その気恥ずかしい思いとともに
この日眺めた夕陽の記憶も長く心に残るだろうと思ったりもしたのだった。