ふたたび明日香の話題。
その日は、刈入間近で金色に輝く一面の稲穂に、
ところどころ畔道に咲く彼岸花の赤色が映えて、
しかもどこからか金木犀の甘い香りが漂ってくるという、
自分にとってこれ以上望むべきものがない明日香の秋だった。
そして、明日香に来る前から決めていたことだったが、
さらにその秋を楽しみたくて、明日香を一望できる甘樫の丘に登ってみることにした。
丘といっても周囲数キロ、小山のような台地、
かつて、そこには蘇我一族の邸宅があったと伝えられているが、
今はこんもりとした木立で丘全体が覆われてしまっている。
整備された遊歩道を登っていくと、一部木立を切りひらいたところに展望台が設けられており、
そこからは明日香の北方を中心に東から西にかけての光景をぐるっと見渡すことができる。
その東にあたる眺望がこの写真。
集落の中心からやや右に寄ったところに飛鳥寺の本堂や鐘楼を眺めることができる。
何度も同じことを言うようだが...
このあたりがかつての日本の政治の中心だったとは思えないほど長閑な風景が広がっていた。
そして、この丘からどうしても眺めてみたかったのがこの風景。
明日香の北に位置する香具山(右)と耳成山(左)、
さらに西方(左)へと目を移すと畝傍山が目に入る。
いわゆる大和三山で、この眺望が万葉集の有名な歌を思い出させてくれた。
香具山は 畝傍ををしと 耳梨(耳成)と 相あらそひき
神世より かくにあるらし 古昔も 然(しか)にあれこそ うつせみも 嬬(つま)を あらそふらしき
中大兄皇子
香具山と耳成山を男性に、そして畝傍山を女性に見たてて、
男同士があらそう様をユーモラスに歌ったものだが、
一方で、この歌を詠んだ中大兄皇子と弟の大海人皇子、そして額田王の三角関係を暗示した歌とも伝えられる。
この男女の見たて、単なるたとえ話と今まで思っていたが、
あらためて大和三山の配置を眺めていると、
近く寄った香具山と耳成山があたかもにらみ合っているように見えるし、
すこし距離を置いた畝傍山がそれを冷ややかに眺めているようにも見えてくる。
そんななにげない風景の中に古代人の想像力のたくましさとユーモアを微笑ましく感じた次第である。
さて今回の明日香の旅の最後に...。
中大兄皇子(天智天皇)の恋敵(?)大海人皇子は天智天皇の死後、
壬申の乱を経て天武天皇として即位し、妃で後の持統天皇となる鸕野讚良(うののさらら)ともに
天皇強権の国家を造っていくが、そのわりに二人が葬られている陵は人気もなくひっそりとしていた。
そんな陵の脇で見つけた、これまたなにげない大和の秋の風景。
「三角関係」で思いついたのが...。
アメリカン・ニュー・シネマの傑作「明日に向かって撃て」の主題歌。
B.J.Thomas - Raindrops Keep Fallin' On My Head
実在した二人のギャングと女教師の三角関係と逃避行を描いたもので、
アメリカン・ニュー・シネマにありがちな「出口のない」エンディングだったが、
ふさぎ込みそうになった気持ちを救ってくれたのがポール・ニューマンのユーモラスな演技であり、
サウンドトラックを担当したバート・バカラックの爽やかな音楽だったと思う。