はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆6月度入選

2010-07-26 16:43:52 | 受賞作品
 はがき随筆6月度、入選作品が決まりました。
▽出水市上知識、年神貞子さん(74)の「こより」(25日)
▽出水市高尾野町唐笠木、岩田昭治(70)の「不思議に流れる」(8日)
▽肝付町新富、鳥取部京子さん(70)の「猫の反省」

の3点です。

 サッカーのワールドカップは残念でした。サッカーが、野球や相撲を越えて、これほど人々の心を捉えるとは、10年前には想像もできませんでした。おそらく舞台が世界だからでしょう。若い人にかぎらず、日本人の関心が軽々と国境を越える時代が来たということかもしれません。私などには、気軽に南アフリカまで応援に行くことなどとても考えられません。
 年神貞子さんの「こより」は懐かしい文章です。子どもの時に、父親から七夕の短冊を結ぶこよりの作り方を教えて貰ったことを懐かしく思い出しています。最近の子どもたちは、大人になってどういうことに両親をしのぶでしょうか。ふと気になりました。
 岩田昭治さんの「不思議に流れる」は、自分の時代の教員生活と現在の教員の日常とを比較し、変われば変わるものだという感慨を抱くが、その時々で何の不思議も感じないままに過ごしている。考えれば時の流れは不思議なものだという、奥深い内容の感想です。
 鳥取部京子さんの「猫の反省」は、巣の中の小雀を一羽は蛇が、二羽は猫がたべてしまったという残酷な内容です。ただ、猫の飄逸な表情(?)の描写で文章がしめくくられていますので、印象は暗いものにはなっていません。生命のはかなさを感じされる文章です。
 入選作の他に3編を紹介します。
 若宮庸成さんの「巡り巡って」(30日)は、沢山のイワヒバの栽培は、将来の妻の生活の足しにと言った冗談が、いつのまにか婦人会では奥さん孝行の美談になり、自分に還って来た時には自分でも何のことだかわからなくなっていたという内容です。森園愛吉さんの「『はやぶさ』帰る」(23日)は、話題の人工衛星帰還に対する感動が綴られています。確かに、使命を果たして金色に燃え尽きる時の映像は、命あるものの一つの意志さえ感じ取られました。山室恒人さんの「沖縄で見たもの」(6日)の、「戦場となった沖縄を軽率に語ってはならない」という一文は重いですね。
 (鹿児島大学名誉教授 石田忠彦)

私を越えるパン

2010-07-26 16:34:16 | はがき随筆
 旅先のドイツで食べたパンの味が忘れられない。食べるには自分で作るしかない。「よし!」とパンの本を買った。
 妻と娘の冷たい視線をよけながら、レシピ通りにライ麦粉で酵母を集め続けた。五日目、そのタネに小麦粉と塩を練り込み2次発酵まで終わる。電子レンジで焼くこと40分。部屋中パンの香りでいっぱいになった。
 そっと食べる。と、固い! が、味はいい。「これがホントのパンよ!」と娘。「ショーチューのツマミにいいね」とほほえむ妻。絶賛された私…。
 それ以後、2人の注文により私のパンは私を越え始めた。
  出水市 中島征士(65) 2010/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載