はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

変わる図書館

2010-07-27 22:04:38 | 女の気持ち/男の気持ち
 熊本市立図書館に本を返しに行った。カウンターで丁寧な応対を受ける。私も心からお礼を言う。
 おや、見慣れないものが。本の自動貸出機らしい。若い人が操作しているのを遠くからながめる。私もやってみよう。熊本出身の俳人、正木ゆう子の本を指定の所に載せ、図書利用カードを読み取り機にかざす。次々と機械から指示がでる。まごまごしながらようやく借りることができた。
 図書館の出入り口にセンサーがあり、貸し出し手続きをしていない本が持ち出される時はブザーがなるらしい。そんな音はまだ聞いたことがない。もちろん試したくもない。自動貸出機による本も無事通過した。
 数年前、インターネットでほんの予約ができるようになった時は嬉しかった。新聞の書評などで読みたい本を見つけるとすぐパソコンを立ち上げ予約する。どんなに待っても一向に気にならない。本によっては3ヶ月待ちのこともある。年を取り少しでも身辺整理をと思い、手持ちの本をほとんど処分した。それからは図書館に頼りきりで待つこともまた楽しい。
 このごろ電子書籍が話題になっている。若いころ読んだ「蟹工船」を今度は電子書籍で読んだ。それでも私は紙の本を借りて読みたい。世の中が変わり人も変わり図書館も変わる。これから図書館はどんな変化をしていくのだろうか。
 熊本市 生江八重子(64)毎日新聞 の気持ち欄掲載

雲こそわが墓標

2010-07-27 21:56:19 | はがき随筆
 自宅にほど近い出水特攻基地跡に悲しい碑が立つ。
 高さが2㍍弱の石に「雲こそわが墓標。落暉よ碑名をかざれ」と刻まれている。阿川弘之が小説『雲の墓標』の中で、特攻兵の遺書の一部を書いた石碑である。死に向かう若者の切々とした思いは涙を誘う。
 大戦末期、出水基地から出撃し再び還らなかった260名以上という、痛ましい青年兵。
 「沖縄沖の深海に沈むからには墓はいらない。雲こそが私の墓だ」とも読みかえることができる石碑の前文。
 碑文に表された特攻兵の深い悲しみは、今なお心を打つ。
  出水市 小村忍(67)2010/7/27 毎日新聞鹿児島版掲載

夜明けの渚

2010-07-27 21:50:40 | はがき随筆
 白砂青松の海辺は埋め立てられて岸壁となり、渚は4㌔離れた海水浴場しかない。夜明けを待って車を走らせる。
 朝焼けの空が美しく、渚に行って波の音を聞きながら潮風を浴びているのは、何とも言えない良い気持ちである。
 海辺に育ったせいで、老いてもなお海が恋しい。明るくなってくる海は藍深き色を見せ、水平線がくっきりと空を分け、その上に白い入道雲がそびえる。何とも言えない光景である。
 深呼吸をして波打ち際を歩きながら、さわやかな気分になる。そして、私の一日が始まる。
  志布志市 小村豊一郎(84)毎日新聞鹿児島版掲載