はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

まな板の音

2010-07-11 20:55:40 | はがき随筆
 妻が留守で一人暮らしが始まる。しばしの自由を楽しむか。 
 妻の気遣いが冷蔵庫にいっぱい。牛乳、ヨーグルト、納豆、漬物、握り飯二十数個など。テープルにも数種類のカップめん、バナナ、パン数種類など。朝はパン、牛乳、バナナ、ヨーグルト。昼はカップめんと握り飯。夜はビールにチーズ。3日目には、早くもダウン。勘違いした我が非を悔いるのみ。
 夫の危機、察してか早めの5日目に戻りし妻の菩薩に見ゆ。
 翌朝、寝床で朝餉の軽快なまな板の音を聞きつつ、これで生き永らえると、ほくそ笑んだ。
   肝付町 吉井三男(68) 2010/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載

「清水昌子」

2010-07-11 20:49:52 | はがき随筆
 日曜の新聞は楽しみが多い。俳句をかじる身として、俳壇欄はもちろん歌壇欄も丹念に目を通す。見知った名を見つけるのも楽しい。時には自分でも投句するが、ほとんどはボツ。
 今朝、俳壇のページを開くと「清水昌子」が目に飛び込んできた。あっ、と喜んだのはほんの一瞬。住所が違う。そして何より私の句ではなかった。最近投句もしてないのだから。
 ありふれた名だと思うが、今まで同じ文字の同姓同名を目にしたことがなかった。たとえ自分でなくても「清水昌子」の載った新聞は、いとおしい。早速切り抜いてスクラップ。
  出水市 清水昌子(57) 2010/7/10 毎日新聞鹿児島版掲載

70歳の幸せ

2010-07-11 20:42:35 | はがき随筆
 果たせるか、果たせぬか。アホかバカになってやるだけのことはやってみよう。成功は一分とも、喜びは倍増することは事実であろう。
 今日の存在があるのは、思い切って実践した結果であろう。老いて挑戦して失敗の結果が生じると、笑い者の自分になる。笑われてもよい。後生に残るかも知れぬ。孫からあざけ笑われてしまうかも知れない。
 37歳の挑戦。68歳の小学校教諭免許状取得。その後、1年半ほど有効になった。純朴・純真の子どもから「ハローハロー」の声が耳から離れない。70歳の幸せ、ほんとうなのだろうか。
  出水市 岩田昭治(70) 2010/7/9 毎日新聞鹿児島版掲載

あなたの笑顔を

2010-07-11 05:30:49 | はがき随筆
 救急病院に搬送された夫は、40度あった肺炎の熱も徐々に下がった。しかし、こん睡状態が続いている。わずかな期待をもって梅雨のさなか病院へ。出口の見えないトンネルをさまよっている夫を思い、今はただ祈るのみ。複雑な思いだけが交錯する。大雨の夜など自然と声をあげて泣いてしまう。13日目奇跡が起きた。「お母さんは」。視力のない夫の微かな声。思わずベッドに身を乗り出し両手を強く握りしめた。点滴だけで頑張ってくれたことに感謝し、胸が熱くなる。トンネルの出口が少し見えてきたよ。「頑張って」。早くあなたの笑顔を見たい。
  鹿児島市 竹之内美知子(76) 2010/7/8 毎日新聞鹿児島版掲載

遅咲きの結婚

2010-07-11 05:16:31 | はがき随筆
 「悲しみを喜びに転じられる、のは人間だけだ」の言葉は私の胸に刺さりました。これまで「何で私ばかりが」と悲しんでばかりでした。
 これは、彼女からもらった手紙の冒頭である。一人っ娘の彼女は祖父母や両親に囲まれ成人した。ところが、20歳を過ぎたころから祖父母をはじめ両親まで病魔におかされ、やがて独りぼっちになってしまった。看病を終えた彼女は30歳の半ばを過ぎていた。彼女に同情し慰めることは難しくない。親から受け継いだ命をどう輝かすかだ。
 彼女の手紙は、遅咲きの結婚をしました、と結んであった
  志布志市 一木法明(74) 2010/7/7 毎日新聞鹿児島版掲載