はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

御田植祭

2010-07-14 17:59:19 | はがき随筆
 霧島神宮の御田植祭があると聞き、見聞を広めようと妻と出掛けた。立札には「狭名田地区の水田は日本最古のもの」と記され、弥生時代、この山あいの一画から全国に稲作が広まったのだと知った。
 青空の下、雅楽の調べが流れる中、たっぷり水を張られた田に早苗が飛び交う。早乙女に扮した80代と思しき男性を真ん中に20人ほどの男女が一列に手植えしていく。ツバメが低く飛び、畦道を知ろうとカメラマンが忙しく行き来する。「声出して!」。にぎやかにやれと外野から声が飛ぶ。薫風の中、心和む光景を心ゆくまで楽しんだ。
   霧島町 久野茂樹(60) 2010/7/14 毎日新聞鹿児島版掲載

はじける若さを

2010-07-14 17:25:47 | はがき随筆
 今日もまたリハビリの老若男女。「おはようございます」。明るい大きな声。腰、膝、肩などそれぞれの痛みをかかえながら朗らかな笑顔。
 五体満足な体も長年の間、故障がち。静かな雰囲気の中で勇気づける若い看護師たち。
 患者と向き合い力づける様は頼もしい。自己の持ち場、責任、的確にやさしく進めていく。はじける若さ、みなぎる若さ、そしてほほえみを忘れない。
 職場いっぱいに満ちあふれ患者に安心感を与える。患者の満足げに歩く後ろ姿は明日への希望に満ちあふれている。「さようなら」のことばを残して。
  薩摩川内市 新開譲(84)2010/7/13 毎日新聞鹿児島版掲載

孫の結婚と妻

2010-07-14 17:16:40 | はがき随筆
 乳呑みのときから妻と育った孫の結婚式。その盛典に手助けの主役を務める立場の、いま老人ホーム入所中の妻。話しても反応の無い妻に憐憫の情ひとしおの私は正装の妻の写真を抱いて同席した。「婆も来ているよ」と写真を見せ「明代(孫)おめでとう。輝いているよ」と肩を抱いて祝ってやると、涙の頬を伝わる孫に愛しさをおぼゆる一ときであった。同時に妻の居るホームの現在を連想した私。不覚にも目頭の熱くなった。「生涯寝食を共にし苦楽を共有するのは親でもない子でもない。それはお前たち夫婦である」。巣立ちに贈る言葉としたい。
  鹿屋市 森園愛吉(89) 2010/7/10 毎日新聞鹿児島版掲載