はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

絵はがき

2010-07-23 18:17:51 | はがき随筆
 東京で学生時代を共に過ごした親友が、私の病気を知り、会いに来た。それ以来、毎日のように絵ハガキをよこす。絵ハガキはシリーズになっていて県の風物詩、観光名所、はたまたジュディ・オングの木版画まで多種多様。文面は走り書きだが、日によって絵の説明に始まり近況、逸話に至るまで幅が広い。文末には私を励ますための詩や句が一つは添えられている。妻は「奥羽山脈の雪を見せたいと病む夫に秋田の友は便りに記す」と感謝の気持ちを歌に詠む。
 私と友には約束がある。私が回復して、彼が退職した暁には夫婦伴い相互訪問をしようと。
  伊佐市 山室恒人(63)2010/7/23 毎日新聞鹿児島版掲載
(おことわり)
上記のはがき随筆「絵ハガキ」は先月、亡くなった山室恒人さんの遺作です。
遺族の了解を得て、掲載させていただきます。なお、年齢は執筆当時のままとしました。

バイククライマー

2010-07-23 18:01:02 | 女の気持ち/男の気持ち
 毎週休日、ナナハンのオートバイを駆って山の麓まで言って登山し、下山途中の小滝の前で詩吟をうなって帰宅することが習慣となってもう15年が過ぎた。
 理由は職場でのストレス解消。どちらかというと逃げが嫌いなので、トラブルを抱えていない日の方が少なかった。顧客の一方的な言いがかり、それにまつわる対応の誤りや部下のミス。無論、自分自身の知識不足やミスも一因だった。
 休日になってもそれが頭から離れず、酒でごまかし、また1週間が始まるという悪循環が続いていた。
 過労で入院したのを機に生活を変えようと、医師に勧められた登山を始めた。雑念を振り払い息を弾ませながら頂上まで急ぎ遠くを見ながらぼーっとしていると、頭の中を風が吹き抜けるような爽快感があった。下山時、学生時代に始めた詩吟をうなっていると体の中から力がわいてきて「乗り切れる」という自信を持てた。帰りもオートバイゆえ渋滞に巻き込まれず、いらつかずに済んだ。
 第二の人生に入った今、トラブルを抱えることはなくなったが、この習慣をやめることなく続けている。思い返せばこれがあったから長いサラリーマン生活を続けることができた。同世代が集まれば必ず出るのが自身の病気のこと。言うべきものがほとんどない身の幸せを思う。
 リタイア後は全国に山に挑戦してみたい。その日を心待ちに日々働いている。
  福岡県宗像市 浜尾幸一(61) 2010/7/23 毎日新聞  の気持ち欄掲載