はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

春近し

2008-03-04 13:41:41 | アカショウビンのつぶやき




 慌ただしい日が続き、庭を眺める余裕もない一週間だった。
 やっと一段落して今日は久しぶりに本業の主婦となり冷凍保存食作りに精を出す。途中、ニラを取りに庭に出て驚いた、大きなラッパ水仙が三つも咲いている。エエーッいつの間に…。でもラッパ水仙を植えた記憶がない。
 姉に貰ったままほったらかし、2年越してしまった八重咲きスイセンを、昨年11月末、プランターや庭のあちこちに植えた。その半分がラッパ水仙だったらしい。植え付けが遅かったせいか超ミニだが、寒風の中に凛と咲く姿は花言葉のひとつ「気高さ」を感じる。
 カメラを向けると、強い北風に大きく揺れなかなか撮れない。絶え間なく揺すられながらも、しっかり首を持ち上げている。
 
 私の歩く道も、どんより曇った日、ザアザア降りの日もあるけれど、雲の上には青い空と輝く光があふれている。
春は、もうすぐ! さあ今日は主婦業に専念しよう。

替え歌

2008-03-04 08:46:56 | はがき随筆
 ひさしぶりに同窓会があった。芸のない私は宴会でいつも肩身が狭い。思案の末、替え歌を自作し万一に備えた。出番がないことを祈っていたがやっぱりマイクが回ってきて手に取った。
 「蛍の光窓の雪/七坂八坂重ねつつ/いつしか年も八十路/迎えて今朝は集いきたる」「懐かし友は先に逝けど/残れる我らの幸を祝う/互いに心通わせて/明るく笑いの種をまこう」「喜び悲しみにじむ汗も/根性一つで駆けてきたね/尊き旅路を誇りとして/いとしき命をめでて生きよう」
 どっと拍手が鳴り、うれし恥ずかしだった。
   霧島市 楠原勇一(81) 2008/3/4 毎日新聞鹿児島版掲載

散歩の途中で

2008-03-04 01:20:19 | はがき随筆
 久しぶりの青空に足どり軽く家を出た。風はまだ冷たい。その風を切るように白いワゴン車が走り去り、5歳ぐらいの女の子が泣きながら追っかける。50㍍ぐらい先で止まったがドアは開かず、また車を動かし止める。戒めかな? でも、とすれ違う。「かわいそうに」と自転車に乗った2人の女子中学生。「おばさんも胸が痛む」と3人で見守った。やっと乗せられ走り去る車にほっとして「さようなら」とペダルをこいでいった。やり切れないが何か救われたつかの間の出来事。女の子もさわやかな少女2人のように成長してねと祈りながら先を急いだ。
   薩摩川内市 田中由利子(66) 2008/3/3/
   毎日新聞鹿児島・はがき随筆特集版-6

涙の鬼手

2008-03-04 01:13:19 | はがき随筆
 碁敵が妙齢の女性との対局を勧める。むさ苦しい親父どもにへき易していた私に否やがあろうはずがない。早速盤を囲む。
 日本人形のような美ぼうに目がくらみ、形勢は十数目もリードされている。そこから丁々発止のせめぎ合いを展開。敗色濃厚な私は、起死回生の追い落とし筋を発見した。その瞬間に彼女の目から一粒の真珠がほおを伝った。
 「まれに見る素晴らしい一局でしたよ」。慰めの言葉にも目がうつろ。碁敵が「KY」とささやくも、時すでに遅し。彼女の涙の鬼手に、私の受け手はすべて効かない。
   出水市 道田道範(58)2008/3/3
   毎日新聞鹿児島・はがき随筆特集版-5

武道館にて

2008-03-04 01:05:01 | はがき随筆
 今年の舞台観賞は、日本武道館での南こうせつコンサートからスタート。友人と2人、時間に余裕をもって九段下へ。かつてヒット曲に歌われた「金のタマネギ」が夕日に輝いていた。
 36年前、日本人アーチストで初めて武道館を使ったのは彼だとか。当時の映像も一部映し出されて会場から「若いねえ」の声。懐かしい曲から最新のものまでおよそ40曲、休憩なしの3時間半。聴いている数万人もほとんど同世代。そろいの法被や丁シャツで張り切っているグループもあちこちに。来年は還暦コンサートをつま恋で開くという。行くしかないじゃん。
   鹿児島市 本山るみ子(55) 2008/3/3
   毎日新聞鹿児島・はがき随筆特集版-4

負うた子に

2008-03-04 00:58:48 | はがき随筆
 バイオリンを子供に習わせていた母親4人して、今度は自分たちが習い始めた。 大病を患った私は心の癒しを求めてハープに巡り合った。1時間ぐらいは練習しようと心がけているが、体調の悪い日もあり継続は難しい。この上バイオリンまで?とためらったが、子供もやっていたこと……と。
 先日帰省した次男が私の弾くのを聞いて「お母さんは自分では弾けないくせに、僕にはあれこれと注文をつけていたのだね」。私の楽器も弾き手によってはこんなに良い音を出すのだなと思えるほど、きれいに響く音で弾いてみせた。
   鹿児島市 馬渡浩子(60)2008/3/3
   毎日新聞鹿児島・はがき随筆特集版-3

ローカ現象

2008-03-04 00:52:08 | はがき随筆
 日常の動作は緩慢になるが、逆に気は短くなり、つまらぬことに腹が立つ。ほほ笑ましいはずの戯れる若いカップルにさえ、無性にほえたくなる。
 理髪店で先客あるも、刈る面積減少の自分が哀れにも早く済む。歯医者に「固い物は控えろ」と言われ、ナマコすら横目でにらむだけ。尿意を催すともう我慢できぬ。ズボンのチャックを下ろすののもどかしいこと。
 妙に寒さが身に応える。廊下を素足でなんて、聞いただけで全身が縮み上がる。靴下はもちろん、スリッパなしでも歩けなくなった。ああ、これこそがローカ現象か。
   肝付町 吉井三男(66) 2008/3/3
   毎日新聞鹿児島・はがき随筆特集版-2

発表の機会

2008-03-04 00:41:39 | はがき随筆
 飯がつげない、包丁が使えないなど右半身まひの妻を16年間みた。認知症などを発症し私自身も年を重ね、心身共に限界を感じて4年前、施設に頼んだ。病妻を他人に頼むことに言い知れぬ妻への情があった。
 先般、介護経験と子育てをテーマにシンポがあり、介護経験者として発表の機会があった。出席者から競うように発言が相次ぎ、充実した催しとなった。それぞれの経験や思いを公の場で発表する機会は我々にはほとんどない。市民がそれぞれの立場でこのような機会が得られれば、思わぬ貴重な発見があるのではないだろうか。
   鹿屋市 森園愛吉(86)2008/3/3 
   毎日新聞鹿児島・はがき随筆特集版-1